ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
225 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第七十四話 複製体の出現

しおりを挟む
 ボーンネルに出現した複製体は一瞬にして国中に広がり混乱を引き起こしていた。いち早く動き出したゼグトスとクリュスにより確認された複製体は既に五千人を超え被害を出し始める。そしてマニアの複製体が消滅し、暫くするとクリュスの魔力波が国民全員に伝わった。

(こちらクリュス。現在敵の手により我々の複製体が出現中。実力はオリジナルの五割から六割程度。複製体の見分け方は未だ不明です。そのため、今ここで合言葉を設定します。合言葉は———)

 クリュスの魔力波が伝わった直後、慌てた様子のガルミューラから魔力波が伝わる。

(報告ッ———ボルの複製体により街中の機械兵及びエルダン率いる剛人族が全滅! ヒュード族だけでは足りない!! 至急応援を頼む!!)

(こちらラルカ。龍化した龍人族が百体以上出現、被害は甚大です! 至急応援を!)

(ゴメン。ボクの複製体はボクがタオス)

(フハハハハ! 龍が相手ならば我が相手だな! この我に任せろ!!)

(こちらゼグトス。何者かの手によりモンドへの道が封鎖中、中にいる住人の安否は不明。これにより外の住人は一時私の結界領域に避難を)

 混乱が広がる中、レイはモンド内に閉じ込められていた。出入り口に加え内外へ通じる転移魔法陣が全て機能しなくなっていたことに気づいたレイは住民を安全な最深部へ避難させた後、ある部屋へと入っていった。木々が広がるその部屋は高濃度の魔力に満たされ常人であれば数分も居続けることができない。そんな空間に向かいレイは呼び掛けた。

「みんな! 手を貸してくれ!!」

「··········」

 レイが呼び掛けた数秒後、地面は揺れ動き森の中から巨大な魔物達が出現する。モンドに発生した魔物達の強さは野生の魔物達とは比にならない。Sランクの魔物で溢れ返るこの空間にレイは慣れていた。しかし、後方からゆっくりと近づいた存在にレイの息が詰まる。

「····お前は?」

 レイの問いに応えるようにして巨大な魔物はその身体を収縮させた。

「私は気高きジン様に仕える存在。ジン様からグリンという名を頂きました。どうやら急を要する事態のようですね」

(この魔物······Sランクか? いや、私では到底勝てる相手じゃない。まさか····)

「ご安心を、ジン様のお仲間を傷つけるつもりはありません」

 グリンはまるでレイの心を読んだかのようにそう答えゆっくりと歩き始めた。

「ジン様の命に関わる事態。どれだけ強大な力を持ったとしてもあの方を守り切れなければ無意味」

「····待て」

 その険しい表情に何かを感じ取りレイは反射的にグリンを引き留めた。

「お前には何が見えている」

 レイは無意識にそう問いかけていた。グリンは微笑みレイを見る。

「変わることのないこれからの全てを。しかし、変えなければなりません。私は生まれて初めての感情に突き動かされ、今動いています」

 グリンは言い終えると魔物を引き連れ部屋を後にする。レイは言葉の意味をゆっくりと噛み砕きグリンに続いて外に出た。


 ************************************


 魔族が攻め込む少し前。ウィルモンドの中でデュランは一つの可能性についてゴールとゼフと共に話していた。

「つまりはお主のいた世界のジンが死んだ後もこちらの世界に干渉しているということか?」

「可能性としてはかなり高い。主な理由は二つだ。一つはジンの死後、俺のいた世界にあった呪いは暴走することなく消え去った。普通なら暴走し魔族以外が全滅するほどの力を持っていたはずだ。そして二つ目は魔力波を通じてジンらしき声を聞いた者がこの世界に多くいること。もちろん、ジンに出会う前の者やトキワが魔力波を作るよりもずっと昔に聞いたことがある者だ。緋帝もその一人だな」

「少なくとも一つ目の理由については呪いにかかっていたジンが関係していると考えるべきか」

「そうだな。それに呪いを作った張本人の魔族に解呪の方法を聞き出したが、あまりいい答えは得られなかった」

「というと?」

「呪いを消す手段は呪いを宿す者、つまりジンという存在の抹消しかない。しかしそんなことをできるやつは中々いない。向こうの世界で呪いが消え去ったわけではなくここへ呪いが移動してきたと考えるべきだと俺は思う」

「存在の抹消か······ふざけやがって」

「ここやモンドでの蘇生も考えたが呪いの性質上厳しいものがある。もちろんネフティスと協力して解呪の方法は探すつもりだ。それにまだ手はある。諦めるわけにはいかない」

「······ジンのところに行ってくる。ゼフ、ここは任せたぞ」

「ああ」

 ゴールにいつもの冷静さはない。不安は険しい表情と重たい足取りに現れ二人はその背中が見えなくなるまで黙って見つめていた。そしてゴールと入れ替わるようにしてネフティスがその場へとやって来る。

「ネフティスか、どうだった」

「嘘はついていなかったようだ。あの呪い自体、まるで自我を持っているかのように動いておる上に再生能力を持っておる。証拠にゆっくりではあるが相殺した特殊文字が勝手に修復を始めておる。じゃがこれはある程度解呪を進めなければ分からんかったことじゃ。仕方があるまい」

 飄々と放った言葉とは裏腹にネフティスは悔しさを押し殺すようにして唇を噛みしめた。

 デュランの脳裏には一人の存在が過ぎる。デュランの知る限り、生きている存在を消し去る、そんな神のようなことができるのはただ一人であった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...