ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第七話 秘密兵器

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モンドの中にある巨大な部屋の一つ。この部屋は閻魁や龍化したエルバトロスまでも入ることのできる巨大な空間である。そして現在この部屋の中には数千人もの住民が集まりある者を作っていた。

巨大化した閻魁と同じほどの大きさ。人型の形をしたそれは現在ギルバルトが中心となり作成している巨大メカだった。大量生産中の機械兵だけでは少し物足りないと感じていたギルバルトは『ガルドのカラクリ』の部隊で主戦力となる存在を作りたかったのだ。現在この部屋にいるのはギルバルト、ゼフ、巨大化した閻魁にトキワ、リンギル、エルダン、ガルミューラそれに数千人単位で作業を手伝う剛人族、ヒュード族とかなりの人数がいた。そのため巨大メカだけではなくその傍らでは既に手慣れた手付きで量産型の機械兵が作られていた。

「ガハハハ! 我ほどの大きさの巨大メカとはな、やるではないかギルバルト!」

「ええ、お手伝い頂き有難うございます。とても助かります」

「そうであろうそうであろう! グハハハ!」

「ゼフ、今日はやけに張り切ってるか? まあこういうの興味ありそうだしな」

「ガハハ。そりゃあ巨大メカは男のロマンじゃろ」

ゼフの顔はいつにも増して意欲的、それでいていつにも増して真剣だった。この機械兵に一切の手抜きも失敗も許されない。全てのパーツを一級品の物に揃えて細部まで抜かりなく。全パーツはゼフがその手で加工した二つとない代物である。国家規模で作るような大作の全行程はギルバルトの設計図により現実のものになっている。ゼフとギルバルトの技術は想像しうる全てを可能にしていたのだ。

「それにしても素晴らしい設計図ですね、俺たちみたく難しいことが苦手なもんでも分かります」

「いいえ、ボルさんの設計図を見た後は自分の物なんて素人の設計図でした。剛人族の皆さんの筋力も非常に助かっております」

「ガルミューラ、右上の装甲まで運んでくれるか?」

「にゃ、何で私が!」

「じゃあトキワお兄ちゃんは私が運んであげる」

「ま、まままま」

「ま? どうしたのお姉ちゃん? 待つの?」

「うおぉ!?」

(えへへ、お姉ちゃんは素直じゃないなあ)

「おいおい、肩えぐってるぞ」

「動くからだろ、寝てろ」

「いや数秒しかかからねえよ」

そのまま雑に掴んだトキワと共にガルミューラは飛んでいった。

「どうしたの? リンギルお兄ちゃん」

「いいや、あくまで可能性の話だが、トキワとガルミューラ殿はできているのかもしれんな」

「ええ? 今気づいたの? でもトキワお兄ちゃんは鈍感でお姉ちゃんはツンツンしてるから全く進まないの」

「そ、そうなのか。通りでこの間······」

「この間!?」

「······いいや、これ以上他人の恋路を邪魔することはできない」

「ええ! 知りたい~」

「また今度な、今は見守っておこう」

その時、開いたままの扉からジン達が入ってきた。

「「ジン様!!」」

「みんなお疲れ様。今は何をやって······」

「ったく、男は何こんな機械ではしゃいで····ジン?」

「見て見てクレース! かっこいい巨大メカ!」

「そうだな~かっこいいなあ」

「「おい」」

「そうであろうジン! やはりみる目があるのう」

「ジンこれなあに?」

「昔ね、クレースが教えてくれたの。あんな風なおっきな機械で目や口からビームを出したり変形したり、たくさんの武器を使って戦うんだ。他にも魔法は使えるのはもちろん、転移魔法まで使えたり姿を消したりすることもできるの。あっ、それとね、空間も歪めちゃうんだって。凄いねギルバルト!」

「「!!???」」

全員言葉には出さずとも全く予想していなかったまさかの機能に静かに固まった。設計図を見る限り今言われたような機能はほとんどついていない。あるとすれば数種類の武器を使用することくらいだ。トキワは目線をクレースに向けて必死に訴えかける。

(おいクレース聞いてねえぞ、そんな機能設計図にねえよ! 空間歪めるって何だよ!?)

(ジンに本当の話をしただけだ、何とかしろ。あの子を失望させるな)

(ギルバルトさん。ビーム機能、転移魔法使用、ステルス機能、空間操作を新たに追加しましょう。私もお手伝い致します)

(了解しましたゼグトスさん。能力の上書きは可能なので何とかなるはずです。ジン様の想像を下回るわけにはいきません)

「おおそんなに凄いのか! 完成がますます楽しみであるな!」

こうしてジンの知らないところでギルバルトとゼグトスの新たな挑戦が始まったのだ。

(みんなー! そろそろ休憩の時間だよー!)

しばらくしてジンの魔力波と共に休憩の合図が入った。どれだけ急いでいて忙しかったとしても休憩だけは全員同じタイミングでとる。たとえ休憩時間でなくても疲れていれば迷わず休む、それがルールだった。既に冬に入ったというこの時期、外の寒さは痛いほど身体に沁みる。だがそんな寒さを掻き消すほどにそこに住んでいた者達の熱情は凄まじいものだった。

レストランに並ぶ料理の数々はヴァンやエルムが栄養素を考え日々試行錯誤し続けている力作。日替わりのメニューは毎月のように新しいものに変わり今では他国から食事をしにくる者もいるのだ。
全員で食事をしながら話す内容は作業の進捗状況だけに止まらない。いつも話すような雑談から作業中に起こった珍事件まで様々な話題で盛り上がり外の冷たい氷が溶けていくほどの活気がそこにはあった。

「トキワどうしたの?」

「いや、ジンが外に出て行った後天井くらいの高さから落とされたんだよ」

「変な所を触るからだ」

「あははぁ、安全にね」

「おいおいそんな目で見ないでくれよ」

「閻魁、またお箸が使えてナイ」

「······クッ、すぐにヒビが入りおってこの箸なる物が弱いのだ。それよりも食い物は手で食った方が食いやすいぞ。それかこのフォークというものでブッ刺す!」

「食事をする必要がなかったからぼくもこのお箸っていうのは面倒だなあ」

「ゼステナ、パールちゃんを見習いなさい。人型ならあなたも出来るはずよ」

確かにパールは若干のぎこちなさはあったもののほとんど箸という物を使いこなしていた。

「ジンに教えてもらったの····えへへぇ」

「まあ俺ら剛人族もそういう細かいことは苦手だから分かるぜ」

確かに箸というのは元々私達の文化であり押し付けるのは良くない気がする。それでも衛生面や利便性を考えると仕方ないので使用しているのだ。

「あれ、私のお箸······」

「どうかしたか? ジン」

「ふぇ?! 何も無いよ」

お箸置きに置いていたはずのお箸が無くなっている。小さい時にゼフじいが作ってくれた専用のお箸なのだ。小さかったので詳しくは覚えてははいないけど丈夫な木を使用したお箸でで先程まで握っていたはずだ。大事な物でそれに斜め前にゼフじいがいる手前無くしたとは言えない。静かに焦っていた。机の下を見ても何も無い。パールの目の前でこんなことをすれば物を無くすことを真似してしまう。パールはどんなことでも私の真似をしてしまうのだ。

(ガル······お箸探してくれない?)

(バゥ!)

実は最近になってガルと魔力波である程度の意思疎通ができるようになった。今はガルに頼るしかない。ガルは足元を嗅ぎ回るが特に反応はない。

「ねえジン、ガルが歩いてる」

「そ、そうだね」

平静を装いつつも静かにガルを見つめているとすぐ近くにあった椅子のところで止まった。

(ガゥ!)

(見つかった?)

足元にいたガルを見るとこちらを向いて首を傾げてる。かわいい。でもお箸はない。するとガルの目の前あった白くスラリとした美脚が視界に入った。そして少し目線を上げてその人物を見ると同時に思考が止まった。

「ゼステナ、行儀が悪いわよ。早く噛みなさい」

「えへへぇ····いいんだぁ。舐めてるだけで美味しいから」

ゼステナはとろんとした瞳で色っぽく真っ赤な舌を出しながら何かを舐めていた。全体を舐め回してなお先の部分を何度も舐め続けていた。しかし美味しそうに舐めるそれは決して食べ物ではなかった。

「お、お前······」

途端に気づいたクレースも絶句しながら眉をひそめ目の前で起こっていることを何とかして処理しようとしていた。

「ゼステナ、それって」

ゼステナの舐めてものは間違いなく探していたお箸だった。ガルは見つかったお箸を見つけると膝の上に乗ってきて嬉しそうにこちらを見てきた。まるであったよ、と言いたげなその瞳はどこまでも純粋無垢だった。かわいい。

「あっ、それジンのおはしだよ」

「美味しいよ パールも舐めるかい?」

「でも食べるものじゃないよ?」

平然と舌を出しながら舐め続けるものがジンのお箸だと気づいた瞬間、クリュスの表情が凍りついた。そしてクレースと同様絶句したがすぐに我に返りゼステナの手を咄嗟に掴んだ。

「今すぐやめて、後で私のところに来なさい」

「え、どうして?」

「いいから」

あくまでも落ち着いた様子で声色も変えずに話すクリュスからは怒りが感じられた。顔には出さずともオーラが湧き出ているのが何よりの証拠だ。

「ジン様、妹が申し訳ありません。すぐに新しい物を用意します」

「あはは、いいよ。無くしちゃったと思ってたから、見つかってよかった。これで食べられるよ」

ゼステナからお箸を受け取ろうとすると何故かクレースが間に入って制止した。

「どうしたのクレース。しっかり拭くよ?」

「駄目だ。それなら私の箸を使うんだ」

「なんでそうなんだよ」

すかさずトキワのツッコミが入ったので結局その時はパールにご飯を食べさせてもらい食事を終えたのだった。

その後休憩も一通り終えて再び作業に戻ろうとする時インフォルが目の前に現れた。

「クレースはん、頼まれてた人物の場所が分かったで······でも大丈夫かあの人」

「少し癖のあるやつかもしれないな、だが問題ない」

「それってこの前話してたマニアさん?」

「そうだ。あいつは自分の周りに数種類の結界を張っているから中々見つけるのが面倒だからな」

「場所はこの国の北西、結界が強すぎて中までは入れへんかったけど、姿を見る限りクレースはんのいう通りやったわ」

敵の攻撃に備えて大規模かつ強度の高い結界を構築し得るその人はクレースが昔に会ったことのある人らしい。インフォルでも入れないということはかなり練度の高い結界だと分かる。どうにかして開戦までに協力してもらえるようにしなければ。

「でもどうしよ、結界で音が遮断されてたら呼び出せないし」

「いいや、向こうからもこちらの様子が見えるはずだ。何とかなるだろう」

「分かった、じゃあ明日一緒に行こっか」

だがその時、インフォルは結界越しに見たマニアの様子を説明することはなかった。目の前で為されていた狂気的な行動を見なかったことにして全てクレースに委ねることにしたのだった。
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