ボーンネル 〜辺境からの英雄譚〜

ふーみ

文字の大きさ
238 / 240
英雄奪還編 後編

七章 第八十七話 201へ

しおりを挟む
 
 ジンの自宅。朝を迎え、修復途中だったジンの精神世界は目覚めと共に完全に元通りとなっていた。

「······かなり寝てた感じがする。あれ、ブレンドもここで寝てたんだ」

 声に反応しジンの胸元で小さく丸まり眠っていたブレンドは目を覚ました。

「よっ、ぼくブレンド」

「そうだね。ブレンドだよ」

「······あれ、赤さんじゃなくなってる。いつものジン」

「赤さん?」

「あぁ! ジン元にもどってる!!」

 パールはジンが普段通りに戻ったことに気づくと飛び起き胸に抱き付いた。

「バウ!!」

「あれ、ガルどこ行くの?」

 ガルが隣の部屋に走り出した数秒後。クレースは慌てた様子でジンのいる部屋へと駆け込んできた。

「おはようクレース。今日はここで寝てたの?」

「······ジン」

「えっ····急に泣いてどうしたの?」

「泣いてない·····私は大丈夫だ」

「そっかぁ。私たくさん話したいことがあるんだ」

「私もだ。みんなを呼んでくる」

 その後、ジンの家には一日中国内外問わず、多くの者が訪れた。感謝を伝える者。泣いて喜ぶ者。ジンはそんな多くの者たち全員に対し笑顔で接していた。

 そして夜、ジンの家には最後の客が訪れた。客人は二人。剣帝ベオウルフとラグナルクである。部屋にはクレースを含めた四人のみ。ラグナルクは少し落ち着きのない様子だった。

「すまねえなジン。少し前からラグナルクのやつがジンと直接話したかったみたいなんだ。疲れてねえか?」

「全然、話せて嬉しい」

 ラグナルクはジンを一瞥するとゆっくり深呼吸をし話し始めた。

「世間話をするつもりはない。本題から話させてもらおう。私には少し先の未来が見える。見えるのは少し先の未来だ。だが先日、天使の影響で一度だけ遠くの未来が見えた。その際、ある女性と再会する未来が見えたのだ。彼女の名はフィオーレ。かつて我らと共に戦った誇り高き騎士だ。そして未来でフィオーレを助けたのはお前なのだ。ジン」

「どういうことだ。死人だろ?」

「助けた方法を詳しく知っているわけではない。ただ、ジンの手によりフィオーレが復活した光景を私は見たのだ。どんなに小さなことでもいい。何か知っていることはないか」

「すまないがジンは死者を蘇生させるほどの力を持っていない。以前ならまだしも、今は———」

「待ってクレース。できるかもしれない」

「できるのかッ——」

 ラグナルクとベオウルフは驚き同時に聞き返した。

「実はね、ロードの中に私の魔力を溜めてたままなんだ。だからその魔力を使えば問題はない。今のロードを介せば私が他人の過去に干渉することも可能だと思う。だけど絶対に助けられるっていう保証は無いよ」

「それって····ありなのか? 過去を変えるって禁忌だろ」

「クレース。やってもいい?」

「いいぞ。何かあれば私に任せろ」

「それならジンの魔法でッ———」

 ラグナルクが言いかけた瞬間、扉が開きデュランが現れた。

「お父さん」

「二人とも、すまないが今の話はなしだ」

 その言葉にラグナルクは立ち上がりデュランを睨み付けた。

「何故だ。断る理由がどこにある」

 焦りを見せることなくあくまでも冷静に。だがラグナルクの静かな怒りは魔力として身体から漏れ出していた。

「今日のところは·····帰ってくれ。頼む」

「······」

「ラグナルク、今日は帰るぞ。向こう側にも色々と事情が····」

「黙れ!! 貴様はそれでいいのか! 少なくとも私は違う。貴様のような薄情な人間ではない!」

 激昂するラグナルクの魔力は溢れ出し部屋は濃い魔力で満たされていた。

「ゴホッ——ゴホッ」

「ジン大丈夫か。おいラグナルク、魔力を抑えろ」

 クレースの言葉に冷静さを取り戻したラグナルクは何も言わず部屋を後にした。

「すぐにリエルとルースを····」

「待ってクレース、大丈夫。落ち着いた」

「すまねえ、連れが迷惑かけた」

「大丈夫だよ。私の身体が弱いだけ」

「デュラン。ラグナルクの話を断ったのとジンの体調に関係があるのか」

「····剣帝、少し席を外してくれるか」

 ベオウルフは何か察し頷くと一礼し部屋を出て行った。その後、デュランは簡易的な治癒魔法をジンに施しお茶を淹れる。クレースはデュランのそんな落ち着いた様子に苛立ちを見せていた。

「いい加減話せ。何があった」

「この国に伝わる英雄の話を知ってるか」

「なんだ突然。そいつの墓ならこの家の前にあるだろ」

「不思議だとは思ったことないか。英雄と呼ばれているにも関わらず、誰も名前を知らないなんて」

「······もしかして、お父さんは知ってるの?」

「ああ、知ってるよ。その人はね、遠い昔から世界各地に現れては多くの人の命を救ってきた。颯爽と現れては人を救い、助けられた人が御礼を言う間も無く何処かへ消えてしまう。名前も知らないその人のことを人々は皆、英雄として語り継いでいった。英雄が生きた証として昔に造られた墓には命日が記されている。俺が元いた世界でもそうだ。誰だと思う」

「私の知ってる人?」

「確か、記されていた数字は201だったか。201歳。人種では無さそうだな」

「ジンは今、何歳になる?」

 デュランは優しく我が子に語りかけた。

「19歳と11ヶ月だよ。どうかしたの?」

「昔からジンは自分の年齢をそうやって説明する。そうだろクレース?」

「まさか·······」

「そう。英雄の名前はジン・ボーンネル。目の前にいる俺の娘だ」

「は······はぁ? どういうことだよ。何故もう墓がある。おかしいだろ」

「過去が未来によって形作られた。これからジンが魔法で過去に遡り、多くの者を助けることが運命として決まっている。だからあの墓はずっと昔からここに存在しているんだ。俺はさっきの会話で、その未来に逆らおうとした」

「なら家の前の墓が消えていればジンは過去に戻らないってことか」

「もう一度聞くぞ。この国に伝わる英雄の話を知ってるか」

「······知っている、ということはジンは過去に戻る。待てよ、お前が止めた理由は······」

「今のままだと命日は201つまり、二十歳と一ヶ月になる頃。余命は二ヶ月だ。リエルとルースの見立てでも間違いはない。だが過去に戻らなければ、何か変わるかもしれない。助けたいから今直接言っている。どうか分かってくれ」

 呆然とするクレースに対し、ジンは全てを悟っていたように冷静さを保っていた。

「お父さん、もう一度ゆっくり話そ」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

追放された味噌カス第7王子の異種族たちと,のんびり辺境地開発

ハーフのクロエ
ファンタジー
 アテナ王国の末っ子の第7王子に産まれたルーファスは魔力が0で無能者と言われ、大陸の妖精族や亜人やモンスターの多い大陸から離れた無人島に追放される。だが前世は万能スキル持ちで魔王を倒し英雄と呼ばれていたのを隠し生まれ変わってスローライフを送る為に無能者を装っていたのだ。そんなルーファスはスローライフを送るつもりが、無人島には人間族以外の種族の独自に進化した先住民がおり、周りの人たちが勝手に動いて気が付けば豊かで平和な強国を起こしていく物語です。

ガチャで領地改革! 没落辺境を職人召喚で立て直す若き領主

雪奈 水無月
ファンタジー
魔物大侵攻《モンスター・テンペスト》で父を失い、十五歳で領主となったロイド。 荒れ果てた辺境領を支えたのは、幼馴染のメイド・リーナと執事セバス、そして領民たちだった。 十八歳になったある日、女神アウレリアから“祝福”が降り、 ロイドの中で《スキル職人ガチャ》が覚醒する。 ガチャから現れるのは、防衛・経済・流通・娯楽など、 領地再建に不可欠な各分野のエキスパートたち。 魔物被害、経済不安、流通の断絶── 没落寸前の領地に、ようやく希望の光が差し込む。 新たな仲間と共に、若き領主ロイドの“辺境再生”が始まる。

「婚約破棄された転生令嬢ですが、王城のメイド五百人に慕われるメイド長になりました。なお元婚約者は私のメイドに土下座中です」

まさき
恋愛
社畜OLとして過労死した私は、異世界の令嬢・アリア・ヴェルナーに転生した。 目が覚めたら、婚約破棄されていた。 理由は「地味で面白みがない」から。 泣く暇もなかった。翌朝、王城のメイド採用面接に向かった。 最初は鼻で笑われた。雑用係からのスタートだった。 でも——前世で叩き込まれた仕事術と、一人ひとりの話を聞く姿勢で、少しずつメイドたちが集まってきた。 厨房が変わった。リネンが変わった。王城全体が変わっていった。 そして就任スピーチで宣言した。 「500人全員の名前を、覚えます」 冷酷と噂される王太子は、静かに見ていた。 悪役令嬢は妨害を仕掛けてきた。 元婚約者は——後悔し始めていた。 婚約破棄された令嬢が、500人に慕われるメイド長になるまでの物語。 なお元婚約者は、私のメイドたちの前で土下座中です。

異世界召喚は7回目…って、いい加減にしろよ‼︎

アノマロカリス
ファンタジー
『おぉ、勇者達よ! 良くぞ来てくれた‼︎』 見知らぬ城の中、床には魔法陣、王族の服装は中世の時代を感じさせる衣装… 俺こと不知火 朔夜(しらぬい さくや)は、クラスメートの4人と一緒に異世界に召喚された。 突然の事で戸惑うクラスメート達… だが俺はうんざりした顔で深い溜息を吐いた。 「またか…」 王族達の話では、定番中の定番の魔王が世界を支配しているから倒してくれという話だ。 そして儀式により…イケメンの正義は【勇者】を、ギャルっぽい美紅は【聖戦士】を、クラス委員長の真美は【聖女】を、秀才の悠斗は【賢者】になった。 そして俺はというと…? 『おぉ、伝承にある通り…異世界から召喚された者には、素晴らしい加護が与えられた!』 「それよりも不知火君は何を得たんだ?」 イケメンの正義は爽やかな笑顔で聞いてきた。 俺は儀式の札を見ると、【アンノウン】と書かれていた。 その場にいた者達は、俺の加護を見ると… 「正体不明で気味が悪い」とか、「得体が知れない」とか好き放題言っていた。 『ふむ…朔夜殿だけ分からずじまいか。だが、異世界から来た者達よ、期待しておるぞ!』 王族も前の4人が上位のジョブを引いた物だから、俺の事はどうでも良いらしい。 まぁ、その方が気楽で良い。 そして正義は、リーダーとして皆に言った。 「魔王を倒して元の世界に帰ろう!」 正義の言葉に3人は頷いたが、俺は正義に言った。 「魔王を倒すという志は立派だが、まずは魔物と戦って勝利をしてから言え!」 「僕達には素晴らしい加護の恩恵があるから…」 「肩書きがどんなに立派でも、魔物を前にしたら思う様には動けないんだ。現実を知れ!」 「何よ偉そうに…アンタだったら出来るというの?」 「良いか…殴り合いの喧嘩もしたことがない奴が、いきなり魔物に勝てる訳が無いんだ。お前達は、ゲーム感覚でいるみたいだが現実はそんなに甘く無いぞ!」 「ずいぶん知ったような口を聞くね。不知火は経験があるのか?」 「あるよ、異世界召喚は今回が初めてでは無いからな…」 俺は右手を上げると、頭上から光に照らされて黄金の甲冑と二振の聖剣を手にした。 「その…鎧と剣は?」 「これが証拠だ。この鎧と剣は、今迄の世界を救った報酬として貰った。」 「今迄って…今回が2回目では無いのか?」 「今回で7回目だ!マジでいい加減にして欲しいよ。」 俺はうんざりしながら答えた。 そう…今回の異世界召喚で7回目なのだ。 いずれの世界も救って来た。 そして今度の世界は…? 6月22日 HOTランキングで6位になりました! 6月23日 HOTランキングで4位になりました! 昼過ぎには3位になっていました.°(ಗдಗ。)°. 6月24日 HOTランキングで2位になりました! 皆様、応援有り難う御座いますm(_ _)m

【完結】子爵令嬢の秘密

りまり
恋愛
私は記憶があるまま転生しました。 転生先は子爵令嬢です。 魔力もそこそこありますので記憶をもとに頑張りたいです。

攻撃魔法を使えないヒーラーの俺が、回復魔法で最強でした。 -俺は何度でも救うとそう決めた-【[完]】

水無月いい人(minazuki)
ファンタジー
【HOTランキング一位獲得作品】 【一次選考通過作品】 ---  とある剣と魔法の世界で、  ある男女の間に赤ん坊が生まれた。  名をアスフィ・シーネット。  才能が無ければ魔法が使えない、そんな世界で彼は運良く魔法の才能を持って産まれた。  だが、使用できるのは攻撃魔法ではなく回復魔法のみだった。  攻撃魔法を一切使えない彼は、冒険者達からも距離を置かれていた。 彼は誓う、俺は回復魔法で最強になると。  --------- もし気に入っていただけたら、ブクマや評価、感想をいただけると大変励みになります! #ヒラ俺 この度ついに完結しました。 1年以上書き続けた作品です。 途中迷走してました……。 今までありがとうございました! --- 追記:2025/09/20 再編、あるいは続編を書くか迷ってます。 もし気になる方は、 コメント頂けるとするかもしれないです。

クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました

髙橋ルイ
ファンタジー
「クラス全員で転移したけど俺のステータスは使役スキルが異常で出会った人全員を使役してしまいました」 気がつけば、クラスごと異世界に転移していた――。 しかし俺のステータスは“雑魚”と判定され、クラスメイトからは置き去りにされる。 「どうせ役立たずだろ」と笑われ、迫害され、孤独になった俺。 だが……一人きりになったとき、俺は気づく。 唯一与えられた“使役スキル”が 異常すぎる力 を秘めていることに。 出会った人間も、魔物も、精霊すら――すべて俺の配下になってしまう。 雑魚と蔑まれたはずの俺は、気づけば誰よりも強大な軍勢を率いる存在へ。 これは、クラスで孤立していた少年が「異常な使役スキル」で異世界を歩む物語。 裏切ったクラスメイトを見返すのか、それとも新たな仲間とスローライフを選ぶのか―― 運命を決めるのは、すべて“使役”の先にある。 毎朝7時更新中です。⭐お気に入りで応援いただけると励みになります! 期間限定で10時と17時と21時も投稿予定 ※表紙のイラストはAIによるイメージです

処理中です...