234 / 240
英雄奪還編 後編
七章 第八十三話 並行世界の救世主
しおりを挟む全ての準備を終えたロードは並んで座る二人の元へ歩いて行った。その幸せな光景に名残惜しさを感じつつロードは深呼吸し声をかける。
「二人とも、準備ができたよ。始めよう」
「······そっかぁ。ありがとう、時間をくれて」
「ううん。ルシアも準備はいいかい?」
「ええ、それで呪いへの対処方法は?」
「侵入してきた呪いをこの精神世界ごと消滅させる。全ての可能性を考えたけどこれしか方法はない」
「待って。それだとジンの精神はどうなるの?」
「正直、やってみないと分からない。全てが壊れれば植物状態になる可能性だってある。そうならないように全力で対処する。それにジンの精神を支えるためにルシアがいる。悩んだまま時間が過ぎて肉体への影響が大きくなることを避けないと······時間がない、始めるよ」
ロードは手に持つ剣で空に向かって斬り上げた。斬撃は青空に亀裂を生み、すぐさま亀裂は広がっていった。隙間からは黒紫の瘴気が流れ込み瞬く間に青い空を覆う。
「この音は·····」
広がった瘴気は雑音と同時に悲鳴を放ち地面に咲く花々は生気を失い枯れていった。
「あっ·····あぁ」
「ジンッ!」
ジンは頭を押さえ灰色になった地面に倒れ込んだ。
「精神が直接攻撃されているんだ。ルシア、君しかいない。隣で支えてあげてくれ。呪いが全て入り切るまではまだ時間がかかる」
「お母····さん。声が、聞こえる。苦しそうな声が····きっと、この呪いで、命を····落としてきた、人達の声」
空を覆った瘴気は地面を這うように移動し精神世界の破壊を始める。ロードは脇目も振らず亀裂の一点を見つめていた。
(予想はしていたけど大き過ぎる。破壊するタイミングは呪いの全てがこの世界に侵入した瞬間。見極めろ、僕が失敗すれば全て台無しだ)
耳をつんざくような悲鳴に崩壊していく世界。そんな状況の中、ロードは必死に落ち着こうとしていた。その時、一点の光が地面から放たれ天を貫いた。
「·····お母さん」
「ゆっくりと息を吸って。お母さんが隣にいる」
光り輝くその姿はまるで女神のよう。母親に優しく包み込まれたジンは落ち着きを取り戻し自分の力で立ち上がった。その視界に映るのは最愛の母親。その姿を見ると負の感情は徐々に和らいでいった。
(流石母親だ。ジンのことを一番分かっている。一番信頼されてる。僕は僕にしかできないことをするんだ)
呪いは既に精神世界の半分程を破壊していた。しかしルシアにより支えられた精神は徐々に呪いに対し抗い始め侵攻速度を遅らせていた。ロードの集中力は限界まで研ぎ澄まされその瞬間が訪れる。
「ハァアアアアアア!!!」
ロードによる爆発的な魔力の解放。その魔力は精神世界に生まれた亀裂を覆い呪いを完全に封じ込めた。呪いは勢いを緩めることなく暴れ続け精神世界はさらに崩壊していく。一方でジンの精神力は限界を迎えようとしていた。
「う·····あぁ、おああさん」
「お母さんだよ。しっかり意識を持って」
「あぁ····あ」
既にまともな言葉を発することは叶わず正常な思考を失っていた。そんな絶望的な光景を見たロードに追い討ちをかけるようにして無慈悲な現実が降り注ぐ。
(あぁ····クソッ! 何回攻撃しても消滅しない! この世界ごと全て壊すしかないのか····駄目だ、脳死状態になれば意味がないだろ。考えろ。何か方法はないのか)
焦りに駆られ、視界は狭く深い考えはできなくなっていた。呪いは衰えるどころか勢いを増していく。
(駄目だ。この子の命を削ってまでやってきたっていうのに。デュランがどんな思いでここまで繋げてきたと思ってるんだ。並行世界のジンが命を投げ打ってまで繋いできたんだぞ!
駄目だ
————何もできない、何も)
(····して 返事して!)
突然、ロードの耳から雑音と悲鳴が消え去りその声が聞こえた。聞き覚えのある声。ロードは落ち着きを取り戻し返答した。
(······その声はジン? どうして君が)
(私はロードの目の前にいる私じゃない。並行世界で死んだ魂だけの私。考えがある、協力して)
0
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います
こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!===
ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。
でも別に最強なんて目指さない。
それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。
フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。
これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。
チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~
桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。
交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。
そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。
その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。
だが、それが不幸の始まりだった。
世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。
彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。
さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。
金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。
面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。
本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。
※小説家になろう・カクヨムでも更新中
※表紙:あニキさん
※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ
※月、水、金、更新予定!
【完結】20年後の真実
ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。
マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。
それから20年。
マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。
そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。
おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。
全4話書き上げ済み。
クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?
青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。
最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。
普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた?
しかも弱いからと森に捨てられた。
いやちょっとまてよ?
皆さん勘違いしてません?
これはあいの不思議な日常を書いた物語である。
本編完結しました!
相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです!
1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…
友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。
石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。
だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった
何故なら、彼は『転生者』だから…
今度は違う切り口からのアプローチ。
追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。
こうご期待。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる