ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第七十五話 幽霊の正体

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 ミレムとの戦闘はニルギスの予想よりも長引いていた。ミレムは攻撃を受け流し隙を見せることなく防御に徹していたのだ。ニルギスにとっては時間が長引くだけの面倒な戦闘スタイル。戦闘に僅かな苛立ちを見せ始めたニルギス。それを見たミレムは嘲るような声で挑発する。

「なんとゆーか、期待外れだな。まあ私はあくまでもお前の足止めだからさぁ。まだ気づかないのって面白いよね」

「はぁ?」

 ここでニルギスが挑発に乗る必要はなかった。何故なら既にニルギスは違和感に気づいていたのだ。ロングダルトという国を覆うようにして存在する微少な魔力。微少ながらも数は五千万を超え戦闘を境に増え続けていた。

「あれだけ魔力が集約してんだ。気づいてるに決まってんだろ」

「あ~やっぱり? でも何もしないからさ。このままだと地上の全員死んじゃうよ?」

「さっきお前が話していたこの国のクソみてえな歴史。一億近くの人間の信仰心と魂をお前たち魔族は利用したんだろ? 地下にある大量の死体から魔力が溢れ出ている。ここの住人は全員、生贄にされたってことか」

「ご名答~!! でも気付くのが遅かったね。人族は単体だと役に立たないけど束になれば少しは役に立つからさ。これから大陸全土に神級魔法が降り注ぐよ。それも一度じゃない。降り注ぐたびに威力が上がって~範囲は広くなって~最終的にはこの大陸を灼き尽くす。第一陣は数分後かな。どうするの~?」

「そのためにさっき召喚したんだろ」

「······はぁ?」

 ニルギスの言葉にようやくミレムは理解する。先程ニルギスが召喚した黒龍は戦線に参加することもなくただ空を漂っていた。ミレムの眼には黒龍へ何かが集約していくのが見えた。

「あの龍まさか·····この戦場で死んだ魂を取り込んでる」

「ご名答~!! ただニーズヘッグが吸収する魂はテメェら魔族の分だけだ。味方の魂は俺が回収して蘇生に使用する。第一陣のために初めっから力を溜めてたんだよ。テメェらの目的は魔法の強制的な発動だろ?」

「へぇ、ならどうして止めないの? 私の仲間を止めれば解決するだろ?」

「発生元に強力なエネルギーがぶつかれば未曾有の大爆発が起こり大陸全土とは言わないものの近隣国まで消滅だろうな。だから俺達は敢えて空からの攻撃に誘導させた。そうすればリスクをゼロに抑えられる」

「そこまで分かってるんだ。でもリスクをゼロに抑えられるのは言い過ぎじゃない? これからいくつの神級魔法が降り注ぐと思ってるんだよ。ほら、来たきた!」

 ミレムの指差す空は眩い光を放ち天からロングダルトへ向け一筋の光が差した。

「それじゃあ、私たちは失礼するよ~! せいぜい頑張ってね~!!」

 ミレムが合図をしたタイミングで複数の魔族が準備していたように転移魔法を召喚する。上位の魔族達は戦場から消え去り、低位の魔物達は戦場に残されたまま暴れ続けた。

「チッ! ニーズヘッグ!!」

 ニルギスの声に応じて黒龍はエネルギーを溜め込む。天から降り注ぐ光とニーズヘッグの放つ邪気は対を為し戦場はほんの僅かな時間静謐に包まれた。

「ガァア”ア”ア———ッ!!」

 空から光線が放たれると同時にニーズヘッグが溜め込んだ邪気を空へと放った。咆哮と共に放たれる邪気は光線と拮抗し空中で両者が霧散した。

「今のでギリギリ相殺かよ」

(こちらニルギス、全員無事か?)

(こちらダイハード、地上にいるものは問題ない。それよりもデュラン殿の予想通りのことが起こったな。二発目以降はどうするべきか)

(ニーズヘッグは今の攻撃で限界だ)

(二、三発なら私の拳で相殺できる。確かマニアってヤツが結界を創るんだろ? 本当に大丈夫か)

(今は信じるしかねえな。俺ん所の騎士団も集結すれば数発は貢献できる)

(見た感じ、あと数分で第二陣が来そうだよなあ。ラウムちゃん呼び出しても帰ってこないだろうしなあ)

「巨人族が先人を切る。耐えるぞ」


 ***********************************


 こんにちは、マニアです。実は私、デュランさんから結界の構築を依頼されました。だけれど今回は中々上手くいきません。たった一人で神級の結界魔法を創るということは初めてだからです。だけど最近、デュランさんがジンちゃんのお父さんだと知って断るわけにはいかないと思い頑張っています。

 でも先程、研究の最中、クレースから魔力波が伝わってきました。思い人からきた魔力波に興奮し耳を傾けると「今日の私の下着はなんだ」と質問してきたので自信満々に正解を告げました。

 それにしても最近、ジンちゃんの体調がますます心配です。隠してるみたいだけど足は動かなくなっているし顔色も悪い。初めて会った時よりもずっと痩せてしまっている。

 そして今、私はジンちゃんの家に訪れています。

「クレース、さっきはどうしてあんな質問を?」

「少し前までここにマニアの偽物がいたんだ。もう倒しておいたから大丈夫だろう。ジンの警護は私が担当して他は全員迎撃に当たっている」

「えぇ!? 私の偽物!?」

「マニア以外も現れているようだ。お前は本物みたいだな。ジンに何か用か?」

「ええと····国中殺気立ってるからジンちゃんと話して落ち着こうかなって。それに頼まれていたことがうまくできなくて」

「そうか、だが今は寝ている。向こうで料理を作ってるからしばらく見ていてくれ」

「う、うん」

 クレースが寝室から出ていくとマニアは椅子に座った。微かな寝息を立てるジンの寝顔を見てマニアはひとりでに話し始めた。

「実は私、パールちゃんくらい小さな時は本当に独りぼっちで父親と母親からは嫌われていました。私も二人のことが憎くて嫌いでした。家から出たくても外出はほとんどさせてくれませんでした。本だけが私の友達でした。だけどある日の夜、私は不思議な幽霊さんに出会ったんです。その日私は、幽霊さんに連れられ初めて夜に外出しました。あの夜に見た星空はとても綺麗で今も忘れられません。クレースは私にとって人生を変えてくれた人です。でも私にとってその幽霊さんは人生を与えてくれた存在なんです。そして幽霊さんは私に幸せになってと言った後に消えてしましました······って、ごめんなさい、長々と話してしまって。いや、誰も聞いてないか」

「聞いてるよ」

「じ、ジンちゃん起きてたの!?」

「えへへぇ、初めから聞いてたよ」

「ごご、ごめんね。寝心地悪かったよね」

「ううん、大丈夫。それよりもマニア、顔を近づけて」

「———?」

 マニアが言われた通りにするとジンはその顔を引き寄せ真っ直ぐに瞳を見つめた。

「えぇ!? あ、あのじじじじ、ジンちゃん? どうしたの?」

「その幽霊さんは他にも何か言ってなかった?」

「他にも?」

『これからあなたはひとりになるかもしれない。でもそれはずっとじゃない、きっと将来信頼できる仲間に逢えるから····だから、今度私と会うまでに幸せになっていてね』

「······今度私と会うまでに····今度、私と」

 ジンの顔を見たマニアは全てを理解する。

(初めて声を聞いた時からずっと違和感があった。この柔らかい声、落ち着く穏やかな雰囲気)

「あなたは····幽霊さん?」

「大きくなったね、マニア」

 ジンはいつかの夜のように柔らかい声でそう言った。

「嘘····どうして。それなら今のジンちゃんは一体」

「ごめんね、今詳しく話すことはできないんだ。だけどきっと今、マニアの力が必要なんだ。だからみんなを助けて欲しい。これはマニアにしかできない。お願い、マニア」

 マニアは立ち上がり頬を伝わる涙を振り払った。普段は見せない真っ直ぐ自信に満ち溢れ表情と覚悟を決めた瞳。マニアは最も信頼のおける、そして最も守りたい存在を背に扉の前に立った。

「幽霊さん、強くなった私を見ていてください」
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