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婚約破棄? 別にいいけど
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私は侍女の後に続いて元使用人用住居である離れを出た。
それなりに広い敷地を歩いて貴族らしい大きな本邸に裏口から入る。
母が亡くなって以来、この本邸の中はまともに立ち入る事は出来なくなった。
要するに追い出されたのだ。
そんな私を父がわざわざここに呼ぶ理由は大体想像がついていた。
私が通された部屋は書斎ではなく広い食事室だった。
どうやらこちらでも夕食が終わった所の様だ。
片付けられた料理は少なくとも私の食事とは比べるもなく豪勢な物だっただろう。
この場に居たのは父だけではなかった。
わざわざ書斎に呼ばなかったところにさりげない悪意を感じる。
長いテーブルの正面にこの屋敷の主人であり私の父、ディーツェ侯爵。
左側に後妻であり私の義母、サンドラ。
そして右側にサンドラの子供で半分だけ私と血がつながっている妹のドロテア。
まるでご主人様の前に出てくる使用人の様に私はテーブルの真正面に立った。
立ったままの私に向かって重々しく父が口を開く。
「フリーダ、お前とフーゴ殿の婚約は破棄する事になった」
「……」
「フーゴ殿はお前ではなくドロテアを婚約者として望まれている。
当家としてはリューベック侯爵家と縁をつなげるなら姉妹どちらでも構わんのでな。
フーゴ殿とドロテアが婚約する事になった。」
(やっぱりね……。婚約破棄? 別にいいけど)
同じ侯爵家とは言ってもディーツェとリューベックでは財政規模が違う。
フーゴとはリューベック侯爵家の次男であり、容姿の良さで知られていた。
学園に居る時、フリーダはフーゴに人前で罵られて婚約破棄されていた。
その記憶からこの展開は予想が付いていた。
ドロテアは目を細めて口を歪めて私を楽しそうに見ている。
せっかく美しい顔立ちなのに醜い表情で台無しだ。
私はこの半分だけ血の繋がった妹を喜ばせるつもりは無かった。
実際、今の私は婚約者に何の思い入れも無いからどうでもいい。
私は淡々と表情を変えずに返事をした。
「承知致しました」
「「「……」」」
ドロテアは少々意外そうな顔をした。父もサンドラも同様だった。
予想通りのリアクションをしなかった私が意外だったのだろう。
母が亡くなった7歳の時以来、ずっと続くこの家族からの冷遇。
加えて婚約者から人前での婚約破棄宣言。
根っからの貴族令嬢フリーダにとってこの環境から抜け出す希望が失われた様に
感じたのかもしれない。
絶望と屈辱に心の限界が来た17歳のフリーダは自身の首を切り自殺した。
そしてその体に宿ったのは勝ち気で図太いアラサーの私の人格だったという訳だ。
「全く……なんという体たらくなの? ドロテアが居てくれて本当に良かったわ。
本当にあなたは全く役立たずで我が侯爵家の足を引っ張るばかりねぇ」
私を見て嘲りの声を出したのはサンドラである。
義理とはいえ17歳の娘にこんな物言いをするそちらの方がよっぽど恥だろう。
いい年した大人として恥ずかしくないのだろうか。
中身が元の大人しいフリーダではないので可愛げがない私は早速反撃を開始した。
「そういうあなたは家の財産を食いつぶすばかりですね。
どれだけ宝飾品を買えば気が済むのですか?」
「なっ!」
「何という事を! 謝罪しろ、フリーダ!」
父が大声で私に注意する。
自分の妻の発言をたしなめるどころか全て子供に非があるという訳だ。
始めから平等な視点という物が欠けている。
屑だな。思った以上に。
いくら望まない子供だったとしてもこの扱いは無いだろう。
親になってはいけない人種というのは間違いなく存在するのだ。
血の繋がった親がその場合、虐げられた子としては確かに絶望しかない。
「低俗な嫌味に対して低俗な嫌味で返しただけですが」
「っ……このっ……」
サンドラの顔が茹でだこみたいに真っ赤になっている。
こちらもドロテアと同じで容姿は美しい。
しかしケバい分、救いようがない。
化粧品の匂いがすごそうだし、様々な意味で近づきたくない人種だ。
「不快なら謝罪しますわ、たとえ事実でも。大変申し訳ございませんでした」
「フリーダ、親に対して何という口の利き方をするんだ! 私は育て方を誤った」
「私は生まれてくる家を誤りました」
「何だと……」
「何故なら、まともな親ならしない様な仕打ちを日々受けていますからね。
カビだらけのパンばかりを食べさせられているのでちょっとお腹が痛いのです。
お呼びした件が終わりならこれで失礼させて頂きます」
私は表情を変えずに更なる反撃を加えた。
恐らく今までのフリーダなら口答えなどありえなかったからだろう。
目を丸くしている家族や使用人を後にして私は部屋を出て行った。
それなりに広い敷地を歩いて貴族らしい大きな本邸に裏口から入る。
母が亡くなって以来、この本邸の中はまともに立ち入る事は出来なくなった。
要するに追い出されたのだ。
そんな私を父がわざわざここに呼ぶ理由は大体想像がついていた。
私が通された部屋は書斎ではなく広い食事室だった。
どうやらこちらでも夕食が終わった所の様だ。
片付けられた料理は少なくとも私の食事とは比べるもなく豪勢な物だっただろう。
この場に居たのは父だけではなかった。
わざわざ書斎に呼ばなかったところにさりげない悪意を感じる。
長いテーブルの正面にこの屋敷の主人であり私の父、ディーツェ侯爵。
左側に後妻であり私の義母、サンドラ。
そして右側にサンドラの子供で半分だけ私と血がつながっている妹のドロテア。
まるでご主人様の前に出てくる使用人の様に私はテーブルの真正面に立った。
立ったままの私に向かって重々しく父が口を開く。
「フリーダ、お前とフーゴ殿の婚約は破棄する事になった」
「……」
「フーゴ殿はお前ではなくドロテアを婚約者として望まれている。
当家としてはリューベック侯爵家と縁をつなげるなら姉妹どちらでも構わんのでな。
フーゴ殿とドロテアが婚約する事になった。」
(やっぱりね……。婚約破棄? 別にいいけど)
同じ侯爵家とは言ってもディーツェとリューベックでは財政規模が違う。
フーゴとはリューベック侯爵家の次男であり、容姿の良さで知られていた。
学園に居る時、フリーダはフーゴに人前で罵られて婚約破棄されていた。
その記憶からこの展開は予想が付いていた。
ドロテアは目を細めて口を歪めて私を楽しそうに見ている。
せっかく美しい顔立ちなのに醜い表情で台無しだ。
私はこの半分だけ血の繋がった妹を喜ばせるつもりは無かった。
実際、今の私は婚約者に何の思い入れも無いからどうでもいい。
私は淡々と表情を変えずに返事をした。
「承知致しました」
「「「……」」」
ドロテアは少々意外そうな顔をした。父もサンドラも同様だった。
予想通りのリアクションをしなかった私が意外だったのだろう。
母が亡くなった7歳の時以来、ずっと続くこの家族からの冷遇。
加えて婚約者から人前での婚約破棄宣言。
根っからの貴族令嬢フリーダにとってこの環境から抜け出す希望が失われた様に
感じたのかもしれない。
絶望と屈辱に心の限界が来た17歳のフリーダは自身の首を切り自殺した。
そしてその体に宿ったのは勝ち気で図太いアラサーの私の人格だったという訳だ。
「全く……なんという体たらくなの? ドロテアが居てくれて本当に良かったわ。
本当にあなたは全く役立たずで我が侯爵家の足を引っ張るばかりねぇ」
私を見て嘲りの声を出したのはサンドラである。
義理とはいえ17歳の娘にこんな物言いをするそちらの方がよっぽど恥だろう。
いい年した大人として恥ずかしくないのだろうか。
中身が元の大人しいフリーダではないので可愛げがない私は早速反撃を開始した。
「そういうあなたは家の財産を食いつぶすばかりですね。
どれだけ宝飾品を買えば気が済むのですか?」
「なっ!」
「何という事を! 謝罪しろ、フリーダ!」
父が大声で私に注意する。
自分の妻の発言をたしなめるどころか全て子供に非があるという訳だ。
始めから平等な視点という物が欠けている。
屑だな。思った以上に。
いくら望まない子供だったとしてもこの扱いは無いだろう。
親になってはいけない人種というのは間違いなく存在するのだ。
血の繋がった親がその場合、虐げられた子としては確かに絶望しかない。
「低俗な嫌味に対して低俗な嫌味で返しただけですが」
「っ……このっ……」
サンドラの顔が茹でだこみたいに真っ赤になっている。
こちらもドロテアと同じで容姿は美しい。
しかしケバい分、救いようがない。
化粧品の匂いがすごそうだし、様々な意味で近づきたくない人種だ。
「不快なら謝罪しますわ、たとえ事実でも。大変申し訳ございませんでした」
「フリーダ、親に対して何という口の利き方をするんだ! 私は育て方を誤った」
「私は生まれてくる家を誤りました」
「何だと……」
「何故なら、まともな親ならしない様な仕打ちを日々受けていますからね。
カビだらけのパンばかりを食べさせられているのでちょっとお腹が痛いのです。
お呼びした件が終わりならこれで失礼させて頂きます」
私は表情を変えずに更なる反撃を加えた。
恐らく今までのフリーダなら口答えなどありえなかったからだろう。
目を丸くしている家族や使用人を後にして私は部屋を出て行った。
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