ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第五十三話 いいよ

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「フフ····フハハハっ——いくら強くても所詮は人間。大天使である私の前では無力なのよ!」

リューリアは目の前で血を流し倒れ込んだトキワを満足げに見下ろしていた。そして圧倒的な強敵に勝利した今、リューリアが最も見たいのは絶望するガルミューラの顔だった。

「······はぁ?」

だが視界に入れたその顔は想像していたものとは全く違った。
絶望するどころか笑っていたのだ。

「····何を笑っている。お前も今からこの男のように力なく死んでいくのよ。もしかしておかしくなっちゃった? 可哀想に、格好つけて登場したのに返り討ちにされて。恨むなら何も守れない、弱い弱い彼を恨みなさい」

リューリアはガルミューラに向け魔力弾を放つ。シーラは失ったがガルミューラが抵抗したところで倒すのに武器など必要なかった。ガルミューラは動く気配など全くなかったのだ。

「······え?」

その理由はすぐに明らかとなった。
直撃したはずの魔力弾はガルミューラをすり抜け突如現れた霧の中に消えていったのだ。
そして霧となり消えていったのはガルミューラも同様だった。

(どうなっている····男もいない)

いつの間にかトキワもガルミューラもいない空間、辺りを満たすのは濃い霧のみだった。

(何故····私の加護で両方とも幻惑状態になっていたはず)

(リューリアさん、どうしたの?)

(ッ——シーラ!? あなたどうして生きてるの)

(生きてる? 何の話? 敵はどうしたの?)

(だってあなたはさっき····)

シーラを納めリューリアは辺りの状況を確認する。トキワの作り出した炎楼は消え二人の姿は見えない。それどころか霧に包まれたこの空間では魔力を感じない。

(確かにあの男は殺したはず。どうなっている。それにシーラもなぜ生きている。私が幻を見せられている····何故。この私に幻を見せられるはずがない)

「どこに消えた!!」

「別に消えたわけじゃねえぜ」

「お前······」

誰の姿も見えない霧の中でトキワの声が聞こえてきた。

幻の波ミラボレア

再び幻の波ミラボレアを放ち辺りはリューリアの魔力で包まれる。だが当然、誰にもその攻撃が直撃することはない。

「どうなっている······何をしたッ!!」

「お前は俺たち二人に幻を見せてたつもりだろうが、本当に幻を見てたのはお前だぜ」

「ありえない!! 幻想の加護を持つ私が幻を見せられるはずが····」

(シーラ、力を使いなさいッ!)

「誰と喋ってんだ?」

「何?······」

シーラに語りかけても何故か返事がない。確かについ先程までシーラと会話ができていた。刀身は破壊されておらずシーラに目立った傷もない。

「まさかお前······シーラの幻を見せたのかッ!」

(どうなっている。この人間、私の心を読んでいるのか)

「フフフ、どんな魔法を使ったのかは知らないけど勝った気にならないで欲しいわね」

リューリアは膨大な魔力を徐々に広げ魔力によるテリトリーが生まれる。霧を消し去るようにリューリアの魔力は広がっていき徐々に視界が開けていった。

「おっ、やっと抜け出しか」

余裕そうに見つめるトキワに怪我をした痕跡は一切ない。その事実と煽るような態度にリューリアの怒りが込み上げ冷静さを失っていた。

「下界の民が!! 私のような高次の存在は死んでも魂は天界に帰りまた生を受ける! お前達二人は絶対に殺す! 地獄の果てまで追ってぐちゃぐちゃにしてやるッ——」

「言っただろ、お前の魂は天界に帰らねえ」

「調子に乗るなぁアアア!!」

正真正銘、リューリアの全力。加護の能力を使い切るほどの力を使いトキワに迫る。
光と同等の速度で動くリューリアは常人には視認することさえ叶わない。周りには凄まじい衝撃波が起こり轟音が響き渡った。

「なッ——」

だが再び、トキワの姿はリューリアの視界から消え去った。

(どういうこと、幻は完全に消し去ったはず。まだ幻も見せられている!?)

無限炎獄ムゲンエンゴク

ただ、その声だけが再び聞こえてきた。頭の中に響いてくるような声はリューリアに頭痛を引き起こす。何もない場所で腕を振り回し何かを振り払うように暴れ回った。

「あぁもう何なのよ!! 私に近づくな!! 消えろ!!」

見えない何かがリューリアの身体を蝕むように迫っていた。身体中に燃えるような痛みが駆け巡り誰かから掴まれ引っ張られるような感覚。既に魔法で結界を張るような余裕もなかった。

「もうお前はここから出れねえ、俺が死ぬまでな。無限とも思えるほど引き伸ばされた時間で死ぬこともできない」

「はぁはぁはぁ」

冷たい声にリューリアの心は恐怖に包まれる。これから永遠のように続くこの耐え難い痛み。憎しみの念が溢れ出すも既に身体は言うことをきかなかった。

「嫌だぁ! 助けて! 痛い! 苦しい! あぁアアアアア!!」

「お前がガルミューラに与えた苦しみだ。ガルミューラはお前に殺されそうな時他人の心配をしていた。こんな優しい奴を痛めつけやがって····死んでも死ぬんじゃねえぞ」

痛みは増すばかりだが意識は一向に途絶えない。リューリアは完全に正気を失い、ただ生き残ることだけを考えていた。思考だけが許される状況で一秒が何時間にも思えるほどの苦痛。

「待ってッ——助けッ······」

「ロスト」

ロストの発動によりリューリアの断末魔が聞こえ途切れるように声は消えた。
トキワの発動した無限炎獄はリューリアを閉じ込めると手のひらほどのサイズへ縮小し地面に音を立てて落ちたのだ。

「······終わったのか。トキワ」

「ああ、終わったぜ」

「········」

「········」

トキワとガルミューラの間には気まずい間が生まれた。トキワからのプロポーズがリューリアの見せた幻ではないことなど理解している。だからこそ、何も話せなかった。きっと今から話すことは今後の関係を大きく変化させる。二人ともこの事実を十分理解していたのだ。

(私は····ずっと気づいていた。お前と初めて出会った時から····私は)

「なあガルミューラ」

「待て、私が先だ」

「お、おう」

トキワを制止し大きく息を吸った。言わなければいけないことはもう決まっている。気持ちも固まっている。何の迷いもなければ後悔する未来も見えない。あと必要なのは勇気だけだった。

「私は初めから、お前に惚れている」

「·····なな、な」

初めて見る恥ずかしさで真っ赤になるトキワの顔。目に焼き付けるようにその顔を見つめゆっくりと手を繋いだ。気持ちを伝えるのに長い言葉はいらない。少し見上げる位置にあるトキワの顔に近づくと顔はさらに赤くなった。
その顔を見つめ、真っ直ぐ目を見つめる。

(私は幸せ者だ。可愛い妹がいて主にも恵まれてそしてこいつにも出会えた。これ以上、幸せになってもいいのか私には分からない。だけどこの言葉だけは言わないと)

「いいよ。結婚しよう」

小さく呟き、軽く優しく唇に触れた。

「······」

「······」

幸せが溢れ暖かさが伝わり合う。
——その時だった。

「あっ、お姉ちゃん!!」

「わっ、あっ、ミミ、ミル!」

ミルの声とともに後ろから治療を終えたヒュード族達が近寄ってきた。

「お、おいミルやっぱり来ちゃまずかったって! 俺この後殺される!」

「なぜ殺されるのですか? 敵はもういないようですが」

「ば、馬鹿お前! だって今····」

「ミル····正直に言うんだ。何か見ていたか?」

ガルミューラは突き放すようにしてトキワから離れミルに抱きついた。

「え? どうかしたのお姉ちゃん? とっても嬉しそうだけど」

「あ、え、うん。何も見てないんだな」

「うん! 私に姪っ子ができるんだよね!!」

(バレてる!)

「いいじゃねえかよ、隠すことなんてねえだろ」

「そう····かな。その、戦いが終わったらお前のお父さんとジン様に報告しないとな」

「だな。親父にも····必ずジンにもだ」
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