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1章
28話 四〇年前の実験とベナード
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「では、何故アーリマンは、実験結果を知らないのに公開実験を行ったか」
「他人の実験を盗んだから」
即答したメメルの目が怖い。ハブに睨まれたマングースになった気分だった。
だが、それこそが正解なのだ。
メメルが意図して集めたかは分からないが、彼女のノートにはロウェルドの残した功績が端的に綴られてい。もう少し詳しく調べれば、今まで出してきた研究成果は、彼が専門に扱っていた分野とは異なっているはずだ。
そして彼が今まで発表してきた研究成果は、どれも命の危険が及ぶものではなかった。だが、この魔法ポーションだけが、生命の危機があるものだった。
いつものように他人から実験を奪った。自分の物であるとアピールするには公開実験を行うしかないと判断した。あるいは、研究者に訴えられる前に研究を自分の物とするのが常套手段だった。
これまでの名声が彼の背を後押しする。いつものように奪い取っ公開実験を行った。そして、彼は自業自得の死を、そして他者を巻き込み凄惨な結果を迎えた。
「そんなことを、するはず……」
「すべての分野において功績を残せる天才がいることも分かっている。だが、そういう天才こそ、余計なことはせず、いつも通り。そして十分な対策を講じて当然なんだ」
何度も、失敗を繰り返しているはずだ。暴発の度に命を危険に晒してきた。メメルだって一度瀕死になっている。ならば、ロウェルドも自分や研究員に怪我をさせていたり、器物破損させている経験がある。
それを、公開実験という大事な場面で失敗するのはおかしい。何度だって事前に準備し、危険が及ばないよう配慮しなければ、彼の功績を語るのは難しいからだ。
「では、第二問」
「えっ? まだあるの?」
「あぁ。こっちの方が、ジェペットさんには重要だ。何故、ベナードが君の研究を盗もうとしているか。解いてもらおう」
「いや、今の実験の流れで完全に分かるでしょ?! メメルさんの実験を盗んで、自分が富と名声を得たいから!!」
「ハウルさんの意見は間違いなく正解だ。だが、それでは甘い。そんなのは、彼女も分かることだし、私がわざわざ質問するほど問題視することじゃない。重要なのは、魔法ポーションに関する実験を躍起になって奪おうとしている点だ」
ロウェルドのように、実験が成功してから奪った方が安全だ。暴発を繰り返している今、奪い取るのは得策ではない。メメルを退学にしてまで、やることだとは思えない。
今まで活発に質問していたメメルとハウルが腕を組んで首を傾げる。
「ヒント。ベナードが実験を寄越せと堂々騒いでいることだ」
「いや、何もヒントじゃなくない??」
「この質問は、他人の研究成果を奪う理由にフォーカスしている。ベナードが実験を盗む手法は重要ではない」
今まで、腕を組んでいたケイが、腕を下した。
「国が、ジェペットと同じ研究を進めている……?」
「正解だ」
「あぁっ?! ジェペットさんの実験を国に提出すれば国家研究員になれるのか!」ハウルがパチンと指をはじく。
富と名声も同時に手に入り、さらには学園教師なんて低レベルな肩書から国家専属の研究員という大きな肩書を得られる。
おそらく、帝国の研究機関はメメルほど実験が進んでいない。ベナードはどこからかその情報を得たから、メメルから躍起になって情報を奪おうとしているのだ。
己の富と名声のため。ベナードのような男では、兵器制作に対して罪悪感を抱くような性格でもなければ、ノーベルのような人格者でもないだろう。
メメルは、ぽかんと固まっていた。
「それを裏付けるのは、この国が魔法ポーションの製造実験を禁止していないことだ。普通、王侯貴族を大量に殺害した実験は危険だと騒がれ、禁じられる。しかし、ベナードは実験を『止めろ』とは言わず、『研究資料を寄越せ』と言っている」
恐らく、魔法ポーションの実験は世界各国で盛んに行われているが暴発すら起こしていない。つまり、国の研究機関からすれば『暴発』こそ重要な情報なのだ。
「ジェペットさんには危機意識を持ってもらいたい――君の研究はすでに、国にとっては殺戮兵器の製作するに当たって、非常に重要なヒントを得ている」
和葉は、メメルにノートを差し出す。
「頼む。国には絶対に売らないでくれ。私は、死にたくない。間接的であっても、君に人を殺させたくない」
メメルが、そっとノートを受け取って、胸元で抱きしめる。
「だが研究の完成は急務だ。完成させて、権利を君の手中に収めておいてほしい。兵器に利用しないなんて権力者の甘言に騙されないでくれ。彼らは、戦争こそ最も簡単な利益獲得法だと信じている。売るならば、国と程よい距離感と関係を保ち、そして全国に拠点があること。そして、ある程度の権力を有している企業に。どこかの研究施設では危険だ。利益のためだけに売り払う可能性が高い。貴族も同様に国に貢献するという名目で売り払う。どうか、慎重に考えてくれ」
和葉の言葉を最後まで聞いたメメルは、小さく頷いた。
「できれば、早めに研究の継続か破棄かは決めてほしい。継続するならば、必要な素材はベナードから取り返してくる」
「……できる、の?」
「方法はいくらでもある。だが、今までの戦争の話は、私の国で史実だということを、ゆめゆめ忘れないでほしい。私が、ここまで君を脅した理由も含め、よく考えてから答えを聞かせてくれ」
和葉がそういうと、メメルは何も言わず背を向けて冒険者ギルドを飛び出していった。
「他人の実験を盗んだから」
即答したメメルの目が怖い。ハブに睨まれたマングースになった気分だった。
だが、それこそが正解なのだ。
メメルが意図して集めたかは分からないが、彼女のノートにはロウェルドの残した功績が端的に綴られてい。もう少し詳しく調べれば、今まで出してきた研究成果は、彼が専門に扱っていた分野とは異なっているはずだ。
そして彼が今まで発表してきた研究成果は、どれも命の危険が及ぶものではなかった。だが、この魔法ポーションだけが、生命の危機があるものだった。
いつものように他人から実験を奪った。自分の物であるとアピールするには公開実験を行うしかないと判断した。あるいは、研究者に訴えられる前に研究を自分の物とするのが常套手段だった。
これまでの名声が彼の背を後押しする。いつものように奪い取っ公開実験を行った。そして、彼は自業自得の死を、そして他者を巻き込み凄惨な結果を迎えた。
「そんなことを、するはず……」
「すべての分野において功績を残せる天才がいることも分かっている。だが、そういう天才こそ、余計なことはせず、いつも通り。そして十分な対策を講じて当然なんだ」
何度も、失敗を繰り返しているはずだ。暴発の度に命を危険に晒してきた。メメルだって一度瀕死になっている。ならば、ロウェルドも自分や研究員に怪我をさせていたり、器物破損させている経験がある。
それを、公開実験という大事な場面で失敗するのはおかしい。何度だって事前に準備し、危険が及ばないよう配慮しなければ、彼の功績を語るのは難しいからだ。
「では、第二問」
「えっ? まだあるの?」
「あぁ。こっちの方が、ジェペットさんには重要だ。何故、ベナードが君の研究を盗もうとしているか。解いてもらおう」
「いや、今の実験の流れで完全に分かるでしょ?! メメルさんの実験を盗んで、自分が富と名声を得たいから!!」
「ハウルさんの意見は間違いなく正解だ。だが、それでは甘い。そんなのは、彼女も分かることだし、私がわざわざ質問するほど問題視することじゃない。重要なのは、魔法ポーションに関する実験を躍起になって奪おうとしている点だ」
ロウェルドのように、実験が成功してから奪った方が安全だ。暴発を繰り返している今、奪い取るのは得策ではない。メメルを退学にしてまで、やることだとは思えない。
今まで活発に質問していたメメルとハウルが腕を組んで首を傾げる。
「ヒント。ベナードが実験を寄越せと堂々騒いでいることだ」
「いや、何もヒントじゃなくない??」
「この質問は、他人の研究成果を奪う理由にフォーカスしている。ベナードが実験を盗む手法は重要ではない」
今まで、腕を組んでいたケイが、腕を下した。
「国が、ジェペットと同じ研究を進めている……?」
「正解だ」
「あぁっ?! ジェペットさんの実験を国に提出すれば国家研究員になれるのか!」ハウルがパチンと指をはじく。
富と名声も同時に手に入り、さらには学園教師なんて低レベルな肩書から国家専属の研究員という大きな肩書を得られる。
おそらく、帝国の研究機関はメメルほど実験が進んでいない。ベナードはどこからかその情報を得たから、メメルから躍起になって情報を奪おうとしているのだ。
己の富と名声のため。ベナードのような男では、兵器制作に対して罪悪感を抱くような性格でもなければ、ノーベルのような人格者でもないだろう。
メメルは、ぽかんと固まっていた。
「それを裏付けるのは、この国が魔法ポーションの製造実験を禁止していないことだ。普通、王侯貴族を大量に殺害した実験は危険だと騒がれ、禁じられる。しかし、ベナードは実験を『止めろ』とは言わず、『研究資料を寄越せ』と言っている」
恐らく、魔法ポーションの実験は世界各国で盛んに行われているが暴発すら起こしていない。つまり、国の研究機関からすれば『暴発』こそ重要な情報なのだ。
「ジェペットさんには危機意識を持ってもらいたい――君の研究はすでに、国にとっては殺戮兵器の製作するに当たって、非常に重要なヒントを得ている」
和葉は、メメルにノートを差し出す。
「頼む。国には絶対に売らないでくれ。私は、死にたくない。間接的であっても、君に人を殺させたくない」
メメルが、そっとノートを受け取って、胸元で抱きしめる。
「だが研究の完成は急務だ。完成させて、権利を君の手中に収めておいてほしい。兵器に利用しないなんて権力者の甘言に騙されないでくれ。彼らは、戦争こそ最も簡単な利益獲得法だと信じている。売るならば、国と程よい距離感と関係を保ち、そして全国に拠点があること。そして、ある程度の権力を有している企業に。どこかの研究施設では危険だ。利益のためだけに売り払う可能性が高い。貴族も同様に国に貢献するという名目で売り払う。どうか、慎重に考えてくれ」
和葉の言葉を最後まで聞いたメメルは、小さく頷いた。
「できれば、早めに研究の継続か破棄かは決めてほしい。継続するならば、必要な素材はベナードから取り返してくる」
「……できる、の?」
「方法はいくらでもある。だが、今までの戦争の話は、私の国で史実だということを、ゆめゆめ忘れないでほしい。私が、ここまで君を脅した理由も含め、よく考えてから答えを聞かせてくれ」
和葉がそういうと、メメルは何も言わず背を向けて冒険者ギルドを飛び出していった。
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