ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第五十四話 レイの意思

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「動きが遅いぞッ—お前はのろまか剣帝か。はっきりしろ」

「口数増えてんだよ老体。喋ってないで動け!」

 モンドに到着していたラグナルクとベオウルフは凄まじい速度の連携で敵を薙ぎ払っていた。ベオウルフだけでなく天生体となったラグナルクも体力の限界など存在しない。お互い引き連れた部下達を置き去りにしただ戦いを楽しんでいたのだ。

「クシャシャシャ!! 流石ラグナルク様だ!」

「ハハハ! 僕たちの主の方がすごいんだけどね!」

「グラム様、ベオウルフ様のご命令通り私達は別行動をしましょう」

「真面目だねゼーラちゃん! だけどまずはここの領主様に挨拶をしないと! あの可愛い領主様はどこだい!」

「ジン様はお忙しいんだ。国に帰るか?」

「待ってハルト君······あの子と同じいい香りがする。クンクン····どこだ、どこなんだ! 近いぞ!」

 グラムは戦闘そっちのけで匂いの元を辿り進み始めた。ギルメスド王国から来たのはベオウルフに加え八雲朱傘が全員、それにラグナルクとその部下である。転移魔法でモンド内へ直接転移したものの全員中の異変にはすぐに気づいていた。そんな中平常運転のグラムを先頭にし八雲朱傘は別動隊として出陣、ギシャル達も別行動を始め合計三部隊が動き始めていた。

「あそこだ! ハルト君! あそこだよ! あそこ!」

 グラムは何かを見つけすぐさま走り出す。神の悪戯か、向かう先には本来の場所から移動したジンの家があったのだ。だが誰もそれがジンの家であることなど知らない。しかしグラムが家に近づいたその時だった。

「ッ———!?」

 グラムは何かに弾き飛ばされ背中から倒れ込んだ。
 すぐさま全員は警戒体制に入りハルトはグラムを後ろに投げ飛ばす。

「敵だっ——全員警戒しろ」

「みんな待っておくれ! 僕は無事さ!」

「どうでもいい。それよりも敵はどこだ。結界だけか?」

「これより先はジン様の御殿。ジン様の御友人であろうとも進めば処分しますよ」

 気配もなく姿を現したのはゼグトスだった。全員、ゼグトスの存在もその正体が祖龍であることも知っている。だがそれでも圧倒的な覇気と魔力に全員が気圧されていた。

「失礼しました。グラムは後で絞めておきます」

「私はゼーラと申します。私達も状況を詳しくは把握していないのですがここに居てもよろしいのですか? ジン様が見当たらないようですが····」

「私は遠隔で敵を殲滅していますので問題はありません。族の手によりこの偉大なる聖域が穢される方が問題ですので」

(······この人本当に祖龍? ジン様は大丈夫かしら)

「やあやあやあゼグトス君! それで領主様はどこだい!?」

「ジン様はただいまお取り込み中です。それと一つ言い忘れておりました。グラムさん、クレースさんの言いつけによりあなたは永久的にボーンネルへの立ち入りが禁止となっております」

「ええ!? どうしてだい!」

 ゼグトスはため息を吐きグラムに向かい手を向ける。

「······フフフ、あなたと話しているとどうも殺意が湧きます。今は戦争下ですのであなた達には兵力として働いて頂きます。私の気が変わる前に前線へとお連れしますので念の為構えておいてください」

「———?」

 状況が理解できないまま七人の足元には転移魔法陣が展開された。

「それでは御武運を」

「えっ、ちょ待った!」

 グラムの声は届くことなくゼグトスは一瞬で七人を転移させたのだった。

「やっと静かになりましたか·······おや? これはレイさんでしょうか。流石はジン様と同じ種族。成長速度も素晴らしいですね」

 肌に感じるひりつくような魔力と覇気。遠く離れた場所にいたレイの魔力はまるで鬼のようだった。この魔力が入り乱れる戦場の中でレイの力が目立って感じ取れたのだ。

「相手は誰でしょうか。少し興味がありますね」


 ************************************


 レイとモルガンの戦闘は始まりから激しさを極めていた。閻魁と二手に分かれ一対一の状況。新型の機人族であるモルガンと人族のレイ、個体差は圧倒的だったがモルガンに一切の余裕などなかった。

(この人間····時間を追うごとに素早く、打撃が重たくなっている。魔力量は変わっていないはず。意思も能力には目覚めていない)

 モルガンの背中からは四本の腕が出現し計六本の腕が剣を携えている。六刀流の斬撃に加え追い討ちをかけるように死角から放たれる銃撃。だがレイはその全てをいなしあまつさえ反撃を加えてくるのだ。

「何をした人間。まさか先程までは手を抜いていたとは言うまいな」

「······」

 余裕がないのはレイも同様である。尋常ではないほどの深い集中。雑念の一切が消えたレイの反射神経は常人の域を超えモルガンと互角に張り合えていたのだ。

(レイッ——呼吸をしろ!)

「ハァッ——」

 呼吸をも忘れ六つの剣を弾き返しレグルスによるサポートで互角の状況を維持していた。だがその状況を維持するのは容易ではなかった。

(このままでは身体が持たないぞレイ。一度距離を取れ)

(······分かっている)

 レグルスの言葉で反動とともに距離を取り走り出す。地面は硬い土で周りには建物の残骸が残っている。その影に身を潜め呼吸を整えた。

(この状況で戦いを続けても相手にダメージは与えられない。レイ、お前の体力が尽きるのが先だ。是が非でも俺の能力を発動させなければ勝てない。そこしか勝機は無い。今のお前なら俺の能力を引き出せるはずだ)

「隠れても無駄だ。お前が強いことは認めてやろう。だが人間止まりだ。体力の限界は目に見えている。だが戦いは放棄しない。お前の限界を見せろ、そして俺の予想を凌駕してみせろ」

 幸い、レイの魔力にはまだ余裕があった。できる限り魔力を温存しつつ魔法でレグルスと自身の体を強化する。

「ふぅ····」

 ゆっくりと深呼吸しレグルスを片手に持ち替えた。持ち手の先端部分を掴みリーチを最大にする。そしてモルガンの背後を取るように飛び出し、片手に持つレグルスで薙ぎ払った。

「なっ——」

 遠心力により威力は増しモルガンの持つ剣のうち背中の二本が弾き飛ぶ。
 持ち手を変えリーチを短くし畳みかける。

「ハァアアアアッ——!!!」

(コイツの成長速度はどうなっているッ——本当に人間か)

「だが····」

 モルガンは剣を失った二本の手に一瞬で銃を装備しレイの足元に打ち込んだ。

「ウ”ッ——」

 予想外の一撃に今のレイであろうと間に合わなかった。
 二発の銃弾の内一発は右の太ももに被弾し姿勢が崩れる。
 すかさず振り下ろされた二本の剣がレイの左腕は掠めた。

(レイッ! 一旦退いて回復だ!)

「グハぁアアッ」

 しかしのけぞったレイの脇腹にモルガンの拳が入り血を吐き吹き飛んだ。
 硬い地面に鈍い音を立て落ち激左腕に激しい痛みを感じる。

(骨が····いったか)

 左腕の骨は複雑に変形し使いものにならなくなっていた。
 右手は問題なく使える。しかし戦おうとする意思とは裏腹に目眩で視界がぼやけていた。

「はぁ······はぁ······はぁ」

 左手は諦めすかさず右足に応急処置を施したため移動に問題はない。だがレグルスを片手で扱うとなると体力的に限界が近くってしまうことは明らかだった。

「······」

(こんな時、ジンなら何を考えるだろう。こんな時クレースならどう戦うだろう)


『大前提として、意思のある武器にはそれが持つ固有の能力というものがある』

『まあ端的に言えば、能力は使用者本人の何かを達成させようとする強い意志が必要だ。それがなければ何も始まらない。技術的な面はその後だ。だからレイ、お前にとって強くなる理由はなんだ?』


 クレースの言葉がレイの頭の中に響いてきた。痛みはあるが思考は冷静にできる。驚くほどに落ち着いていた。

(そんなもの決まっている。あの子を守れるほどの強さが欲しい。クレースみたいな誰にも負けないような力が)

 レイはその場に無防備な体勢で立った。
 押せば倒れるような隙だらけの構え。
 モルガンは突然のレイの行動に違和感を感じるがレグルスは違った。

(行けるな、レイ)

(ああ、大丈夫だ。あいつが師匠でよかった)

「何を····している」

 モルガンの抱く違和感はさらに増しすぐさま警戒に入る。
 ボルと相対した時と同様、脳内で警告音が鳴り響き始めたのだ。

(まずい、コイツは早く仕留めなければならない)

 まるで太刀を持つかのようにレグルスを右手に持ち独特の構えをとる。
 レイが今まで幾度となく見てきた知りうる最強の流儀。

「———雷震流らいしんりゅう

 黒雷がレイを包み込み強く踏み込んだ地面には巨大なヒビが入る。

「——居合」
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