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英雄奪還編 後編
七章 第八十七話 201へ
しおりを挟むジンの自宅。朝を迎え、修復途中だったジンの精神世界は目覚めと共に完全に元通りとなっていた。
「······かなり寝てた感じがする。あれ、ブレンドもここで寝てたんだ」
声に反応しジンの胸元で小さく丸まり眠っていたブレンドは目を覚ました。
「よっ、ぼくブレンド」
「そうだね。ブレンドだよ」
「······あれ、赤さんじゃなくなってる。いつものジン」
「赤さん?」
「あぁ! ジン元にもどってる!!」
パールはジンが普段通りに戻ったことに気づくと飛び起き胸に抱き付いた。
「バウ!!」
「あれ、ガルどこ行くの?」
ガルが隣の部屋に走り出した数秒後。クレースは慌てた様子でジンのいる部屋へと駆け込んできた。
「おはようクレース。今日はここで寝てたの?」
「······ジン」
「えっ····急に泣いてどうしたの?」
「泣いてない·····私は大丈夫だ」
「そっかぁ。私たくさん話したいことがあるんだ」
「私もだ。みんなを呼んでくる」
その後、ジンの家には一日中国内外問わず、多くの者が訪れた。感謝を伝える者。泣いて喜ぶ者。ジンはそんな多くの者たち全員に対し笑顔で接していた。
そして夜、ジンの家には最後の客が訪れた。客人は二人。剣帝ベオウルフとラグナルクである。部屋にはクレースを含めた四人のみ。ラグナルクは少し落ち着きのない様子だった。
「すまねえなジン。少し前からラグナルクのやつがジンと直接話したかったみたいなんだ。疲れてねえか?」
「全然、話せて嬉しい」
ラグナルクはジンを一瞥するとゆっくり深呼吸をし話し始めた。
「世間話をするつもりはない。本題から話させてもらおう。私には少し先の未来が見える。見えるのは少し先の未来だ。だが先日、天使の影響で一度だけ遠くの未来が見えた。その際、ある女性と再会する未来が見えたのだ。彼女の名はフィオーレ。かつて我らと共に戦った誇り高き騎士だ。そして未来でフィオーレを助けたのはお前なのだ。ジン」
「どういうことだ。死人だろ?」
「助けた方法を詳しく知っているわけではない。ただ、ジンの手によりフィオーレが復活した光景を私は見たのだ。どんなに小さなことでもいい。何か知っていることはないか」
「すまないがジンは死者を蘇生させるほどの力を持っていない。以前ならまだしも、今は———」
「待ってクレース。できるかもしれない」
「できるのかッ——」
ラグナルクとベオウルフは驚き同時に聞き返した。
「実はね、ロードの中に私の魔力を溜めてたままなんだ。だからその魔力を使えば問題はない。今のロードを介せば私が他人の過去に干渉することも可能だと思う。だけど絶対に助けられるっていう保証は無いよ」
「それって····ありなのか? 過去を変えるって禁忌だろ」
「クレース。やってもいい?」
「いいぞ。何かあれば私に任せろ」
「それならジンの魔法でッ———」
ラグナルクが言いかけた瞬間、扉が開きデュランが現れた。
「お父さん」
「二人とも、すまないが今の話はなしだ」
その言葉にラグナルクは立ち上がりデュランを睨み付けた。
「何故だ。断る理由がどこにある」
焦りを見せることなくあくまでも冷静に。だがラグナルクの静かな怒りは魔力として身体から漏れ出していた。
「今日のところは·····帰ってくれ。頼む」
「······」
「ラグナルク、今日は帰るぞ。向こう側にも色々と事情が····」
「黙れ!! 貴様はそれでいいのか! 少なくとも私は違う。貴様のような薄情な人間ではない!」
激昂するラグナルクの魔力は溢れ出し部屋は濃い魔力で満たされていた。
「ゴホッ——ゴホッ」
「ジン大丈夫か。おいラグナルク、魔力を抑えろ」
クレースの言葉に冷静さを取り戻したラグナルクは何も言わず部屋を後にした。
「すぐにリエルとルースを····」
「待ってクレース、大丈夫。落ち着いた」
「すまねえ、連れが迷惑かけた」
「大丈夫だよ。私の身体が弱いだけ」
「デュラン。ラグナルクの話を断ったのとジンの体調に関係があるのか」
「····剣帝、少し席を外してくれるか」
ベオウルフは何か察し頷くと一礼し部屋を出て行った。その後、デュランは簡易的な治癒魔法をジンに施しお茶を淹れる。クレースはデュランのそんな落ち着いた様子に苛立ちを見せていた。
「いい加減話せ。何があった」
「この国に伝わる英雄の話を知ってるか」
「なんだ突然。そいつの墓ならこの家の前にあるだろ」
「不思議だとは思ったことないか。英雄と呼ばれているにも関わらず、誰も名前を知らないなんて」
「······もしかして、お父さんは知ってるの?」
「ああ、知ってるよ。その人はね、遠い昔から世界各地に現れては多くの人の命を救ってきた。颯爽と現れては人を救い、助けられた人が御礼を言う間も無く何処かへ消えてしまう。名前も知らないその人のことを人々は皆、英雄として語り継いでいった。英雄が生きた証として昔に造られた墓には命日が記されている。俺が元いた世界でもそうだ。誰だと思う」
「私の知ってる人?」
「確か、記されていた数字は201だったか。201歳。人種では無さそうだな」
「ジンは今、何歳になる?」
デュランは優しく我が子に語りかけた。
「19歳と11ヶ月だよ。どうかしたの?」
「昔からジンは自分の年齢をそうやって説明する。そうだろクレース?」
「まさか·······」
「そう。英雄の名前はジン・ボーンネル。目の前にいる俺の娘だ」
「は······はぁ? どういうことだよ。何故もう墓がある。おかしいだろ」
「過去が未来によって形作られた。これからジンが魔法で過去に遡り、多くの者を助けることが運命として決まっている。だからあの墓はずっと昔からここに存在しているんだ。俺はさっきの会話で、その未来に逆らおうとした」
「なら家の前の墓が消えていればジンは過去に戻らないってことか」
「もう一度聞くぞ。この国に伝わる英雄の話を知ってるか」
「······知っている、ということはジンは過去に戻る。待てよ、お前が止めた理由は······」
「今のままだと命日は201つまり、二十歳と一ヶ月になる頃。余命は二ヶ月だ。リエルとルースの見立てでも間違いはない。だが過去に戻らなければ、何か変わるかもしれない。助けたいから今直接言っている。どうか分かってくれ」
呆然とするクレースに対し、ジンは全てを悟っていたように冷静さを保っていた。
「お父さん、もう一度ゆっくり話そ」
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