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英雄奪還編 後編
七章 第三十四話 ゴール・アルムガルド
しおりを挟む武器の意思達が存在する世界、アルムガルド。ヘルメスが予想したようにアルムガルドにのみ敵の進軍は始まっていた。
メカが三十体、機人族が三体。武器の意思を強奪するために出陣した過剰とも言える戦力。到着と共に蹂躙劇が始まるはずだった。
だが、侵入が確認されたとの報告を受けヘリアルとヘルメスの二人が向かった時には既に戦いは終わっていた。
「雑魚ばかりだな、旧型か」
二人の視線の先には紅い髪の女が一人立ち、足元には機人族とメカが装甲を破壊され倒れていた。
三十三対一という圧倒的な戦力差。
だが女はさも当然のように無傷でその場に立っていた。
女は振り返り鋭い視線で二人を睨みつける。二人とも思わず肩を振るわせ叱られる子どものように固まった。
「来るのが遅いぞ。私はお前達にここの防衛を任せたはずだ」
威圧的な声と鬼のように恐ろしい表情。二人は何も言えずゴクリと唾を呑んだ。
「お前達をここに置いたのはクソじじいからの頼みだが、元はと言えば私の可愛い可愛い孫娘のお願いだからだ。約束を破れば分かってるな?」
「はっ、はい」
このアルムガルドを治め武器の王と言われるその女性、ゴール・アルムガルド。ゴールを前にしてはたとえ龍人族の二人であろうとも矮小な存在と化す。道具の王と並びウィルモンドにおける最強の存在である彼女は今回の粛清に積極的であった。
「············」
「······何故逢いに行かないのですか」
「クソジジイがいない今、私がここを出ればこの世界は崩壊する。それに私が逢ったのはあの子が物心つく前だ。もし逢ったとしても、私のことなど覚えていないだろうな」
「ですが逢える機会は······」
「そうだな、何処かの阿呆がニュートラルドに攻め込んだ時にこの世界を通して見ていたぞ」
皮肉を込めたようにそう言いゴールは足元に倒れ伏していた者たちを軽く消し去った。
「逢う逢わないの前に私があの子に逢う資格などない······ばあばとして最後まで、あの子を支え続けよう」
「ば、ばあば?」
「······何もない。この場で警戒を怠るな」
そう言い残しゴールは二人を背にしてその場から離れる。
アルムガルドでの絶対的守護者。武器の意思達にとってゴールの存在は手に届くものではない。
この世界を創造した神と言える存在。だからこそ崇拝すべきその存在に全ての意思が望む唯一の願望があった。
その顔に心からの笑みを浮かべてほしい。
願いは単純でありながら長年誰もが叶えられないものであった。
多くの意思がそれを強く願いながらもゴールにその願いが届くことはない。
アルムガルド全体を俯瞰できる位置。
無機質で冷たい表情を浮かべゴールはアルムガルド全体を見下ろしていた。
(皮肉なものだな、ルシア。私が望んだお前の命を私の下した選択が奪っていった。お前が最も大事にしていた存在もまた私の下した選択で両親を失った。だがきっと、お前は私を恨んではくれない。憎しみの代わりに愛情を抱く、きっとそんなお前の子どもは優しい子に育っているのだろうな)
「ばぁば······か」
願いを込め呟いたその声は誰にも届くことなく夜の空に消えていった。
************************************
———バルハール
ネフティスは自室に籠り奪われたローグの肉体を探し出す方法を模索していた。
(あの場所に付着していた微小な魔力。辺りに目立った痕跡は無い······か)
だが正直、手がかりがあまりにも少なく難航していた。自身にかけた呪いを考えればネフティスが人族であるローグの肉体を探し出すという理由はなかった。
しかし気づけば無心でその方法を探そうとしていた。
理由などいらなかった、ただそれが義務であるかのようにネフティスの身体は無尽蔵に突き動かされていた。
「ネフティス様、お茶をお持ちしました」
するとその時、扉をノックする音と共にメイルの声が聞こえてきた。
「ネフティス様、少し休まれてはどうですか。身体に毒ですよ」
「わしらが身体に気を使う必要などなかろう」
「それは······そうですけど」
メイルの視界には机に散らかる何度も読み返された本や魔法陣が記載された紙が入る。普段と変わらないその光景にメイルは何故か落ち着いた。
「どうかしたか」
一息ついていたネフティスは散らかった机を眺めるメイルにそう尋ねた。
「いえ······もし私が同じような状況になればネフティス様はこんな風に必死になってくださるのかなぁ、なんて」
「フンッ——下らぬことを考えるな」
「す、すみません······その、ネフティス様は昔に私が言ったことを気にされていますか」
(ネフティス様はそれほどの時を生きてこられて、大切な方を何人失われましたか)
昔に言ったこと、長き時を生きるネフティスにとってそんなもの数え切れないほど存在する。
しかし脳裏に浮かんだ言葉はその一つしかなかった。
そして二人の思い浮かべた言葉は一致していたのだ。
「気にしておらぬ。お主のように見ず知らずの他人に深入りはせんからな」
「そう····ですね」
「大切なものを失いたくはない、その割にはお主、他人に自ら関わり合おうとしているだろう」
「それはぁ、仕方ないですよ。ジン様やクレース様、最近またたくさんの方が増えました。でも後悔はありません。私にとってそれは、誇らしいことです」
「······ならばもしあの人間がいなくなれば、また一人増えるのか」
「考えたくもないですが······もちろん。きっと死んじゃうくらい大泣きすると思います。それを覚悟して関わりを持つしかないのですから」
「······馬鹿馬鹿しい」
短い休憩を取り終えたネフティスは再び机に戻った。
しかしメイルが部屋から出ようとしたその時、二人は同時に振り向いた。
視線の先は同じく部屋の中央。何かを感じ取り二人は固まった。
「ネフティス様ッ——」
「分かっておる」
現れたのは黒い空間。二人ともそれが何であるのか既に知っていた。
ネフティスは部屋の中央に杖を向け魔力を込める。
「クシャシャシャシャッ——!! いきなり攻撃するんじゃねえよ」
黒い空間から現れたギシャル、ネフティスは周りに構わず魔力を放とうした直前、その手を止めた。
「言っただろ? 借りるだけだ、綺麗な状態で返すぜってな」
ギシャルは黒い空間から何かを取り出し床にゆっくりと置いた。
(あれは······)
包帯で全身が巻かれた肉体。奪われる前の状態と比べても目立った損傷は見られなかった。ただ首から上の部分は無い。ネフティスはそれが何であるのかを確信していた。
「何が目的だ」
「目的だ? そんなもん何もねえよ。用はこれだけだ」
ギシャルはそれ以上何もすることなく再び黒い空間とともに消えていったのだった。
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