8 / 73
7話 身体強化を使えば痛くない!
しおりを挟む
いつもなら使用人休憩室で待っているはずのミザリーがいなかった。その代わり、他のメイド達がくすくすとエマを嘲笑うように見下ろした。
「先程、アリア様が呼んでいらしたわよ」
「元気になった、あなたの姿が見たいんですって」
メイド達は、これからエマが酷い目に遭うと分かっていて笑っているのだ。
アリアに会いたくない。
でも、行かなければ体罰と称して殴られるのだろう。それを、誰も助けてくれない。
スキルを奪い取れるチャンスだとしても、会いたくない……。
その時、天啓を受けたように思考がひらめいた。
(身体強化使ったら、痛くないんじゃない?!)
誰も助けてくれないなら、自分自身を守るしかないのだ。
そう思ったエマは握り拳を作って今まで笑っているだけだったメイド達に頭を下げると部屋を退室した。
*
エマはアリアの居る部屋をノックする。そこはかつて、自分が使っていた部屋だ。
「エマです」
『入りなさい』
アリアの冷めた声が扉越しに聞こえてきた。
扉を押し開けば、自分が使っていた頃の名残が残るぬいぐるみや家具が並んでいた。アリアは自分の部屋が与えられているのに、わざわざこの部屋がほしいと両親にごねたのだ。
ソファーに座っているアリアは、母のマリアエルに似ていて亜麻色の髪。ロレンスもだが、その美貌も受け継いでいる。その髪を縦ロールにしてツインテールにしている。アリアの両サイドには、ターナーが雇った優秀なボディーガードが立っていた。こんな時間まで付き合わせるなんて、早く休ませてあげれば良いのに……。
アリアは杖を持って歩み寄ってくる。魔法を補助する杖を何度も振り下ろした。魔力伝導率の高いオリハルコンが使われた高級な魔法の杖だ。
マリアエルと同じで、この国において非常に希少な聖属性を持っているアリア。エマは闇属性だから余計に肩身の狭い思いをした。
アリアが歩み寄ってくる。この隙に身体強化スキルを発動する。体が軽くなった。
アリアはすぐにエマの髪を掴んで引っ張る。身体強化って、頭皮にも効果があるんだとちょっと驚いた。
「1週間も寝たふりなんて良い度胸じゃない、使用人の分際で!」
「本当に、今日までずっと眠り続けていたの。寝たふりなんて、してないわ」
「自分から階段から勝手に落ちたくせに、被害者面も良いところだわ!」
突き落としたのはあなたじゃない。そう言いそうになったところを横凪ぎに振るわれた杖のせいで止まる。
アリアがぶくすっと頬を膨らませた。
「ふざけんじゃないわよ! 這いつくばれっての!」
(あっ! 全然痛くなくて忘れてた!)
今度は反対方向から飛んできた杖に合わせてエマは倒れる。全然痛みがない。
アリアは次に杖を何度も何度も振り下ろす。「生意気なのよ!」「目障りだわ!」とびしん、びしんと体に衝撃が走る。でも全く痛くない。
(はっ! いけない、痛がらないと!!)
「いっ、痛い痛い! 止めて、アリア!」
「うるっさいわね! 無能のくせに!!」
(良かった、痛くないのはバレてない!!)
顔を見られたらバレそうだから、頭を抱えて痛がっているふりを続けた。
「先程、アリア様が呼んでいらしたわよ」
「元気になった、あなたの姿が見たいんですって」
メイド達は、これからエマが酷い目に遭うと分かっていて笑っているのだ。
アリアに会いたくない。
でも、行かなければ体罰と称して殴られるのだろう。それを、誰も助けてくれない。
スキルを奪い取れるチャンスだとしても、会いたくない……。
その時、天啓を受けたように思考がひらめいた。
(身体強化使ったら、痛くないんじゃない?!)
誰も助けてくれないなら、自分自身を守るしかないのだ。
そう思ったエマは握り拳を作って今まで笑っているだけだったメイド達に頭を下げると部屋を退室した。
*
エマはアリアの居る部屋をノックする。そこはかつて、自分が使っていた部屋だ。
「エマです」
『入りなさい』
アリアの冷めた声が扉越しに聞こえてきた。
扉を押し開けば、自分が使っていた頃の名残が残るぬいぐるみや家具が並んでいた。アリアは自分の部屋が与えられているのに、わざわざこの部屋がほしいと両親にごねたのだ。
ソファーに座っているアリアは、母のマリアエルに似ていて亜麻色の髪。ロレンスもだが、その美貌も受け継いでいる。その髪を縦ロールにしてツインテールにしている。アリアの両サイドには、ターナーが雇った優秀なボディーガードが立っていた。こんな時間まで付き合わせるなんて、早く休ませてあげれば良いのに……。
アリアは杖を持って歩み寄ってくる。魔法を補助する杖を何度も振り下ろした。魔力伝導率の高いオリハルコンが使われた高級な魔法の杖だ。
マリアエルと同じで、この国において非常に希少な聖属性を持っているアリア。エマは闇属性だから余計に肩身の狭い思いをした。
アリアが歩み寄ってくる。この隙に身体強化スキルを発動する。体が軽くなった。
アリアはすぐにエマの髪を掴んで引っ張る。身体強化って、頭皮にも効果があるんだとちょっと驚いた。
「1週間も寝たふりなんて良い度胸じゃない、使用人の分際で!」
「本当に、今日までずっと眠り続けていたの。寝たふりなんて、してないわ」
「自分から階段から勝手に落ちたくせに、被害者面も良いところだわ!」
突き落としたのはあなたじゃない。そう言いそうになったところを横凪ぎに振るわれた杖のせいで止まる。
アリアがぶくすっと頬を膨らませた。
「ふざけんじゃないわよ! 這いつくばれっての!」
(あっ! 全然痛くなくて忘れてた!)
今度は反対方向から飛んできた杖に合わせてエマは倒れる。全然痛みがない。
アリアは次に杖を何度も何度も振り下ろす。「生意気なのよ!」「目障りだわ!」とびしん、びしんと体に衝撃が走る。でも全く痛くない。
(はっ! いけない、痛がらないと!!)
「いっ、痛い痛い! 止めて、アリア!」
「うるっさいわね! 無能のくせに!!」
(良かった、痛くないのはバレてない!!)
顔を見られたらバレそうだから、頭を抱えて痛がっているふりを続けた。
0
あなたにおすすめの小説
妻からの手紙~18年の後悔を添えて~
Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。
妻が死んで18年目の今日。
息子の誕生日。
「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」
息子は…17年前に死んだ。
手紙はもう一通あった。
俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。
------------------------------
最愛の番に殺された獣王妃
望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。
彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。
手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。
聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。
哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて――
突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……?
「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」
謎の人物の言葉に、私が選択したのは――
おっさん武闘家、幼女の教え子達と十年後に再会、実はそれぞれ炎・氷・雷の精霊の王女だった彼女達に言い寄られつつ世界を救い英雄になってしまう
お餅ミトコンドリア
ファンタジー
パーチ、三十五歳。五歳の時から三十年間修行してきた武闘家。
だが、全くの無名。
彼は、とある村で武闘家の道場を経営しており、〝拳を使った戦い方〟を弟子たちに教えている。
若い時には「冒険者になって、有名になるんだ!」などと大きな夢を持っていたものだが、自分の道場に来る若者たちが全員〝天才〟で、自分との才能の差を感じて、もう諦めてしまった。
弟子たちとの、のんびりとした穏やかな日々。
独身の彼は、そんな彼ら彼女らのことを〝家族〟のように感じており、「こんな毎日も悪くない」と思っていた。
が、ある日。
「お久しぶりです、師匠!」
絶世の美少女が家を訪れた。
彼女は、十年前に、他の二人の幼い少女と一緒に山の中で獣(とパーチは思い込んでいるが、実はモンスター)に襲われていたところをパーチが助けて、その場で数時間ほど稽古をつけて、自分たちだけで戦える力をつけさせた、という女の子だった。
「私は今、アイスブラット王国の〝守護精霊〟をやっていまして」
精霊を自称する彼女は、「ちょ、ちょっと待ってくれ」と混乱するパーチに構わず、ニッコリ笑いながら畳み掛ける。
「そこで師匠には、私たちと一緒に〝魔王〟を倒して欲しいんです!」
これは、〝弟子たちがあっと言う間に強くなるのは、師匠である自分の特殊な力ゆえ〟であることに気付かず、〝実は最強の実力を持っている〟ことにも全く気付いていない男が、〝実は精霊だった美少女たち〟と再会し、言い寄られ、弟子たちに愛され、弟子以外の者たちからも尊敬され、世界を救って英雄になってしまう物語。
(※第18回ファンタジー小説大賞に参加しています。
もし宜しければ【お気に入り登録】で応援して頂けましたら嬉しいです!
何卒宜しくお願いいたします!)
裏切られ続けた負け犬。25年前に戻ったので人生をやり直す。当然、裏切られた礼はするけどね
竹井ゴールド
ファンタジー
冒険者ギルドの雑用として働く隻腕義足の中年、カーターは裏切られ続ける人生を送っていた。
元々は食堂の息子という人並みの平民だったが、
王族の継承争いに巻き込まれてアドの街の毒茸流布騒動でコックの父親が毒茸の味見で死に。
代わって雇った料理人が裏切って金を持ち逃げ。
父親の親友が融資を持ち掛けるも平然と裏切って借金の返済の為に母親と妹を娼館へと売り。
カーターが冒険者として金を稼ぐも、後輩がカーターの幼馴染に横恋慕してスタンピードの最中に裏切ってカーターは片腕と片足を損失。カーターを持ち上げていたギルマスも裏切り、幼馴染も去って後輩とくっつく。
その後は負け犬人生で冒険者ギルドの雑用として細々と暮らしていたのだが。
ある日、人ならざる存在が話しかけてきた。
「この世界は滅びに進んでいる。是正しなければならない。手を貸すように」
そして気付けは25年前の15歳にカーターは戻っており、二回目の人生をやり直すのだった。
もちろん、裏切ってくれた連中への返礼と共に。
悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。
向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。
それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない!
しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。
……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。
魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。
木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ!
※第○話:主人公視点
挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点
となります。
追放された私の代わりに入った女、三日で国を滅ぼしたらしいですよ?
タマ マコト
ファンタジー
王国直属の宮廷魔導師・セレス・アルトレイン。
白銀の髪に琥珀の瞳を持つ、稀代の天才。
しかし、その才能はあまりに“美しすぎた”。
王妃リディアの嫉妬。
王太子レオンの盲信。
そして、セレスを庇うはずだった上官の沈黙。
「あなたの魔法は冷たい。心がこもっていないわ」
そう言われ、セレスは**『無能』の烙印**を押され、王国から追放される。
彼女はただ一言だけ残した。
「――この国の炎は、三日で尽きるでしょう。」
誰もそれを脅しとは受け取らなかった。
だがそれは、彼女が未来を見通す“預言魔法”の言葉だったのだ。
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
巻き込まれて異世界召喚? よくわからないけど頑張ります。 〜JKヒロインにおばさん呼ばわりされたけど、28才はお姉さんです〜
トイダノリコ
ファンタジー
会社帰りにJKと一緒に異世界へ――!?
婚活のために「料理の基本」本を買った帰り道、28歳の篠原亜子は、通りすがりの女子高生・星野美咲とともに突然まぶしい光に包まれる。
気がつけばそこは、海と神殿の国〈アズーリア王国〉。
美咲は「聖乙女」として大歓迎される一方、亜子は「予定外に混ざった人」として放置されてしまう。
けれど世界意識(※神?)からのお詫びとして特殊能力を授かった。
食材や魔物の食用可否、毒の有無、調理法までわかるスキル――〈料理眼〉!
「よし、こうなったら食堂でも開いて生きていくしかない!」
港町の小さな店〈潮風亭〉を拠点に、亜子は料理修行と新生活をスタート。
気のいい夫婦、誠実な騎士、皮肉屋の魔法使い、王子様や留学生、眼帯の怪しい男……そして、彼女を慕う男爵令嬢など個性豊かな仲間たちに囲まれて、"聖乙女イベントの裏側”で、静かに、そしてたくましく人生を切り拓く異世界スローライフ開幕。
――はい。静かに、ひっそり生きていこうと思っていたんです。私も.....(アコ談)
*AIと一緒に書いています*
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる