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ギルヴェル四天王復活

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例によって俺たちは飛行船で移動している。
目的地のエジプトへはもうすぐのところまで来ていた。

「ねえ、優輝。位置的にクフ王のピラミッドの中に魔法陣の反応があるんだけど。」

エリスはクフ王のピラミッドの中にオウガスの力を感じたとのことだ。
いかにもというところに魔法陣・・・

そしてエジプト上空へと差し掛かる中、魔導レーダーにもしっかりと反応している。
そんな中、突然飛行船が大きく揺れた。

「どうした?」
「砂嵐よ・・・制御できないわ!!」

操舵していた澄華先生が叫んだ。

「レーダーも反応しない!!」
「ただの砂嵐じゃないわ。磁気嵐・・・しかもこんな上空に・・・」
取り乱す風香をなだめつつエリスが思案する。
しかし、飛行船はそのまま墜落し始めた。

「優輝!!」
「エリス、わかってるって!!」

俺とエリスは魔法力で飛行船のコントロールを試みる。
何とか安定を取り戻しながら飛行船は砂漠の真ん中に不時着した。

「どうする・・・?」
「嵐が過ぎ去るのを待つのも無理そうね。下手すりゃ永遠に続きそう。嵐の源を断つしかないけど。」

俺とエリスの脳裏にはクラン・ヴァンゲリスの姿が浮かんでいた。

「この規模の砂嵐、磁気嵐を発生できるとなるとヴィーザムに相当侵食されているだろうな。」
「どうにもできそうにないかもね・・・」

エリスは寂しげな顔で俺を見た。

「助けたいと思っているのか?」
「ラーヴァスを救えなかったし、ダーヴィスは救いようがなかった・・・でもクラン・ヴァンゲリスは違う。単純にノームを振り向かせたいがための暴走でしょ・・・。そのためにヴィーザムになんて・・・」

そのとき強烈な衝撃で飛行船が大きく揺れた。

「攻撃・・・やるしかないわ。どれだけの敵が待ち構えているかわからないけれど。」
「OKだ。みんなも頼む。」
「精霊転生・・・ガル・レインカナーチャ!!」

俺の声に合わせて精霊たちは、それぞれ戦闘態勢に入った。

「わたしもそういう変身みたいなのしてみたいな・・・」

舞花の寂しげなつぶやきを横目に俺たちは飛行船の外に出た。
予想通りでモンスターたちに囲まれている。

「全部オウガスとはわかりやすいわね・・・」

シルフが気合十分で一人前へと進み出た。

「久々に本気でいくわ。優輝クン・・・イク時は一緒よ♥」

この期に及んで下ネタはいらねえぞ・・・

「全魔法力解放で吹っ飛ばす・・・」

シルフの目が光を放つと吹き荒れていた砂嵐が止まった。
そして至る所から魔法陣が浮かび上がるとそこから強力な竜巻が発生する。

「全部消し飛べェェェ!!」

竜巻に巻き込まれたオウガスのモンスターたちは断末魔をあげながら消し飛んでいく。

「ふははは・・・消えろ消えろ消えろォォォ!! 優輝クンを邪魔するモノは全て消えてしまえェェェ!!」

久しぶりに病みつきぶり全開のシルフにドン引きの俺。
モンスターたちが全て消滅した後に一人倒れている男の姿。

おいおいおい・・・いつの間にか勝手にやられているし・・・

白目を剥いているクラン・ヴァンゲリス。
その姿をただ茫然と見つめるエリスたち。

「ふう・・・死んだふりもツライな・・・ユウキ・ナザンよ。」

ふらつきながら立ち上がるクランの姿に思わずズッコケそうになってしまう。
今、普通にシルフにやられていたのは気のせいじゃないだろう。

「精霊たちにギルヴェル・・・勢ぞろいでご苦労なことだ。さあ・・・決戦と行くか!!」

クランの声と共に砂漠の大地に4つの巨大な魔法陣が現れる。
そこからは恐ろしいまでの強大な闇の力が感じられた。

まさか・・・まさか・・・

エリスは焦りを隠せない。

「エリス・・・コイツら・・・」
「信じられない・・・なんで・・・」

魔法陣から姿を現す強大な魔力を放つ4体のシルエット。

「さあ・・・出でよォッ!! ギルヴェル四天王!!」

クランの声が響き渡る。

「久しぶりだな・・・ユウキ・ナザン。そしてギルヴェル様も変わり果てた姿になったものだな。」

ギルヴェル四天王の一人だった粉砕の巨人パレナス。

「地獄の底から貴様に復讐するためだけに這い上がってきたぞ。ユウキ・ナザン。そしてギルヴェル様には再び大魔王として君臨してもらう!!」

同じくギルヴェル四天王の一人闇夜の魔導士サリナス。

「まだギルヴェルに拘るか、サリナスよ。私はただユウキ・ナザンに死の恐怖を味あわせたいだけだ。」

こいつもギルヴェル四天王の一人破戒の戦士レイナス。

「くだらん・・・クラン・ヴァンゲリスよ。我らを甦らしはヴィーザムの意思。」

そして一番厄介なギルヴェル四天王最強の静寂の剣士ゼイアス。


「あなたたち・・・このあたしに敵わなかったことを忘れたの?」

強がるエリスだが、明らかに動揺している。
そう・・・四天王の強さは間違いなく以前とは比べ物にならない。

「我らは以前と同じだと思うなよ・・・これを見ろ!!」

ゼイアスが闘気を身体中から放出するとその身体中に血管のように浮き上がるのは木の根・・・ヴィーザムの力が全身に根付いているということだ。
しかもこいつ等は全員が闇属性。光属性以外に弱点というものがない。
光属性もまた闇属性が弱点である。ガイスマスとナーヴェスは表裏一体。
力と力のぶつかり合いしかないということだ。

「みんな・・・このオウガス使いはわたしが抑えつけておくから・・・」

シルフが風を巻き起こすとその中で身動きがとれなくなるクラン。

「ぐぬうう・・・」

苦痛に顔を歪める姿に同情さえ芽生えてしまいそうになるが、それどころではない。

「どう戦うか・・・一番厄介なのはゼイアス。基本的に魔法が通じない・・・近接からの攻撃しか通じないわ。」
「俺に任せろ!!」

ヴォルトがゼイアスの前に立った。

「ヴォルトか・・・なるほどね・・・」

エリスも納得する。ヴォルトは戦闘能力では精霊たちではサラマンダーと並んでトップクラスだ。

「あたしとヴォルトでゼイアスと戦うから。」
「サラマンダーとは心強いな!!」

ヴォルトとサラマンダーがゼイアスと臨戦態勢に入った。

「となると俺は相性的にはサリナスか・・・魔法勝負なら絶対に負けないからな。」
「大した自信だ。確かに貴様は天才だろう。人とは思えぬ。」

俺とサリナスが対峙した。

「あたしたちは・・・?」

アルラウネとなった穂香と魔弾を手にした舞花が戸惑っている。

「四天王との戦いは危険だ。風香とクランを見張っていてくれ・・・じゃあサリナス行くか!!」
「望むところォ!!」

俺とサリナスは転移した。
それを見たサラマンダーとヴォルトもゼイアスと共に転移する。

「レイナス・・・どうやらあたしは眼中にないようね・・・」
「・・・」

エリスとレイナスは向かい合うと転移した。

「となるとわたしとドリアードでこの巨人さんですか・・・」

ウンディーネが嫌そうな顔でパレナスを見る。

「美味しそうな精霊共だ♪」

涎を垂らすパレナスに対しドリアードが怒りの形相で叫んだ。

「ざけんじゃねえ!! あたしたちは優輝くんならいいけど、アンタみたいなキモイ巨人はお断りよ!!」
「面白え・・・その生意気な可愛い顔を苦痛と快楽で歪ませてやるぞォォォ!!」

最後にウンディーネとドリアードがパレナスと転移していった。

しかし、ヴィーザムの力で蘇ったギルヴェル四天王の恐怖、俺たちはまだ知る由もなかったのだった。
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