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中央教会編

四章 第十二話 星の騎士

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ギルメスド王国では安全が確認され避難していた住民達が徐々に元の場所へと戻り始めていた。しかしながら騎士達の負傷者数はバーガルよりも遥かに多く、騎士の詰め所ではゼーラとミルファを中心として治癒魔法が至る所でかけられていた。そして騎士達は連日の緊張感も相まってこの先の見えない状況に混乱とともに絶望を抱いていたのだ。

「クソッ、騎士として自分が情けねえ。あんな何処ぞの馬の骨とも知らねえやつにボコられるなんてよお」

「ジッとしていなさいバルバダ。肋骨が何本か折れてるんだから。キャレル、あなたは怪我が治ったばかりなのにどうして出陣してたのよ。今回は運がよかっただけで次怪我してたら本当に危なかったのよ」

「ご、ごめん」

「ゼーラ、一旦ここは任せて貴方は少し休んで。······無理をしてはいけないわ」

ラダルスの一件があった後、騎士のもの達は直接的ではないもののゼーラを少し心配するような素振りを見せていた。ミルファも同様で同じ女騎士として精神的な面でどうにかゼーラを支えようとしていたのだ。

(あの一件以降、ゼーラは全く笑わなくなった。誰かが話しかけるたびに見せていたあの綺麗な笑顔も今はもう見ない。私を含めて周りの騎士達もゼーラとラダルスの関係性は薄々気づいていた。直接的には言わないもののお互いに騎士であり仲間であるという関係性以上の特別な感情を持っていたのだろう。そして初めて見せたあれほどまでに感情を剥き出しにしたゼーラをみたことが私の中でそれを確信へと変えた)

「ええ、ありがとうミルファ。でも私は大丈夫よ」

そしてその後もゼーラは作業を続けた。

そんな中、詰め所の中には一通り処理を終えたハルトが報告書をジッと見つめながら入ってきた。そしてその報告書に載っていた被害者数を見て険しい顔をしていたのだ。

(重傷者数780人、行方不明者456人、死者数2890人最悪の結果だな)

ハルトは想像を大きく超える被害に一人責任を感じていたのだ。

(······もし、お前がいれば、もっと多くの者が生き残れただろうか。もしお前がまだここにいれば、俺はお前を守れただろうか)

そんなことを少し考えながら周りに指示を飛ばしていた時、ハルトはベオウルフに呼ばれその場を後にした。

そしてハルトはベオウルフの元へと来るなり目の前に跪いた。

「申し訳ありません、ベオウルフ様。残念ながらご期待に沿うことができず、どのような罰でもお受け致します」

「そんなことで呼んだんじゃねえよ。俺の判断が遅かっただけだ。恨むなら俺を恨め」

「いいえ、そのようなことは」

「呼び出した理由はこれだ」

そう言うとベオウルフは懐から丁寧に布に包まれたものを取り出した。そしてベオウルフは布から中身を取り出すと魔力が付与された少し血の付く紙が出てきた。

「······これは」

「ラダルスの遺品から見つかったものだ。丁度ここを中心として座標が記されている····あいつは一人で解決しようとしてたみてえだな」

そこには魔力を与えたときにだけ文字が浮かび上がる特殊なインクでラダルスが記した敵の基地と思われる場所が載っていた。

「ここは、城下の地下ということですか」

「そうだ。俺が独自で調査に行ったが、どうやら魔力壁で隠してるみてえだ。それもかなりの練度の魔力壁だ。多分意識しねえと俺でも見つけれねえ。それでだ。グラムの馬鹿野郎を連れ戻して俺たち三人で近々ここを叩く。決行は騎士達の怪我が落ち着いてからだ。まあその前にアイツを探しに行かねえといけねえがよ」

「了解しました。あの馬鹿は任せてください」

そして二人だけで暫く作戦を確認した後、ハルトはそのままグラムの捜索に向かった。

一方城下町ではその後も住民達も合わせて総出で騎士達の怪我の手当てに当たった。しかしながら今回の戦いで家族を失ったものもかなりの数いたためその日は国全体が暗い雰囲気に包まれていた。

そんな中、休みなしに負傷した騎士達を回復し回っていたゼーラの元へと写真立てを持ち不安そうな顔をした住民が近づいてきた。

「ゼーラ様、私の息子は····フェルトは無事なのでしょうかッ!?」

その写真には笑みを浮かべた一人の男の姿があった。

「·····残念ながら即死です」

ゼーラは感情を捨てたように冷たくそう言い放った。そしてそれを聞くと母親は腰が抜けたようにその場で膝を着いた。

「····あの子は、あの子はゼーラ様の一団に入団できてあんなに喜んでいたのに。どうして死んでしまったのですか、どうしてあの子を守ってくれなかったんですかッ!!」

母親は自身の怒りと悔しさを全てゼーラにぶつけるようにして大声を上げた。

「····申し訳ございません」

深々と頭を下げたゼーラの謝罪を見て、母親は足を進めさらにゼーラに近づき胸ぐら掴んだ。

「謝るくらいならッ!、うちの子を助けてくださいよッ!!」

「··········」

ゼーラは何も言わず、抵抗することもなく母親の怒りを受け止め、それを見かねた周りの騎士達が止めに入った。
そして周りのもの達も便乗して声をあげる。

「そうだ、もっと被害を抑えられなかったのかッ! お前達はガキの頃から鍛えられてきたんじゃなかったのか!!」

「そうよ、私の息子を返してッ—!!」

治療に専念していた住民達は堪え、今回の戦いで子どもの命を失ったもの達は嘆き悲しんだ。
その声を聞いて騎士達はなんとか住民達を制止し、同時にその後唇を強く噛んで俯いた。

しかしそんな最悪の雰囲気の中、その場には大きく明るい一人の男の声が響き渡った。

「やあ、みんなッ!! 僕さッ! みんなの一番星———グ・ラ・ムさッ!!!」

唖然となった顔で全員がその声の方を向く。

「どうしたんだい? みんな僕が来たっていうのに暗いじゃない—カッ!」

暗い雰囲気を吹き飛ばすようなその大きな声に全員が唖然となった。

「グラム様、今までどこへ······」

「今はそんな話どうでもいいのさッ!」

「どうでもって······」

そして住民達は続いてグラムのことを非難し始める。

「あんたがこんな状況で何してたんだよ!」

「そうだ、あんたがいればもっと多くの人が助かったかもしれないのに!!」

その言葉を聞いてグラムはニヤリと笑った。

「ハッハッハッ! まったく君達は、自分が恥ずかしくないのかい?」

その言葉に再び全員が唖然となった。

「君達は、よくこれだけ命懸けで戦った素晴ら——しきッ、騎士達を前にそんなことが言えるね。そんなことこのボークッ! でもできないよッ!! 君たち無力な民が誰一人怪我することなく今生きられているのは誰のおかげだい? 騎士となったものはその瞬間から死ぬ覚悟というキラメキを放っているのさ! そんな騎士をそれでも馬鹿にするのかい!?」

「···········」

グラムの言葉に全員が押し黙った。決めポーズをするグラムだったが、そのタイミングでハルトに首根っこを掴まれた。

「やあ! ハルト君!!! 君は相変わらず僕の扱いが雑だね!!」

「黙れ、今まで何処に行っていたんだ。剣帝様が探しておられる、早く来い」

そしてそのまま二人はその場を後にした。
そんな二人の背中を見つめながら騎士達は真っ直ぐ前を、民達は静かに下を向いていたのだった。
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