マイホーム戦国

石崎楢

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第216話:尼子家再興へ

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1571年も3月に入った大和国多聞山城。

「では、行きますぞ。」
「重信殿、ご武運を・・・」

私たちに見送られて出陣していく筒井家重臣松倉重信率いる大和国軍。
その兵の数は一千。大和からの織田への援軍派遣の第一陣である。
筒井家はまだ齢八つの筒井藤丸が筒井定次として継承している。
その実父の慈明寺順国以下家臣団が一丸となって盛り立てているのだった。

「伊賀からは小原殿、大和からは重信殿、伊勢からは吉田兼房殿。続いて山城や若狭、河内、摂津からも援軍が派遣されていきます。上杉の出方は読めませぬが・・・。朝倉義景様にも東の備えを促しております。」
重治からの説明を受けていた。

「そうか・・・雪解けが終われば輝虎殿が攻めてくる。あの上杉謙信と私が戦うのか。」
「上杉は北条や武田と同盟を結び、背後に憂いのない状況を作っております。我らの背後は毛利です、残念ですがそこは気を付けねばなりません。」

重治の言葉通り、宇喜多との件で毛利家と敵対状態に陥っている。
状況は改善されていない。
但馬の山名祐豊、因幡の山名豊国は毛利がその気になれば制圧されてしまうだろう。
備前の浦上宗景は毛利の傘下となり備中は火薬庫のように危険な状態なのだ。

「細川藤孝殿任せというのが申し訳ないよな。」
私はそう呟くのだった。


丹後国宮津城。
守護に任命されてからの細川藤孝の働きぶりはめざましいものがあった。
丹後の内政だけではなく、但馬・因幡においても守護代ともいえる立場になっている。

「毛利の動向は?」
「ははッ。伯耆羽衣石城城主の南条元続は松崎城、河口城にも兵を展開しております。」
家臣からの報告を受けた藤孝。

「当分は睨めっこといったところか。戦をせんに越したことはないだろう。少なくとも我らとはな。」
そうつぶやきながら、藤孝は横目で一人の男を見ていた。

そう・・・我らとは・・・そろそろ時が来たりて・・・といったところ・・・

細川藤孝の異母兄である三淵藤英は無言で大きく頷く。

我らとの戦は避けれても、これだけは避けようがない。止めようもない。許してくだされ、大輔様。


二人の予測通りであった。
出雲国大勝間山城は突然の敵襲に成す術がなかった。

本丸にて城代の首が刎ね飛ばされる。

「バ・・・バケモンだ・・・」
腰を抜かす者、逃げ惑う者ばかり。城代を斬り捨てた男に誰一人抗おうとしない。

「毛利も堕ちたモンだな・・・」
尼子家家臣寺本生死介は血に染まった刀を床に突き刺すとそのまま座り込む。
かつて尼子を滅ぼした際の毛利との違いが明白で苛立ちを隠せなかった。

「まあよいではないか。兵の数では圧倒的に毛利が上じゃ。貴重なの犠牲は少ない方が良い。」
攻め手の大将の尼子家家臣秋上庵介宗信は、生死介をなだめると兵たちに指示して、城内至るところに尼子の旗印を掲げた。

「四つ目結か・・・生を実感できるぞ・・・ううおおおッ!!」
風にたなびく旗印を見つめて男泣きするのは尼子家家臣早川鮎介。


同じ頃、出雲国真山城。
毛利の旗が焼かれていくと、次々と立てられていく尼子の旗印。

「やはり毛利の爺さんが死んだおかげじゃな。」
尼子家家臣薮中荊介は本丸から出雲の景色を眺める。

「荊介。出雲の風はやはり違うな・・・」
山中鹿介幸盛の顔は充足感に溢れていた。

「宇喜多直家に・・・そしてある意味で山田大輔に感謝せねばな。」
「荊介。大輔様を呼び捨てにするな。あの御方は征夷大将軍にあらせられる。いくらオマエでも許さんぞ!!」
「はッ・・・申し訳ございませぬ。」
「分かれば良い。・・・者共集まれ。」
調子に乗りかけた荊介を叱り飛ばすと幸盛は忍びたちを呼び寄せた。

「出雲国内に・・・伯耆に、石見に流すのだ。尼子家当主尼子勝久が隠岐から出雲に舞い戻ったと。力ある者、勇気ある者は集えと。」

忍びたちが去っていくと、幸盛は刀を抜いた。

何があろうと恐れなどない・・・ただ尼子の家を再興すれば良い・・・
今となっては毛利を滅ぼそうとも思わん。ただお家さえ安泰であれば・・・
そう・・・憎きは戦乱の世。毛利を憎むより乱世を憎むだけだ。


幸盛は思い出していた。
永禄大武道会の後、義輝が尼子家を去っていく際のことを。

「鹿介、オマエのような者が俺の下におれば・・・三好に好き勝手されずに済んだだろうな。」
「もったいなきお言葉・・・」
義輝に平伏する幸盛。

「元就公の死は毛利には大きい。吉川元春、小早川隆景は日ノ本でも比類なき男たち。しかし元就公の数々の謀略で得た国々は時の流れと共に抑えが効かなくなるだろう。」
「その時を待ち望んでおります。」
そう答えた幸盛であったが、

「謀を繰り返せばいずれは謀によって首を絞められることになる。だからこそ元就公の死が大きい。だがいずれはあの傑物兄弟が盛り返す。その時に尼子かどうなっている?」
「・・・」

幸盛は答えることができなかった。ただ尼子家を再興を望むだけではあるものの、毛利は憎き敵であり滅ぼしたいと考えていたのだ。怨念に囚われている自分に気付いてしまう。

「尼子家再興のその先は何だ?」
「!!」

ハッとした顔を見せる幸盛。それを見て笑顔になる義輝。

「民なくして国は成り立たん。当たり前のことだが、京におる間は気付かなかったものだ。将軍とて人に変わりはない。病に倒れる者、闇に消される者・・・将軍であってもな。それよりも民の笑顔、日々の充足こそ国の礎。」
「若殿の下、民と共にしっかりと国を築き上げていくこと・・・」
「そうだ、我が兄上から学んだことだがな・・・」

山田大輔・・・義輝様の恩人にして義兄・・・京では魑魅魍魎とその王を討つ。坂上田村麻呂の生まれ変わりとも・・・

そんな幸盛に再び義輝が問いかける。

「鹿介、民が最も忌み嫌うものはなんだ?」

その問いかけに幸盛は力強く答えた。

「戦・・・戦こそ民の希望を奪い去る諸悪の根源だと。」
「もう大丈夫だな。では勝久や庵介、兵庫介によろしく伝えておいてくれ。あとは・・・そうだな。何かがあれば義兄上に頼むことだ。」

笑顔で幸盛に背を向けて歩き出す義輝。
ひたすら平伏する幸盛であった。


いずれは・・・尼子のお家が安泰となれば・・・私も・・・大輔様の下に・・・

抜いた刀を空に掲げる。

が必要とされない時代・・・夢見るのも・・・いや・・・叶えてこそだ


そして出雲国忠山城。

「鹿介様が真山城を、庵介が大勝間山城を攻め落としました。」
尼子家家臣横道兵庫介秀綱は満面の笑みで報告する。

「よし・・・」
尼子勝久は拳を握りしめる。

山田家に目が向いたところを見事に突けた・・・。
まずはこの出雲を徐々に平定しながら堪え切ること・・・


歴史改変により正史から遅れること約2年。遂に尼子家が再興の為に動き出したのである。


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