ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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中央教会編

四章 第十一話 あの日の贈り物

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前回までのあらすじ

バーガル王国とギルメスド王国の間に位置するメスト大森林に突如として現れた凶暴化した魔物たち。
両国ともに戦力総出で魔物に対応するが、予想外の魔物の強さに苦戦を強いられていた。

八雲朱傘の序列三位であるラダルスを殺したベイガルがその場に現れ、同じく序列四位のゼーラは激昂する。
ゼーラ激しい怒りにより押されるベイガルであるが、その場から逃げられてしまう。
バーガルの冒険者たちも魔物たちの対応に当たるが、兵士も冒険者も傷つき、未だに鎮まる気配の無い魔物たちに対して徐々に疲れが見え始めてくる。

そんな中、森林の中央付近から突如として激しい雄叫びが響き渡り魔物たちが一斉に向きを変え始めた。
状況を飲み込めない中、バーガル王国の冒険者であるノット、バモン、ソルカの目の前には既に死体となったSランクのヘルワイヴァーンが二体倒れ臥したのだ。






「冒険者、兵士各位に告ぐッ! 全員、今すぐに後退せよ!!」

辺りの騒然とした雰囲気の中にリュードの声が響いた。そして少しの間があった後、その場にいた者たちはハッとなりその命令に従って、徐々に後退を始めていく。

「ねえリュード、本当にあれが救援部隊ってことでいいんだよね?」

「ああ、そうだ。丁度今通信を受け取った。すぐに私たちもここから離れるぞ。残念だが私たちでは彼らの足手纏いになるだけだからな」

「ケッ、普通Sランクがこんなあっさりやられるもんなのかよ。······おい、ソルカ。なにボケっと突っ立ってんだよ。早く行くぞ」

しかしながらソルカはバモンの言葉に応じることなく驚き放心したような表情でゆっくりと自分の前を指さした。

「······来たぞ」

リュードの声とともに二人はソルカの指さす方を見る。

「ッ——」

ソルカの指す方向には天にまで届くような紫色の巨大な光が伸び、それに応じて空の色が薄暗く変化していた。しかしその光景よりもソルカたちが驚いたのはそこから感じ取れる無尽蔵にも思えるほどの力だった。そしてその光は暫く天を照らすとスッと消えていき空は元の姿に戻る。

「行くぞ、危険だ」

そして四人はそのまま前線から後退していった。


一方、ギルメスド王国近くにもその衝撃波は広がっていた。

「バルバダ、動ける? 骨は完全に折れてしまっているようね」

ミルファは先程ベイガルに蹴り飛ばされたバルバダの元へと向かっていた。

「おう、少し痛むが問題ねえ。それよりさっきのは何の音だ」

「まだ分からないわ。ただもし新しい魔物なら状況はかなりまずいわ。今はハルトさんが来たから回復班が間に合っているけど、正直なところ時間の問題よ」

「でもよ、なんか様子が変だぜ。ほら」

バルバダの向く方を見ると魔物たちは徐々に森林の中央へと向かっていたのだ。そんな時、二人の前にハルトが現れた。
  
「ミルファ、バルバダを連れて一度後退しろ。様子がおかしい。ここは一度俺に任せろ」

「わかりました。ではここは頼みます」

ハルトは二人の背中を見守った後、向きを変えて再び森の中央を向くと、隣にゼーラがきた。

「ハルトさん、奥に進みますか? 正直に言うとかなり危険な様子を感じますが」

「確かに森の中心に魔物は向かっているが、問題は突然現れた存在だ。敵かは分からないが少なくともグラムがいなければ危険だろう。安全確保のために近くの魔物を一通り狩って暫くは様子見だ」

「了解」


そしてその渦中の中心にいた者たちはというと。

「つまらんぞ、おいトキワ、リンギル。お主らとはまだ戦ったことがなかったな。ここで我と戦わぬか?」

「オメエは馬鹿かよ。ジンに言いつけんぞ。もうちょい周りを見て暴れろ」

「ああ、今は遠慮しておく」

閻魁が一通り暴れ回ったため辺りはかなりめちゃくちゃな状態になっていた。

「すげえよボルさん。今の状態だと俺一人でAランク何十体も相手にできるぜ」

傭兵達はラストエントによる自身の超強化に興奮していた。

「通常状態でこのレベルまでいけないとダメ。ジンの強化魔法の練度が高いだけでそれに頼っていたらいずれ痛い目にアウ」

「は、はい。すみません」

そしてヒュード族の空撃部隊は空を飛び、散らばりながら魔物の対応に向かっていた。

「なあドルトン。俺ってこんな強かった? Aランク一撃とか初めてなんだけど」

「いいえ、安心してください。普通のあなたはもっと弱いですよ。まあ驚いているのは私もなのですがね」

「お前達、何ボウっとしている、殺すぞ」

「す、すいません」

(こえぇ)

事実、ガルミューラも含めてヒュード族の皆は自身の成長に驚いていた。
そのため魔物の数はかなり多かったが苦戦することはなかったのだ。

「お姉ちゃん、あれ何?」

ミルの指さす方向からはギシャルが狂気じみた顔で地面を走っていた。ギシャルはヒュード族を発見するとその不気味な笑みを更に深くし、地面を強く蹴った。するとその小ぶりな身体は宙を舞い急速なスピードで接近してきた。
そして空中で腰からムチを取り出すとムチをしならせ身体全体を使い異常なまでの速度で攻撃が繰り出される。

「ッ——」

しかしガルミューラは巨大な『水麗』を片手で持つと一瞬でムチの先端まで移動して水麗に絡め威力を殺した。

「クシャシャシャシャッ! お前らなにもんだぁ? 見たことねえな」

ギシャルはムチを一瞬にして小さく縮めるとスッと地面に着地した。

「お前こそ急に攻撃してくるとは物騒な奴だな。今の私達と一人でやる気か?」

それを聞くとギシャルはジトッとした目で全員を舐め回すように見つめた。

「まぁあ、そうだなあ。どうするか」

ギシャルは不気味に首を傾げ目を瞑って暫く考え込み、ゆっくりと目を開けた。

「おめえらの歪んだ顔を見るのは後でいいや。どうせ全員最後は痛ぶって、痛めつけて俺が殺してやるからヨォ?」

「待てッ」

ガルミューラが止めようとしたがギシャルの隣には黒い空間が生まれスッとその中に消えていった。
そして暫くして魔物達を狩り終えると再びトキワたちの元へと帰っていった。

強化魔法のおかげもあり長引くかと思われた魔物達との攻防は徐々に治ってゆき昼を過ぎた頃にはひと段落がついていた。そして現在、バーガル王国から状況を確認したブルファンとリュードがボルたちの元まで御礼をしにきていた。
因みに、ジッとできない代表の閻魁は一人でそのままボーンネルへと走って帰っていった。

「皆様、前回に引き続いての協力、大変感謝致します」

「ダイジョウブ。それより負傷した人達はドコ? 死なせたらまたジンが悲シム」

「は、はい。ですが傷が深い者が多く······」

「溜めてきたから大丈夫」

するとボルはゼルタスを取り出して溜めていた魔力を惜しげもなく治癒魔法に費やした。

そんな光景を見ていたノット達三人はボル達に近づき話しかける。

「なあ、あんたら一体何者だ? 本当に小国のボーンネルから来たのかよ」

「バモン、失礼であるぞ」

小国という言葉を言ったバモンを遮るようにブルファンは制止した。

「でも、バモンの意見はもっともよ。帝王もいない一国にこの戦力は流石に過剰だわ」

「いいや、別に構わねえぜ。まあ本物の怪物は今国にいるんだがよ······」

トキワはそう話した瞬間、背筋がビクっとなるのを感じた。

(これ以上ってどういう)

ノットは詳しく聞きたかったが何故か怖くなりグッと押し黙った。

「これで大丈夫、暫くは休マセテ」

ブルファン達がボルの方を見ると先程までグッタリとしていた冒険者たちや衛兵は徐々に呼吸が落ち着き始めていた。

(戦闘系じゃなかったの····)

ソルカも心の中でそう思いつつもノットと同じくしてグッと押し黙った。

「そういえば、先程ムチを持った怪しい奴がいたぞ。名前は聞いていないがおそらく今回の凶暴化した魔物たちと関わっている可能性が高いと見て間違い無いだろ」

「マジか、強かったか?」

「強化魔法をしていたからあまりハッキリとは言えないが相当な手練れだろうな。それにまだ何かを隠してそうな雰囲気もあった。小柄で不気味な奴だ」

「左様でございますか。では十分注意させて頂きます」

そして暫くの間、メスト大森林方面の安全を確かめた後、帰ることにした。

「よっし、じゃあな。俺らも帰るぜ」

「はい、お気をつけて」

そうして閻魁に遅れてトキワたちもボーンネルへと帰っていた。



その頃、ボーンネル。

ジンは集会所の部屋にクレースたちと仲間の帰還を待っていた。

つい先程まで少し不安があったけどトキワからの魔力波で全員の無事が確認できて取り敢えず一安心できたのだ。
そして何故か先に閻魁だけ帰宅し、そのまま部屋に入ってくるなり自慢気に目の前に立って大活躍したという話をし始めた。

「そして我がドカンッ! バキンッ! ドンッ! この拳で地面をかち割り我特製の妖力弾を空にぶちまけてバキーンというわけだ!! まあその後は雑魚ばかりだったからな。我が出るまでもなかったわ」

「擬音が多くて何を言っているのか分からんわ」

「あはは、でもお疲れ様。ヴァンが帰ってきたらみんなにご馳走食べさせたいって言ってたよ」

そして閻魁は興奮気味に擬音多めの解説をした後、それを聞くとすぐにヴァンのレストランへと向かっていった。

「······今誰かいた感じがしなかったか」

そんな時クレースはそう言って部屋の周りを見渡した。どうやらパールはいち早く気づいたようだがすぐに驚いた様子を見せた。

「ごめんジン、マーキングできなかった」

「大丈夫だよ。それより、ゲルオードが来た時にいた人と一緒の気配がしなかった?」

「ああ、確かにな」

クレースはドアを開けると足元にキラリと光るものが見えた。

「これは······」

(なぜ、ここに)

「どうしたのクレース?」

「大丈夫だ。なんでもない」

そしてクレースはそっと自分のポケットにそれをしまった。
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