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Maria*reverse Ⅰ
8年前
しおりを挟む8年前ということは
マリアが18歳、アダムが19歳、
キリストが20歳の時ということになる。
キリストは
親からの跡継ぎに関する問題で
相当なストレスを抱えていた。
キリストは元々、
とある孤児院にいた
身寄りのいない少年であったのだ。
跡継ぎの子供が生まれなくて
途方に暮れていたある公爵に拾われて
6歳の時に
孤児からいきなり子爵へと成り上がったのだ。
慣れない上層教育を何とかこなして
公爵家にも慣れ
彼が20歳を迎えたある日、
その公爵に一人の子供ができたのである。
ここからが面倒な話で
跡継ぎを養子のキリストにするか、
実の息子にするかで
約半年ほどの論争が続いていたのである。
今日は
この国一の金持ち公爵のご令嬢の
誕生パーティーだった。
が、
日々のストレスに耐え切れなかったキリストは
気分転換に相手公爵の庭を散歩していた。
キ「……はぁ、
跡継ぎ問題など
俺は別にどうでもいいんだがな」
真っ白な大理石の庭を歩きながら
ふと、
噴水のほうに誰かいるのが分かった。
子供の頃から
警戒心を常に持っていなければ
ろくな事が無かったキリストは
20歳になった今でも
この癖は治らなかった。
薔薇のアーチから
こっそりと覗いてみると、
そこには
とても美しい光景が広がっていた。
「夢の中、
いつも2人でいたいの。
貴方だけ気になる瞬間が
もう何年も前にあったわ。
恋すると、
何かが変わるね。
目を閉じて、
確かめてみるとよくわかるわ。
抱きしめた、
そのときめきを集めて
貴方にお返しをしたいの~♪」
あまりにも可愛らしい声と歌詞に
キリストは薔薇のアーチから姿を出した。
相手は背中を向けているため
こちらには気付いていないようだ。
その小柄な体のラインが
透けて見えてくる白いドレスは
噴水の水に濡れて
どこか涼しげな雰囲気を醸し出していた。
綺麗な長い金髪は
ゆるくウェーブがかかっており、
思わず頭を撫でたくなった。
キ「その『貴方』とやらは
誰のことを言っているのです?」
「え?」
キ「…っ……」
この敷地内にいるという事は
庶民ではないということだ。
一応、
教えこまれた礼儀作法にのっとる。
振り向いた彼女は
本当に、
本当に美しかった。
世間の汚いことなど
何も知らずに育った事が
その瞳の綺麗さでよくわかった。
空よりも明るく
海よりも深いその青い瞳は
優しい笑顔でこちらを見つめた。
汚い世界で育ったキリストにとって
綺麗な世界で育ったその彼女は
どこか特別な感情を沸き上がらせた。
生まれて初めてだ。
こんな感情は。
「貴方は誰?」
キ「私は今日開催されたパーティーに
参加している
メルビモ公爵の息子です。
と言っても、
義理ですが。」
「そうでしたか。
パーティーは御楽しい?」
キ「まぁまぁと言ったところでしょうか。
ところで貴方の名前は?」
「私?
私、イヴです。
イヴ・セレーネ。
今日の誕生パーティー、
開催して下さり嬉しいです♪」
キ「あぁ、これは失礼。
レディ・イヴでしたか。
先程のご無礼をどうかお許し下さい。」
教えられたとおりのことを
そのまま使うと、
イヴ令嬢は「ふふ♪」と
可愛らしく笑い
キリストの肩に手を置いた。
キ「?」
イ「そんなにかしこまらずとも、
私は気にしませんよ?」
キ「っ!」
その言葉には
「無理をしなくてもいいんですよ?」
という、
彼女の優しさがよく伝わってきた。
イ「上品じゃなくても良いですよ。
私は気にしませんもの♪」
キ「………では、
お言葉に甘えて。
貴方は何故ここにいるのです。
今日は貴方が主役では?」
すると、
イヴはふぅと一息つき
空の満月を指さした。
イ「誕生日なんて、
私興味ありませんもの。」
にこやかに笑いながら言うイヴは
本当に可愛らしかった。
キ「隣、よろしいですか?」
イ「どうぞ、
お好きなように♪」
噴水の淵に立つイヴの横に
そっと座るキリストの服装は
彼女の真っ白なドレスとは反対に
真っ黒なタキシードであった。
美しいその横顔は
ただ真っ白な月の光に当たり
輝いていた。
ふと、
彼女がこちらを見つめ
首を傾げる。
イ「どうしました?」
キ「………美しい姿に
見とれていました。」
すると、
彼女は可愛らしく
「ふふふ」
と笑い
キリストに甘えるように言った。
イ「お上手♪」
キ「っ……」
これが一目惚れというやつか。
星空の下、
キリストはイヴの腰に腕を回して
抱きしめた。
いや、
抱きしめてしまったのだ。
自分でも驚いたキリストは
恐る恐るイヴを見た。
すると、
イヴは悲しそうな目で
こちらを見つめた。
イ「貴方……一人ぼっちなのね」
キ「っ………」
イ「寂しくて、寂しくて、
凄く辛いんでしょ。」
思わぬことに驚いてしまう。
全て当たっていたのだ。
キリストは
子供の頃から
我が子のように、
公爵らに愛されたかったのだ。
キ「何故……それを…」
すると、
彼女の青い瞳が
鋭く金色の線を走らせる。
イ「わかりますわ。
その瞳を見れば……」
キ「っ」
次の瞬間、
キリストはイヴを抱いて
セレーネ公爵の庭の横にある
大きな森の中へ姿を消した。
***********
ついたそこは、
キリストが勝手に自分の金で建てた
大きな館であった。
イヴは
大はしゃぎであたりを見つめていた。
イ「なんて素敵なお屋敷なの!」
罪悪感でいっぱいだった。
こんなにも
純粋で綺麗な子が育つということは
よっぽど親は
この子を大切にしたということだ。
それなのに……
イ「ねぇねぇ!
貴方、名前は何というの?」
キ「…………キリストだ。」
イ「えっ、キリスト様?
………………親は
凄い名前を貴方につけたのね。」
勿論嘘だ。
名前などない。
あの公爵は自分を
跡継ぎに使う人間くらいにしか
思っていなかったため、
情などいらないと思ったのだ。
キリストと名乗ったのは
彼女が丁度、
十字架のネックレスを付けていたからだ。
キ「それより、
もっと良いことしないか?」
イ「良いこと?」
イヴが不思議そうな顔をする前に
キリストは彼女の手首を掴みながら歩き、
自室へと向かった。
***********
部屋に入り
ベッドに彼女を寝かせると、
彼女は怯えながら聞いた。
イ「な………何をする気なの?」
流石の彼女も
ここまで来れば危機感を感じているようだ。
キリストは彼女の上にのしかかると
彼女のドレスを無理矢理脱がし、
その華奢で綺麗な体にキスをした。
イ「い、いや……止めて!
乱暴…っ、しないで!!」
涙をぽろぽろ流しながら
彼女は必死に抵抗するも、
今のキリストは聞く耳さえ持たない。
ただ彼女を無視して、
その体を引き寄せた。
***********
イ「っ…ぅっ……嫌って言ったのに…」
イヴは傷だらけの体を震わせ
ぐすぐすと泣きながら、
窓辺で煙草を吸うキリストに
小声で言った。
真っ黒な部屋の中、
窓が空いてるのはそこだけで
あとはみんな暗かった。
イヴは窓からの光に
金髪の長い髪を光らしながら
こちらに背を向けていた。
キリストにはもう、
罪悪感以外何も無かった。
抑えきれなかった本能と
心の綺麗な彼女を
傷つけてしまった事などで
どうしていいかも分からなかった。
しかし、
もう彼の心には
二度と変える気などない、
一つの決心があった。
それは、
キ「…………これから、
お前は俺の妻だ。」
イ「え」
キ「現にお前はもう、
ここからじゃ到底
自分の館に帰ることは出来ない。
それに、
返す気もない。」
イヴはそれを聞くと、
辛そうにくぅくぅ鼻を鳴らしながら
ベッドに寝転んだ。
彼女の瞳に
白と黒の螺旋状の光が入る。
イ「………わかりました。
……………でも、
貴方はこれから
どうやって生きていくのです?
セレーネ公爵の娘が
誘拐されたとなれば、
貴方は世間で身動きが
しづらいのでは?」
キ「俺は庶民共のように
どっかの会社の部下になったり、
社会での表向きな成功で
有名になったり、
他人から貰う金で生きていく気などない。
俺は自分の作った
裏社会の組織で、
沢山の部下を雇い、
社会での裏向きな成功で
世界の自由を手に入れる気だ。
だから、
身動きなどはどうでもいい。」
イ「………では、
私は貴方の妻として
貴方を癒しましょう。」
キ「しかし、
裏社会で本名など使ってはいけない。
俺はこのままで通すつもりだが。
お前は何が良い?」
イ「私は………貴方がキリストなら
………マリア、にするわ。
聖母マリアの方よ?」
キ「良いだろう。
何か決めておきたいルールとか
何かあるか?」
マリアの瞳が巧妙に光る。
イ「では………
こういうのはいかがでしょう。
組織内の反逆者には
『リリス』という称号を与え、
その者を組織から追放するのです。」
キ「………あぁ…良いだろう」
少し不思議だった。
何故殺すのではなく、
追放するのか。
キリストにはよくわからなかったが、
とりあえず承知した。
遠くの方の太陽が
こちらを見つめる。
そうじゃないのと沈んでいった。
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