ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
230 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第七十九話 呪いとの総力戦

しおりを挟む
 
 ラウムの治療速度を上回る瘴気の侵蝕速度。ジンの容態は更に悪化し、クレースが部屋を後にした数分後には黒紫の血液が身体中の白い肌に浮き出ていた。それは明らかに呪いによる症状。ネフティスとゼグトスもラウムの魔法に加勢する中、三人の顔は絶望に染まる。

「·······心臓が動いていない。魔法で無理矢理心臓を動かす。それと幹部連中に連絡を。魔力操作が得意なものここに集めなさい」

「トキワ、クリュス、ゼステナ、ゲルオード。魔力妖力の扱いに長けたこの四人を呼び出します」

「だが全員戦闘中かもしれん。国防を疎かにしてはどうにもならぬ」

「ジン様が死んでしまえば全て終わりだ。どのような状況であるにせよ無理矢理ここへ転移させる」

 ゼグトスが冷静さを欠いていたわけではない。サーベラを用いて戦場を一瞬の内に俯瞰しすぐさま的確な指示を飛ばしていた。そして四人はすぐさま召喚される。

「ジン!!」

「落ち着きなさいゼステナ。まだ死んでいない」

 ラウムはジンの心臓を無理矢理に動かしつつトキワとゲルオードの特性を瞬時に見極めた。

「トキワ、この子の心臓を擬似心臓と取り替える。魔力波を作り出したあなたなら可能なはずよ。できる限り早く作り出して」

「お、おう」

「ゲルオード、あなたは妖力で指示する部分の細胞を焼き切って」

「ハッ!?」

「魔力は干渉しにくい身体だけど妖力ならば多少は干渉しやすい。その隙に他メンバーで侵蝕を食い止め焼き切った細胞を私の細胞で補填する。デュラン、できる限りのことはするけど奥の手はあるのよね!?」

「ああ、必ず救う」

 トキワは作業の開始と同時にボルへ魔力波を繋げ状況を説明した。

(ボル、ここへ来る前に俺の言う道具を取って来てくれ)

(ワカッタ······)

(········これだけだ。できるだけ早くしてくれ)

「ネフティス、俺について来てくれ」

 デュランはロードを手に取るとジンの手を強く握り締めネフティスと家を後にした。

「四人とも、私が指揮を取る。ゲルオード、健康な細胞には決して触れないで。私が細胞一つ一つに触れて指示する。焼き切った細胞はすぐに私の細胞を移植するから。クリュスは侵蝕前、または侵蝕中の細胞を凍らせて。そうすれば侵蝕速度は低減する。ゼステナ、あなたはジンが低体温症にならないよう体温を調整して。そしてゼグトスあなたは元凶の瘴気を吸い込んで。細胞を傷つけないよう完璧に」

 ラウムの完璧な指示の元、五人の緻密な魔力、妖力操作が行われる。その連携はまごうことなき神の領域。しかし複雑すぎる処理を長時間行うラウムの脳に限界が訪れようとしていた。

「ラウム!!」

 ほんの一瞬、意識を失ったラウムは無理矢理意識を取り戻し作業に戻る。無数の情報を処理するラウムの脳は焼き切れ再生能力でなんとか持ち堪えていた。しかし処理速度は落ちていき、嘲笑うかのように瘴気の侵蝕は速度を早めた。

(助けるッ———絶対に!!)

 全面に押し出される感情とは裏腹にラウムの体力は限界を越えていた。その時、入り口の方から声が聞こえてきた。

「お願いします、私も中に入れてください」

「ふざけルナ! そんな時間はナイ!!」

 聞き慣れない女の声とボルの声。トキワは扉を開けると二人は急いで中に入ってきた。その女はパールを一瞥すると少し立ち止まったがすぐさまジンの元へと歩いていった。

「何の用かしら、今手が話せないのだけど」

「助力します」

「この者は一体誰だ」

 治療から注意がそれたゲルオードを注意しつつゼステナは素早く返答する。

「女神エメスティア。ジンに呪いを移した野郎だ」

「··········」

 エメスティアは即座にラウムへ治癒魔法をかけると部屋全体に結界を作り出した。簡単そうに発動したその魔法にゲルオードは驚愕する。

「この場にいる全員、魔力消費がゼロになりました。私を殺すならば後にしてください」

 エメスティアは淡々と話しジンの側に移動した。

「あなたのことは殺したい程恨んでいるれけれど、協力するなら何も言わないわ」

「トキワ、外ダ。何かクル」

 天から現れた第三の戦力。しかし今の状態で対処する暇などなかった。エメスティアは顔色を変えず深く集中する。

「味方です。ここを攻撃するつもりなどありません。天界の者に魔族への対処をさせます。この方には返し切れないほどの恩があります。助けるためならば協力は惜しみません」

 時を同じくして、空には巨大な結界が広がっていく。ある一点から広がっていくその結界は数分の間に大陸全体を覆い天から地上をを守る盾と化した。本来ならば多くの者に褒め称えられる大きな偉業。しかし術者は振り返り空虚な顔ですぐさまその場を後にした。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...