上 下
42 / 73

41話 初めての薬草採取!

しおりを挟む
 爽やかな風が吹き抜ける。晴れ渡った空。
 この3日間の移動で、外の世界にどれだけ感動したことだろうか。ずっと家の中だったから、空気の新鮮さも空の美しさも、何もかもが違うように見えた。

 こうやって自由に外を歩けることの幸福。
 これからは、こうやって生きていけるんだ。自分の好きなことを、やりたいことをやっていける。

 これも、舞のお陰だ。

 歩くこと2時間……と、否、寄り道して近くにモンスターが出るという森に忍び込んで戦っていたら、こんな時間になってしまった。
 だが、そのお陰でレベルアップして、使えなかった『キュア』や『ウィンドブラスト』『ダークブレイド』『フォトンブレード』が使えるようになった。

 地龍神殿は巨大というほどではないが、立派な石造建築が見えた。地龍らしきドラゴンが狛犬のように2つ、石畳を挟むように立っている。しかし、草はボーボーだ。

「アースティアー草だ」

 蜂蜜のような半透明の黄金色の実を膨らませていた。『鑑定』を使ってみれば、間違いなかった。
 ここに来る道中一つもなかったが、この石碑周辺だけ生えているのが見える。

 地龍の力を宿す浄化の実といわれ、石化以外の状態異常を解除するキュアポーション。その中でも、この地方で作られる限定のキュアポーションは唯一石化にも効き、更にはやせた土地や瘴気に汚染された土地の浄化効果が高い。

 唯一の欠点はこの場所から離れると草が枯れて、実しか残らない。他の土地では育てられないのだ。これが地龍の力を宿すと言われている所以だ。
 普通に食べると効果は微々たるもので、病気の回復には至らない。昔は、食べるだけで元気になれると言われていたが、効果も薄まり、採取量が減ってしまったそうだ。

 エマは味が気になって一粒食べてみた。柔らかい実から……。

「にが!」

 苦味とエグ味が強い。さすがは薬の原料。一度食べたものだから吐き出さないでいると、数秒後にすーっとその苦味が消えた。口の中で溶けるようだった。口にあの強烈な苦味とエグ味はきれいさっぱり残ってない。

 それを採取しているうちに、もう一つ、アースティアー草とよく似た形のものがあった。ただ、実っているのがイチイ実のように不透明な赤色だ。『鑑定』使ってみる。



『イビルティア―草』
  効能:幻覚、精神汚染、意識障害、魔素変化『毒』



 名前の通り、ヤバイ草だった。

(でも、それならソフィアさんが教えてくれそうだけど……)

 名前がよく似ている。アースティアー草と似た名前だ。変異種っぽい。これも草を抜いたら枯れてしまうだろうか。
 あちこちにではないが、意識して探したら見掛ける程度にはある。

 実を一粒取ってみる。途端に、しゅわっと、エマの指から空気に溶けるように消えた。途端に、甘い芳香が鼻に届いた。効果名とは違って、すごく心地よい香りだ。こんな香りの芳香剤や香水があったら、迷わず購入してしまうかもしれない……。

(エマ! 口と鼻をふさいで離れて!!)
「!」

 頭に聞こえた声にエマは慌てて大きく後退する。
 すると、さっき立っていた場所が赤っぽい霧が漂っている。
 おかしい、さっきまで普通の景色に見えていた。あれだけ濃い赤の中にいたのなら、視界が赤いフィルタ―がかかったように見えているはずだ。

(もしかして、これがイビルティア―草の幻覚効果……)

 風がそよりと吹く。赤い霧が、徐々に空気に溶けて消えてしまった。ヤバイ成分のあるものを空気中に放出してしまった。これ、ギルドに連絡した方が良いんじゃないだろうか。
 また、舞に助けてもらってしまった。実の兄よりも頼りになる。

 アースティアーの実を収穫して、この毒草について早く連絡しよう。異世界の薬草は怖いと分かっただけ、今のエマには十分な収穫だ。エマは再度、さっきのイビルティアー草の位置を確認しに戻る。

「もう生えてる……」

 あの赤いイチイの実のようなものが、またぷっくりと身を膨らませていた。
しおりを挟む

処理中です...