ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
237 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第八十六話 女神の来訪

しおりを挟む
 
 帝王達の話し合いから三日後。その日ボーンネルには天界から女神エメスティアの来訪が予定されていた。天からは鐘が鳴り響き天使達は仰々しい様子でエメスティアの道をつくる。そうして現れたエメスティアにはクリュスとゼステナが対応していた。

「お前さぁ。黙って来れないの? ジンが鐘の音にびっくりしてたんだけど」

「申し訳ありません。ですがもう一度ジンに会いたかったんです。付き添いはこちらのアクアのみで、他の天使達はすぐに帰りますので」

「ジン様は現在話せる状況ではありませんよ。精神世界の修復中です。帰ってくれると嬉しいのだけれど」

「貴様·····エメスティア様がわざわざ御足労なされたんだ。無礼だぞ」

「アクア、よいのです」

「本当に分かってないわね。ジン様がいなければエメスティアは今頃呪いで死んでいたのよ。感謝なさい」

「それは······」

「まあこのまま大勢いられるのは面倒だから。入れば。家の中でパール達と遊んでるよ。それと付き添いのお前は外で待っとけよ」

 ゼステナの後ろにあるジンの家からは幸せそうな声が外へ漏れ出していた。

「エメスティア様、やはりわざわざこのようなこと····」

「いいえ、あなたはここで待っていてください」

 アクアは不満げに了承しエメスティアはそのままジンの家へと入っていった。

 外から聞こえていた声はさらに盛り上がりを見せ小さな家の中は熱気に満ち溢れていた。エメスティアが部屋の中に入るとそこにはジンやパールに加え大の大人達も共に盛り上がっていた。

「あー」

 ジンがエメスティアを指差すと一気に部屋の入り口に注目が集まった。緊張し固まるエメスティアにクレースは笑顔で、そして優しい口調で話しかけた。

「エメスティアか。この前はジンを助けてくれてありがとうな」

「いえ、御礼を言いに来たのは私の方です。こうして元気な姿が見れただけで私は満足です。きっと今は私の言っていることが分からないのかもしれません。ですがせめて、最大限の敬意を」

 そう言ってエメスティアは跪き左手を胸に当てた。それは天使が女神に対してのみ行う最大限の敬意を示すものである。

「長く居ても迷惑になりますので私はこれで。また話せるようになった時、再び訪れたいと思います。それでは·····ッ?」

 帰り際、パールはエメスティアの服の裾を掴み制止させた。

「······パール、あなたのお母さんはそこに居ますよ」

「知ってる。わたしのお母さんはジン。でも·····また私にも会いに来て」

「······」

 エメスティアは振り返り黙ったままパールを強く抱き締めた。そうして全員に一礼すると天界へと帰っていったのだった。

「そういえばデュランはどこじゃ。今朝から見ておらんのう」

「デュランなら三日前からマニアの研究室で治癒魔法を研究しテル。朝昼夜ご飯の時だけジンに会いに来てルヨ」

「そうか······じゃがジンの体調は問題ないんじゃろ?」

「まあ······歩けなくなったのと片目が見えないのは呪いが消えても治ってないカラネ。それにトキワの人工心臓もあの時に急いで作ったからまだまだ最適化はできるかもしれナイ」

「ああ、人工心臓ならいくつか試作品は作ってるぜ。まだまだ改良が必要だけどな」

「あの、少し提案があるんだがいいか」      

 ジンの後ろに座っていたレイの言葉に全員が耳を傾けた。

「少し話は変わるがジンのことで一つ。もうすぐジンの誕生日だろ。ボーンネルは誕生日に贈り物を渡すだけだったよな。私の祖国では誕生日にパーティーを開く·····らしい。ジンの誕生日に贈り物だけで終わらせるのはどうかと思うんだ。呪いから解放されたお祝いも込めて同じようにパーティーを開くのはどうだ?」

「らしいってお前の誕生日はどうだったんだ」

「いや私の家庭はそういう華やかものとは縁遠いからな」

「いいじゃねえか。それなら俺とガルミューラの結婚式も同じ日に開くか」

「······え?」

 トキワの発言にその場にいた数名は固まった。そんな様子を見て笑みを浮かべつつトキワは話を続ける。

「何人かには伝えたけどよ、今言った通りだ。ガルミューラと結婚する。」

「ジンにはもう伝えてたのか?」

「もちろんだ。少し前にな。子どもが産まれればジンに名前をつけてもらう。まあ、まだまだ先の話になるけどな。今のジンなら安心だろ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

軽トラの荷台にダンジョンができました★車ごと【非破壊オブジェクト化】して移動要塞になったので快適探索者生活を始めたいと思います

こげ丸
ファンタジー
===運べるプライベートダンジョンで自由気ままな快適最強探索者生活!=== ダンジョンが出来て三〇年。平凡なエンジニアとして過ごしていた主人公だが、ある日突然軽トラの荷台にダンジョンゲートが発生したことをきっかけに、遅咲きながら探索者デビューすることを決意する。 でも別に最強なんて目指さない。 それなりに強くなって、それなりに稼げるようになれれば十分と思っていたのだが……。 フィールドボス化した愛犬(パグ)に非破壊オブジェクト化して移動要塞と化した軽トラ。ユニークスキル「ダンジョンアドミニストレーター」を得てダンジョンの管理者となった主人公が「それなり」ですむわけがなかった。 これは、プライベートダンジョンを利用した快適生活を送りつつ、最強探索者へと駆け上がっていく一人と一匹……とその他大勢の配下たちの物語。

チート魔力はお金のために使うもの~守銭奴転移を果たした俺にはチートな仲間が集まるらしい~

桜桃-サクランボ-
ファンタジー
金さえあれば人生はどうにでもなる――そう信じている二十八歳の守銭奴、鏡谷知里。 交通事故で意識が朦朧とする中、目を覚ますと見知らぬ異世界で、目の前には見たことがないドラゴン。 そして、なぜか“チート魔力持ち”になっていた。 その莫大な魔力は、もともと自分が持っていた付与魔力に、封印されていた冒険者の魔力が重なってしまった結果らしい。 だが、それが不幸の始まりだった。 世界を恐怖で支配する集団――「世界を束ねる管理者」。 彼らに目をつけられてしまった知里は、巻き込まれたくないのに狙われる羽目になってしまう。 さらに、人を疑うことを知らない純粋すぎる二人と行動を共にすることになり、望んでもいないのに“冒険者”として動くことになってしまった。 金を稼ごうとすれば邪魔が入り、巻き込まれたくないのに事件に引きずられる。 面倒ごとから逃げたい守銭奴と、世界の頂点に立つ管理者。 本来交わらないはずの二つが、過去の冒険者の残した魔力によってぶつかり合う、異世界ファンタジー。 ※小説家になろう・カクヨムでも更新中 ※表紙:あニキさん ※ ※がタイトルにある話に挿絵アリ ※月、水、金、更新予定!

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

処理中です...