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絶望の旋律

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俺と闇夜の魔導士サリナスはイルジアンにて対峙していた。
他の連中もみんなイルジアンに転移出来ている。

「やはりな。砂漠自体が魔法陣となっていたか・・・」
「我ら四天王をあの世界に呼ぶにはそのぐらいの大きさがなければな。」

ここはイルジアンのリエルス高地。周辺数百キロに渡って広がる岩山群だ。

「また打ち合うか・・・ガイスマスとナーヴェスの打ち合い・・・俺は悪くはないぜ。」

俺が両手に魔法陣を発動させると光の波動が巻き起こる。

「フハハハ・・・同じ展開だとォ?望むワケないだろうがァァァ!!」

サリナスの手から種のような物が地面に落ちていく。

「マジか・・・」

その種からサリナスに似た木の人形が生まれてくるではないか・・・
やがてサリナスと瓜二つの姿に変貌を遂げていく。

「1対10でどこまで戦える?」

サリナスはそう言うと不敵な笑みを見せるのだった。

「勝つまで戦い続ける・・・俺にはそれしかできないからな・・・負けることは許されない戦いだ。」

俺は嫌な汗が流れているのを感じながらも覚悟は出来ていた。
勝たなければ終わりなのだ・・・



「ぐはッ・・・」

俺は凄まじい衝撃と共に地面に叩きつけられている。
もう何度も繰り返し、身体はバラバラになりそうだ。
多分、骨も何本かイカれているだろう・・・

くそ・・・くそが・・・

無傷のサリナス軍団の姿が目に入る。
そして耳元で声が聞こえてきた。

「大丈夫? 大丈夫?優輝くん・・・今、治すから。」

アルラウネの治癒の魔法で身体中の痛みが薄れていく。
ということは現世に戻ってきたということか・・・

「止めを刺す寸前にこの世界に逃げやがった。悪あがきだな。」

サリナスたちが声を揃えているのが、腹立たしいが手も足も出ないのが事実。
これが突き付けられた現実なのか・・・



「サリナス、何をしているのだ。手こずり過ぎだぞ。」

ゼイアスが時空を裂いて姿を現した。

「・・・な・・・」
「嘘でしょ・・・!?」

俺たちの目に飛び込んできたのは二つの首だった・・・
サラマンダーとヴォルトの首を放り投げるとゼイアスはニヤリと笑う。

「い・・・いや・・・」

恐怖と悲しみのあまりアルラウネと舞花はへたり込んでしまった。

「てめええええええッ!!」

シルフが涙を浮かべながら怒りに任せてゼイアスに襲い掛かる。

「全てを斬り裂く真空の刃・・・ヴェーヤ・ラプスタ!!」

その両腕がまるで剣のように変化するも、ゼイアスは気合で弾いてしまう。

「死ね・・・いや・・・精霊は死なぬか・・・ならば一旦消えるが良い。」

その手の剣でシルフの首を斬り落とそうとするも、俺が飛び込んでシルフを抱きかかえて躱した。

「ハア・・・ハア・・・大丈夫か・・・?」
「優輝クン・・・ありがとう♥」


「何やっておるのだ・・・オマエら・・・」

更にパレナスが姿を現した。
しかしウンディーネとドリアードの姿がない・・・

「お? ユウキ・ナザン♪ 気になるか? 精霊たちが気になるか?」

パレナスは俺を見るとあざ笑うかのように自身の腹を指差した。
それを見たシルフは震えながら顔を両手で覆う。

「美味しかったぜ・・・精霊の味は格別じゃァァァ・・・・ガハハハッ!!」

その笑い声を聞いたアルラウネと舞花はあまりの恐怖に気を失ってしまった。

「俺だけ殺せば済む話だろうが・・・」
「甘ちゃんになったな、ユウキ・ナザン。」

そんな俺の言葉にパレナスは見下すような、しかも憐れみさえ感じさせる表情を見せる。
屈辱だが・・・屈辱だが・・・俺には成す術がない。
今は舞花、アルラウネ・シルフをどう逃がすか・・・そして帰ってこないエリスが気がかりだった。
彼女の魔法力ならば、本来ならばレイナスなどは敵ではない。
俺もサリナスやパレナスは敵ではない・・・強敵と言えるのはゼイアスのみ。
そんなゼイアスでも精霊の中で最強のサラマンダーとヴォルトなら勝てるはず。
過去の戦いの経験上ではそう考えられた・・・しかし奴らはヴィーザムの力を得て太刀打ちできない程の強さを得ている・・・それならばレイナスも・・・


そう・・・その気がかりは現実のものとなるのだ・・・


「ユウキ・ナザン、待たせたな。・・・なんだとサリナスに勝てぬのか・・・情けないものだ。」

レイナスが姿を現した。サリナスはその言葉を聞いて苦笑している。
しかし俺たちは笑えなかった。

「エリス・・・貴様ァ!! エリスに何をしたァァァ!!」

俺は絶叫するしかなかった。
気を失っているエリスをレイナスが抱きかかえていたのだ。

「まだ何もしてはいない。・・・」

レイナスはエリスを地面に放り投げる。

「・・・んん・・・!?」

気が付いたエリスだが自分が置かれている状況を察すると恐怖に顔が歪んでいる。

「エリス!!」

俺は助けようとするも、地面から伸びてきたヴィーザムの枝に四肢を絡められ動けなくなってしまう。
シルフは絶望の表情でただ天を仰ぐばかり・・・

な・・・何もできないわ・・・どうすればいいの・・・

「ギルヴェル様・・・まさか・・・アンタを味わえるとはな・・・何という快楽・・・これ程甦って嬉しいことはない。」

涎を垂らしながらサリナスがエリスへと近づいていく。

「イヤ・・・やめて・・・お願いだから・・・イヤ・・・」

エリスは立ち上がり逃げ出そうとするも

「キャッ!?」

ゼイアスが立ちはだかると、平手打ちでエリスを地面に叩きつけた。

「順番はどうでもいいから、俺にもよな・・・ガハハハァァァ!!」

パレナスも涎を垂らしながら豪快に笑っている。

「我らを謀った罪は大きい・・・」
「あたしは謀っていない・・・ギルヴェルじゃない・・・もうギルヴェルじゃない・・・」

近づいてくるレイナスに対しエリスは立ち上がるが、その身体は恐怖に震えていた。
何故・・・俺は助けることが出来ない・・・動くことが出来ないんだ!!
好きな人を・・・好きな人を・・・俺は・・・そうか・・・俺はやはり・・・

レイナスは、エリスを無理矢理抱きかかえると、俺の前に運んできた。

「やめろ・・・やめてくれ・・・」

そんな俺の目の前で、レイナスの身体から触手が伸びていき、エリスの身体に纏わりついていく。

「いや・・・気持ち悪い・・・いや・・・優輝・・・助けて・・・お願い・・・助けて!!」

「なんとも滑稽なことだ。ギルヴェルとユウキ・ナザンが愛し合っているとはな・・・ほほう・・・クックックッ・・・」

レイナスの表情が残忍そのものな顔に一変すると、涎を垂らしながらエリスの首筋を舐めはじめる。

「頼む・・・俺を殺せ・・・好きにしろ・・・だから彼女は・・・エリスだけは・・・やっと人間に戻れたんだ!! わかってくれ!!」

泣き叫ぶ俺の姿を見て腹を抱えて笑っているサリナスとパレナス。ゼイアスは憐みの目を俺に向けている・・・これ程の屈辱・・・無力感・・・禁呪も唱えられない俺は絶望するしかなかった。
慕ってくれる精霊たちを・・・そしてエリスを・・・俺は何の為に生まれてきたんだ・・・

「いい加減にしなさい!!」
怒りの舞花の魔弾がレイナスめがけて放たれる。

「戦うわ!! 美しき花びらの旋律・・・イルーゾール・ジエドル・ウズブルクムス!!」
限りなく魔法力を高めたアルラウネの詠唱と共に美しい色とりどりの花びらがレイナスを包む。

「ぬう・・・なかなかやるな!!」
しかし、レイナスはそれらを闘気で吹き飛ばしてしまう。

マズいわ!?

シルフが舞花とアルラウネの前に庇うように立つ。

「3匹まとめて消え去るがよい・・・」
レイナスは触手でエリスを拘束したまま、右手に闇の力を溜め込んでいく。

クソッ・・・こんなにも俺は・・・俺は・・・無力なのか・・・

そのとき、俺の頭の中に誰かの声が聞こえてきた。
まるで別世界にいるかのように・・・
深い森の奥の巨大な天空まで伸びている美しい世界樹の下に、いつの間にか俺は立っていた。

『我が子よ・・・我が身を産み、そして滅ぼすために生まれし子よ・・・』
「何を・・・言っている・・・」
『身を委ねよ・・・父であり母である我に身を委ねるのだ。』
「何が・・・何が・・・うおッ・・・」

眩い光と共に俺の身体がその世界樹の中に吸い込まれていく。

『オマエの絶望は世界の終焉へと導く・・・』

絶望・・・そうだな・・・俺は絶望している・・・

『生まれし時より、7つの魔法をその身に宿すオマエに絶望はない・・・』

何だ・・・これは・・・光の彼方に何かが見える・・・

『我が世界に問う・・・その答えを求めよ・・・それがユウキ・・・オマエの生まれし意味、存在意義。』

光は強くなっていく・・・俺の身体を包み込む優しくも力強い光。
そうだ・・・まずは・・・俺自身を信じる・・・絶望しない・・・
俺は・・・俺自身が世界の希望になってみせる・・・

「俺は天才大魔法使い・・・イルジアン有史始まって以来の天才大魔法使いユウキ・ナザンだということを忘れたか? この変態共め。」

俺の身体に信じられないほどの力がみなぎってきた。
ヴィーザムの枝を粉々に吹っ飛ばすとそのままレイナスに飛びかかっていく。

「ぎゃあああッ!!」

全身の触手を引きちぎられたレイナスは、悶絶して倒れ込むと泡を噴いて動かなくなった。

「優輝・・・優輝ィ・・・・優輝ィィィ!!」

号泣しながら抱きついてくるエリス。

「ゴメン・・・俺が弱いばかりに・・・でも大丈夫・・・」
「優輝・・・」
「すぐに終わらせる。任せろ。」
彼女の周囲に結界を張ると俺は全身に漲る魔法力を解放した。
自分でも信じられないぐらいに力が漲ってくる。

「そうだった・・・俺は既に強かったことを忘れていたか・・・なあ・・・レイナス。」

「お・・・おい・・・聞いてねえぞ・・・こんな魔法力・・・あり得ねえぞ・・・」

パレナスとサリナスは俺の魔力を感じると後退りを始めた。

そうか・・・ヴィーザムの言う通りか・・・

ゼイアスはそんな中でも冷静に俺を見つめていた。

ゼイアスのヤツ・・・
だが、何も俺にはゼイアスやヴィーザムの思惑など関係ない・・・。
大切な精霊たち、そして俺の一番大切だと思える女性エリスを凌辱しようとしたことは許すわけにはいかない。

ここから俺の・・・俺たちの反撃が始まる。
今度はギルヴェル四天王に絶望を与える番だ。
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