ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第三十二話 スター・フォール

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 ———機械の島

 リンギルとブレンドの二人により重傷を負わされたバグはモルガンの手により治療が行われていた。
 機人族の治療は魔法による治癒に加え破損した部品の修理、交換が行われる。
 そのため致命傷を受けようとも代替できる部品があれば完全に四肢が欠損しようとも回復することが可能である。
 バグも同様、破損した部品は取り替えられ完全に回復していた。
 しかし今回機人族にとって最も考えなければならないことは帝王や祖龍のほかにバグほどの手練れが敗北させられたという事実であった。

「旧型とは言えお前ほどの者がやられていたとはな。油断したか?」

「手を抜いたつもりはない。全力でやり合って負けた。相手は確かに強かった」

 バーロンガムを蹂躙していたモルガンにとってもバグの敗北は想定外だった。

「確かにその通りだな。巨帝もそれなりの強さではあったが、続いて現れた者は旧型の私の手に負える相手ではなかった」

 モルガンの頭にはボルの顔が浮かんでいた。

「こちらの相手はエルフと木人族ウッドマンだ。木人族に関しては生まれて時間は経っていないようだったが潜在能力が桁外れだった」

「そうか。一方的なほど戦力に差があるとは思っていたが、分からぬな。今までは必要がなかったが、我らも進化する必要がある」

 機械の島には未だ数多くの機人族が残っている。
 その数は大陸に出ていた機人族の数十倍。
 機人族にとって粛清は始まりに過ぎなかった。

「新型は誰も出ていないのか」

「いいや、剣帝の元に二人が向かった。始まるぞ、蹂躙劇が」

 モルガンは確信しその顔に含みのあるような笑みを浮かべた。


 ************************************


 ギルメスド王国。強力な四人もの騎士を失った事実は一瞬にして全土へと広まり騎士に対する国民の懸念は増すばかりであった。

「自我は乗っ取られていたがまだ完全じゃねえ。あいつらの魔力が残ってた。それを手掛かりに今すぐ向かう。ハルト、シャド、ここの守備はお前達に任せるぞ。俺が居ねえ間、この国の最高権限はハルトにある」

「了解しました。お気をつけて」

「二人とも 僕が居なくても寂しくはないかい!?」

「ああ」

「あっ、はい」

「ハハハ! ·即答だね!!」

 向かうのはベオウルフとグラムの二人のみ。各地に派遣していた騎士は全員国に戻ったもののハルトとシャドまで向かえば国が崩壊するほど今のギルメスド王国の戦力は厳しい状況だった。
 国中に騎士の見張りが張り巡らされ緊張感はゼーラ達がいた時とは比にならないほど。

 しかし二人が国を出ようとした丁度その時。

「········」

 突然、四人の身体は固まった。
 身体の動きの一切を止め、ベオウルフは迫り来る気配に最大限の殺気を放つ。
 殺気は衝撃波のように空を舞い、その存在へと向かった。

 しかしその殺気は空中で何かにぶつかり地上へと爆風が巻き起こった。
 殺気を跳ね返すようにして放たれた凄まじい衝撃波が相殺することによりすぐさま空は静けさを取り戻す。

「チッ——」

 地上にいた者が硬直する中、ベオウルフの足が地上から離れる。
 グラムの横目に見えたその顔は未だかつて見たことのないような激しい怒気を孕んでいた。

『ギル』を鞘から取り出し空を蹴るように駆け上がる。
 高速で飛来してきた者たちに向かいギルの剣先は向けられていた。
 空中で標的をその視界に捉え、ギルは振りかざされる。

「堂々と乗り込んできやがったな」

 ギルの刀身は金属でできた右手に受け止められ勢いを止める。
 加えられた衝撃は分散し地面は抉りとられた。

(コイツら二体。余裕で俺より強えな)

 そう確信し、ベオウルフは距離を取り空中に止まった。目の前にいた二体の機人族。装甲は光沢を帯び一分の隙もない構え、感情を持たないかのように顔には無機質な表情が浮かべられていた。
 その時、二体の機人族の後ろから誰かが向かってきた。

「ヤッホー! もう戦い始めちゃってる?」

 殺気立つその空間で緊張を微塵も感じられない声。
 だがベオウルフは確信する、大天使であった。

「俺はトギ様だ。初めまして剣帝」

 強烈な圧を感じる二人に比べ、トギからは圧どころか少しの殺気すら感じなかった。だがメイロードに引き続きシリスまで奪われた今、ベオウルフに一切油断などない。敵の目的は明白だった。

(ベオウルフ様。ご無事で)

(ああ、機人族が二体と大天使が一体。今俺のいる場所の真下にいたやつらは避難してる。すぐに来い、ここで食い止める)

(了解しました)

「さて、どうしたもんか」

 ハルト達のことを考えれば空中戦は避け地上戦に持ち込むことが最善策である。無理矢理に相手を突き落とそうにも一体三のこの状況ならば容易ではない。

(······待てよ)

 その時ベオウルフの頭に一つの策が思い浮かんだ。いいや、それしか思い浮かばなかった。

(グラム····)

 すぐさま思いついた案をグラムに伝えその時を待つ。
 ベオウルフにできることは敵の動きを止めつつ待つことのみであった。

「お前らの強さは反則だろうよ」

「世辞は要らぬ。 それよりも何を考えている?」

「ハッ、言う訳ねえだろう」

 ベオウルフの目の前にいる二体の機人族、ペルシャとオベーラは姉妹である。
 両者ともに細部まで作り上げられたきめ細やかなパーツとそれが成す芸術的なフォルム。
 ベオウルフから見ても二人の放つ強者のオーラは異常なほどだった。

(ベオ君!! 準備完了だよ!!)

(おう、派手に頼むぜ)

 グラムからの魔力波が来たタイミングでベオウルフはその身体に魔力を纏わせた。トギ達三人は一箇所に止まりベオウルフとの距離はおよそ十メートル。

「あれ? 何だこれ」

 しかし次の瞬間、三人の視界に映ったベオウルフは一人ではなかった。
 ベオウルフの分身が三人の周りに現れ取り囲むように位置していたのだ。
 その全員がギルを手に持ち三人に剣先を向ける。

狼剣・螺旋ロウケン  ラセン

「あっ、ヤッベェ」

 本体と無数の分身、その全てから三人に向かい斬撃が飛んだ。
 空を切り進む斬撃は渦巻き互いに干渉し合うことなく、進むにつれ大きさと威力を増す。

「おぉ、流石だぁ」

 しかし、ペルシャとオベーラは空間に干渉しその軌道をずらす。
 斬撃は衝突する直前に霧散していくがベオウルフは絶えず狼剣・螺旋を打ち続けた。

「無駄だ剣帝、魔力の使い方がなっていないな」

 四方から飛来する無数の斬撃も二人の前では無に等しかった。
 分身に加え範囲攻撃の技、魔力が枯渇するのを待つことが得策と判断した二人は反撃せずに全ての攻撃をいなす。

「あれは·····誰だ?」

 しかしその時、トギは地上から近づいてきた何者かの姿を見つける。
 騎士がたった三人。グラム達であった。

「お二人さん頼んだぜ、ちょっと行ってくる」

 トギはそう言い残し斬撃飛び交う包囲網から僅かな隙を見つけ抜け出した。

(一人向かったッ——ハルト、シャド時間を稼げ)

(了解)

 ハルトとシャドは急降下してきたトギに向かい構える。
 しかし何故か、トギはその手に魔力を込めることもなければ手に武器を持っているような素振りもない。

「何だ何だ君たちはー 一般人が来ていい場所じゃないんだぞー」

「えっ」

「何だと?」

 突然のトギの言葉に二人は拍子抜けになる。
 トギは二人の目の前まで歩いてくると両手を広げた。

「トギ様、君たちをこれ以上進ませまん!」

「お前何を言っている。攻撃する気が無いならこちらから行くぞ」

「無理でーす! あと俺は一般人に暴力を振るいませーん!」

 ハルトが剣を抜き一歩目を踏み出そうとした直前、シャドが制止する。

(待ってくださいハルトさん。この天使何か変ですよ。このまま時間稼ぎしておきましょう)

 その言葉にハルトは止まり、後ろに目をやった。

「おいグラム、そろそろか?」

「ハハハ! 完璧さ!! もう少しで落ちてくるよ!!」

 グラムは二人の後ろで『スター』の剣先を天に掲げていた。
 しかし強大な魔力を放っているというわけではない。祈るように目を閉じ、精神を集中させていた。

(スターちゃん!! 久しぶりに頼むよ!!)

(任せてグラッち!!!)

「あれれれ、何だあいつ。やばくね?」

その時、突如として空から轟音が響いた。
ペルシャとオベーラもその音に気付き空を見上げる。

「ペルシャ、剣帝を抑えておいて」

そう言いオベーラはひとり高度を上げた。
空はまだ青い。そんな雲ひとつない快晴の青に小さな光が生まれた。

「これが意思の力か」

 オベーラは光を見つめそう呟いた。
 光は時間とともに大きくなり同時に辺りの気温が上昇する。
 グラムはスターを強く握りしめたまま声を上げた。

流星群スター・フォール!!」

 近づいてきた無数の光は偶然などではない。
 グラムが呼び寄せた激しい炎を纏う流星。
 そのひとつひとつが確かに攻撃意思を持ち、オベーラを狙うように飛来してきたのだ。
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