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1章

42話 因果応報

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「パトリックさんは、覚えているだろうか? 神様は君に新しいステージを用意した、という話を」

 パトリックは首を振った。あの緊急時だから覚えていないのも無理はない。

 新しいステージというのは、魂がレベルアップすることを言う。
 それは、さらなる魂のレベルアップのために伴う出来事がやってくる。

 その前には、のままでは、いられなくなる現象……人によっては、強制終了といわれる『シャットダウン』や、ステージが変わるという言い方をする。

「君の場合に起きた『シャットダウン』は、『銀の狼』から追放されたことだ。それは、君にこれから起きることのために、『空き』が必要だったからだ」

 和葉を森で発見したこと、スキルの使い道を調べたこと、メメルとの出会い、そして今日まで起きた出来事。

 それは、『銀の狼』と共に遠征に駆り出されて和葉達に出会うこともなかった。
 
「今君の魂が、さらなるレベルアップのために必要だから、今日の出来事が起きたんだ。これからきっと、今まで頑張ってきた分が報われる出来事がたくさん起こるだろう」

 だからこれからは、自分に起きた出来事に対して『どうして起こったんだろう?』と疑問を抱くようにしてほしい。
 そして、自分の心に正直に、素直になってほしい。
 それこそが、パトリックにとって最も大切なことだからだ。

 大人から言われたことが全てではない。
 嫌なことは、やらなくてもいい。
 できないことは、できないと言って良い。
 できることを、できると自信を持って、ハッキリ言える人間になってほしい。

「存外、自分に本当に必要なことは、自分の方が分かっているものだ」

 だが、大人から言われて、世間からの目を気にして、本当にやりたいことが分からなってしまう人は、大勢いる。

「これからは、自分の心に従って生きなさい。私や、他の大人が言ったことばかりを信じるのではなく、自分の心が正しいと思うことを選ぶんだ。例えば、スキルの使い方。そのノートは確かに、私が君のスキルで使えそうだと思い付いたものが書いてある。だが、それを使うかどうかは君が取捨選択をして良い。それに、君はどちらかというと、『シャボン玉の中に入れる』という使い方をしている」

 デイヴィスの保護然り、シルバーグリズリーの生け捕り然り。そして、ハウルの逃走防止然り。この三点はどれもパトリックの発想力の賜物だ。

 その『シャボン玉』のスキルは、パトリックのものだ。汎用性の高さから、使い道はいろいろあるだろう。これからは、パトリックが見つけていくと良い。

 その際には、ノートに書いていけば、記憶やインスピレーションの一助にもなる。

「そして、自分の考えを信じるためには、情報の取捨選択が必要になる」

 確かに大人から言われる事柄が正しいものが多い。それは、彼らの人生経験に基づくものだ。そして彼らも先人から聞いて、学んでいる。
 人から話を聞くというのは、自分の成長速度は早めることでもある。

 多くのことを学び、ノートに記録を付け、そして分からないことがあったら大人から話をしっかり聞くこと。
 最初は分からなくても、時が経ってから意味が分かることも多い。

 幸い、これからパトリックが同行するメンバーは冒険者ギルドで先輩達に当たる人達だ。
 シーラ達からであれば、今後の冒険者生活でも参考にできることがたくさん聞けるだろう。『銀の狼』程度では知らないような、ハイレベルな情報も。

「だから、学びなさい。君が生きているその人生は、君が主人公だ。他人軸ではいけない。君の人生は、君が舵を取れるようにする必要がある……――もう少し落ち着いたら、実の親に会った時、どうしたいかも考えておいた方が良い」
「……」
「私からは、これぐらいだ。長々とすまない。パトリックさんからは、何か聞きたいことはあるだろうか?」

 パトリックはちょっと躊躇ったように、和葉を見つめる。

「その……瓶の改悪が終わったら、カズハさんの所に戻ってきも、良いですか……?」
「あぁ、もちろん。私のような人間の所で良いのならば」

 ただし、ブレーメンとの決着がついてからというのが前提条件になる。ついていない場合はこちらに来たら危険だから、許可はできなくなってしまう。
 それでも良いだろうかと尋ねれば、パトリックは嬉しそうに頷いた。
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