ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

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英雄奪還編 後編

七章 第八十五話 最後の二ヶ月

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  呪いが消滅した日から数週間後、ボーンネルには平穏な日々が戻っていた。その日、ボーンネルでは数万年ぶりに八人の帝王が一箇所に集まり話し合いが行われることとなっていた。議題は各国の流通解放について。以前までは鎖国状態にあった龍帝や魔帝の治める国を開国し各国が連携していくことが目的である。

「······なあお前達、どうしてわざわざ帝王のいないここで話し合いをする。他所でやればいいだろ」

 クレースがそう言うとゲルオードは申し訳なさそうに答えた。

「こ、ここならジンがおるからな。話が上手い具合にまとまるのだ。ジンはどこだ?」

「家で寝てる、あと今は無理だ」

「寝てる·····もう昼過ぎだろ。起こしてもいいのではないか?」

「私が起こしてくるぞ!!」

「おい待て!」

 クレースの制止を振り切りシリスは一人でジンの家へと向かった。その後暫く集会所に集まっていた帝王達はヴァンの料理に舌鼓を打ちつつ話に花を咲かせていた。この会議に参加するのは帝王の側近に加えて、祖龍、ボーンネルの幹部。数分するとドアが突き破られシリスが大慌てで戻って来た。

「おいクレース! ジンが子どもみたいになってるぞ!!」

「あぁ、そういえばお前この数週間ジンと会ってなかったな」

「———クシュん」

 シリスが抱きかかえるジンは普段より更にあどけなく目の焦点が上手く合っていないようだった。その様子に帝王達は首を傾げ、ネフティスだけ自慢げに説明を始める。

「此奴は今、精神世界の半分以上が崩壊しとる。内側から修復中じゃがまだ暫くかかる。それまでは赤子のやること以外出来ぬ」

「えぇ~!? もっと早く言ってくれよ! ジンで遊び放題だろ!」

「人聞きの悪いこと言うな。そういうことだから、剣帝と緋帝。お前達は直接話したいみたいだが暫くは無理だ。急ぎの用なら私に言え」

「俺はそこまで急ぎじゃねえから大丈夫だ」

「同じく」

「シリス、これからジンは週に一度の健康診断だ。ガルの背中に乗せろ」

 シリスの壊した扉からは背中にパールを乗せたガルがお座りをして待っていた。

「ジンのことむかえに来たの」

「バゥ!」

「嫌だ! このまま私が連れていく! 何処に行けばいいのだ?」

「リエルとルースの所だ。一階に居る」

「ベージュ、私の代わりに会議は頼んだぞ」

「······はあ、かしこまりました。行っていいですよ。でも迎えに来てくれたお二人も連れて行ってください」

「よしパール、ガル、私に着いてくるのだ」

 シリス達が部屋を後にしたのを確認するとゲルオードはおもむろに口を開いた。

「シリスがは居ないがこうして帝王が集まったのだ。一つ俺から提案があってな。単刀直入に言うがジンを帝王にするのはどうだ?」

「·········」

 数秒の沈黙。隣にいたゼステナはすぐさまゲルオードの胸ぐらに掴みかかり怒鳴りつけた。

「はあ!? 何でジンがお前達とおんなじレベルなんだよ!! せめて祖龍だろ!」

「ゼステナ、私達は龍だから。ジン様は人間よ。ただ、帝王如きと同等に扱うのはあまりにも不敬では? ねえゼグトス?」

「ええ、思わず手が出るところでした」

 その後数十分間、帝王や祖龍が言い争いになったが最終的に意見は纏まらずクレースがその場を収めることでようやく落ち着きを取り戻した。結論としてジンは帝王にも祖龍にもなることはなく絶対的な中立としての立場が約束されることとなった。

 白熱した議論が終わってからは再びその場は笑い声に包まれた。帝王や祖龍達の間にいつの間にか生まれていた長年の確執はこの日の話し合いを境に解消されていくこととなる。


 **********************************


「おーい連れてきたぞ!」

 リエルとルースの元へ着いたシリスは身体にしがみついていたジンをなんとか引き離しベッドの上に寝かせた。

「シリス様、ありがとうございます。皆さんここで待っておられますか?」

「うむ!」

「まってる」

「ガゥ!」

「すまん、待たせたか」

 そのタイミングでデュランが部屋に入ってきた。

「いいえ、丁度今から始めるところです」

 リエルとルースはジンの身体の各部位に手を合わせて静かに目を閉じた。治癒魔法ではなく、体内の様子を観察し異常があれば除去、または記録する。単純でありながら神経を使うこの作業を二人は十分ほどで全て終わらせた。

「······身体の中に異常はありませんでした。シリス様、このままジン様を連れて行かれますか?」

「もちろん! ジンで遊ぶぞ!」

「おいおい、人聞きが悪いぞ」

 健康診断が終わり、シリス達は再び元の部屋へと戻っていった。扉を出たことを確認するとリエルとルースの顔から柔らかい表情は消えこわばった顔に変化する。デュランがこの場に来たのは本当の結果を聞くためである。故に二人の顔でデュランは凡その状況を理解した。

「ジン様はとても頑張っていらっしゃいます、必死に立ち上がろうと。魔法も以前のように使えるようになるかもしれません。精神だってきっとこのまま問題なく回復します」

 リエルは俯いたまま、まるで綺麗事を並べるようにそう言った。ルースはリエルの手を握り、真っ直ぐデュランの目を見る。言葉は喉に詰まり上手く出てこなかった。ゆっくりと深呼吸をしてようやくルースは話し始める。

「ジン様はこれまで人間の身体には到底耐えられないような魔法を行使されてきました。それだけならばあまり問題はなかったのかもしれません。ですが呪いに蝕まれた肉体は治癒魔法で解決できるものではありません。正直、身体が動いているのが不思議なほどの状態です。あらゆる治癒魔法で延命措置を取るつもりです·····それでも、持って二ヶ月かと」

「·····そうか」

唐突に告げられた余命にデュランは沈黙したままその場で立ち尽くした。
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