104 / 152
2章 誘拐・融解事件
47話 ブレーメン
しおりを挟む
「支給品?」
「あぁ。支給品とは言ったが、信者が希望すればこの眼鏡のデザインフレームを購入できるようになっているんだ。これもお布施の一つなんだよ」
「このオッサンッス! あのブレーメン騙ってる手紙持ってきた人!」
そう会議室の扉を開けて、レムレスが飛び込んできた。後からケイも入ってくる。
はぁ、とため息を零して、和葉は遠隔地へ映像を届けているであろうその水晶玉に向き直る。
「聞こえているだろうか。君達の中に、ペルーナ教会特注のデザインフレーム買っている人はいないか? すまないが、情報提供のご協力を願いたい」
「あっ! 私も学生達の中で見た記憶があります! 受け取りに行ってきますね!」
サビータが別室のドアから出て行くと、入れ替わるように「鑑定終わりました!!」とジェシカが叫んで入ってきた。めちゃくちゃ自慢気に目を輝かせている。
「コイツ、マジでド素人! べったべたに指紋ついてるし、それに利き手は右手!」
「ジェシカさん、手紙の内容読み上げてくれないか?」
「え? えっと、『ギメイへ。トラッドの事件は楽しめているか? それとも難航しているのか? 苦戦しているようだから、またトラッドに一仕事させてあげよう。さて、僕を捕まえられるかな?』以上」
しっかり、また一人殺すと宣言している。だが同時に、この手紙を渡した持ち主がトラッドを抱えていることも明言していることの証明でもある。
「もしかしたら帝都封鎖を開けてほしくて、この犯人は帝国軍宛てにも出しているかもしれないですね……」
「その、実はな……」
渋い顔をしたのは、ハロルドだ。
「ブレーメンから手紙が届いた。アルテミス・ディオエドールは預かっている。帝都封鎖を解除したら帰す、と。ただ、解放した際に犯人が握っている人質の命の保証はしないとも。奴は加えて『トラッドを救出するためにタイダスの脱獄事件を引き起こした』と記述していて、融解事件の関与をはっきり否定しているんだ……カズハさんは、どう思う?」
「その通りでしょうね。あと、この手紙はブレーメンではなくブレーメンを演じている犯罪者は私に宛てた手紙です。で、その手紙を持ってきたのがこの男性なんですよ」
ついにというべきか、和葉からすると脱獄事件はブレーメン自らトラッド救出を目的としていたという確定情報が手に入った。
「そのブレーメンのフリをして手紙を出した犯人は状況が分かってない……つまり、今もブレーメンがトラッドと共に犯行を重ねていて、それを帝国軍も冒険者ギルドも信じて疑っていない、と」
そう状況をまとめたアシュレイが「馬鹿かコイツは」と最後に吐き捨てた。
(ブレーメンが全面的に支援してくれてるなぁ)
「あぁ、すまない。話を逸らしてしまいました。君達はどこで、その捕まえた人間を入れたマジックバッグの引き渡しを行っていたんですか?」
「えっ? あぁ、地下水路だ」
男の言葉に沈黙。
耳が痛いほどに静まり返った。
「君達が拠点にしていた場所の近くにある、入り口からでしょうか? それとも、入り口も指定をされていますか?」
「いや、近くの入り口からだ。入ってちょっと進んだら、壁に十字架のマークが刻んである。あそこが受け渡し場所に指定されてんだよ」
(何で、バツ印や十字じゃなくて十字架なんだろう)
この後、サビータが眼鏡を持ってきた。
男女とで眼鏡のフレームにデザインが異なっているそうだ。レムレスと、犯人の男も、この男性用の眼鏡のデザインだと肯定した。
追加で、ジェシカにはマジックバッグの指紋採取の鑑定をお願いする。それから、彼ら三人の指紋もだ。
「ねーえ。トラッドも地下水路使ってるんじゃなーい? この死体発見場所とカズハ君が会ったっていう犯罪奴隷君、出現場所が結構近いわよねぇ?」
そう言ってキーラが指差した。
昨日から七件ほど追加され、これで十五カ所以上、火傷を負った彼の足取りが出てきていた。
トラッドは火属性で飛行魔法が使えない。この水路を利用している可能性は大いにありえる。
「確かに、地下水路は地形が複雑すぎて、入ったら二度と出られないって言われてるぐらいだし……犯人からすれば最高の逃走経路だよな……」とデイヴィス。
(あれっ? もしかしたら、彼はトラッドを目撃している可能性もあるんじゃ……)
「そうだ、地下水路の地図なら持ってるんだった。今から地図持ってきます」
和葉はそう言って、再び会議室を出た。
リンゴの芯を捨てた後、ベッドに放ったマジックバッグの中に地下水路の地図も入っているのだ。
和葉がケイと共に使用している職員寮の扉を開いた。
ベッドの上にダレているマジックバッグの上に、妖精の羽根が金箔で箔押しされた黒い封筒が置かれていた。
「あぁ。支給品とは言ったが、信者が希望すればこの眼鏡のデザインフレームを購入できるようになっているんだ。これもお布施の一つなんだよ」
「このオッサンッス! あのブレーメン騙ってる手紙持ってきた人!」
そう会議室の扉を開けて、レムレスが飛び込んできた。後からケイも入ってくる。
はぁ、とため息を零して、和葉は遠隔地へ映像を届けているであろうその水晶玉に向き直る。
「聞こえているだろうか。君達の中に、ペルーナ教会特注のデザインフレーム買っている人はいないか? すまないが、情報提供のご協力を願いたい」
「あっ! 私も学生達の中で見た記憶があります! 受け取りに行ってきますね!」
サビータが別室のドアから出て行くと、入れ替わるように「鑑定終わりました!!」とジェシカが叫んで入ってきた。めちゃくちゃ自慢気に目を輝かせている。
「コイツ、マジでド素人! べったべたに指紋ついてるし、それに利き手は右手!」
「ジェシカさん、手紙の内容読み上げてくれないか?」
「え? えっと、『ギメイへ。トラッドの事件は楽しめているか? それとも難航しているのか? 苦戦しているようだから、またトラッドに一仕事させてあげよう。さて、僕を捕まえられるかな?』以上」
しっかり、また一人殺すと宣言している。だが同時に、この手紙を渡した持ち主がトラッドを抱えていることも明言していることの証明でもある。
「もしかしたら帝都封鎖を開けてほしくて、この犯人は帝国軍宛てにも出しているかもしれないですね……」
「その、実はな……」
渋い顔をしたのは、ハロルドだ。
「ブレーメンから手紙が届いた。アルテミス・ディオエドールは預かっている。帝都封鎖を解除したら帰す、と。ただ、解放した際に犯人が握っている人質の命の保証はしないとも。奴は加えて『トラッドを救出するためにタイダスの脱獄事件を引き起こした』と記述していて、融解事件の関与をはっきり否定しているんだ……カズハさんは、どう思う?」
「その通りでしょうね。あと、この手紙はブレーメンではなくブレーメンを演じている犯罪者は私に宛てた手紙です。で、その手紙を持ってきたのがこの男性なんですよ」
ついにというべきか、和葉からすると脱獄事件はブレーメン自らトラッド救出を目的としていたという確定情報が手に入った。
「そのブレーメンのフリをして手紙を出した犯人は状況が分かってない……つまり、今もブレーメンがトラッドと共に犯行を重ねていて、それを帝国軍も冒険者ギルドも信じて疑っていない、と」
そう状況をまとめたアシュレイが「馬鹿かコイツは」と最後に吐き捨てた。
(ブレーメンが全面的に支援してくれてるなぁ)
「あぁ、すまない。話を逸らしてしまいました。君達はどこで、その捕まえた人間を入れたマジックバッグの引き渡しを行っていたんですか?」
「えっ? あぁ、地下水路だ」
男の言葉に沈黙。
耳が痛いほどに静まり返った。
「君達が拠点にしていた場所の近くにある、入り口からでしょうか? それとも、入り口も指定をされていますか?」
「いや、近くの入り口からだ。入ってちょっと進んだら、壁に十字架のマークが刻んである。あそこが受け渡し場所に指定されてんだよ」
(何で、バツ印や十字じゃなくて十字架なんだろう)
この後、サビータが眼鏡を持ってきた。
男女とで眼鏡のフレームにデザインが異なっているそうだ。レムレスと、犯人の男も、この男性用の眼鏡のデザインだと肯定した。
追加で、ジェシカにはマジックバッグの指紋採取の鑑定をお願いする。それから、彼ら三人の指紋もだ。
「ねーえ。トラッドも地下水路使ってるんじゃなーい? この死体発見場所とカズハ君が会ったっていう犯罪奴隷君、出現場所が結構近いわよねぇ?」
そう言ってキーラが指差した。
昨日から七件ほど追加され、これで十五カ所以上、火傷を負った彼の足取りが出てきていた。
トラッドは火属性で飛行魔法が使えない。この水路を利用している可能性は大いにありえる。
「確かに、地下水路は地形が複雑すぎて、入ったら二度と出られないって言われてるぐらいだし……犯人からすれば最高の逃走経路だよな……」とデイヴィス。
(あれっ? もしかしたら、彼はトラッドを目撃している可能性もあるんじゃ……)
「そうだ、地下水路の地図なら持ってるんだった。今から地図持ってきます」
和葉はそう言って、再び会議室を出た。
リンゴの芯を捨てた後、ベッドに放ったマジックバッグの中に地下水路の地図も入っているのだ。
和葉がケイと共に使用している職員寮の扉を開いた。
ベッドの上にダレているマジックバッグの上に、妖精の羽根が金箔で箔押しされた黒い封筒が置かれていた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界で魔法が使えない少女は怪力でゴリ押しします!
ninjin
ファンタジー
病弱だった少女は14歳の若さで命を失ってしまった・・・かに思えたが、実は異世界に転移していた。異世界に転移した少女は病弱だった頃になりたかった元気な体を手に入れた。しかし、異世界に転移して手いれた体は想像以上に頑丈で怪力だった。魔法が全ての異世界で、魔法が使えない少女は頑丈な体と超絶な怪力で無双する。
異世界転生者のTSスローライフ
未羊
ファンタジー
主人公は地球で死んで転生してきた転生者。
転生で得た恵まれた能力を使って、転生先の世界でよみがえった魔王を打ち倒すも、その際に呪いを受けてしまう。
強力な呪いに生死の境をさまようが、さすがは異世界転生のチート主人公。どうにか無事に目を覚ます。
ところが、目が覚めて見えた自分の体が何かおかしい。
改めて確認すると、全身が毛むくじゃらの獣人となってしまっていた。
しかも、性別までも変わってしまっていた。
かくして、魔王を打ち倒した俺は死んだこととされ、獣人となった事で僻地へと追放されてしまう。
追放先はなんと、魔王が治めていた土地。
どん底な気分だった俺だが、新たな土地で一念発起する事にしたのだった。
45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる
よっしぃ
ファンタジー
2巻決定しました!
【書籍版 大ヒット御礼!オリコン18位&続刊決定!】
皆様の熱狂的な応援のおかげで、書籍版『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』が、オリコン週間ライトノベルランキング18位、そしてアルファポリス様の書店売上ランキングでトップ10入りを記録しました!
本当に、本当にありがとうございます!
皆様の応援が、最高の形で「続刊(2巻)」へと繋がりました。
市丸きすけ先生による、素晴らしい書影も必見です!
【作品紹介】
欲望に取りつかれた権力者が企んだ「スキル強奪」のための勇者召喚。
だが、その儀式に巻き込まれたのは、どこにでもいる普通のサラリーマン――白河小次郎、45歳。
彼に与えられたのは、派手な攻撃魔法ではない。
【鑑定】【いんたーねっと?】【異世界売買】【テイマー】…etc.
その一つ一つが、世界の理すら書き換えかねない、規格外の「便利スキル」だった。
欲望者から逃げ切るか、それとも、サラリーマンとして培った「知識」と、チート級のスキルを武器に、反撃の狼煙を上げるか。
気のいいおっさんの、優しくて、ずる賢い、まったり異世界サバイバルが、今、始まる!
【書誌情報】
タイトル: 『45歳のおっさん、異世界召喚に巻き込まれる』
著者: よっしぃ
イラスト: 市丸きすけ 先生
出版社: アルファポリス
ご購入はこちらから:
Amazon: https://www.amazon.co.jp/dp/4434364235/
楽天ブックス: https://books.rakuten.co.jp/rb/18361791/
【作者より、感謝を込めて】
この日を迎えられたのは、長年にわたり、Webで私の拙い物語を応援し続けてくださった、読者の皆様のおかげです。
そして、この物語を見つけ出し、最高の形で世に送り出してくださる、担当編集者様、イラストレーターの市丸きすけ先生、全ての関係者の皆様に、心からの感謝を。
本当に、ありがとうございます。
【これまでの主な実績】
アルファポリス ファンタジー部門 1位獲得
小説家になろう 異世界転移/転移ジャンル(日間) 5位獲得
アルファポリス 第16回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞
第6回カクヨムWeb小説コンテスト 中間選考通過
復活の大カクヨムチャレンジカップ 9位入賞
ファミ通文庫大賞 一次選考通過
底辺から始まった俺の異世界冒険物語!
ちかっぱ雪比呂
ファンタジー
40歳の真島光流(ましまみつる)は、ある日突然、他数人とともに異世界に召喚された。
しかし、彼自身は勇者召喚に巻き込まれた一般人にすぎず、ステータスも低かったため、利用価値がないと判断され、追放されてしまう。
おまけに、道を歩いているとチンピラに身ぐるみを剥がされる始末。いきなり異世界で路頭に迷う彼だったが、路上生活をしているらしき男、シオンと出会ったことで、少しだけ道が開けた。
漁れる残飯、眠れる舗道、そして裏ギルドで受けられる雑用仕事など――生きていく方法を、教えてくれたのだ。
この世界では『ミーツ』と名乗ることにし、安い賃金ながらも洗濯などの雑用をこなしていくうちに、金が貯まり余裕も生まれてきた。その頃、ミーツは気付く。自分の使っている魔法が、非常識なほどチートなことに――
ドラゴネット興隆記
椎井瑛弥
ファンタジー
ある世界、ある時代、ある国で、一人の若者が領地を取り上げられ、誰も人が住まない僻地に新しい領地を与えられた。その領地をいかに発展させるか。周囲を巻き込みつつ、周囲に巻き込まれつつ、それなりに領地を大きくしていく。
ざまぁっぽく見えて、意外とほのぼのです。『新米エルフとぶらり旅』と世界観は共通していますが、違う時代、違う場所でのお話です。
セーブポイント転生 ~寿命が無い石なので千年修行したらレベル上限突破してしまった~
空色蜻蛉
ファンタジー
枢は目覚めるとクリスタルの中で魂だけの状態になっていた。どうやらダンジョンのセーブポイントに転生してしまったらしい。身動きできない状態に悲嘆に暮れた枢だが、やがて開き直ってレベルアップ作業に明け暮れることにした。百年経ち、二百年経ち……やがて国の礎である「聖なるクリスタル」として崇められるまでになる。
もう元の世界に戻れないと腹をくくって自分の国を見守る枢だが、千年経った時、衝撃のどんでん返しが待ち受けていて……。
【お知らせ】6/22 完結しました!
この度異世界に転生して貴族に生まれ変わりました
okiraku
ファンタジー
地球世界の日本の一般国民の息子に生まれた藤堂晴馬は、生まれつきのエスパーで透視能力者だった。彼は親から独立してアパートを借りて住みながら某有名国立大学にかよっていた。4年生の時、酔っ払いの無免許運転の車にはねられこの世を去り、異世界アールディアのバリアス王国貴族の子として転生した。幸せで平和な人生を今世で歩むかに見えたが、国内は王族派と貴族派、中立派に分かれそれに国王が王位継承者を定めぬまま重い病に倒れ王子たちによる王位継承争いが起こり国内は不安定な状態となった。そのため貴族間で領地争いが起こり転生した晴馬の家もまきこまれ領地を失うこととなるが、もともと転生者である晴馬は逞しく生き家族を支えて生き抜くのであった。
【完結】番である私の旦那様
桜もふ
恋愛
異世界であるミーストの世界最強なのが黒竜族!
黒竜族の第一皇子、オパール・ブラック・オニキス(愛称:オール)の番をミースト神が異世界転移させた、それが『私』だ。
バールナ公爵の元へ養女として出向く事になるのだが、1人娘であった義妹が最後まで『自分』が黒竜族の番だと思い込み、魅了の力を使って男性を味方に付け、なにかと嫌味や嫌がらせをして来る。
オールは政務が忙しい身ではあるが、溺愛している私の送り迎えだけは必須事項みたい。
気が抜けるほど甘々なのに、義妹に邪魔されっぱなし。
でも神様からは特別なチートを貰い、世界最強の黒竜族の番に相応しい子になろうと頑張るのだが、なぜかディロ-ルの侯爵子息に学園主催の舞踏会で「お前との婚約を破棄する!」なんて訳の分からない事を言われるし、義妹は最後の最後まで頭お花畑状態で、オールを手に入れようと男の元を転々としながら、絡んで来ます!(鬱陶しいくらい来ます!)
大好きな乙女ゲームや異世界の漫画に出てくる「私がヒロインよ!」な頭の変な……じゃなかった、変わった義妹もいるし、何と言っても、この世界の料理はマズイ、不味すぎるのです!
神様から貰った、特別なスキルを使って異世界の皆と地球へ行き来したり、地球での家族と異世界へ行き来しながら、日本で得た知識や得意な家事(食事)などを、この世界でオールと一緒に自由にのんびりと生きて行こうと思います。
前半は転移する前の私生活から始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる