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1章
40話 状況反転
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「さて、道を開けてもらおうか。急がないと、低レベル帯の異世界人の死体が出来上がるよ。あぁでも、俺も捕まえられるから、そうするかい?」
ハウルはカズハの頬の辺りにナイフを添えている。カズハのことが見えてないのだ。
「なるほど、理に適っている」
「はぁ状況分かってる?」
「めちゃくちゃビックリしてる。刺されたこととか、人質にされてるっぽいところとか」
「人質なんだよ」
「人質の価値は生きているだけでいい。それだけで、盾という役割を発揮する。ちなみにハウルさん、そこは私の頬だ。首はもう少し下にある」
「何言ってるか所々切れてて分かんない。けど、ボスが君に会いたがってるんだ。来てもらおうか」
「いや、今日会ったからもうお腹いっぱいなんだが……」
「ねぇ、自分の状況分かってる?」
「ハジメテがいっぱいで混乱している」
「混乱してる奴の言うことじゃないんだけど」
「今まで平和ボケした国に住んでいたから、現状に対する適切な対応が分からなくて、本当に申し訳ない。自分を落ち着かせるのに必死なんだ」
「分かってないなら尚の事黙りなよ。長引けば長引くほど、血液の流出によって君の命の灯火は短くなっていくだけだ。それとも平和ボケした国から来た人間は自分の命の危険も分からないの?」
えっと、その……と、カズハが緊張感なく呟くと、ようやくハウルがカズハを抱え直す。逃げる気だ。
「その……パトリックさんがいるから安心してしまっている。犯人から人質を引き離すのは、彼の得意分野だ」
「「あっ」」
ケイは、デイヴィスと一緒にパトリックへ振り向いていた。
パトリックも「あっ!」と言わんばかりの表情を浮かべていたが、ハウルへ改めて顔を向けた。
頬にピッタリ這わせたナイフとの間に小さなシャボン玉がその僅かな隙間から一気に膨れ上がる。
それに驚いたハウルの腕が、カズハから離れた。
すぐにカズハを覆うようにシャボン玉が形成された。
くそっ! と吐き捨てたハウルもシャボン玉包まれる。
少し浮かんでいる状態のシャボン玉の中に閉じ込められたハウルは、それを何度も押したがびくともしない。
■□■□■
カズハは駆け寄っできたメメルの声に顔を上げる。太腿から走る痛みが自分の生存を証明してくれている。
メメルの心配そうな顔を横目に、ハウルは真後ろでシャボン玉に包まれ、逃走を阻まれていた。
次に、パトリックを見る。
ハウルに掌をめいいっぱい広げて、腕を伸ばしている。
それは彼が初めて見せた、初動。
「いけない! パトリック、止めなさい!!」
カズハの声が届くより先、パトリックの掌が握り込んだ。
次の瞬間、ハウルを包んでいたシャボン玉が一気に収縮した。ばきばきばき、っと硬いものが折れる音が間近で耳朶を打った。彼の悲鳴がくぐもって響く。
まるで表面張力の小さくなろうとする性質を利用して、ハウルという人間が持つ体積を無視して、さらにシャボン玉は小さくなろうとしているようだった。
「パトリック・エルヴィス!! 止めなさい!!」
和葉がフルネームを叫ぶ。
ハウルを包んでいたシャボン玉が、割れる。人間があり得ない形で折れ曲がっていたものが、どす、と鈍い音と共に床に倒れ伏す。一部、腕の骨が肉から突き出している。
カズハを包んでいたシャボン玉も割れた。
「ハウルさん、ハウルさん!!」
状態は酷い。それでもまだ息はあるようで、胸が上下している。緑色の瞳が微かに和葉を捉えた。次には大きく咳き込んで、吐血する。
このままだと不味い。
ケイとダニエルも駆け寄り、パトリックは握り拳を伸ばしたまま立ち尽くしていた。
「ジェペットさん、すまない。肩を貸してくれ。パトリックさんの所に……」
ごとん!
コロコロとカズハの眼の前に転がってきたのは、中級のポーション。タタが腕を降ろすのが見えた。
メメルが慌てて拾い上げたポーションを服の袖で拭いて、差し出してくれる。
瓶の硬度の有り難さを実感しながら、和葉は飲み干す。
瞬く間に痛みが引いていく。肉の裂傷もひとりでに肉がくっ付いていった。変な感覚だ。もし、自己修復能力が高速になったら、こんな感じなのだろうか。
ハウルはカズハの頬の辺りにナイフを添えている。カズハのことが見えてないのだ。
「なるほど、理に適っている」
「はぁ状況分かってる?」
「めちゃくちゃビックリしてる。刺されたこととか、人質にされてるっぽいところとか」
「人質なんだよ」
「人質の価値は生きているだけでいい。それだけで、盾という役割を発揮する。ちなみにハウルさん、そこは私の頬だ。首はもう少し下にある」
「何言ってるか所々切れてて分かんない。けど、ボスが君に会いたがってるんだ。来てもらおうか」
「いや、今日会ったからもうお腹いっぱいなんだが……」
「ねぇ、自分の状況分かってる?」
「ハジメテがいっぱいで混乱している」
「混乱してる奴の言うことじゃないんだけど」
「今まで平和ボケした国に住んでいたから、現状に対する適切な対応が分からなくて、本当に申し訳ない。自分を落ち着かせるのに必死なんだ」
「分かってないなら尚の事黙りなよ。長引けば長引くほど、血液の流出によって君の命の灯火は短くなっていくだけだ。それとも平和ボケした国から来た人間は自分の命の危険も分からないの?」
えっと、その……と、カズハが緊張感なく呟くと、ようやくハウルがカズハを抱え直す。逃げる気だ。
「その……パトリックさんがいるから安心してしまっている。犯人から人質を引き離すのは、彼の得意分野だ」
「「あっ」」
ケイは、デイヴィスと一緒にパトリックへ振り向いていた。
パトリックも「あっ!」と言わんばかりの表情を浮かべていたが、ハウルへ改めて顔を向けた。
頬にピッタリ這わせたナイフとの間に小さなシャボン玉がその僅かな隙間から一気に膨れ上がる。
それに驚いたハウルの腕が、カズハから離れた。
すぐにカズハを覆うようにシャボン玉が形成された。
くそっ! と吐き捨てたハウルもシャボン玉包まれる。
少し浮かんでいる状態のシャボン玉の中に閉じ込められたハウルは、それを何度も押したがびくともしない。
■□■□■
カズハは駆け寄っできたメメルの声に顔を上げる。太腿から走る痛みが自分の生存を証明してくれている。
メメルの心配そうな顔を横目に、ハウルは真後ろでシャボン玉に包まれ、逃走を阻まれていた。
次に、パトリックを見る。
ハウルに掌をめいいっぱい広げて、腕を伸ばしている。
それは彼が初めて見せた、初動。
「いけない! パトリック、止めなさい!!」
カズハの声が届くより先、パトリックの掌が握り込んだ。
次の瞬間、ハウルを包んでいたシャボン玉が一気に収縮した。ばきばきばき、っと硬いものが折れる音が間近で耳朶を打った。彼の悲鳴がくぐもって響く。
まるで表面張力の小さくなろうとする性質を利用して、ハウルという人間が持つ体積を無視して、さらにシャボン玉は小さくなろうとしているようだった。
「パトリック・エルヴィス!! 止めなさい!!」
和葉がフルネームを叫ぶ。
ハウルを包んでいたシャボン玉が、割れる。人間があり得ない形で折れ曲がっていたものが、どす、と鈍い音と共に床に倒れ伏す。一部、腕の骨が肉から突き出している。
カズハを包んでいたシャボン玉も割れた。
「ハウルさん、ハウルさん!!」
状態は酷い。それでもまだ息はあるようで、胸が上下している。緑色の瞳が微かに和葉を捉えた。次には大きく咳き込んで、吐血する。
このままだと不味い。
ケイとダニエルも駆け寄り、パトリックは握り拳を伸ばしたまま立ち尽くしていた。
「ジェペットさん、すまない。肩を貸してくれ。パトリックさんの所に……」
ごとん!
コロコロとカズハの眼の前に転がってきたのは、中級のポーション。タタが腕を降ろすのが見えた。
メメルが慌てて拾い上げたポーションを服の袖で拭いて、差し出してくれる。
瓶の硬度の有り難さを実感しながら、和葉は飲み干す。
瞬く間に痛みが引いていく。肉の裂傷もひとりでに肉がくっ付いていった。変な感覚だ。もし、自己修復能力が高速になったら、こんな感じなのだろうか。
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