219 / 240
英雄奪還編 後編
七章 第六十八話 見れない未来
しおりを挟む「最強種と呼ばれていた機人族は王の没落によって廃れていくだろう。これからは我ら魔族の時代だ」
「しかし女神エメスティアが完全なる復活を果たしたのだぞ。加えて先日受けた襲撃による魔界の被害も大きい。報告によれば被害は大戦争に匹敵するほどの甚大さ。敵の正体は明らかになっていないが機人族と同等の警戒をしなければならない」
場所は魔界の最深部に位置する魔王城。そこでは魔族の上位種により話し合いが行われていた。広い空間に玉座が一つのみ。威風堂々たる様子で玉座に鎮座する魔界の王は静かにその会話を聞いていた。
「現状は理解した」
魔王の一声でその場の声はピタリと止んだ。
魔王の名はルシフェル・カーンという。
「先日の襲撃によりオリバが連れ去られた。敵の狙いは解呪だ。加えて報告では呪帝の協力の元、呪いの解読に取り掛かっているようだ。しかし解呪させずこの先も呪いを蔓延させることこそが最優先事項だ」
「では魔王様、解呪に加担する者たちを全て消すというのは如何でしょう。襲撃により多くの死者が出ましたが上位種の魔族は健在であります」
「いいや、その必要はない。現在、呪いを宿しているという人間一人を殺せばよい。名前はなんだったか」
「ジンでございます」
「そう、ジンだ。その人間は前世の影響により呪いへの耐性を所持している。かような存在は実に稀有なものだ。現状の呪いの強さを考えれば、其奴の死後呪いは地上に蔓延し一瞬にして生物を絶滅させるだろう」
「フッフッフ、我ら魔族に呪いは効きませぬ。故に我ら魔族がこの世界を全て支配する。ここまで計算されておられたのですね。流石魔王様でございます」
「だが面倒だ。其奴がガキの頃、魔帝を操り殺害するよう命令したが失敗したのだったな。よもやグレイナルが殺されるとは少し計算外だった。我が直接手を下すとしよう。女神を滅ぼすのはその後だ」
こうして魔界では秘密裏の内に計画が立てられていた。ネフティスの存在を考えれば計画の実行が早いに越したことはない、それが多くの者にとっての意見であった。しかしルシフェルは冷静であった。敵の動向、規模、戦力、あらゆる情報を集め作戦を立てたのだ。
***********************************
ラグナルクが呪いに関する書物を持ち込み一週間。呪いに含まれた特殊文字の消去は進み、二十文字の消去が完了した。そしてその日、ジンは以前のように朝から目を覚ました。ネフティスは一度国に帰ったため寝室にはパールとガルのみ。隣の部屋には疲れの溜まったクレースとデュランが浅い眠りについていた。
「······よく寝た。また何日か眠ってたかな」
目を擦り辺りの様子を見渡すが特に変わった様子はない。挙げるとすればいつの間にか寝巻きが新しいものに変わっていることだった。以前目覚めた間に感じていた身体の怠さは和らぎ気持ちの良い朝に感じた。時間を確認するとまだ日の出前の時刻。ガルとパールは深い眠りについたまま目覚める様子はなかった。
(ジン、よかった。起きたんだね)
(あっ、おはようロード)
(辛くはない?)
(全然大丈夫。どれくらい眠ってた?)
(もう一週間も目覚めてなかったんだ。みんな喜ぶよ)
(そっか。まずはお母さんのお墓に行くよ。まだ早いからみんなは後で起こすね。一緒に来てくれる?)
(うん。寒いから服装には気をつけて)
ジンは厚着した後ロードを抱え外に出た。魔力を一切持たないためその行動に気づくものは誰一人いない。連日の降雪により外では真っ白な雪が地面を覆っていた。
(ジン、帰ったらまずはご飯を食べよう。ネフティス達のおかげでしばらくは元のように普通の生活が送れるはずだ)
(そうだったんだ。あとでお礼言わないと。それにみんなと話せてないからみんなとご飯食べたいな)
家を後にし僅かな時間歩いただけでジンの身体は酷く消耗していた。全身へ思うように力が入らず、墓に向かうまで何度もつまづいた。ロードの心配を笑顔で誤魔化していたが墓についた時には倒れ込むようにして両手を地面についた。しばらく経った後、立ち上がり墓の雪を払う。手が悴み身体は震えるが優しい笑顔でルシアの墓を見つけ続けた。
「ジン?」
暫くすると後ろから掠れた声が聞こえた。振り返るとトキワが一人で立ち尽くしていた。
「ジンッ!!」
目が合うとトキワはすぐさま駆け寄った。そして何も言わず冷気に触れ冷たくなった身体をすぐさま魔法で温め始めた。
「よかったッ·····起きたんだな。もう寒くないか?」
「うん、ありがとう。こんなに朝早くどうしたの?」
「最近ブレンドが修行を終えた後そのまま俺の家で寝てるだろ? でもよ、さっきいきなりジンの家で寝たいって言い始めてよ。仕方ねえから連れてきたんだ。まあ寝ちまったけど」
そう言うとトキワは上着の内ポケットで眠るブレンドを見せた。
「······それで、調子はどうだ?」
「見ての通り絶好調だよ。そっちは?」
「元気だ。ジンと話せて今はもっと元気になったぜ····そうだジン。一つ報告したいことがあってな」
「報告?」
トキワは珍しく、どこか緊張しているようだった。分かりやすくごクリと唾を呑み込みゆっくりと息を吐くとトキワは覚悟を決めたようにこちらを見つめた。
「俺、ガルミューラと結婚することになった」
「·······」
トキワの言葉を聞いた瞬間、ジンの身体は固まった。意味を理解するのに数秒用し、瞳が大きく開いた。それと共に口角が上がり嬉々とした表情でトキワの腕を強く掴んだ。
「本当!?」
「ああ、本当だ」
「結婚式はいつするの? たくさんお祝いしないと! 嬉しいなぁ」
「するなら····ジンの誕生日よりも少し前だな。それでよ、いつか子どもができた時、ジンに名前をつけて欲しいんだ」
「私でいいの?」
「ああ、もちろんだ。だから····元気でいてくれよ」
言い終えた直後、トキワは耳を抑え顔をしかめた。
「クレースが探してるぜ。すごい勢いで魔力波が来た。おいで」
トキワはジンを背負い家に向かってゆっくりと歩き出した。
「トキワはきっといいお父さんになるね」
「な、なんだよいきなり」
「だってトキワのお父さんいい人だったもん。トキワのことが好きなんだなぁって思ったよ」
「······そうか。俺もいい父親になるからよ、ずっと近くで見ててくれ」
「うん」
家までの僅かな道のり。トキワは一歩一歩踏み締めて歩いた。
(もしこの道がずっと続けば、もしこの時間が永遠に続いていれば)
一歩進むごとにその願いは大きくなっていった。そしていつしか父親のいる実家へ帰った時のように一歩一歩を重たく感じていた。黙ったまま足を前へ動かし、叶うはずもないその願いを忘れようとしていた。
(俺は····)
家までの距離が短くなるにつれトキワは形容し難い焦燥感に襲われていた。
だがそんな焦燥感を一切表情に出すことなく、トキワは前へと歩いていった。
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発
ハーフのクロエ
ファンタジー
アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。
ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主
雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。
荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。
十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、
ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。
ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、
領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。
魔物被害、経済不安、流通の断絶──
没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。
新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。
「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」
まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。
目が覚めたら、婚約破棄されていた。
理由は「地味で面白みがない」から。
泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。
最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。
でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。
厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。
そして就任スピーチで宣言した。
「500人全員の名前を、覚えます」
冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。
悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。
元婚約者は——後悔し始めていた。
婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。
なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。
異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎
アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』
見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装…
俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。
突然の事で戸惑うクラスメート達…
だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。
「またか…」
王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。
そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。
そして俺はというと…?
『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』
「それよりも不知火君は何を得たんだ?」
イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。
俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。
その場にいた者達は、俺の加護を見ると…
「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。
『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』
王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。
まぁ、その方が気楽で良い。
そして正義は、リーダーとして皆に言った。
「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」
正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。
「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」
「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」
「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」
「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」
「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」
「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」
「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」
俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。
「その…鎧と剣は?」
「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」
「今迄って…今回が2回目では無いのか?」
「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」
俺はうんざりしながら答えた。
そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。
いずれの世界も救って来た。
そして今度の世界は…?
6月22日
HOTランキングで6位になりました!
6月23日
HOTランキングで4位になりました!
昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°.
6月24日
HOTランキングで2位になりました!
皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m
攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】
水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】
【一次選考通過作品】
---
とある剣と魔法の世界で、
ある男女の間に赤ん坊が生まれた。
名をアスフィ・シーネット。
才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。
だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。
攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。
彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。
---------
もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります!
#ヒラ俺
この度ついに完結しました。
1年以上書き続けた作品です。
途中迷走してました……。
今までありがとうございました!
---
追記:2025/09/20
再編、あるいは続編を書くか迷ってます。
もし気になる方は、
コメント頂けるとするかもしれないです。
バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します
namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。
マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。
その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。
「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。
しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。
「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」
公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。
前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。
これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる