ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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中央教会編

四章 第二十五話 鐘は一度止まる

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「レイ······なのか」

少しボヤけて見えていた顔は次第に明瞭に見えてきた。昔からよく知っている、何度も顔を合わせ、幾度となく剣を交えた妹がそこにはいたのだ。しかし久しぶりに再会したレイはハルトの顔を見るなり早々に不機嫌そうだった。

「ああ、それにしてもみっともないぞ。さっさと立て」

ハルトの体力はすでに限界だったがその言葉に感化され立ち上がった。立ち上がるしかなかったのだ。兄としての、兄だったものとしての誇りは再び立ち上がるには十分すぎるものだった。

「今は無理するな······回復してもらえッ」

(なぜ機嫌が悪そうなんだ)

少し不満げなレイの顔に疑問を覚えたが、気づけば意識がはっきりとしていた。いつの間にか隣で知らない小さな女の子に治癒魔法をかけられていたのだ。そしてその治癒魔法は恐ろしいまでに精度が高く一切の無駄の無い完璧な魔力操作によるものだった。

(誰だ、それにこの練度。ゼーラの治癒魔法を軽く凌ぐレベルだな)

感じたことのないような回復速度で治っていく傷口を確認しながら、気づけば口を開いていた。

「君は?」

「私はジンって言います。初めまして、レイのお兄さん」

そう言って自己紹介してきたジンにハルトは初対面にも関わらず何故か親近感が湧いた。そして軽く一礼すると言われた名前がどこかつっかかり少し悩み、すぐにハッとした。

「ジン······まさかボーンネルの国王様でいらっしゃいますか」

「そうだ、だから回復できたならさっさと離れろ」

「大変見苦しい姿をお見せしました。申し訳ありません」

妹からのイライラとする感じが伝わってきた為、剣を握ってなんとも無いという雰囲気を出しておいた。

「あはは、大丈夫だよ。これだけとっておくね」

「いけません、それはッ—」

鎖に触れようとしたジンをハルトは慌てて止めようとしたが、いつの間にかビクともしなかった鎖がパリンッと音を立てて割れたことに気がついた。そして鎖はハルトから離れた瞬間、光の粒とともに消えていったのだ。

「「なっ」」

それにはハルトだけでなく遠目でその様子を見ていたラグナルクまでも驚きの表情を隠せないでいた。

(天使系の魔力が不干渉?······だがそれでも、人間が解錠することなど)

しかし目の前にはパパッと手を払って何事もなかった様子のジンがいたため現実を受け入れるしかなかった。

(トキワ、ボル、二人を中心に負傷している人達を救助して、その場で回復魔法もお願い)

(了解)

(マカセテ)

こっちをすごく睨んでくるがまだ何もしていない。怪我している人を治療して鎖を取っただけだ。さらに実は今回、ギルメスド王国がこんな状況にあるなんて知らなかった。インフォルは安全のためギルメスド王国へは近づかないように言っているので情報が皆無だったのだ。一度魔力波で会話するのもよかったが初対面なので念の為直接会うことにした。事前に行くとはいっていないがまあ大丈夫だろうという精神で来てしまった。

ただの外交程度の感覚で来たためかなり少数精鋭だった。一応レイのお兄さんを救助するという目的も兼ねていたがまさかここにいきなりいるとは思わなかった。それでもレイのお兄さんを助けたいという本心を遠回しだが聞けたため訪れることにしたのだ。来たのはガル、レイ、ボル、トキワに加え、いま背中でパールが寝ている。それとクレースは思っていたよりも危険な状況下だったため先程から少しイラついて敵と思われる人たちの方をかなり激しめに睨んでいた。

「パール、周りの倒れている人達を起こしてきて」

「はーい!······あれ?」

パールからすれば寝ていて目覚めると戦場。一応パールには敵が行かないように他のみんなに頼んでおいた。少し申し訳ないとは思ったが本人は「任せておいて」という感じの可愛いジェスチャーをしていたのでそのまま見守っておくことにした。


それよりもこの状況でパールよりも困惑していたのはベオウルフだった。正直言って幻覚を見ているような感じがしたのだ。しかしそれと同時にハッとした。自分がこんなところで逡巡している暇などない、そう言われている気がした。

(多少の被害は仕方ねえ、さっさと終わらせる)

狼剣・凱咆ロウケン ガイホウ

掲げたギルの剣先に空気が巨大な狼の顔を形づくる。一瞬にして空気の濃度を操作したのだ。それに加え空気に魔力の鎧を纏わせ、同時にギルに強烈な重力がのしかかる。

「ぶち上がれ」

地上付近にある空気の濃度が薄まり、練り上げられた魔力がゆっくりと天からの光を呑み込むようにして突き上がる。
天使族は避けるために水平に移動しようとしたが風が退路を断つようにして巻き起こり一直線へ進む道に全員の身体を引き摺り込んだ。
下級天使は風圧にすら耐えることができず消えていき、上級天使ですらぶつかれば一瞬で消滅していく。
その後凱咆は現れる天使族をも一掃していき、鐘の音が止まった。
そして急激な空気濃度の変化が地上に影響を及ぼさないようにすぐに解除し地上へ着地した。大勢が地上にいる場合はかなり危険な技になるのだ。

(マジで何もんだ。あいつら)

何とか難しい局面を乗り越えてジンたちの方を見つめると、少しの好奇心と感じたことのないような不気味さで自然と苦笑いをしてしまった。しかしひとまずは危なそうな騎士達の救助と建物が半壊することを防ぐためにすぐさま移動した。


一方でクレースは辺りの状況を見てますますイライラしていた。

(どうして剣帝のいる国が攻められている。私はただジンと出かけたかっただけだというのに。これではジンが怪我しかねんだろう。やはりジンと国で過ごしておけばよかった。朝から嬉しそうに話しかけてくれて気分が上がっていたというのに······誰のせいだ)

考えれば考えるほど目の前のおそらく敵であろう人物達への殺意が出てきた。

「お前か? 老害」

ラグナルクは何も言わずに剣を握った。するとそこへクレースの後ろから甲高い声が聞こえてきた。

「やあ!! 君達は一体誰だい!?」

イラついていたクレースにとってグラムの声とテンションは最悪だった。

「誰だお前?」

「やれやれ、質問に質問でッ——」

「あ?」

「僕はグラムさ!! よろしく!!」

恐怖を感じ、気づけば本能的に自己紹介をしていた。だがハルトが助かったのを確認してひとまずは安心といった顔になる。

「あのご老体は僕の攻撃でも傷つかないよ! ハルト君はありがとう!! あとは任せたまえ!!」

元気な声でそう言いつつ再びラグナルクの方を向き直す。

「グハァッ!!」

だがそれと同時に思考が止まった。驚きで声も出ない。ただ「へ?」とグラムの口から変な声が出た。
先程までビクともしなかったラグナルクの装甲が脆く粉々になり冷静だった顔は焦りと共に吐血していたのだ。
クレースはまるで、雑魚一人を倒し終わったかのようにして倒れるラグナルクをよそに別の敵を睨みつけた。そしてその光景にギシャルたちも一瞬にして最大限の危険を感じる。

(へ? 素手?)

刀は納刀されたままで素手だった。どう見ても素手しか使っていなかったのだ。

(グラっち、あの人ヤバいよ。離れないと!)

(でもあの女性はッ—)

(だって仲間の人が止めてるよ!)

「待て待てクレース、落ち着け。俺だよ、トキワだよ」

「あっ、鬱陶しかったからつい」

「クレース、パールの援護お願い」

「うん!」

ラグナルクは何とか立ち上がり全員に響き渡るように声を上げた。

「撤退だ! ギシャル!」

「逃がさない!」

黒い空間がラグナルク他、ベイガルたちの周りに一瞬で現れた。しかしそれを見逃さずグラムは目の前にいたギシャルに距離を詰める。

「グラム待て!!」

しかし後ろからベオウルフに言われ、急ブレーキをかけ止まった。

(グラっち、今は安全の確保が優先だよ)

(おやおや、僕としたことが)

スターの言葉に冷静になり剣を納め、グラムは消えていくラグナルクの顔を指差した。ともあれそれ以上被害は広がっていくことなく事態はおさまったのだった。
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