ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第六十七話 解呪の協力者

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 粛清の終わり、そしてジンの目覚めを祝して行われた宴から一週間が経った。被害地域の復興作業は全て完了しボーンネルの国民は元の生活を取り戻した一方、国全体の雰囲気は日を追うごとに重くなっていた。

「もう一週間だッ——この一週間で目を覚ましたのはたった四分間だけで····まともに食事も取れていないんだぞ····」

 ジンの眠る寝室、その隣の部屋にクレースの声が響いた。
 視線の先にいたルランは痩せこけた顔を見せつつクレースに答えた。

「····分かっている。呪いを取り除けられなければ何もできない。準備は出来た」

「ジンのことを皆んな心配してイル。一度皆んなに元気な顔を見せることも必要ダ。あの子が笑顔になれる場所を作るためにも今の国全体の雰囲気はよくナイ」

「暫くはイミタルに任せようぜ。ジンの容姿をコピーした状態で街中で歩かせる。誰とも話さないようにすればバレはしないはずだ」

 ジンの暮らす部屋には重たい空気が漂う。その小さな部屋には入浴も食事も終えた者達がデュランによって集められていた。

「ジンの体力的に考えてもすぐに始めるべきだ。初めの段階では呪いの効果を弱めるだけだが起きられる時間が長くなるかもしれない」

「かもしれないというのは、どういうことじゃ?」

「ジンがこれほど寝たきりなのは最期の一ヶ月だけだった。時期が早過ぎる。詳しくは分からないが、呪いの力が増しているのは確かだ」

「ルランさん、いいえデュランさん。確証はあるのでしょうか。たとえあなたであろうと前例のないことを行い失敗でもすればその時は····」

「落ち着きなさいゼグトス。不安なのはデュランさんも同じよ」

 デュランの存在、そしてもう一方の世界で起こった出来事はゼグトス達祖龍に加えて各種族の代表者など限られた者のみに知らされた。その後早急に話し合いが始まり今に至るのだ。

「ネフティスと行った呪いの研究のおかげである程度の対応策は見つかった。呪いの力を弱められれば他の方法も使える」

「ネフティスは今ドコ?」

「家の前にいる。どうも人が嫌いみたいだからな」

(ネフティス、そろそろ頼む)

 デュランが魔力波でそう伝えるとドアが開きネフティスとメイルが入ってきた。ネフティスはデュランを一瞥しメイルは全員に一礼すると二人はジンのいる寝室に入っていった。続いて部屋にいた者達はジンの寝室に向かいすぐさま人が密集した。

「はぁ····これほどの人数は必要ないじゃろう。集中できん。最低限にせい」

「クレース、デュラン頼ムヨ。ボク達は外に出ておくカラ」

「······」

「僕達も出て行くぞゼグトス。ジンのためにできることはそれしかない」

 ゼステナの言葉に押され気が乗らない様子だったゼグトスも渋々外に出ていった。

「すまないなネフティス。始めてくれ」

「ウム」

 そしてネフティスは詠唱を始め魔法を発動させた。魔法陣に描かれた文字が浮かび上がり螺旋状の形を形成しながら眠るジンの中へと吸収されていく。クレースは不安そうにその様子を見つめていた。浮かび上がる文字は無際限に身体へと吸収されていく。暫くするとネフティスの詠唱は止まったが文字の出現と吸収はその後も続いていった。

「これは······治癒魔法の一種か?」

「治癒魔法とは違うものだ。今吸収されている文字はデュランが作り出した特殊文字。この呪いも然り、全ての呪いは数え切れぬほどの特殊な文字で構成されておる。じゃが通常、その特殊文字は別の特殊文字で相殺することができる。故に呪いを解く一般的な方法は構成する文字の全てを相殺するというものじゃ」

「それなら····時間はかかるが全て相殺できればジンの呪いは消えるのかッ」

 前のめりになって聞くクレースに対しネフティスは首を横に振った。

「それならばこの呪いはとっくに消えておる。この呪いが厄介な理由は二点ある。一つ目は自己再生能力を持っているということじゃ。相殺した特殊文字の数だけ新たな文字が生み出される故、全てを相殺し切ることは不可能に近い。二点目はこの呪いを構成する特殊文字の一つ一つが複雑すぎるということじゃ。当然、複雑であればあるほど相殺する速度は長くなる」

「ならどうすればいいんだ」

「再生速度を上回る速度で文字を消す。じゃが消せるのは一億文字に一文字といったところだ。その方法で文字を消した場合は再生できないようわしが手を打つ。十文字ほどでも消すことができれば容体は安定する。百文字ほど消せれば他の方法も取れるだろう」

「百文字消すのにはどれくらいの時間がかかるんだ」

「分からぬがその間に目覚めたとしても問題はない。わしは眠る必要がない故、これから暫くはこの部屋で過ごす。それと、お主ら三人も外に出ておれ。集中せなばならん、魔力供給が安定すればまた入ってこればいい。それにこの子どもと狼も連れて行け」

 そう言われクレースはパールとガルを抱きかかえネフティスの方に向き直した。

「どうして人間嫌いのお前がジンを助けてくれる」

「助ける助けないに理由をつけることは無駄な行為だ」

「······感謝する」

 そして部屋にはネフティスとジンの二人のみとなった。ネフティスは椅子に座り呪いの相殺と同時並行して特殊文字の解析を始める。膨大な特殊文字から僅かな手がかりや文字の特徴を見つけ呪いの全貌を明らかにすることが目的である。

(特殊文字を相殺する特殊文字、これを一から考え僅かなズレなく書き記していく。一文字も間違えられない緊張感に加え、気の遠くなるような量と複雑さに耐え、半分以上のパターンを間違いなく作り出した·····か)

「フン······これが父親か」

 ネフティスの集中力は時間を追うごとに研ぎ澄まされ、特殊文字の相殺と解析を開始してからおよそ一時間後にようやく一息をついた。

(文字のストックの大半を使用し、ようやく七文字か)

 文字の消去はネフティスであろうと至難の業であった。デュランが数十年の歳月を費やし作り出した数え切れない程の特殊文字を使用し、ようやく七文字。ストックが無ければ解析した情報を元に新たな文字を作り出すほか道はない。その事実がネフティスの心に確かな焦りをもたらしていた。

「······間に合わん」

 ため息の代わりに出たその言葉はネフティスの本音だった。呪いの複雑さはネフティスの予想を遥かに上回り、解析だけでも更なる日数が必要だった。その事実を呼び戻したクレース達に伝え、ネフティスは一度休憩に入った。

「デュラン、来客がいるんだが何か聞いてるか?」

「来客?」

 部屋を訪れたトキワの隣にはラグナルクの姿があった。武器は携えておらず敵意は感じられない。ラグナルクとジンの距離を離すため、一行は一度外に出た。冷静さを欠いていたクレースは警戒しラグナルクの首元に剣先を突きつける。

「何のようだ。お前は信用ならない。ここから先には入るな」

「こちらに敵対の意思はない。信用しろと言うつもりは無いが、ジンを助けるために手を貸すつもりだ」

「そんな言葉····」

「待てクレース」

 クレースが追い返そうとした時、ラグナルクは分厚い本を取り出し隣にいたネフティスに見せた。ネフティスはその本を受け取り中身を見た瞬間、驚愕する。それはデュランも同様である。

「おぬし、この書物をどこで手に入れた」

「手に入れたのではない。私が一から作り出したものだ」

「ネフティス、本当に大丈夫なのか。こいつは信用ならない」

「少なくとも呪いが悪化することはない。ひとまずはこの書物を使用し効果を確かめるべきじゃろうな」

 ネフティスはクレースを宥めつつ書物の中身を確認する。そして何かを確信しラグナルクは警戒されながらもジンの寝室へと入っていった。
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