異世界賢者の魔法事件簿

星見肴

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2章 誘拐・融解事件

46話 人さらいの供述

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「学園の会議室、風景送受信用の魔道具。どこにつないでる」
「あら、帰った学生は外出禁止と言ったはずだけど?」
「どうせ外出してる奴はしている」

 それからはサビータが窘め、それにアシュレイが言い返すという何とも学校と教師のやりとりらしい光景が始まった。

 少し離れた場所でケイから人相を聞く。壮年ぐらいの男性で、眼鏡をかけている。長い黒髪をオールバックにして一本に纏めており、額からハゲの進行が広がっていたという。人相は詳しく覚えていないそうだ。

 現在ジェシカは指紋鑑定とインク成分を調べてくれている。一時間もすれば、全部出揃うだろう。

 サビータからもらった地図で往復約一週間の距離の範囲を書き記す。この範囲内に犯人が血液を抜きに行く場所があるかもしれない。

 この犯人は、空路で行く手段がないと推測できる。
 帝都を封鎖されたなど犯罪者が気にする必要ない。帝都を囲っている高い壁をさっさと飛び越えればいいのだ。陸路をわざわざ使って一週間もかける必要はない。

 しかし、見てみたところ往復一週間の範囲はかなり広かった。この中から探すのは難しいだろう。絞れるとすれば……。

「違法のマジックバッグを購入できる人間って、どんな人間だろうか?」

「あっ!」とケイ達も思いついたようだった。

 この前、トラッドが犯行に及んだ現場を見た女性の証言だ。

『男は、その場に置いた。ごそごそ何かした後、また、その塊の上に置く』。

 デイヴィスが柏手を打った。

「違法マジックバッグなら、確かに突然人を出せて、トラッドも単独で行動できる……!」
「それに通常のマジックバッグと見分けがつかない。帝都の出入りで行われる検閲も突破できる」

 ケイは帝国軍時代、門番をやっていた。
 基本的に荷物は透視魔法や鑑定魔法などを使って確認される。個数こそ見ないものの、奴隷などの出入りも書類不備があれば入れられないようになっている。

 しかし、マジックバッグの中身は検閲時に見ない。マジックバッグであることさえ申告してもらうだけらしい。

「ゴミ箱代わりにしてる人までいるからな……」ケイが遠い目をして言った。
「そりゃ、高級なゴミ箱だなぁ」とヴォルグ。
「しまった。ゴミで思い出した。私、小腹が空いて食べたリンゴの芯入れっぱなしかも……いや、冤罪かけられてからずっと入れっぱなしだ。出すの忘れていた」

 忘れないうちに捨ててこようと和葉は会議室を出た。

 この件は、今回の事件とは関係ないかもしれない。

 だが一方で、冒険者ギルドを騙っていた三人組の男達は、高級なマジックバッグを実費で購入できるような人間には見えない。

 なら、人を攫うことを目的に誰かからもたらされたのだ。

(もしかしたら……女学生以外の被害者を……)

 六人目の被害女性が脳裏に浮かんで、ずきりと痛みが走った。

 ■□■□■

 マルス達がやって来た……と思ったら、ハロルドまで一緒だ。軍人が増えたのにはびっくり。結局、言い合っていたサビータとアシュレイ、それにダニエルも加わって、フレッドも待機。

 ようやく準備が整った。預かっていた例のマジックバッグをマルスに渡して、和葉は静観する。

 マジックバッグを上下に振って、男三人が出てきた。
 見るからに平民だ。ついさっきまで酒を飲んでいたから、一人は赤ら顔。

「なんだ、てめぇらは!」と怒鳴ってきたものの、マルス達含めた軍人達が腕章を見せたり帝国軍所有であろう手帳を見せたりすると、ぞっと顔を青くした。

 途端に、男達は「俺達は悪くねぇ!」と叫んだ。
 淡々とマルスが質問攻めにしていくのを、和葉達は書き記す。

 彼らが活動を始めたのは二カ月前。違法マジックバッグを渡されて、人を攫って引き渡すように言われた。渡せば金を受け取れる。マジックバッグを交換して、また人を攫うという約束だ。

「まだ一回しか交換してねぇ!」
「その一回で何人だ」
「良いだろ、別に! スラム街の連中なんだから!」

 だが、スラム街の人間だと分かると渡し役の男が乗り込んできて、一般女性を攫うように指定してきた。そうなると今度は軍人達が歩いているから全然人間が捕まえられない。そこで、冒険者ギルドの職業斡旋を名乗るよう指示された。それで、今回捕まえたのがマジックバッグに入っていた女性達だ。

(犯行指示が明確じゃない……素人、かな?)
「その男の人相は」とマルス。
「眼鏡をかけてて、黒い髪を後ろで縛ってて、頭剥げてる奴だ」
「剥げている部分は、額から後退している感じ?」
「あぁ、アイツは将来きれいに禿げるぞ」
「その男の人相を思い浮かべてほしい」

 空気を読んだヴォルグが紙を持って、男の頭を掴むと紙に念写を終えて、顔を確認する。

「こんな顔か?」
「あぁ、そうそう。そんな顔だ。コイツ、さっさと人間を捕まえて来いってうるせぇんだよ」
「いや、もうちょっと目が細くなかったかぁ?」
「ほら、眼鏡も違う。デザイン凝ってたろ。タケェ眼鏡に違いねぇって言ってたじゃんか。どうせどっかの貴族だろ。服も高そうだったしよ」
「ヴォルグさん、二人のも頼む」

 他の二人の念写もしてみると、微細だが一枚目とちょっと違う。ただ、後から取った二人の方が顔が一致している。この眼鏡の繊細なデザインの方をコピーして、回して見てもらった。

 目元に刻まれた皺。壮年の男性だ。頭の後退具合に苦労が垣間見えた。
 眼鏡の接合部分は凝ったデザインが見受けられた。繊細な彫金が施されている。確かに、金がかかっていそうだが……同時に眼鏡も重そうだ。

 彼らから抽出した顔写真は背景が一様にぼんやりしていた。景色に関しては三人とも全部違った。

「この額の後退具合って……」
「確認取ってくる」ケイが紙を持って会議室を出て行った。

 和葉は、違和感を覚えて目を細めた。

(何でだろう? アイリスさんの夢は壁の傷まで鮮明なのに……何回も見ているから? でも、それでも『夢』である以上、もっとぼんやりするはずなのに、ベッドの皺まで緻密に念写できているのは……)
「この眼鏡、ペルーナ教会の支給物に似てる」

 そうフレッドが口にした。
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