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英雄奪還編 後編
七章 第三十三話 新型の姉妹
しおりを挟むベオウルフの斬撃と上空から飛来する無数の流星群。
少なくとも斬撃を避けるならば下まで移動する必要がある。それに加え二人を覆い被さるように襲う流星群により完全に退路が絶たれていた。しかし、オベーラとペルシャの顔色に一切の焦りはない。
それどころか斬撃を処理するのはペルシャのみになったはずが空間へ干渉する魔法の精度はさらに上がりベオウルフの猛撃を完璧に防ぎ切っていた。
(あいつまさか、グラムの流星を····)
(あのきゃわいい女の子、まさか僕の流星群をッ——)
確かな攻撃意思を持つ流星。その全てがオベーラの元へと向かっていく。
オベーラは流星に向かい手を掲げ静かに息を吸った。
「いい技だが、まだ柔い」
(グラッち! 私の流星がッ——)
「ありえない······」
グラムは上を向き小さく呟いた。流星の放つ熱波は空気中に消え去っていく。
そして超高速で急降下する流星は空中でその動きを止め柔らかい石のように散っていった。
オベーラは一切流星に触れていない。ただその場にいたもの達はオベーラの干渉を確信していた。
「なーんてね!! まださ!!」
しかしグラムはまだ手を隠していた。
時間差で現れた巨大な物体。
ゆっくりとその場にいた者たちを全て覆い隠すような影が広がっていく。
「············」
降りかかった流星とは比にならないほどの巨大な隕石。
オベーラの何百倍もの大きさを誇る巨大隕石もまた攻撃的意思を持っていた。
「これで終わりさ!! きゃわい子ちゃん!!」
グラムは勝利を確信し決めポーズを取る。
「消えろ」
しかし自信満々のグラムの笑顔は途端に消え去った。視界を埋め尽くしていたはずの灰色の岩石は青い空に変わる。
心なしか手に握っていたスターから感じられる精気も弱まっていた。スター自身驚きを隠せないでいたのだ。そしてグラムも同様である。一度たりとも流星群がこれほどまでも呆気なく完封されたことはないのだ。
「地上で戦ってほしければ言えばよかろう。ペルシャ」
「分かった」
いつの間にか、ベオウルフの斬撃は止まっていた。逃げ場などなかったはずの猛撃はたった二人により完璧なまでに抑えられたのだ。トギは満足しきったような顔でウンウンと頷いている。数では勝っていようともこの状況を見ればベオウルフ達が大いに不利と言わざるを得なかった。
(分かってはいたが······反則だろ)
オベーラとペルシャの二人はゆっくりと高度を下げグラム達の前に立つ。
ベオウルフもグラムの隣に着地すると両者睨み合った。ここを突破されれば間違いなくギルメスド王国の陥落は免れない。国をかけた戦いに未曾有の強敵、四人ともその意味を理解していた。
「剣の帝王、お前の技では私達を越えられない。選べ、服従か死かを」
「その選択肢にお前らの負けはねえのかよ」
「無い」
オベーラの顔に一切の曇りはない。ただ今から起こるう現実がそうであるかのように淡々とそう述べた。
「トギ様、お姉さんたちのサポートに徹するぜ。邪魔ならいつでも言ってくれ」
「邪魔だ」
トギの言葉に二人の声は重なった。見下すような二人の鋭い視線にトギは分かりやすく萎縮する。
「トギ様味方だからね? おけ?」
二人は前に進み横に並ぶ。旧型、新型が存在する機人族。共に同じ人格を持つものの同時に存在することはできない。
そして、旧型に比べ圧倒的に戦力の高い新型という存在へと昇華することを許された者は数多いる機人族の中でもごく僅かに限られる。
そして姉のオベーラに妹のペルシャ、姉妹であり両者共に新型の二人は機人族の中で最強の姉妹と呼ばれている。
この僅かな間でベオウルフは既に先程使った魔力を練り上げていた。
(奴らに魔力波はねえ。連携を活かせ。致命傷を受ければ後ろに下がって自分で治癒しろ。おそらくあの大天使は手を出さねえ)
(了解)
ベオウルフの予想通りトギは二人から少し距離を取るようにして後退する。
いつの間にかオベーラの手には大槍が握られていた。それに対してペルシャは手に水晶玉のような球を持っていた。
(多分俺は邪魔だ。サポートに徹するべきか)
そう思ったシャドはオベーラとペルシャが攻めてくる瞬間を注意深く観察する。
「へっ?」
しかし突然、気の抜けた声が聞こえた。
顔が歪み衝撃で脳が揺れたかのうような感覚。シャドは鈍い音を立てながら地面に顔を叩きつけられていた。
しかしシャドの視界には何も映らない。その一瞬でシャドは意識を失っていたのだ。
「シャド?······」
隣にいたハルトは何が起こったのか分からないように倒れ伏したシャドに問いかけていた。
「来るぞお前ら、構えろ!!」
(今の攻撃は見える見えないの話じゃねえ)
シャドは確かに叩き潰された。だがオベーラとペルシャそしてもちろんトギでさえもその場から動いた痕跡はない。
シャドはまるで空気に殴られたかのように突然倒れ伏したのだ。
「狼剣・流浪」
三人の判断は早かった。
ハルトはシャドを後ろに投げ飛ばしベオウルフは牽制するように剣を振るう。
狼剣・流浪——半円を描くように剣を振るう流れるような動作により魔力の込められた斬撃。先端の尖った魔力の塊、二人にとってそれをいなすことなど造作ない。しかし隙も無く無数に飛来し続ける。
(シャドならばすぐに起き上がります。やったのは水晶玉の女かと)
(時間をかけて観察するしかないね!!)
ベオウルフの放った斬撃は素早さと範囲を考えれば効率は良い。だが威力は二人にダメージを与えられるほどではないのだ。
無論ベオウルフもそれを理解している。今は時間を稼ぎ二人の行動パターンを理解することが先決なのだ。
「鬱陶しい」
オベーラはベオウルフの攻撃を振り払い大槍を投げつけた。
魔力など一切込めていない、ただ回転を加えた投擲。斬撃に軌道を変えられることなく直進しギルとぶつかり合う。
「ッ———馬鹿力が····」
身体がのけぞるほどの威力。ギルを持っていた手は痺れ大槍はオベーラの元へと帰っていった。
(大槍は空中で俺がやる。お前らは地上で能力を探りつつ水晶玉とやり合え)
(了解)
地面が割れるほどの踏み込み。オベーラの視界の下にはベオウルフが迫っていた。
斬り上げた刀身は頬を掠めオベーラはベオウルフの上に移動する。いいや、移動させられた。
「狼剣・凱咆」
狼牙が突き上がり空気は張り詰める。オベーラは澄ました顔で魔力を纏わせた狼の頭に足を乗せる。ベオウルフは共に空中へと上がりグラム達に二体一の状況を作り出した。
ベオウルフとオベーラの二人はグラム達から遠く離れた位置まで高度を上げ当然のように空中に止まった。
空中においてもベオウルフの構えは地上と変わらない。鬼気迫るような覇気を放つ構えでギルを握る。
戦いの始まりに予告はない。両者ともほんの数秒睨み合い次の瞬間二つの光が衝突した。僅か数秒の内に凄まじいほどの火花が飛び散り魔力が衝撃波を生み出す。
二人の打ち合いは常人では目で追うことすら叶わない。
数手先の打撃を読み合うハイレベルな攻防は僅かなミスすら許されなかった。
「俺の仲間は今どこにいる」
「お前が寝返れば返してやろう。だがどちらにせよ結末は変わらない」
「そうかよ。で、何でてめえらがあのクズ共の味方してんだよ。暇か?」
「我らが主の決定だ」
しかし二人にはまだ会話するほどの余裕があった。刀身の長いギルと長柄の槍、共にリーチが長く極端なほどの至近距離での打ち合いは行われない。
「埒が明かない」
痺れを切らしたかの様子でオベーラは呟き、ギルの刀身を受け止めた直後に動きを止めた。
無機質な機械音が響き、背中から何かが現れる。
「ッ————」
ベオウルフは銃口が視界に映った直後ギルに力を込める。
大口径の銃弾は音も無く発射され、顔面を掠めた。反動で距離を取るが肩に被弾し赤い血が飛び散る。
「フンッ——」
オベーラはすぐさま間合いまで詰め激しい突きで追撃をかける。
だがその直前、オベーラは何かを感じ取り止まった。両手に持ったギルを捨てるかのように手から離しベオウルフは隙だらけの状態。だが妙な違和感を感じ捨てられたギルを目で追っていた。
「どこ見てんだ?」
「チッ」
何かが触れた感覚。オベーラは腹部の装甲が少し損傷しているのに気づく。いつの間にか太刀のギルは消えベオウルフは手に巨大な爪を装備していた。
(爪の先端に私の魔力······)
この状況で疑う余地などない。太刀は爪に変わっていた。獅子の如く威圧的な風貌、加えて口元には肉食獣のような鋭い牙が見えていた。
「ここからが本番だ」
ベオウルフは前傾姿勢のまま鋭い視線でオベーラを睨む。太刀を構えている際とは全くと言っていいほど別物の姿勢。先程は一分の隙も見つからない完璧なまでの構えだったが今は違う。縄張りを持つ獣の如く周囲に最大限の警戒を払いベオウルフの周りにはオベーラでさえ安易に近寄れないテリトリーが生まれていた。
「狼剣・魔爪」
爪はオベーラという獲物を捉えるように一直線に向かう。魔力は渦を生み出しその直線を取り囲んだ。空気中に漂う魔力を吸い込みその渦はさらに巨大化する。
「流石というべきか」
オベーラは顔色一つ変えず槍を突き出した。魔爪の回転は追い風を生み出し凄まじい推進力を生み出す。魔爪が圧倒的有利な状況。だが——
「この状況で······」
ベオウルフの顔には呆れたような笑みが浮かんだ。
「凌駕してんじゃねえよ」
魔爪は徐々に押し返され逆回転を始めた。咄嗟に軌道をずらした瞬間、二つが生み出した衝撃波は下に向かい地を抉り取った。
(大丈夫か? 流石に我への魔力供給が多いか)
(ああ、魔力消費が激しいな。この状態で持ってあと十分てところか)
両者ともに余裕の表情は消えていた。
残り数分で決着はつくオベーラもそう確信し、二人は再び動き出した。
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