ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第五十八話 変える未来

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 結界マニアのマニアです。外では皆さん戦っていますが私は地下にある研究室に引きこもっています。サボリ? いいえ、サボりではありません。ゼグトスさんに頼まれて神級の結界魔法を使うため勉強をしています。神級魔法は魔法の区分で言えば最上位に属していて本でなら読んだことはありますが実際に見たことはありません。ですが神級の結界魔法は本でも読んだことがありません。なので自分で魔法を作るしかないです。

「マニアさん。こちらのスペースもお借りしてもよいですか」

「えっ、あっ、はい」

 マニアが気づかないうちに研究室にはギルバルトが入室していた。

「失礼ですが、マニアさんはどうしてこちらへ?」

「け、結界魔法の作成をしていまして。ぎぎ、ギルバルトさんは?」

「先程自信作の機械兵を出動させたので遠隔で制御を。それにしても魔法の作成······微力ですがお手伝いしましょうか? 機械兵の運用は並行してできますので」

「で、でしたらお言葉に甘えて」

(この人····同じ研究者なのにコミュ力高い)

「随分と複雑なもの····この部分の設計途中ですか?」

「えっ、ええ」

 マニアの机に置かれていたのは数百枚もの結界が描かれた設計図。試行錯誤の末何とか形にはなっていたがそれからは進まないでいた。しかしそれには確かな理由があったのだ。

「ギルバルトさん。少しお聞きしてもいいですか」

「もちろん、構いません」

「その····もし、心の底から恨んでいる人がいればギルバルトさんはその人のために頑張れますか」

「心の底から恨んでいる····幸い今の私にはいませんが程度にもよりますね。何かありましたか?」

「······少し前に避難誘導を手伝いに他国へ行ったのですが····えっと、両親に会いまして」

「ご両親にですか。何かお話を?」

「いいえ。向こうは私に気づいてもいませんでした。小さい頃に家を出て行ったきりなので。正直私もきちんと顔を見るまでは気づきませんでした。両親は私をいないものとして扱っていたので当たり前なのですが」

「そう····でしたか。では両親を恨んでいるということですか」

「····はい。あの人達は幸せそうに生きていたんです。どうやら私と入れ替わる形で迎えた養子の子のおかげで今はとても幸せそうらしく。私には平気で暴力をし暴言を吐いていたあの人達が何の償いも受けずに暮らしている。心の中では放っておこうと思っていても許せない自分がいるんです。私やっぱり、性格悪いですよね」

「いいえ思いません。きっとジン様も、そして私も気持ちを理解できます」

「この結界もあの人達を守るためのもの。そう思うと身体が動かなくて····」

「両親との関係を知らず失礼なことを聞いてしまいました」

「いいえ、モヤモヤしていたので全く」

「でもその環境から抜け出そうと行動できたのは素晴らしいことですよ」

「······抜け出せたのは私の力ではないんです。幼い頃の記憶で少し曖昧なのですが、私は名前も知らない幽霊さんに助けてもらいました」

「幽霊?」

「はい。顔も名前も知らない幽霊さんです。あれ以来一度も会ったことがありませんがあの幽霊さんには返し切れないほどの恩があります」

「そうですか······確かに両親を恨んでいることはわかります。私が上から言うのはなんですが、その幽霊はマニアさんに何かを期待していたのではないですか」

「期待····ですか」

「はい。例えば助けられた時に何か言われませんでしたか?」

「····今度会うまでに幸せになっていてと言われました」

「幸せに····難しいものですね。もしこの結界を作り不幸になるというのでしてたら私は止めません。ですが結界は仲間の命を守るもの。それにより助かる命はマニアさんの幸せに繋がるのではないでしょうか」

「幸せに繋がる」

「ええ。もし駄目ならば機械兵を使い両親を懲らしめましょう。私も手伝います」

「······フフフ、何だか気持ちがすっきりしました」

 いつの間にかマニアは気持ちを切り替え机へと向かっていた。こうして二人は神級の結界魔法作成に取り掛かる。ギルバルトのかけた言葉がこの先の未来に影響することは誰も知る由がない。


***********************************


 女神ファイザ対ゼフの戦いは勝敗のつかないまま中断されていた。ジンと対峙していたアウロラが二人の戦いを止めたのだ。

「何故止めるのですか。アウロラ」

「私達が戦う理由はもうないのです。これ以上の争いは無駄になります」

「それは一体······」

「勿論、目的が達成されたからです。エメスティアの呪いを受け継ぐ者が現れた。理由はこれで十分でしょう」

「何ですって? それは本当なのですか」

「ええ、これでもう戦う理由はありません。エメスティアは苦しみから解放され死ぬこともない」

「······受け継ぐ者というのは一体誰なのですか」

「この国を治める王です」

「ッ—————今何と言った」

 ゼフは反射的に反応しアウロラの前に立った。

(やめてくれ。頼むそれだけは)

「道具の王よ。あなたには関係のないことです。私とアウロラの二人でこの戦争はすぐに····」

「わしは何と言ったか聞いておるんじゃッ——」

「······あなたがわざわざユーズファルドではなくこの地に住む理由を考えればファイザの言葉は不適切でした。私が言った人物はあなたの想像する少女で間違えありません」

「··········」

 ゼフの予想は的中し一気に血の気が引いていた。あくまでも冷静に、感情を抑えながらゆっくりとその意味を理解したのだ。

「誰がそれを許したのかは····聞くまでもないか。何故あの子なんじゃ。呪いは天使と悪魔どもの戦争で生まれた副産物だろう。何故あの子が全てを負わねばならん」

「現時点での呪いの強さを考えれば普通の人間では数時間も持たないでしょう。おそらく呪いはすぐに他の者へと移っていく。だが彼女は違う。前世でも同じ呪いにかかり死を迎えたため呪いに対する免疫がある。そのため呪いは彼女をゆっくりと蝕み消えた後次の周期まで現われることはなくなる。彼女は必要な犠牲なのです」

「前世も····か。······———ふざけるなッ!!」

 ゼフの怒りを孕んだ拳は誰に当たるでもなくただ壁に打ち付けられた。この怒りを目の前の二人に発散しても意味がない。行き場のない怒りがゼフの身体中を埋め尽くしていた。

(なあジンや。お前の言うことなら全て受け入れてきた。だけど一回だけ、この一回だけでいいんじゃ。今回だけはわしの言うことを聞いてくれんかのう)

 ゼフは小さく微笑み諦めたように膝から崩れ落ちた。

「あの子を止めても、無理なんじゃろうな······わしの大事な孫は心配になるほど優しいんじゃ。困っておるものが居れば命など容易く差し出すほどにのう」

「······呪いを宿す女神、エメスティアは危篤状態にありました。ですが近頃一人で歩けるほどまでに回復しているのです。理由は分かりませんが、呪いは既にエメスティアから彼女へと移りはじめている」

「そうか。じゃがわしらはまだ諦めておらん」

「ッ———何を言っているのです。私は未来を見て確かに彼女の死を確認した。私の見た未来が変わることなどあり得ません」

「ならば作ればいい、あの子が生き残るような未来を。たとえ世界に否定されようとこの国におるもの達はそんな未来が来ることを信じておる」

「······そうですか。あなたが言うのであれば無理とは言い切れませんね。分かりました。我ら天界の民はその未来を作ることに協力しましょう」
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