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 どうやらアレンはヴァレリアにお熱らしい。
 しかし、今までミリも婚約の話が振られなかったのは、アルトが国王からのお願いを断固拒否、王族の茶会やパーティーの招待すら回し蹴りで蹴飛ばしているからだった。

 常に傍にいるセ○ム。それがアルト。ありがたいことこの上ない。

「私、毒の入った料理はもう食べたくないなぁ……それに、お家のみんなの料理の方がおいしいもの」
「そっかぁ~~~~!」

 ヴァレリアに関連すること限定で知能指数が墜落したアルトをすぐさまライリーが窘めた。
 僭越ながらとは言いつつも、ヴァレリアがまだ七歳で冒険者ギルドの下限年齢には達していないことや教育の大事さを説いた。立派な反対意見である。

「でも、ヴァレリアさんは年頃の子供達より進んでおりますよ」

 エリンが三つ目のミニタルトを平らげ、絶賛してくる。ヴァイオリンやダンスはまだ練習が必要だが、魔法はセンスがあるらしい。

「それに貴族といえば魔法は必修科目でしょう? それなら私よりもクローナ先生に教えて頂いた方がさらに上達しますよ」
「クローナ先生?」

 エリンの師匠はクローナだという。アルトには言ったことがあるらしいが、アルトは本気で驚いていた。
 クローナは高位魔法師で、魔法学校の経営、そして教鞭を取っている現役の教師でもある。

「アルトさんも通っていたでしょう? アルカディア魔法学園長なのよ」
「たった今通わせる気がなくなった」
(それなら手放しで喜びたい!)

 各国を旅していた時期もあり、彼女は世界各国についても詳しい。
 クローナもまた教師としては適任だとエリンがごり押した。

「でも、ケーキを食べられなくなるのは残念ですねぇ」しょぼんとするエリン。
「そうです! ヴァレリアにはパティシエという壮大な可能性があるのです!」

 アルトが言っていないことを熱弁し、世界の損失ととんでもない豪語を吹聴している。語彙力が巧みだが、要はヴァレリアの考案したお菓子を広めるべきだと言っている。
 親バカ爆弾に着火したばかりの火をさら焚き付けるのは、フォンだった。

「それならヴァイオレット家の出資で私が統括している冒険者ギルド内にテナントを作りませんか? そこならば家からもそれほど離れていませんし、世界各国を渡る冒険者達が広告してくれるかもしれませんよ」
「それだ!!」

 アルトが歓喜する見事な折衷案。宣伝においては完璧な理由。
 だが、彼はミニタルトをしれっと七つも食していることに気づく者はいない。
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