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転。〈参〉
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清司が倒れた公園から、男の指示に従って近くにあった稲荷神社に彼を運び込んでどれくらい経ったろうか。
「こんな所に神社なんてあったんだなー」
「ホントな」
それなりに立派な神社の境内。本殿前の階段に腰を下ろした康樹がつぶやいたのに合わせて、その隣でズボンのポケットに手を突っ込んで立ったままの太壱が、建物を見上げながらそう返した。
そんなに大きくも無いこの街で生まれ育ってきたが、確かにこんな立派な稲荷神社があるのは知らなかった。
手水舎横のおみくじを結んでおく所にはそれなりの数のおみくじが結ばれている事から、参拝者もそれなりという事だろう。
「で、オレらここでいつまで待ってれば良いわけ」
「さあね」
再び発せられた康樹の言葉に、短く返す。
正直、今は会話をしたい気分ではなかった。
が、
「清司大丈夫かな」
「………………」
そんな事を知ってか知らずか続ける康樹に、彼は無言で返した。
「たいちー、怒ってんの?」
「別に」
「絶対怒ってんじゃんそれー」
「………………」
あまり感情的にならないようにはしているが、怒っているかと聞かれれば、正直彼は怒っていた。
今回依頼を受けたのは清司だが、話を聞いた時点で嫌な予感を感じていた彼は、くれぐれも独断先行はしてくれるなと釘を刺していた。
にもかかわらずこの有様。
連絡を見て思わず「だから言ったのに!」と声を上げたのは言うまでもない。
「オレだって心配してんだっつーの」
「わかってるよ」
康樹の心配は分かっている。
太壱自身も心配していない訳ではない。が、それよりも今は、清司が人の忠告を無視してまで危険に晒されていることに憤っていた。
清司は昔から人を助けるためなら危険をもいとわない悪い癖がある。
それも本人に自覚が無いものだからまた質が悪い。
「オマエはクッソ真面目に心配しすぎ。清司に対してキレてもしゃーないじゃん」
「わかってる」
それは確かにわかっている。清司の性格を解っていたのだから、今回は忠告ではなく同行するべきだったのだ。
それをしなかった自分自身にも太壱は憤りを感じていた。
「……わかってるよ」
言って彼は顔をそむけた。
「いーや、解ってないね!お前ら少し近過ぎなんじゃね?」
「何が?」
何が近すぎるというのか?
清司とは、確かに小学校からの親友ではあるが。
「えーと……心の、距離、的な?」
「……ぶっ。何それ」
言われて思わず吹き出してしまった。まさか康樹からそんなセンチメンタルな言葉が聞けるとは思ってもみなかった。
「いや、言ってるオレもわからんけどさ。何となくそんな気がしただけ。って、笑うなよ!」
「………………」
静まり返っている境内で爆笑するわけにもいかず、必死に笑いをこらえる。
いや、言われてみれば、確かにそうかもしれない。
昔は互いに人付き合いが下手な所もあってか、二人で遊ぶ事が多かったが、今はそうではない。現に今ここに仲間の康樹もいる。
少し周りが見えていなかったなと、彼は内心、ほんの少し反省した。
「まあ、お互い近すぎっとあんま良くねーんじゃねーかなーとか思ったり」
「参考にしとく」
目尻に滲んだ涙を拭いながら康樹を見ると、少し不機嫌そうに
「そうして」
と返した。
何はともあれ。康樹のおかげで少し気分が晴れたのは事実。
「……取りあえず今回は全部終わったら一発ずつぶん殴ろう」
「うん。それはオレも思ってた事だわ」
少し考えて気を取り直し、改めて清司への制裁を誓った。
数十分後。
「こちらにおられたか!」
鈍色の袴を履いた子供が、境内の裏手からそう言って走ってきた。
「ぬしさまがおよびである。いそぎついてこられよ!」
そう言って、子供はもと来た境内の裏手へと走っていく。
「え?」
「誰?」
「なにをしておるひとのこら!はようせぬか!」
駆け出したはいいが、二人がついてきていない事に気づき、子供は大腕を降って大声をあげた。
これはついて行かないと話しが進まない展開だろう。
二人は子供の後を追って走り出した。
程なくして、本殿の後ろにあった小さな建物に到着。
全力で走った訳ではないが、二人の息は少し上がっていた。
周りは木々に囲まれ、昼間にも関わらず少し薄暗いそこは、案内が無ければ迷ってしまいそうだ。
「なかにはいられよ」
子供にそう促され、二人は息を整えつつ顔を見合わせる。
「なあ、清司も中に居るのか?」
康樹がそう尋ねると、子供は少し首を傾げ
「のろわれたひとのこのことか?それならばなかにはいればわかる」
再び二人は顔を見合わせると、意を決して引き戸を開けた。
「こんな所に神社なんてあったんだなー」
「ホントな」
それなりに立派な神社の境内。本殿前の階段に腰を下ろした康樹がつぶやいたのに合わせて、その隣でズボンのポケットに手を突っ込んで立ったままの太壱が、建物を見上げながらそう返した。
そんなに大きくも無いこの街で生まれ育ってきたが、確かにこんな立派な稲荷神社があるのは知らなかった。
手水舎横のおみくじを結んでおく所にはそれなりの数のおみくじが結ばれている事から、参拝者もそれなりという事だろう。
「で、オレらここでいつまで待ってれば良いわけ」
「さあね」
再び発せられた康樹の言葉に、短く返す。
正直、今は会話をしたい気分ではなかった。
が、
「清司大丈夫かな」
「………………」
そんな事を知ってか知らずか続ける康樹に、彼は無言で返した。
「たいちー、怒ってんの?」
「別に」
「絶対怒ってんじゃんそれー」
「………………」
あまり感情的にならないようにはしているが、怒っているかと聞かれれば、正直彼は怒っていた。
今回依頼を受けたのは清司だが、話を聞いた時点で嫌な予感を感じていた彼は、くれぐれも独断先行はしてくれるなと釘を刺していた。
にもかかわらずこの有様。
連絡を見て思わず「だから言ったのに!」と声を上げたのは言うまでもない。
「オレだって心配してんだっつーの」
「わかってるよ」
康樹の心配は分かっている。
太壱自身も心配していない訳ではない。が、それよりも今は、清司が人の忠告を無視してまで危険に晒されていることに憤っていた。
清司は昔から人を助けるためなら危険をもいとわない悪い癖がある。
それも本人に自覚が無いものだからまた質が悪い。
「オマエはクッソ真面目に心配しすぎ。清司に対してキレてもしゃーないじゃん」
「わかってる」
それは確かにわかっている。清司の性格を解っていたのだから、今回は忠告ではなく同行するべきだったのだ。
それをしなかった自分自身にも太壱は憤りを感じていた。
「……わかってるよ」
言って彼は顔をそむけた。
「いーや、解ってないね!お前ら少し近過ぎなんじゃね?」
「何が?」
何が近すぎるというのか?
清司とは、確かに小学校からの親友ではあるが。
「えーと……心の、距離、的な?」
「……ぶっ。何それ」
言われて思わず吹き出してしまった。まさか康樹からそんなセンチメンタルな言葉が聞けるとは思ってもみなかった。
「いや、言ってるオレもわからんけどさ。何となくそんな気がしただけ。って、笑うなよ!」
「………………」
静まり返っている境内で爆笑するわけにもいかず、必死に笑いをこらえる。
いや、言われてみれば、確かにそうかもしれない。
昔は互いに人付き合いが下手な所もあってか、二人で遊ぶ事が多かったが、今はそうではない。現に今ここに仲間の康樹もいる。
少し周りが見えていなかったなと、彼は内心、ほんの少し反省した。
「まあ、お互い近すぎっとあんま良くねーんじゃねーかなーとか思ったり」
「参考にしとく」
目尻に滲んだ涙を拭いながら康樹を見ると、少し不機嫌そうに
「そうして」
と返した。
何はともあれ。康樹のおかげで少し気分が晴れたのは事実。
「……取りあえず今回は全部終わったら一発ずつぶん殴ろう」
「うん。それはオレも思ってた事だわ」
少し考えて気を取り直し、改めて清司への制裁を誓った。
数十分後。
「こちらにおられたか!」
鈍色の袴を履いた子供が、境内の裏手からそう言って走ってきた。
「ぬしさまがおよびである。いそぎついてこられよ!」
そう言って、子供はもと来た境内の裏手へと走っていく。
「え?」
「誰?」
「なにをしておるひとのこら!はようせぬか!」
駆け出したはいいが、二人がついてきていない事に気づき、子供は大腕を降って大声をあげた。
これはついて行かないと話しが進まない展開だろう。
二人は子供の後を追って走り出した。
程なくして、本殿の後ろにあった小さな建物に到着。
全力で走った訳ではないが、二人の息は少し上がっていた。
周りは木々に囲まれ、昼間にも関わらず少し薄暗いそこは、案内が無ければ迷ってしまいそうだ。
「なかにはいられよ」
子供にそう促され、二人は息を整えつつ顔を見合わせる。
「なあ、清司も中に居るのか?」
康樹がそう尋ねると、子供は少し首を傾げ
「のろわれたひとのこのことか?それならばなかにはいればわかる」
再び二人は顔を見合わせると、意を決して引き戸を開けた。
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