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英雄奪還編 後編
七章 第七十九話 呪いとの総力戦
しおりを挟むラウムの治療速度を上回る瘴気の侵蝕速度。ジンの容態は更に悪化し、クレースが部屋を後にした数分後には黒紫の血液が身体中の白い肌に浮き出ていた。それは明らかに呪いによる症状。ネフティスとゼグトスもラウムの魔法に加勢する中、三人の顔は絶望に染まる。
「·······心臓が動いていない。魔法で無理矢理心臓を動かす。それと幹部連中に連絡を。魔力操作が得意なものここに集めなさい」
「トキワ、クリュス、ゼステナ、ゲルオード。魔力妖力の扱いに長けたこの四人を呼び出します」
「だが全員戦闘中かもしれん。国防を疎かにしてはどうにもならぬ」
「ジン様が死んでしまえば全て終わりだ。どのような状況であるにせよ無理矢理ここへ転移させる」
ゼグトスが冷静さを欠いていたわけではない。サーベラを用いて戦場を一瞬の内に俯瞰しすぐさま的確な指示を飛ばしていた。そして四人はすぐさま召喚される。
「ジン!!」
「落ち着きなさいゼステナ。まだ死んでいない」
ラウムはジンの心臓を無理矢理に動かしつつトキワとゲルオードの特性を瞬時に見極めた。
「トキワ、この子の心臓を擬似心臓と取り替える。魔力波を作り出したあなたなら可能なはずよ。できる限り早く作り出して」
「お、おう」
「ゲルオード、あなたは妖力で指示する部分の細胞を焼き切って」
「ハッ!?」
「魔力は干渉しにくい身体だけど妖力ならば多少は干渉しやすい。その隙に他メンバーで侵蝕を食い止め焼き切った細胞を私の細胞で補填する。デュラン、できる限りのことはするけど奥の手はあるのよね!?」
「ああ、必ず救う」
トキワは作業の開始と同時にボルへ魔力波を繋げ状況を説明した。
(ボル、ここへ来る前に俺の言う道具を取って来てくれ)
(ワカッタ······)
(········これだけだ。できるだけ早くしてくれ)
「ネフティス、俺について来てくれ」
デュランはロードを手に取るとジンの手を強く握り締めネフティスと家を後にした。
「四人とも、私が指揮を取る。ゲルオード、健康な細胞には決して触れないで。私が細胞一つ一つに触れて指示する。焼き切った細胞はすぐに私の細胞を移植するから。クリュスは侵蝕前、または侵蝕中の細胞を凍らせて。そうすれば侵蝕速度は低減する。ゼステナ、あなたはジンが低体温症にならないよう体温を調整して。そしてゼグトスあなたは元凶の瘴気を吸い込んで。細胞を傷つけないよう完璧に」
ラウムの完璧な指示の元、五人の緻密な魔力、妖力操作が行われる。その連携はまごうことなき神の領域。しかし複雑すぎる処理を長時間行うラウムの脳に限界が訪れようとしていた。
「ラウム!!」
ほんの一瞬、意識を失ったラウムは無理矢理意識を取り戻し作業に戻る。無数の情報を処理するラウムの脳は焼き切れ再生能力でなんとか持ち堪えていた。しかし処理速度は落ちていき、嘲笑うかのように瘴気の侵蝕は速度を早めた。
(助けるッ———絶対に!!)
全面に押し出される感情とは裏腹にラウムの体力は限界を越えていた。その時、入り口の方から声が聞こえてきた。
「お願いします、私も中に入れてください」
「ふざけルナ! そんな時間はナイ!!」
聞き慣れない女の声とボルの声。トキワは扉を開けると二人は急いで中に入ってきた。その女はパールを一瞥すると少し立ち止まったがすぐさまジンの元へと歩いていった。
「何の用かしら、今手が話せないのだけど」
「助力します」
「この者は一体誰だ」
治療から注意がそれたゲルオードを注意しつつゼステナは素早く返答する。
「女神エメスティア。ジンに呪いを移した野郎だ」
「··········」
エメスティアは即座にラウムへ治癒魔法をかけると部屋全体に結界を作り出した。簡単そうに発動したその魔法にゲルオードは驚愕する。
「この場にいる全員、魔力消費がゼロになりました。私を殺すならば後にしてください」
エメスティアは淡々と話しジンの側に移動した。
「あなたのことは殺したい程恨んでいるれけれど、協力するなら何も言わないわ」
「トキワ、外ダ。何かクル」
天から現れた第三の戦力。しかし今の状態で対処する暇などなかった。エメスティアは顔色を変えず深く集中する。
「味方です。ここを攻撃するつもりなどありません。天界の者に魔族への対処をさせます。この方には返し切れないほどの恩があります。助けるためならば協力は惜しみません」
時を同じくして、空には巨大な結界が広がっていく。ある一点から広がっていくその結界は数分の間に大陸全体を覆い天から地上をを守る盾と化した。本来ならば多くの者に褒め称えられる大きな偉業。しかし術者は振り返り空虚な顔ですぐさまその場を後にした。
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