Maria

Ⅰ

踊る

ずっと昔の中国の悪女といえば？

という質問には
『則天武后』や
『西太后』などが出てくるが、
その中でも『妲己だっき』という女の名は
結構はじめに出てくると思う。
彼女は酒池肉林を貪り、
庭で素っ裸の男女に踊らせたとか。
様々な悪事が記載されている。
最終的に彼女は
一つの国を滅ぼした。

別に国を滅ぼすつもりもないし、
酒池肉林を貪りたい訳でもない。

マリアは庭園の綺麗な噴水の前で
アジア風の水着に着替え踊っていた。

紅色をメインとするその水着の
尻の部分には
これまた紅色の絹が付いている。
水着姿の場合、
裸足が一般的だが
彼女は紅色の7cm程のピンヒールを履いて
激しく踊っていた。
音楽が流れている訳ではない。
気まぐれだ。

ふと見ると、
庭園の塀の外から
男達がこちらを覗いていた。
多分、
激しい水しぶきとヒールの音に
不思議がっているのだろう。
マリアは気にせず踊った。
付きにはアフロディーテがいて、
彼女がこけてもいいよう
いつでも支えられるようにしていた。
アフロディーテは
大変セクシーな体型で華奢な腕を持つが、
その力は固く信用できた。

楽しかった。

ただ楽しかった。

自分が自由であるような
錯覚を抱けた。