ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
231 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第八十話 幽明の間

しおりを挟む
 
 巨大な結界が大陸を覆う少し前。マニアはニルギス達の元へと到着していた。覚悟の決まったマニアの表情はいつになく真剣であり天から差し込む光をゆっくりと見つめていた。装備する杖はこの日のためにゼフが用意した特注品。四人の帝王がいる中、マニアの存在感は人目を引いていた。

「マニアちゃん、あとは頼んでいいんだよな!! 俺らそろそろ限界だぜ!!」

「ええ、問題ありません」

 普段のマニアとは違い、言葉の節々から落ち着きが見られた。帝王四人とも天から降り注ぐ光線を受け止めるほどの魔力は既に残っていない。限界近くまで上昇していた光線の威力は防御壁の悉くを破壊しその場にいた者たちの身体はボロボロの状態になっていた。

 そして放たれる光線。ニルギスがマニアに呼びかけようとした瞬間、光線は一瞬にして消滅した。誰がやったことなのか疑う余地がないほどにマニアの放つ強大な力は常軌を逸していた。そしてマニアは静かに全員へと魔力波を繋げる。

(どうか、ジンちゃんの元へと向かってください。彼女は今、世界中のみんなを助けようと必死に呪いと戦っています。足を引き摺ってでも、魔力がなかったとしても彼女の元へと向かってください。きっとその思いが彼女の支えになります。ここは全て私に任せてください)

 マニアの言葉を受け止めた皆は再び士気を取り戻し、息を吹き返すようにして大きな雄叫びを上げた。四人の帝王は頷き鼓舞するようにしてマニアの背中を強く叩いた。そして皆を引き連れボーンネルの方角へと進んでいく。マニアは天を見上げたまま強く祈りを捧げた。

(今の私ならきっとできる。ジンちゃんのいるこの世界は誰にも壊させない)

 再び空は眩い光を放ち、マニアの頭上に降り注ごうとしていた。

「神級魔法———」

 マニアの魔力に応えその頭上には複数の魔法陣が展開される。魔法陣の大きさは天に近づくにつれ巨大化していき数秒のうちに国土を呑み込んだ。

幽明の間ユウメイのハザマ

 放たれた光線は国一つを消滅させるほどの威力を持つ。しかしマニアの創り出した巨大な結界は最も容易くその光線を掻き消した。

「みんなのいるこの場所は誰にも傷つけさせたりしない」

 マニアの強い意志を反映するようにして連なる数多の結界は大陸を囲い空を飛ぶ魔族達を消滅させる。息つく間も無く視界に飛び込んできた光景にマニアは目を見開いた。

「クレース!」

 魔王とクレースの剣戟はまるで光線の衝突。そんな戦闘の最中、クレースはマニアを一瞥した。そのアイコンタクトのみでマニアは全てを悟りすぐさま振り返るとジンの元へと向かっていった。


*********************************


「まさか、これ程の者が存在したとはな!! いいぞ!! もっと本気を出せ!!」

「··········」

 興奮する魔王とは裏腹にクレースは落ち着いていた。剣術のみで考えればカーンの実力はクレースの足元にも及ばない。クレースの視界に映るカーンの剣筋はまるでスローモーションで動いているかのように見えた。

「勝利を決定するのは剣術ではない、能力が全てを決定する。これならどうだ獣人!!」

 目を血走らせカーンは複製体を生み出した。カーンが生み出した複製体は目の前にいるクレースをコピーしたもの。二体一の状況を作り出し満足げなカーンは高々と笑った。

「この能力は、龍帝の兄が所持していた能力だ。しかし我の能力は一つではない! 貴様を殺す術は無限にッ——」

「————雷震流、黎明レイメイ

「······は?」

 カーンの隣に立っていたクレースの複製体は動き出す間も無く一撃で消滅していた。状況が理解できないまま、カーンが無理矢理に頭を回転させ次の一手を考える。そしてすぐさま数百人の複製体を出現させた。

「行け! 彼奴を抹殺しろ!」

 カーンは力を溜め、複製体を肉壁にし時間を稼ぐ。魔力は数秒も経たず一点に集約しカーンはクレースに照準を合わせる。

「獣人、貴様の隙をついての攻撃など不可能·····とでも思ったか?」

「———!」

 手早く複製体を切り倒すクレースは突然その場に立ち尽くした。

「ジンの······複製体」

 クレースの動きが僅かに鈍った瞬間、カーンは魔力を光線にし発射した。光線はクレースの胸に直撃し、カーンはニタリと笑みを浮かべる。

「ハッハッハァ!! その光線を受けた者は呪いにかかるぞ。勿論、ジンというガキがかかっている呪いと同じものだ。よかったなぁ」

 呪いを纏った光線。数万年に一度という制限はあるもののカーンに迷いはなかった。

 そしてたカーンは満足げに笑みを浮かべジンの複製体を隣に引き寄せた。

「こいつの能力は強い·····いや、強かっただな。今となれば魔力も持たぬただの人間。複製体もこれでは使い物にならん。肉塊当然だ」

 クレースに見せつけるようにしてカーンはジンの複製体を殴りつけた。

(怒れ、貴様のような強者の敗因は感情に左右され冷静さを失った時)

「お前、私に勝てないと悟ってこんな真似をしているのか。惨めだな」

「あぁ?」

 カーンはクレースを強く睨み付けジンの顔面を激しく殴打した。

「気に入らないことがあればものに当たる。まるでガキだろ。少なくともジンの幼少期は今のお前よりも落ち着いていた。それで魔王を名乗るのだから、面白い。本当に面白い奴だよな、お前は」

「貴様、状況を理解できていないようだな。このまま貴様は死ぬ。呪いにかかり無力な人間になり死ぬのだ。そして貴様の能力は我が手······」

 しかし突然、カーンは脈打つような激しい痛みに襲われ膝をついた。

「どうだ、呪いにかかった感覚は」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...