異世界賢者の魔法事件簿

星見肴

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2章 誘拐・融解事件

47話 ブレーメン

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「支給品?」
「あぁ。支給品とは言ったが、信者が希望すればこの眼鏡のデザインフレームを購入できるようになっているんだ。これもお布施の一つなんだよ」
「このオッサンッス! あのブレーメン騙ってる手紙持ってきた人!」

 そう会議室の扉を開けて、レムレスが飛び込んできた。後からケイも入ってくる。
 はぁ、とため息を零して、和葉は遠隔地へ映像を届けているであろうその水晶玉に向き直る。

「聞こえているだろうか。君達の中に、ペルーナ教会特注のデザインフレーム買っている人はいないか? すまないが、情報提供のご協力を願いたい」
「あっ! 私も学生達の中で見た記憶があります! 受け取りに行ってきますね!」

 サビータが別室のドアから出て行くと、入れ替わるように「鑑定終わりました!!」とジェシカが叫んで入ってきた。めちゃくちゃ自慢気に目を輝かせている。

「コイツ、マジでド素人! べったべたに指紋ついてるし、それに利き手は右手!」
「ジェシカさん、手紙の内容読み上げてくれないか?」
「え? えっと、『ギメイへ。トラッドの事件は楽しめているか? それとも難航しているのか? 苦戦しているようだから、またトラッドに一仕事させてあげよう。さて、僕を捕まえられるかな?』以上」

 しっかり、また一人殺すと宣言している。だが同時に、この手紙を渡した持ち主がトラッドを抱えていることも明言していることの証明でもある。

「もしかしたら帝都封鎖を開けてほしくて、この犯人は帝国軍宛てにも出しているかもしれないですね……」
「その、実はな……」

 渋い顔をしたのは、ハロルドだ。

「ブレーメンから手紙が届いた。アルテミス・ディオエドールは預かっている。帝都封鎖を解除したら帰す、と。ただ、解放した際に犯人が握っている人質の命の保証はしないとも。奴は加えて『トラッドを救出するためにタイダスの脱獄事件を引き起こした』と記述していて、融解事件の関与をはっきり否定しているんだ……カズハさんは、どう思う?」
「その通りでしょうね。あと、この手紙はブレーメンではなくブレーメンを演じている犯罪者は私に宛てた手紙です。で、その手紙を持ってきたのがこの男性なんですよ」

 ついにというべきか、和葉からすると脱獄事件はブレーメン自らトラッド救出を目的としていたという確定情報が手に入った。

「そのブレーメンのフリをして手紙を出した犯人は状況が分かってない……つまり、今もブレーメンがトラッドと共に犯行を重ねていて、それを帝国軍も冒険者ギルドも信じて疑っていない、と」

 そう状況をまとめたアシュレイが「馬鹿かコイツは」と最後に吐き捨てた。

(ブレーメンが全面的に支援してくれてるなぁ)
「あぁ、すまない。話を逸らしてしまいました。君達はどこで、その捕まえた人間を入れたマジックバッグの引き渡しを行っていたんですか?」
「えっ? あぁ、地下水路だ」

 男の言葉に沈黙。
 耳が痛いほどに静まり返った。

「君達が拠点にしていた場所の近くにある、入り口からでしょうか? それとも、入り口も指定をされていますか?」
「いや、近くの入り口からだ。入ってちょっと進んだら、壁に十字架のマークが刻んである。あそこが受け渡し場所に指定されてんだよ」
(何で、バツ印や十字じゃなくて十字架なんだろう)

 この後、サビータが眼鏡を持ってきた。
 男女とで眼鏡のフレームにデザインが異なっているそうだ。レムレスと、犯人の男も、この男性用の眼鏡のデザインだと肯定した。

 追加で、ジェシカにはマジックバッグの指紋採取の鑑定をお願いする。それから、彼ら三人の指紋もだ。

「ねーえ。トラッドも地下水路使ってるんじゃなーい? この死体発見場所とカズハ君が会ったっていう犯罪奴隷君、出現場所が結構近いわよねぇ?」

 そう言ってキーラが指差した。
 昨日から七件ほど追加され、これで十五カ所以上、火傷を負った彼の足取りが出てきていた。

 トラッドは火属性で飛行魔法が使えない。この水路を利用している可能性は大いにありえる。

「確かに、地下水路は地形が複雑すぎて、入ったら二度と出られないって言われてるぐらいだし……犯人からすれば最高の逃走経路だよな……」とデイヴィス。
(あれっ? もしかしたら、彼はトラッドを目撃している可能性もあるんじゃ……)
「そうだ、地下水路の地図なら持ってるんだった。今から地図持ってきます」

 和葉はそう言って、再び会議室を出た。
 リンゴの芯を捨てた後、ベッドに放ったマジックバッグの中に地下水路の地図も入っているのだ。

 和葉がケイと共に使用している職員寮の扉を開いた。
 ベッドの上にダレているマジックバッグの上に、が置かれていた。
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