ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
235 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第八十四話 消えた二つ

しおりを挟む
 
 ボーンネルに攻め込んだ数多の魔族は魔王カーンを残しその全てが消滅した。魔王カーンとクレースとの一騎討ち。しかし魔王はこの勝負を始めたことを深く後悔していた。長きに渡り自身の元に仕えた四人の従者は瞬く間に息絶え、攻撃は一切通らない。その後カーンは休む間も無く顔面を殴打されていた。

 手加減など存在しない、一発ごとに力を込めた拳は毎秒カーンに激痛を与える。カーンの持つ再生能力が裏目に出たため気絶することもなく無言の殴打を受け続けていた。

(何という屈辱。この我が手も足も出ぬ。反撃の隙が····何と無慈悲な)

 およそ獣人の放つ覇気とは言えない。魔王であるカーンの覇気を容易に凌駕するほど。己の強さを過信してしたカーンはプライドを完全に破壊されていた。

「お前は、私にとってこの世で最も大事な存在を傷つけた。殺されるぐらいで償えると思うな」

 激痛と共に聞こえるその言葉にカーンの戦意は削られていった。拳は回数を重ねるごとに威力を増し、ついには一発の拳が顔面を抉り取った。だがすぐさまカーンの頭部は再生し、完治した直後にはまた新しい拳が振りかざされた。もはや思考することも叶わずカーンは完全に戦意を喪失した。

「待ってくれ!!」

 近くから聞こえたその声にクレースはようやく手を止めた。視線の先にいるのは涙で顔面がぐしゃぐしゃになったオリバだった。

「檻に入ってろ」

「そいつはオイラの仲間なんだ。頼む見逃してくれ。オイラ達の味方はもう残ってない。もう戦う意志はないんだ」

「実力差も分からず攻めてきたのはお前達だろ。それにコイツは殺さないといけない。止めるならお前も死ね。交互に殴ってやるよ」

「オリ·····バ」

「カーンはほとんど不死身に近い存在だ。このまま攻撃を続けても時間を浪費するだけだろ。はやくあの子の隣に行ってあげればいい。オイラはカーンを連れてこの国にいる。逃げたりしない」

「それは····そうだが」

 オリバは既にクレースの性格を理解していた。その上で導き出した最適解。クレースはオリバの言葉を聞いた途端、あからさまに動揺し始めた。

「お前の仲間が総出で呪いに対処してる。祖龍が四体も関わってるんだ。きっともうすぐ起きる。その時に隣にいてやるべきだ」

「······逃げるのは無駄だからな」

 クレースは睨み付けてそう忠告するとジンの家へ急いで向かった。オリバは嘔吐し痛みに苦しむカーンを起き上がらせると治癒魔法をかけた。再生能力があるとはいえ身体に蓄積したダメージは確実にカーンの命を削っていたのだ。

 しばらくしカーンの容態が安定するとオリバはゆっくり話し始めた。

「なあカーン。オイラ達は結局、何がしたかったんだろうな。暴力は楽しいか? オイラは楽しくない。オイラがあの呪いを創ったのはお前の役に立ちたかったからだ。他人を殺すためじゃない。オイラ達ならきっと一からやり直せるって思わないか?」

「······ハッ、もう遅いだろ。俺もお前も、アイツにすぐ殺される」

「それなら任せとけ。オイラが靴でも舐めて説得する。オイラが何とかしてやるよ、いつもみたいに」

「フッ、そうだったな。お前がいなければとっくに死んでいたか」


 **********************************


(私はロードの目の前にいる私じゃない。並行世界で死んだ魂だけの私。考えがある、協力して)

 ロードだけに聞こえるその声はジンの声と全く同じもの。目の前でもがき苦しむジンが魔力波を伝えているとは到底思えなかった。

(分かった。聞きたいことは山ほどあるけど君であることは変わりない。協力する、何をすればいい)

(私に肉体は無いけど精神はある。そこで呪いを私の精神世界に移動させる。その後すぐに私を破壊して)

(だけど君は精神そのものだろ? それじゃあ君は·····)

(一回死んだ身だからね。もう一度ロードと話せただけで私は幸せだよ。最後には呪いじゃなくてロードに終わらせて欲しい。こんな役割を任せてしまってごめんね。でもお願い)

(······分かった)

 その瞬間、崩れた精神世界に光が差し込んだ。呪いとは対照的なその光は精神世界全体を明るく照らしロード達三人を守るようにして光の壁を創り出した。

「ジン?」

(ッ————)

 ルシアは何かを感じ光に向かってそう問いかけた。

(私は、この世界の私じゃないんだ。だからあなたの本当の子どもはそこにいる私。だけど最後に声が聞けてよかった)

(待って! 行かないで!)

(大好き)

 光は更に明るくなり真っ黒な呪いを吸収し始めた。抗う呪いは強い光に為す術なく吸い込まれていき、それに連れ徐々に光は暗くなっていく。既に呪いは破壊行動をやめ逃げることだけに専念していた。

(はぁああアアアアア”ア”ア”!!!!!!!)

 全身全霊の雄叫びと共に光は呪いの全てを吸収した。

(ロード!)

(っ··············)

 ロードの目には確かにその姿が見えた。満面の笑みで笑いかけるその姿は光が作り出したジン本人の姿。

(本当に、お疲れ様)

 できるだけ痛みを感じないように、ロードは優しく光を切り裂いた。
 呪いは悲鳴を上げ、光に包まれたまま完全に消滅する。
 光が消え、何も無くなったはずの場所には小さな一輪の花が咲いていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...