ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第四十九話 努力の天才 <挿絵あり>

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 クレースがレイ達の元から去っていった後、戦闘が開始されるまでは長くなかった。モルガンとバルクの二人に対してレイ、閻魁、ブレンドそしてリンギルの四人。数的有利ではあるものの新型のモルガンは帝王の実力を遥かに凌ぐほどだった。レイ達はすぐさま二手に分かれレイ、閻魁の二人がモルガン、リンギルとブレンドがバルクを相手取る状況。

(レイ、お主の身体で彼奴の攻撃を喰らえば致命傷は避けられぬ。彼奴の危険な攻撃は全て我に持ってこい)

(······分かった)

 レイと閻魁はモルガンを別の空間に誘導し様子を伺っていた。正面から向かえば結果は見えている。そのため木々が生い茂っていたその空間で閻魁も人型のサイズとなりモルガンの視界から姿を消していた。

(敵を囲むようにゆっくりと距離を詰めろ。攻撃をするのはできる限り近づいてからだ)

(うむ)

 魔力波を使用しながら二人は木々の間を移動する。二人は足音すら立てず常にモルガンの死角に入り込んでいた。

(······気配が感じ取れぬ····つまらぬ真似をするようになったな。災厄)

 モルガンは目を瞑り気配を感じ取ろうとしていた。しかし閻魁が妖力で空気を満たしていたため感知魔法が阻害されていたのだ。

(我の攻撃で牽制する。先までの戦闘で敵の行動はある程度理解できている。レイ、お主は隙を見て追撃を仕掛けろ)

 距離を確実に詰めていき二人は位置を調整していく。モルガンの前後を囲う位置へ移動した瞬間、二人は一瞬だけアイコンタクトを取った。

(我の大事な場所をこれほど傷つけおって。ここを壊していいのは我だけだぞ。怨みが溜まっておるわ····)

 モルガンの前にいた閻魁は木々から抜け出し姿を現す。同時に両手を合わせ高密度の魔力弾をつくり妖力で覆う。妖力を纏う魔力弾は超高速で回転し風を生み出す。

妖々慟哭ようようどうこく

「ッ———」

 閻魁が視界に入った時には既に魔力が放たれていた。回転による凄まじい加速で妖々慟哭はモルガンの顔面に迫る。

「速いな」

「はっ?」

 だがその攻撃は直撃することなく消え去った。あまりにも予想外な出来事に目の前で見ていた閻魁でさえ処理が追いつかなかった。確かなのは妖々慟哭が見えなくなったのではなく消え去ったということ。先程までの魔力と妖力は完全に消えていたのだ。

「上だ閻魁ッ——!」

 レイの声に反応し咄嗟に上を向く。
 目の前にいたはずのモルガンは頭上に位置し踵が振り下ろされていた。
 妖々慟哭を放った反動で身体が僅かに硬直し完全に間に合わない。

「———レイ!?」

「ほう?」

 ぶつかる直前、レイは閻魁を足場にし間に入り込んだ。そして踵落としを受け止めたレグルスへ強烈な重みが伝わる。受け止めてなお、威力は増加し重圧がのしかかった。

「レイ····重いぞ!」

「なっ——失礼だぞ足場の分際で」

「随分と余裕そうだな」

 モルガンの体勢は変わることなく背中から銃口が出現した。下にいた閻魁はすぐさま反応し地面を蹴り上げた。レイは反動とともに飛び上がり真下のモルガンへと矛先を向け落下する。空中で銃弾を避けながら間隙を縫うようにモルガンへ向かい肩に矛先が突き刺さった。

(——確かな感触)

「良い威力だ。だが油断したな」

 モルガンの肩にある装甲は確実に貫かれていた。しかし、モルガンは突き刺さったレグルスを掴みレイは空中に留められた。そして銃口はすぐさまレイに向けられ発射される。

「終わりだ」

 モルガンの放つ銃弾はあまりに小さく、そして音も無く発射される。
 だが威力は高く一撃くらえば致命傷の弾丸なのだ。

(······撃たれる)

 至近距離からの発射、レイの視界には確かに銃弾が放たれる瞬間が見えた。
 だが諦める要因など今のレイにはない。

(いいや····避けれる)

「なッ——」

 レイは空中で姿勢を変え眉間、手足そして胸元に撃たれた六つの銃弾をかわす。
 人間離れした反射神経にモルガンは驚愕、そして感心していた。

「レイ受け取れッ」

 閻魁はモルガンからレグルスを引き抜き、レイへと投げ渡す。
 そして二人は一度距離を取って並び立ちモルガンの様子を伺った。

「閻魁の強さは理解していたが予想を上回っている。それに女、お前も小国にいる兵の強さではないな。面白い、生半可な覚悟では足元を救われかねんな」

(······閻魁、一つ頼みごとがある)

(———?)

(こいつは私に任せてお前は誰かを助けに行け)

(な、何を言っているレイ。我がいなければ強打は避けられんぞ)

(周りの状況はお前の方が知っているだろ。今私達が二人で戦っている間にも無力な者は襲われている。だがお前がいればそのうちの一人でも助けられるかもしれない。ジンの命令を思い出せ、死者は出せない)

(ならばお前もであろうレイ。お主を死なせれば一生ジンに顔向けできぬ。仲間を死なせたくはない)

「何かを考えているようだが、状況は変わらんぞ」

 レイは閻魁をジッと見つめ小さく笑った。

(みんな死に物狂いで戦っている。全員、ジンのことを信じているから諦めずに自分の限界を超えて戦えている。きっと私達が信じている限りあの子は前に立って戦い続けてくれている。だからお前は私を信じてくれ。仲間だろ?)

「······うむ」

 閻魁はその言葉が誇らしく笑みを浮かべた。

「お主は此奴一人で十分だ」

「———何を」

 閻魁が向かったのはこの空間の出口。モルガンでさえ想定外の行動に驚愕していた。

「後でな」

 閻魁は振り返ることなく手を振った。レイを信頼しきっている閻魁にとって振り返る必要などなかったのだ。

「血迷ったか人間。なぜ死に急ぐ」

「そんなつもりは全くない。私は、私の恩人が····大好きな主が亡くなるまで死ぬつもりなどない」

(本当にありがとうジン····私を)

 レイは大きく息を吸い何かを思い出すように目を瞑るとまた笑みを浮かべた。



 ************************************



「はぁ····はぁ」

「どうしたレイ、その程度か」

「······クソっ」

 クレースとの訓練は初め、尋常ではないほどきつかった。内容が厳しい上に肉体的にも精神的にも自身の無力さを痛感させられる。覚悟を持って挑んだが正直耐えられる気はしなかった。幼い頃兄としていた特訓とは全くと言っていいほど次元が違う。

「····クレース、正直に教えてくれ。私には才能がないのか」

「私がこれまで真面目に武を教えたのはジンとお前だけだ。あの子と比べるべきではないが、まあお前にも十分素質はある」

「············」

「ジンのような天才がいるのは確かだ。だがあの子が努力しなかったわけがないだろ。あの子の今の強さ、その土台となっているのは全て努力だ。その努力に優しさや覚悟が被さりあれほど強くなった」

「······分かった」

 覚悟を持っているのは確かだ。死ぬまでジンを守るという覚悟を。だから死に物狂いで努力した。つまらないプライドは全て捨ててただ強くなるためにできる限りの努力をした。
 きっと兄の元で訓練をしていたときはこんな苦行耐えられるはずがなかった。それでも耐えられたのは。

「レイ、お腹空いてない?」

「あっ、ああ空いてる。とても空いている。ジンの料理が食べたいっ」

「えへへぇ、待っててね」

 特訓が終わった後は決まってジンのところへ行く。どれだけぐったりと疲れていてもこの子の顔を見れば不思議なくらいすぐに疲れが吹き飛んでいく。この子の前ではどうしても気が緩んでしまう。

「レイ、クレースとの特訓はどう?」

「····自分の弱さを思い知らされる、それでもジンがいるから毎日が幸せだ」

「この前さ、レイのお兄さんと話した時言ってたんだ。レイは一度心に決めたことは必ずやり遂げるって」

「あ、あいつがそんな······」

「お兄さんはきちんとレイのことを分かってたんだね」

「そう······なのかな」

「一つだけ聞いてもいいか」

「——? どうしたの?」

「ジンにとって私はどう見えている」

「私にとってのレイか」

「········」

「努力の天才」



 ************************************



「覚悟はできているな人間」

「ああ、もう大丈夫だ。あの子のためなら」

身体中から漲るような自信は全て一人の少女から貰ったもの。
今のレイは雑念一つない深い深い集中へと入っていた。

(本当にありがとうジン····私を信じてくれて)

「私はお前に勝てる」


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