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中央教会編
四章 第二十六話 帰る場所
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敵が去った後、辺りは一度静寂に包まれた。戦場に響き渡っていた怒声や悲鳴は消え、その場にはただ唖然とした騎士達の声が小さく聞こえてくるのみ。あまりにも突然の出来事すぎてそこにいたもの達のほとんどが状況を把握することさえ出来ず思考が停止していた。
しかし徐々に意識がハッとする。そして互いに顔を合わせ同時に—
「「うぉおおおおおおッ!!」」
—という歓喜の雄叫びを上げた。
突然叫び出した騎士に近くにいたパールは思わず耳を塞ぎ治療そっちのけでジンの元へと戻っていった。そして倒れていたミルファ達は何とか立ち上がり、ゼーラは極限まで来ていた疲労の中、緊張していた筋肉がようやく緩み、立ち方を忘れたかのようにその場で安心して倒れ込んだ。
「ハルト君! 無事かい!?」
「ああ、この通り問題ない。だが黙れ、声が腹立つ」
「はっ、ハハ!! ひどくない!?」
「レイ、お前どうしてここへ」
「····知らん、偶然だ。せいぜいジンに感謝しろ」
「そうだった! あのスーパーッ! 可愛い子は誰だい!!?」
グラムは興奮した様子でガルとパールを撫でていたジンを見た。
「無礼だぞグラム。あの方はボーンネルの現国王様だ。失礼のないようにしろ」
「そうなのかい!? それでは挨拶をッ!」
するとレイのすぐ近くにクレースがやって来て話しかけてきた。
「レイ、今までジンはどれくらいの男に声をかけられたと思う?」
「····さあ、想像もつかない。だが本人はその、そういうのには全く興味がなさそうだな。私としてはいいのだが」
「そうだな、しかもあの可愛さだ。どこかに出かければ必ず身の程知らずなブタどもが声をかけてきた。それはもう数え切れないほどに。最初は少し様子を見ておく、困っている顔がかわいいからな。だが次第に、家畜どもに対して殺意が湧いてくる。そして徐々に助けて欲しそうにこちらをかわいい顔で見てくる。ほら、ああいう風にな。だから····」
「····クレース?」
レイの隣にいたクレースは一瞬にして姿を消した。そして次の瞬間、
「へぶぅううッ!!」
という情けないグラムの声とともに痛そうな鈍い音が辺りに響き渡った。
「その度にこうしてきた」
泡を吹いて倒れるグラムは身体全身が痙攣していたが、パールも鬱陶しかったようで全く治療せずジンに再び抱きついた。そしてボルとトキワも一通り騎士達を安全な場所に運び集まると同時にベオウルフも近くまでやってきた。
「お前が、ジンか?」
そう言って話しかけてきたベオウルフからはゲルオードと同じ雰囲気を感じる。強者の雰囲気だ。
「うん、そうだよ。ごめんなさい勝手に入っちゃって」
「いや、全く構わねえ。それよりも助かったぜ、正直言ってやばかったからな。そういやお前らは何故ここに来たんだ?」
「その、レイのお兄さんが危ないって聞いて」
「レイ? 兄貴? もしかしてハルトのことか?」
「うん。それとその、仲良くしたいなって思って」
ベオウルフは一瞬だけ不思議そうな顔になったが、すぐに大きく声を出し顔からは優しそうな笑みが溢れた。
「ガハハハッ! そんな台詞、外交してるやつから聞いたことねえぜ。だがまあこちらとしては大歓迎だ。それにこっちからも礼を言いたかったからな。ありがとよ。······それと、そいつぁお前の子どもか?」
「え? パールのこと?」
ベオウルフは抱っこしていたパールを指差してそう聞いてきた。
「そういうわけではないんだけど······」
そう言うと胸に抱きついていたパールが不安そうな、悲しそうな顔で見つめてきた。その顔はこちらをじっと見てきて大きな目は涙でキラリと光りながらもぎゅっと服を掴む手の力が強くなっていく。そして次第に泣き顔になってきた。
これはいけない、直感的にそう感じてしまう。
「じん、ちがうの?」
(······そうだったかもしれない)
無理矢理自分を納得させてしまった。
「うん、そうだよ」
その言葉を聞くとパァーッと顔が明るくなり嬉しそうに再び抱きついた。
「ジンが、ママ。えへへぇ」
恐ろしくかわいい。
(······ってよく見りゃ天使族か。まあ色々あんだな)
「それで、私が姉のッ—」
「こっちは友達のクレースだよ」
クレースの言葉は阻止しておいた。これでは流石に歯止めがきかなくなってしまう。そして他のみんなも紹介し終えると連絡が取れるように魔力波の使い方も教えた。
「それで、敵は誰だ?」
「途中までは分かってたが、天使族が介入してからは誰が黒幕かは分からねえ。だが間違いなくしばらくはあいつらも攻めてくることはねえな」
「どうして?」
「おそらく、奴らの狙いは天生だ」
「天生?」
「ああ、天生は言わば天使の力を我が身に宿すことだ。天生すればただの人間でもかなりの強さを持つ上位の存在になる。だが準備ができたとしても天生にはそれなりの時間がかかるはずだ。それに相手の全貌が分からねえ限りは今下手に手を出すわけにはいかねえからな。とりあえず助かった、ここはしばらく忙しくなるからすまねえが礼はまたさせてくれ。お前らへの感謝は絶対忘れねえ、剣帝の名においてな」
ということなので、詳しい話などは魔力波でしようということになり一度帰路につくことにした。
帰り際、レイがゼーラさんと話している間にハルトさんがこちらまで近づいてきた。そして何かと思うとこちらの顔を少しの間だけジッと見てきた。すると突然、深々と頭を下げてきたのだ。
「ジン様。これからも、レイのことをよろしくお願いします」
ハルトさんの口から出たのは、単純でも妹への思いが全て込められた兄としての言葉だった。これを聞くと本当は優しかったお兄さんではないかと疑ってしまうほどだ。かといって私はレイに対して一切何もしていない。すぐに頭を上げてもらうと申し訳なさそうな顔をしていた。
「俺は、あいつに何もしてやれません。おそらくこれからも。······あいつは昔から不器用で少し粗暴なところもありますが、一度心に決めたことは必ずやり遂げるやつだとは思います。誠に勝手だとは思いますが貴方にレイの全てを託したい」
その目は真っ直ぐだった。そして同時にとても信頼してくれているような気がした。エルムとシキさんのような関係を感じる。やはり本当は仲が良いのだろうか。
「任せてください。······それと、一つだけ頼みたいことが」
「はい、何でもおっしゃってください」
「じゃあ······」
「分かりました、お任せください」
ハルトは何かを察したように頷くと、別れの挨拶をするために再びレイに話をしにいく。そしてゼーラは何かを感じ取ったようにしてその場を離れ兄妹二人だけの空間をつくった。
「ジンとは何を話していたんだ?」
「お前が迷惑をかけていないか、それを聞いていただけだ」
「そっ、そんなこと言われなくても大丈夫だ。変なことを聞くな」
「······お前、本当にあの方のことが好きなんだな」
「当たり前だ。本当に、世界一愛している。これからもずっと側にいるつもりだ」
「そうか······だがまあ一応、お前の部屋はまだ残っているぞ」
「フッ、お前らしくないな。ジンに何か言われたか? だが安心しろ、ジンから離れるつもりは全くない。物置にでも使っておけ」
「迷惑かけるなよ。じゃあな」
それ以上は何も言わず振り返ることもなくハルトは歩いて行った。
しかし徐々に意識がハッとする。そして互いに顔を合わせ同時に—
「「うぉおおおおおおッ!!」」
—という歓喜の雄叫びを上げた。
突然叫び出した騎士に近くにいたパールは思わず耳を塞ぎ治療そっちのけでジンの元へと戻っていった。そして倒れていたミルファ達は何とか立ち上がり、ゼーラは極限まで来ていた疲労の中、緊張していた筋肉がようやく緩み、立ち方を忘れたかのようにその場で安心して倒れ込んだ。
「ハルト君! 無事かい!?」
「ああ、この通り問題ない。だが黙れ、声が腹立つ」
「はっ、ハハ!! ひどくない!?」
「レイ、お前どうしてここへ」
「····知らん、偶然だ。せいぜいジンに感謝しろ」
「そうだった! あのスーパーッ! 可愛い子は誰だい!!?」
グラムは興奮した様子でガルとパールを撫でていたジンを見た。
「無礼だぞグラム。あの方はボーンネルの現国王様だ。失礼のないようにしろ」
「そうなのかい!? それでは挨拶をッ!」
するとレイのすぐ近くにクレースがやって来て話しかけてきた。
「レイ、今までジンはどれくらいの男に声をかけられたと思う?」
「····さあ、想像もつかない。だが本人はその、そういうのには全く興味がなさそうだな。私としてはいいのだが」
「そうだな、しかもあの可愛さだ。どこかに出かければ必ず身の程知らずなブタどもが声をかけてきた。それはもう数え切れないほどに。最初は少し様子を見ておく、困っている顔がかわいいからな。だが次第に、家畜どもに対して殺意が湧いてくる。そして徐々に助けて欲しそうにこちらをかわいい顔で見てくる。ほら、ああいう風にな。だから····」
「····クレース?」
レイの隣にいたクレースは一瞬にして姿を消した。そして次の瞬間、
「へぶぅううッ!!」
という情けないグラムの声とともに痛そうな鈍い音が辺りに響き渡った。
「その度にこうしてきた」
泡を吹いて倒れるグラムは身体全身が痙攣していたが、パールも鬱陶しかったようで全く治療せずジンに再び抱きついた。そしてボルとトキワも一通り騎士達を安全な場所に運び集まると同時にベオウルフも近くまでやってきた。
「お前が、ジンか?」
そう言って話しかけてきたベオウルフからはゲルオードと同じ雰囲気を感じる。強者の雰囲気だ。
「うん、そうだよ。ごめんなさい勝手に入っちゃって」
「いや、全く構わねえ。それよりも助かったぜ、正直言ってやばかったからな。そういやお前らは何故ここに来たんだ?」
「その、レイのお兄さんが危ないって聞いて」
「レイ? 兄貴? もしかしてハルトのことか?」
「うん。それとその、仲良くしたいなって思って」
ベオウルフは一瞬だけ不思議そうな顔になったが、すぐに大きく声を出し顔からは優しそうな笑みが溢れた。
「ガハハハッ! そんな台詞、外交してるやつから聞いたことねえぜ。だがまあこちらとしては大歓迎だ。それにこっちからも礼を言いたかったからな。ありがとよ。······それと、そいつぁお前の子どもか?」
「え? パールのこと?」
ベオウルフは抱っこしていたパールを指差してそう聞いてきた。
「そういうわけではないんだけど······」
そう言うと胸に抱きついていたパールが不安そうな、悲しそうな顔で見つめてきた。その顔はこちらをじっと見てきて大きな目は涙でキラリと光りながらもぎゅっと服を掴む手の力が強くなっていく。そして次第に泣き顔になってきた。
これはいけない、直感的にそう感じてしまう。
「じん、ちがうの?」
(······そうだったかもしれない)
無理矢理自分を納得させてしまった。
「うん、そうだよ」
その言葉を聞くとパァーッと顔が明るくなり嬉しそうに再び抱きついた。
「ジンが、ママ。えへへぇ」
恐ろしくかわいい。
(······ってよく見りゃ天使族か。まあ色々あんだな)
「それで、私が姉のッ—」
「こっちは友達のクレースだよ」
クレースの言葉は阻止しておいた。これでは流石に歯止めがきかなくなってしまう。そして他のみんなも紹介し終えると連絡が取れるように魔力波の使い方も教えた。
「それで、敵は誰だ?」
「途中までは分かってたが、天使族が介入してからは誰が黒幕かは分からねえ。だが間違いなくしばらくはあいつらも攻めてくることはねえな」
「どうして?」
「おそらく、奴らの狙いは天生だ」
「天生?」
「ああ、天生は言わば天使の力を我が身に宿すことだ。天生すればただの人間でもかなりの強さを持つ上位の存在になる。だが準備ができたとしても天生にはそれなりの時間がかかるはずだ。それに相手の全貌が分からねえ限りは今下手に手を出すわけにはいかねえからな。とりあえず助かった、ここはしばらく忙しくなるからすまねえが礼はまたさせてくれ。お前らへの感謝は絶対忘れねえ、剣帝の名においてな」
ということなので、詳しい話などは魔力波でしようということになり一度帰路につくことにした。
帰り際、レイがゼーラさんと話している間にハルトさんがこちらまで近づいてきた。そして何かと思うとこちらの顔を少しの間だけジッと見てきた。すると突然、深々と頭を下げてきたのだ。
「ジン様。これからも、レイのことをよろしくお願いします」
ハルトさんの口から出たのは、単純でも妹への思いが全て込められた兄としての言葉だった。これを聞くと本当は優しかったお兄さんではないかと疑ってしまうほどだ。かといって私はレイに対して一切何もしていない。すぐに頭を上げてもらうと申し訳なさそうな顔をしていた。
「俺は、あいつに何もしてやれません。おそらくこれからも。······あいつは昔から不器用で少し粗暴なところもありますが、一度心に決めたことは必ずやり遂げるやつだとは思います。誠に勝手だとは思いますが貴方にレイの全てを託したい」
その目は真っ直ぐだった。そして同時にとても信頼してくれているような気がした。エルムとシキさんのような関係を感じる。やはり本当は仲が良いのだろうか。
「任せてください。······それと、一つだけ頼みたいことが」
「はい、何でもおっしゃってください」
「じゃあ······」
「分かりました、お任せください」
ハルトは何かを察したように頷くと、別れの挨拶をするために再びレイに話をしにいく。そしてゼーラは何かを感じ取ったようにしてその場を離れ兄妹二人だけの空間をつくった。
「ジンとは何を話していたんだ?」
「お前が迷惑をかけていないか、それを聞いていただけだ」
「そっ、そんなこと言われなくても大丈夫だ。変なことを聞くな」
「······お前、本当にあの方のことが好きなんだな」
「当たり前だ。本当に、世界一愛している。これからもずっと側にいるつもりだ」
「そうか······だがまあ一応、お前の部屋はまだ残っているぞ」
「フッ、お前らしくないな。ジンに何か言われたか? だが安心しろ、ジンから離れるつもりは全くない。物置にでも使っておけ」
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