ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第七十一話 魔族の襲来

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 ギルメスド王国陥落の四時間前。
 剣帝ベオウルフの元には騎士団が集まっていた。
 集まったのは八雲朱傘に加え、高位の騎士が数百人。

「今から四時間後、この国は魔族の野郎に滅ぼされる」

 ベオウルフの言葉に一同はざわついた。
 突然の宣言、しかしベオウルフは淡々と続けた。

「まともに戦ったとしても被害は図り知れない。そこで、国は捨てる」

「ッ———国を見放すとはどういうことですか!」

「説明を!」

 多くの騎士から戸惑いの声が飛ぶ中、八雲朱傘の七人は黙ったまま立っていた。

「建て直した直後だが建物は奴らを誘き寄せる罠だ。重要なのは建物ではなく人命。国中には魔法で作った人形を用意し奴等を騙す。国民は全員、西に位置するロングダルトに避難だ。これ以上詳しい話をする暇はねえ。行動に移れ」

 王国騎士団の指示の元、全国民は数時間のうちに西の隣国ロングダルトへと移動する。ギルメスド国はまさにもぬけのから。魔法により作り出された人形があたかも本物の人間のように生活をする。

 そうして四時間後、魔族の侵攻が始まりギルメスド王国は破壊されたのだった。


————ロングダルト国

「今頃建物は全壊だろうな。まあ仕方ねえが」

「ハハハ! またすぐに建て直せばいいよ!!」

 国は破壊されたが、当然全員無事であった。無人の地であるロングダルトにはベオウルフが事前に住居地域を設置していたため国民はなれない状況でも落ち着いていた。

「ベオウルフ様、敵はこれからロングダルトへ来るのでしょうか。それならば今すぐにでも迎撃の準備を···」

「まあ待てゼーラ。国には俺のダミーも置いておいてきた。戦闘はできないが、魔族に対しても魔力波を飛ばせる。敵は魔力波の存在を知らねえから混乱して暫くは時間を稼げるはずだ。そしてバレた後はここで迎え撃つ。そのための戦力は十分にあるぜ。なあ?」

 ベオウルフがそう言うと、隣には転移魔法陣と共に三人の人物が現れた。「帝王様!?」

 現れたのは巨帝、緋帝、龍帝の三人。続く後ろにはその配下が続々と出現していった。

「ん? シリスとゲルオードはどこだ? ネフティスはボーンネルだと聞いたが」

「二人もジンちゃんのとこだぜ。ラウムも一緒に行っちまった」

 ニルギスは呆れた顔でそう答えた。

「私もジンと話したいんだけどな、中々予約が取れない」

「ハッハッハ!! ジンはもう帝王でも会えぬ存在なのか」

「まあ仕方ねえ。ラグナルク、敵の状況は分かるか」

「·······分断している。一方はこちらに、もう一方は······南西、ボーンネルの方向だ」

「狙いはやっぱそっちもか。向こうには伝えておく。戦力が心配なのはむしろこっちだ。ロングダルトを敵の好きにさせれば大陸が危ない。何としても死守だ」

「だが視界が悪いな。もう夜だ。魔族にとっては好条件だがこちらにとっては不利になる。私の空挺部隊がうまく活かせない」

「同感だ。巨人族は目が良くない。せめて月明かりは欲しいな」

「それならグラム、派手に頼むぜ」

「任せてッ——!! 流星群スター・フォール!!」

 グラムの詠唱と共に雲は切り開かれる。
 現れた巨大な隕石は月明かりを背にロングダルトの上空に出現した。
 隕石は暴風を生み出しながら空を覆っていた雲を消し去っていった。

「おぉ!! 中々やるな!! これで視界が開けた! 行くぞ!!」

 ロングダルトに向かう魔族の大群。
 その大半が空を見上げ絶句していた。
 一方でロングダルトからは士気に満ち溢れた帝王軍が迎撃へと向かっていったのだった。


***********************************


 ————ボーンネル

 二手に分かれた魔族のうちボーンネルへ進軍していた魔族の数はおよそ七万。質の高い魔族により構成されたその大群は一国を滅ぼすのに十分すぎるほどの戦力。大群の目的は二つ、誘拐されたオリバの救出と呪いを宿したジンの殺害である。

 七万の兵を率いるのは四人いる魔王の側近のうち二人の大魔族。名をラビリスとラムバーンと言う。

「戦力過多な気もするけれど、オリバ様が誘拐されたなら仕方ないのかしら」

「油断は要らぬ。相手には単騎で魔界に乗り込み生きて帰るほどの実力者がいるのだ」

「けれども、迎撃のつもりで飛び出してきたこの機械達はただの雑魚よ。下級魔族にはある程度通用するかもしれないけど無意味な抵抗ね」

 ボーンネルから迎撃に出た機械兵の一隊は既に二人の手により破壊されていた。しかし魔族が休む間もなくクシャルド率いる骸の軍団スカルドアーミーが迎撃へと向かっていた。

「骸族が数万。奥にいる三体以外は大したことないわ」

 ラビリスはその場から動かないまま広範囲の攻撃魔法を準備した。ラビリスの背後に現れた無数の魔法陣は敵を撃ち抜き背後にある建物にまで影響を与える程の範囲。しかしクシャルドは焦る様子もなく進軍を続けていた。

「待てラビリス。反射結界が張られた。自滅するぞ」

「はぁ? 今の一瞬で構築できるはずがない······」

(いや、結界が出現した。私の魔法構築よりも早く、一体誰が)

「元より敵の力を甘く見ていたわけではないが、ここで足止めを食らう訳にはいかない。私の"意思"を使用する」

 ラムバーンは小さな杖を取り出しボーンネルの中心を指した。すると杖の先端は液体のように溶け出し地面へと落下する。落下した黒い液体はまるで生き物のように凄まじい速度でラムバーンの指した方向へ動き出した。

「敵の戦力が想像以上であろうと目的は至極単純。魔法も使えぬ人間の殺害とオリバ様の救出だ。前者が成功すれば戦力など関係ない。呪いにより即座に我らの勝利が確定する」

「まあ····そうねぇ」

 ラビリスは移動する黒い液体を見つめながら不気味に笑った。
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