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英雄奪還編 後編
七章 第八十一話 魔帝の意思
しおりを挟むジンの家を後にしたデュランとネフティスが向かった先は普段マニアが使用する研究室。その場にいたのは魔帝アルミラである。アルミラは二人を見ると立ち上がりゆっくりと近づいた。
「準備は完了した。状況は?」
「限界に近い状態だ。すぐにでも力を借りたい」
「本当に信用はできるのじゃろうな······と言っても疑う時間も無駄か」
アルミラは太刀を取り出しデュランに手渡す。その太刀の名はニグラム、先代魔帝から受け継いだ意思の宿る武器である。
「使用するには私が近くで作業しないといけない······それでもいいのかしら」
「問題ない。お前は今、ジンを助けるために行動してくれているんだ」
「デュラン、お主何故ロードを持ってきたんじゃ。お主には扱えんじゃろ。会話もできんぞ」
「確証はないが、確かに何かを伝えようとしている。ゴールをここに呼んだ。武器の王を介してなら話も聞ける」
(デュラン聞こえるか、私だ)
(ゴール、丁度いいタイミングに。すぐに来れるか?)
(急ぎだろ? 魔力波を通じてロードの言葉を直接お前達に伝える)
ゴールが言い終えるとロードはひとりでに鞘を抜け床に突き刺さった。
(やっと繋がった。早速だけど時間はない、まずは確認だ。魔帝の持つニグラムの能力は刃に触れた血を記憶し、その者の魂を元に擬似的な魂を作り出すだったね。そしてルシアの魂を使用しジンの意識内に介入させる。そして無理矢理にでも意識を目覚めさせる)
(ああ、その通りだ。ただそれだけだと足りない。呪いが身体の各器官に影響を与えている)
(そこで僕がジンの中に入り、内側から呪いを殺す。ただ僕が入れるかは正直賭けだ。僕が魂と一緒にジンの身体に干渉することはできないんだ。ルシアに無理矢理内側から道をつくってもらうしかない)
(分かった、お前を信じる)
「全員聞いたな。この作戦でいく」
「呪帝、私に力を貸して。この魂を身体に干渉させることは簡単よ。身体に触れさすだけでいいの。でも呪いが邪魔をする。あなたが道をつくって」
「分かった」
そして全員、大急ぎで研究室を後にする。すぐ側にあるジンの家には多くの者たちが集まり心配そうに中の様子を伺っていた。
「全員どいてくれ!! ジンの命がかかっている!! 入口を開けてくれ!!」
デュランの声にすぐさま道は開き、三人は家の中へと入っていった。
中では丁度、トキワが疑似心臓を作り出しラウムにより入れ替え作業が行われようとしていた。
「デュラン、何か策があるようね。少しだけ待って。疑似心臓を移植する」
ラウムは落ち着きジンの胸を切開するとそこには動かなくなった心臓が現れた。ゲルオードは心臓付近に付着している呪いに侵された細胞を焼き切りつつ、クリュスが心臓の周りを凍らせることで呪いの侵食を遅らせた。ラウムは慎重に心臓を取り出しすぐさま疑似心臓を移植する。トキワが作り出した疑似心臓にはガルド鉱石を埋め込まれ魔力が血液をおしだすポンプの役割を果たしていた。
「うまく行っているわ。ゆっくりとだけど血液が全身に行き渡るはずよ」
「なぜ女神が?」
「味方よ。こちらも何故魔帝がいるのか聞きたいけれど····まあいいわ」
アルミラの姿を見たトキワやボルは一瞬戸惑うがすぐに受け入れデュランは皆に作戦を伝えた。
**********************************
クレース対魔王カーンの激戦は突然時が止まったように中断した。カーンの放つ呪いを宿した攻撃は確かにクレースへと直撃した。しかし攻撃を受け倒れたのはカーンであったのだ。
「貴様ッ! 何をした!」
「そのくらい自分で考えてみろ」
(私の放った攻撃がそのまま反射された。ありえない、反射など出来るものではない。待て、奴の持っている武器は······あの武器に宿っている武器は「威雷」か!?)
「ようやく気づいたか、もう遅いがな」
「初めて見た。ロードに続く開闢の意思。自身の受けた攻撃を取り消し対象に反射させる。単純だが攻略法は存在しない。なぜ貴様のような獣人が持っている。その意思は本来、我のように選ばれた者が持つべきものだ。ただの獣人ごときが······図に乗るなよッ——」
「カーン様!!」
その時、カーンの背後から四人の魔族が現れた。魔王の側近であるミレム達四人はカーンを守るようにしてクレースの前に立ちはだかった。
「ご無事ですか魔王様。この者は我ら四人に任せて····」
「貴様達が退がれ」
「ッ————」
カーンは呪いが身体に侵食し始める中、平然と立ち上がり四人の背中を掻き分け真っ直ぐクレースの元へと歩いていった。
「残念だったな。魔族に呪いは通用せん。数分もすれば私の身体に入った呪いは自然消滅する。我らは脆弱な人間とは根本的に違うのだ。そうして貴様ら下等種族はじきに淘汰される。呪いにより選別され我ら魔族の時代が来るぞ」
「その前に私に殺されると思わないのか」
「舐めるなよ獣人の分際で!·····やはり貴様らはあの日、グレイナルではなく我の手で下すべきだった」
「······あの日、グレイナル」
終始カーンの言葉に対し淡々と切り返していたクレースは初めて言葉に詰まった。先代魔帝、マギス・グレイナル。ルシアとデュランの命を奪ったその人物の名をクレースは確かに覚えていた。自身の手で葬ったグレイナルを思い出しクレースははらわたが煮えくり返るような感覚に襲われた。
戦闘開始後、初めて目撃するクレースの焦った様子。カーンは愉悦し噛み締めるようにその表情を見つめた。
「黒幕はお前だったのか。いいや、当然疑うべきだったか」
話の最中に入り込んだ呪いは自然状滅し完全回復した状態でカーンは再びクレースの前に立ちはだかった。
「貴様はまた守れんのだ。あの人間は死ぬ。あの日死んだ両親のように、いいやさらに凄絶な最期を迎えるだろう!!」
————ゴトッ
高々と言い終えたカーンの近くで何かが鈍い音を立てて落下した。黒い雷がカーンの視界を横切り視界の下には大量の血が見える。その目に映り込んだのはミレム達四人の生首。四つの生首は状況も理解できないままカーンをジッと見つめ塵と化していった。
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