Maria

エターナル★

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Maria*reverse Ⅰ

Last Story

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涙が流れ落ちる………

***********

会いたい、
貴方に会いたい。
その声、その顔、その体、その匂い、
全て私は手に入れたかった。

貴方に会いたい。
その大きな腕で抱き締めて、
また貴方の愛が欲しい。

貴方にまた恋したい。
貴方に、
名前を呼ばれたい。
貴方にまた見られたい。
私を見て。
私に気づいて。

貴方の笑顔、貴方の言動、
全て私は愛してる。
大好き。
大好きなの。
ずっとずっと……

***********

ページをめくればめくるほど、
そのページは涙で皴になっていた。

***********

私に気づいて。
貴方の愛が欲しい。
気づいて。
そして連れ去って。
貴方と人生を歩みたい。
貴方と幸せになりたい。
貴方と一つになりたい。

貴方が恋しい。
手をつなぎたい。
見つめあいたい。

貴方に会いたい……
また貴方に会いたい………

***********

何かを耐えるようにして書かれた
その文字に
何故か涙が止まらなかった。

***********

お願い、気づいて。
お願い、お願い。

貴方が大好き。
心から愛してるの。

貴方の手をつなぎたい。
貴方の腕に抱きつきたい。
貴方に愛されたい。
貴方にまた会いたいの。
お願い…お願い……

***********

鼻水を垂らしながら
泣き崩れるアダムを見つめ、
アフロディーテは涙をこらえていた。

***********

アダム……
私、貴方の事大好き。
その手も、声も、顔も、体も、心も、
心から愛してる。

貴方が好き。
大好き。

貴方の存在の愛が欲しい。

私は貴方に奪われたい。
貴方と2人で、
どこか遠くへ、
誰にも邪魔されない静かな所で
貴方に所有されたい。
貴方のものになりたい。

……でも…でも………
もう私にそれは出来ない……

愛してるの。
大好きなの。
貴方の事、
忘れたことなんて1度も、
本当に一度もない。

助けてくれるって言った。
心配するなって言った。
……でもね?

もう………我慢出来ないよ…

***********

ア「……………え?」

アダムは………俺の本名だ。

彼の名はアダム・エンディミオン。
マリアに、
いや、イヴに……
気付いて欲しくて、
わざと本名にしたのだ。

ア「アダムって……」

アダムは訳が分からなくなり
アフロディーテに疑問の瞳を向けた。
アフロディーテは辛そうに、
今にも泣きそうにアダムに言った。

ア「マリア様は……
  貴方に気付かれたくて、
  貴方に攫われたくて、
  ずっと、ずっと、
  待っておられたのです。
  ………キリシャに入団し、
  キリスト様と結婚したあの8年前から…
  ずっと、
  貴方様の事を考えておられたのです。」
ア「そん、な……」

毎日男遊びに惚けていたあのマリアが、
キリストの愛する妻であったマリアが、
変わってしまったと思っていた、
あのマリアが……
俺の事が好きだった?

ア「これをお読み下さい。」

アフロディーテは涙を隠しながら
アダムに一通の分厚い手紙に渡した。

封を切り、
その手紙に目を通す。


***********

アダム・エンディミオン様

私がこの世を去り、
青白く冷たい月明かりが差す
2017年の冬の頃に
この手紙は
アフロディーテの手によって渡されます。

………どうです?
当たってるでしょ?



何から話して良いのか
何から話し始めるべきか
分からないのだけれど、
私を覚えていますか?

私です。
セレーネです。
イヴ・セレーネ。
貴方と18になるまで
ずっと一緒だった、
あのイヴです。
もし覚えて下さっているのなら、
この手紙の続きを読んで下さい。
覚えていないなら、
捨てて下さい。

*・*・*・*

8年前、
貴方が私を
ずっとずっと探してくれていた事、
私は知ってたわ。
ありがとう。

実はキリストと結婚をした次の日に、
私は自分の家に帰ろうとしてたの。
結婚、したから。
親に言わなくちゃと思って、
1人で庭の森から歩いて
家まで来てたの。

そしたら、ね?

向こうからがさがさ音がするから
木の影から覗いたら、
そこに貴方がいたの。
傷だらけになって、
泣き声で叫び草むらをかき分ける貴方を見た。

思わず出かけた声を押し殺したわ。
必死に必死に。
だって…ね?
今更貴方に会ったところで、
一体何を話すの?
相思相愛だった関係が
いきなり他人の手によって絶たれて、
そこでいきなり
「結婚したの」
なんて言えないもの。
顔も合わせられなかった。

私、貴方の事が大好きだった。
だから、辛くて辛くて、
仕方なかった。
不思議よね。
涙がぽろぽろ落ちてたの。
両手で口を抑えながら、
泣いて嗚咽を漏らしながら、
私はただ、
木の後ろ側にいる貴方に言い続けたわ。

ごめんなさい。ごめんなさい。って

泣きながら私を探してくれる、
貴方の愛が体いっぱいに伝わってきたわ。

両手で口を抑えて、
震えながら言い続けた。

ごめんなさい。ごめんなさい。

*・*・*・*

小さい頃に、
貴方が言った
『私が困っていたら助けてくれる』
っていう約束、
覚えてる?

私は、
貴方のその言葉を信じて8年間。
ずっと貴方を待ち続けた。
貴方が私を追って、
この団に入った事なんて分かっていた。
けど…結局貴方は
来てくれなかった……

キリシャには
反逆者に与えられる
『リリス』という位があるわ。
リリスになった者は必ず殺される。

でも、ある日ね?
キリストが私に言ったの。
お前がリリスになったら
俺はお前をキリシャから追放するって。
本当はキリシャ創立の時に
リリスになった者は
キリシャから追放するって言ってたけど、
キリストは忘れてたみたい。
私にとって、
キリシャとは
苦痛に満ちた場所でしかなかった。
だから、
私は計画したの。
リリスになろうって。

キリストは仕事以外で
他人と約束したことがないらしくて
そういうのはすぐ忘れちゃうの。
だから、
時々聞くの。
「私がリリスになったら、
 貴方は私を追放して下さる?」って。

何回、何百回、何千回の
性行為を続けて、
何回、何百回、何千回もの
下品な口をきいて、
毎日毎日、
下品な服を着続けた。

大体7年間は貴方を待ち続けた。

でも、
彼は私を追放しなかった。

だから、
8年目になって
私は本格的なリリスになって
追放されようと躍起になった。

裏組織界のボスであるキリシャを
底まで落としてしまおうとしたの。
だから、
私はその時から
無理矢理キリシャのボスになった。
狂っておかしくなったような演技をした。
皆、私に騙されたわ。

それから
彼が私に隠れて、
こっそり私を
リリスに陥れようとしてた事、
私は気付いてた。
大分前、
オーディンとポーカーをしたんだけど、
私はわざと彼に負けたわ。
リリスになりたくて。

キリシャのメンバーの個人情報が入ってる
極秘の資料を
世界中に拡散した。
それを見たキリストは
どうしょうもないと言った顔で
私を見て言ったわ。

「狂ってる」って。

その瞬間から
私はリリスになれた。
正真正銘のリリスに。
でも、ね?
おかしいの。
彼、私を追放するって言ったのに
私を殺す準備を始めたの。
そこでわかったの。
私はキリストに裏切られたんだって。

本当はね?
追放されたら、
貴方に会いに行くはずだったの。
貴方に会って、
今までのこと全て話して
貴方と……結婚したかったの…

いえ、
ずっと前から、
8年以上前から
ずっと貴方との結婚を夢見た。

綺麗なウエディングドレスの中から
気に入ったのを選んで、
貴方に見せるの。
それで、
顔を赤くして視線をそらす
貴方に抱きついて……

貴方と私は元々公爵家だけど
貴方の御両親はもういないから、
貴方はセレーネ公爵家の跡取りになるけど、
貴方はそれを気にするかしら。

お日様の照る暖かい日に
貴方と2人でお庭を散歩したかった。
雨のジメジメした日に
貴方と2人で外を眺めたかった。
曇のパッとしない日に
貴方と2人で暖炉に温まりながら
紅茶が飲みたかった。

当たり前の日々が欲しかった。

男をコロコロ変えたり、
派手な服を買い込んだり、
毎日豪華なディナーをする事より、
私は貴方とささやかな幸せが欲しかった。

子供は2人ぐらい欲しかったな……
出来れば、
女の子と男の子の2人。

初めは小さくて何も出来ないから、
私が抱っこして侍女と一緒に可愛がるの。
勿論貴方も一緒よ?
日中は貴方が仕事でいないから、
その時に侍女と一緒に困り果てるの。
お乳をあげても、
トイレに行かせても、
何をしても泣いている時に
侍女と泣きそうになりながら
慌てふためくの。
そんな暖かさが欲しかった。

大きくなったら、
女の子には
『美』や『優しさ』についてを教えるの。
男の子は貴方に任せるの。
辛くて泣きそうになってたら、
優しく頭を撫でて慰めて
話を聞いてあげるの。
女の子にも、男の子にも、
大きくなったら
色んな悩みが出るし、
色んな人を好きになるわ。
それを、
少し皺の増えてるかもしれない
貴方と2人で眺めるの。
大きくなって、
巣立っていったら、
2人でまた、
ゆっくり時を過ごすの。
子供を立派に育てた開放感と達成感に
身を包んで、
貴方と強く抱きしめ合うの。
子供が大きくなるには、
大体20年くらいかかるのかな?
今からだと、
私達46歳と47歳。
ふふ♪
想像つかないや♪

こんな妄想をずっと続けたの。
大好きよ。
本当に貴方の事が大好きなの。

じゃあ、
何で逃げ出さなかったのか。
8年間なら
その間に逃げる隙くらいあっただろう。
そう思うでしょ?

でも、考えてみて?
生まれてから20年の間、
ずっと一人ぼっちで
他人の愛を感じてこなかった人が
初めて愛を感じさせてくれた私を
心から愛してるの。
そんな状況、
私は絶対裏切れないな。
だってね。
今までずっと愛されてこなかった人は
他人から愛が欲しくて欲しくて仕方ない、
いわば、
『愛欠乏症』みたいな病気にかかってるの。
可哀想でしょ?
誰にも相手にされず、
ただの跡継ぎとしか見てこられなかった彼、
キリストを
私は裏切るなんてことは出来なかった。

キリストの事も、
私は愛してたわ。
心から、ね。
でも、
多分その愛は
彼を夫として愛していたのではなくて、
彼を人として愛していたのかもしれない。
勿論、
彼を夫としてちゃんと見ていたわよ?
夫として愛していたのも少しあるわ。
でも……
心はいつも、
あの日一緒にいた貴方にあった。

それが虚しかった。

貴方に愛されたいのに、
貴方を愛せない。
貴方のものになれない。

…………辛い。
貴方に抱きつかれたかった。
貴方のものになりたかった。
貴方に正面から愛されたかった。
壁も何も無い関係になって、
貴方にキスをしたかった。

夜、
野原で星を眺めるの。
月の美しさにうっとりしながら、
歌を歌うの。
子供がいたら、
子供と一緒に星座を探すの。

ショーウィンドウの華やかな服に
目を奪われて、
ずっと眺めていたかった。

そんな当たり障りのない、
ごく普通の家庭と日常が欲しかった。

手を伸ばしたのに、
喉から手が出るほど欲しがったのに、
それは手に入らなかった。

あの時、
貴方に「好き」と言えば、
あの日、
貴方に「愛してる」と言えば、
何か変わっていたかもしれないのに。

辛かったよ……
大きくなって、
まだ少し幼かった貴方が、
少し見ぬうちに
大きく大人になっていたんだもの。
あぁ、
変わってしまったんだな……
なんて、
ちょっと思った。


私、貴方のこと大好き。
行動に起こしてはくれなかったけど、
私を最後まで愛してくれて………
ありがとう。

もう……
私は多分いないけど、
貴方は私の死を悲しむかしらね。

爽やかな太陽と、
白く薄く光る月。
それは冬の早朝、
白い息を吐きながら見ると、
この世のものとは思えないほどの
美しさを放つわ。

その光景が、
私を辛い時支え
明るい気持ちにさせてくれるの。

心から貴方を愛してる。
そして、さようなら。


イヴ・セレーネ*

***********


ア「っ……」

手紙を握り、
外へ走った。

ア「アダム様?!」

アフロディーテが叫んだ気がした。

急げ。
急げ。







***********


…………。



ア「……………っ…」



雲一つない澄み渡った青い空、
右には爽やかな太陽が、
左には白く薄く光る月が輝いていた。
爽やかで冷たい風が、
鼻をツンとさせた。
涙がぽろぽろ流れ落ちる。



Time to say goodbye.
     別れの時が来た。
I loved you.
     私は貴方を愛していたわ。
This time it's a real goodbye.
     今度こそ本当のさよならよ。

Thank you for you.
     ありがとう。
and I love you.
     貴方を心から愛してるわ。
and……goodbye………
     そして……さようなら………


泣きながら空を見つめる中、
イヴが隣でそんな事を言った気がした……


ア「俺も………愛してたよ……心から…」


爽やかな太陽と、
白く薄く光る月。
それは冬の早朝、
白い息を吐きながら見ると、
この世のものとは思えないほどの
美しさを放つわ。

それは本当のことかも知れない。


大事なものが、
いつも隣にあるような錯覚は
誰しもあるはずである。
愛する者が
いついなくなるかも考えず
人は誰しもその関係に永遠を錯覚するのだ。



涙を拭いて、
アダムは1人、
ただその光景を見つめ続けた……




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