ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
227 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第七十六話 ボルの複製体

しおりを挟む
 
 ボルの複製体が現れたのはボーンネルの北西付近。圧倒的な暴力で敵を蹴散らしながらゆっくりと南下していた。オリジナルのボルと異なるのは「ゼルタス」という武器を所持していないこと。しかし素手であろうと敵う者はいなかった。

 剛人族の一帯が敗れた今、ガルミューラ率いる空軍部隊に可能なのはオリジナルのボルが来るまでの進路の妨害のみ。しかし状況はまさに最悪だった。

「エルダン達の治療を最優先だ!」

「お姉ちゃん!! このままだとボルさんの複製体がジン様の家に!!」

 ドルトンとスタンクを前線に進路の妨害をするものの防戦一方の状況。それに最前線でボルの攻撃を喰い止めていた二人の体力は限界に近づいていた。

「お前達、全員下がれ。私が時間を稼ぐ」

「私達はまだいけます!!!」

「そうですよ! あんな化け物一人じゃ自殺行為だ!!」

「命令が聞けないのか。下がれといっているんだ」

「っ·········」

 自身と同等の強さを誇るエルダンが手も足も出ないまま倒されてなお、ガルミューラは落ち着いていた。

(複製体に感情は見られない。それに意思のある武器は所持していない。ただ、勝てるビジョンは見えないな)

 ガルミューラが複製体の前に立ちはだかる。複製体のボルは指をポキポキと鳴らし改めて構えた。

(あくまで足止め····足止めだが······)

「ドケ」

(これほどまでに差があるとはな)

「———水麗」

 紫色の魔力が水麗の鋒を纏いガルミューラは投擲の構えを取る。

(一か八か·····)

 水麗を構える右手に魔力を集約させ、腕の筋肉は収縮する。熱を纏った腕は赤みを帯びガルミューラは全神経を集中させた。複製体のボルは動く様子もなくその攻撃を待つかのように立ち尽くしていた。

水天狼アクノ・ヴォルフ!!」

 狼を形づくる水流は槍の初速に押し出され急加速する。
 複製体へ向かい一直線に進み辿り着く頃には音速に到達していた。

 ———しかし

「チィッ——!!」

 平然と避ける複製体。なおも水天狼は方向を変え複製体へと迫る。

(魔力の消費が大きい。すぐに見切られ·····)

 ————ガンっ

 その時、突如として金属の鈍い音が響き渡った。
 複製体は地面に叩きつけられピクリとも動かない。

「·····ふぅ。助かった、ボル」

「オケ。あとは任セテ」

「·····なんだ、今のコウゲキ」

 複製体はのそっと起き上がりオリジナルのボルを睨んだ。
 応えるようにしてボルは睨み返す。

「たとえ複製体でもボクならジンに敵対シナイ。だからお前の存在は····要らない」

 ボルの口調が変わり戦場には緊張が走る。

(たった一人でもこの安心感か。それにしてもトキワのやつ、私達がピンチだというのに、応答もしてくれないとはな····)

「おーい、聞こえてるか? なあ」

「と、トキワ、いつの間に」

「いつの間にって急いで来たんだぜ? 嫁さんのピンチに駆け付けたんだよ」

「よよよ、嫁さんって」

「間違ってねえだろ。ここはボルだけに任せて行こう。怪我人も多いみたいだからな」

「でも大丈夫か? 複製体とはいえ、ボルだぞ。他にも来れば危険だ」

 トキワは微笑みボルを見た。視線の先にいるボルには敵の姿しか見えていない。長年付き添う旧友だからこそトキワは全ての信頼をおいていた。

「一番危険なのはクレースの複製体が出現した場合だ。たとえ5、6割の力でも勝てるヤツはまずいない。俺も含めてな。ボル! 周りは気にするな! 好きにやれ!」

 ボルは背中越しにグーサインをしゼルタスを握り締めた。同時にトキワは周りに倒れていた味方を全員高速で回収する。そして撤収が完了しその場にボルと複製体のみが残った。

「ッ——」

 動き出し、複製体はボルの隣を通り過ぎる。圧倒的な強者を前にして複製体は最良の選択肢をとったのだ。人外とも言える脚力はオリジナルと同等。すぐさまボルは後を追うがゼルタスを持っている分速度は負けていた。

(ボルさん、これは敵の罠かもしれません)

(確かに、どうして北上しているンダ)

 距離は縮まらないまま複製体は南下してきた道をなぞるようにして北上する。二人は移動した際の衝撃波だけで南下していた魔物達を吹き飛ばしていた。その後、しばらくして複製体は動きを止める。

「何が目的だ。さっさと殺されろ」

「お前はツヨイ。だから、全員で叩きツブス」

(ボルさん、周りを見てください)

 ボルの立っていた場所は大きな窪みになっており、いつの間にか全方位から敵が囲い込んでいた。

(エルダン、ガルミューラの複製体もイル)

(まずいですよボルさん。彼らは先程の戦場にいた方々。ということは·····)

 ゼルタスの予想は見事に的中する。ボル同等、別格の存在。トキワの複製体が出現し複製体と魔族を含めた敵の数は三十体を超えていた。

(助けを呼びましょうボルさん。危険です)

(いや、むしろ好都合ダ。戦力が集中しているから一気に叩ケル)

(で、ですがここでボルさんが負ければッ······)

(負けなイヨ。だから壊れなイデ)

(もちろんです)

 ボルは動き出すことなく続々と現れる敵を待っていた。時間を追うごとに増加する闘志は前衛に構える魔族を萎縮させるほど。暫くしボルを囲む敵の数は三百を超えた時、ようやく両者が動き出す。
 数多の敵を前にしてボルはその日、久方ぶりにリミッターを解除する。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

処理中です...