マイホーム戦国

石崎楢

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第13話:私たちが刺客に襲われている(4)

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私たち一行は河内に入った。
すぐに日が暮れ始めたので宿をとることにした。

「やっと休めるね♪ でも、あと堺までどれぐらい?」
「あと一日も歩けば堺につくでしょうな。」
「良かった~♪」
六兵衛の言葉に美佳は喜びの笑顔を見せる。

「宿がとれましたぞ!!」
重友と清興が宿を確保して手を振りながら戻ってきた。

「三好と松永の件は気になりますな・・・。」
景兼は私を見る。
「そうですね・・・多分、争いになるでしょう。」
私は夕焼けの空を見つめた。
「我ら、柳生もどう立ち回るべきか・・・ということじゃな・・・」
宗厳はため息まじりでつぶやくしかなかった。

私たちは宿に入る。
「・・・いたぞ・・・山田大輔だ・・・宿に入ったぞ。」
「ああ・・・お頭に報告だ・・・」
付近の家屋の屋根の上から私たちをずっと監視している人影があった。

夕食も済ませて私は厠へ向かって歩いていると廊下の角から
「あっ・・・」
一人の女性が出てきて私とぶつかってしまった。
「すみません、大丈夫ですか?」
倒れ込んだ女性を起こすと・・・
「こちらこそ・・・申し訳ございませぬ・・・」

なんと綺麗な女性なのだろう・・・。
なんか凄い良い香りがするし・・・。

「山田殿!! 勝手に一人で厠に行かれてはならんぞ!」
物音を聞いて、清興と六兵衛が慌ててやってきた。

「いや~すみません。こちらのご婦人とぶつかってしまいまして・・・。」
私の言葉に対し、
「申し訳ございません、わたしの不注意でございます。」
その女性が二人に謝る。

「いや・・・お怪我はありませぬか・・・?」
「手当ていたしましょう・・・拙者の部屋へ♪」
目がハートになった二人。

「こちらの不注意でございましょう・・・お許しを。」
六兵衛さん・・・全面的に私が悪いの?

「この人はどうにも抜けているからのう・・・まあ拙者の部屋へ♪」
清興さん・・・それって私に対する本音だよね? やっぱそう思ってんだ・・・
あと拙者の部屋ばかり連呼しているけど下心しか見えません。

「大丈夫でございます・・・。」
女性は立ち上がると私を見つめる。

やめて・・・そんな綺麗な顔で私を見つめないで・・・
私には妻子がいるんです・・・
不倫はドラマで十分です・・・
鬼女のまとめサイトで叩かれたくないんです・・・
でも・・・でも・・・綺麗な女♡

「私は楓と申します。」
「あ・・・私はこういう者です。」
咄嗟に名刺を差し出してしまった。

「名刺いらんやろ・・・なんで名刺出す?」
「何やってんだオッサン・・・ダセえ!!」
あれ?六兵衛さんと清興さんってば失辣じゃないですか?

「では山田様・・・またお会いできれば・・・」
そう言うと楓は私の頬に手を触れて立ち去って行った。

「チッ・・・おかしな話だ。」
「こんなオッサンのどこがいいのやら・・・変わった女子じゃ。」
あの・・・六兵衛さんと清興さん・・・非常に私に失礼なんですけど・・・

そしてみんなが寝静まった夜遅くだった。

私は寝ているとなんか色々と気持ち良くなってきた。
物凄く良い香りがする・・・
目を覚ますと

「!?」
布団の中に楓がいた。

「かえ・・・モゴモゴ!?」
楓は私の口を右手で塞ぐ。
「山田様・・・ひと目見てから気になってなりませぬのじゃ♥」
「あ・・・。」

私には妻がいるんです・・・。
しかも隣の部屋では娘が寝ているんです。

しかし、私はされるがままだった。
こんなの久しぶりで対処できません・・・。

そのとき、バンッと部屋の戸が開いて景兼と宗厳が入ってきた。
「山田殿!! ご無事か!!」

その声に反応し、楓は素早い身のこなしで私から距離をとる。
「あともう少しで捕縛できたのにね・・・松永様への手土産になったのに残念ね・・・。」
楓は短刀を手にしていた。

「くのいち・・・草の者か・・・。」
景兼が刀を抜く。
その尋常じゃないオーラに圧倒される楓。

ヤバいよ・・・あたしじゃ太刀打ちできない・・・バケモノだわ・・・

自分と景兼の力量差を感じ取り、楓は額の汗をぬぐう。
戦わずして追い詰められていく経験は今までになかった。

「草の者でなければ見逃すところだが・・・」
景兼はじりじりと楓に近づいていく。

「来るな!!」
楓は懐からクナイを取り出し投げつけるも
「!?」
景兼は指先で挟んでキャッチしてしまう。
更に楓は短刀で飛びかかるも景兼の一撃で吹っ飛ばされてしまう。

「くのいちとはいえ女子・・・せめて一太刀で痛みもなく・・・」
景兼は刀を振りかざしたときだった。

バンッと天井が破れて私めがけて黒装束の忍びが下りてきた。

「!?」
咄嗟に転がって躱すもその忍びは着地するとクナイを次々と私めがけて投げつけてくる。

「させん!!」
宗厳が飛び込んできて全てを刀で叩き落とした。
そして瞬時に踏み込んで忍びを斬り捨てる。

「くるぞ!!」
「ああ!!」

隣の部屋の戸が壊れて忍びが吹っ飛んできた。
「殿はご無事かァ!!」
六兵衛はその忍びを斬り捨てる。
「私は大丈夫です。」
「良かった・・・。」
そして六兵衛は楓を見る。
「やはりな・・・くのいちか・・・。」

全て気づかれていた・・・?
楓は震える自分に気がついた。

怯えている・・・恐れなど今までなかったはず・・・
全ての任務をこなしてきた・・・
怯えて目に涙を浮かべる楓。
周りでは仲間の忍びたちが次々と倒れていく。

死ぬの・・・あたし・・・死ぬんだ・・・
えっ!?

そのとき私は思わず楓を抱きしめてしまった。
よくわからないが、あまりに怯えた顔をしているので抱きしめてしまった。
小動物を思わずギュっとしたくなる感じかも・・・グエッ!?

そこに美佳が現れて憤怒の表情で私を蹴り飛ばす。
「バカーッ!! 何しとんねん!!」
「ギャフン」
「ママがいるのに・・・違う女とォォォ!!」
美佳は鎖鎌を構える。
「あれ、美佳ちゃん・・・違うの、誤解なの・・・」
そんな私の醜態を尻目に楓は頬を赤らめていた。

「そちらは大丈夫?」
重友が忍を斬り捨てる。
「忍びに遅れはとらねえよ!!」
清興も忍びを次々と斬り倒していく。

「バカバカバカッ!!」
美佳の往復ビンタに私は意識が朦朧となってきた。

「・・・。」
気を取り直し、その隙に逃げようとした楓だったが、

「ウぁッ・・・」
クナイが飛んできて楓の太ももに刺さる。

お頭・・・口封じ・・・なの・・・
楓はあまりの痛みにへたりこむ。

更にクナイが飛んできた・・・楓の胸めがけて一直線。

ダメ・・・死ぬ・・・のね・・・
楓は目を閉じた。
しかしクナイは楓には刺さらなかった。

「何はともあれ・・・こういうのもまた好かん!!」
景兼は刀で叩き落としていた。

「グァッ!!」
楓を狙っていた忍びは屋根に上った宗厳に一刀の下に斬り捨てられた。
「此奴が忍び共の頭か。」
周囲を見回すと宗厳は刀の血を拭き取る。


「あらかたの敵は倒しただろうな・・・。」
清興は楓を見つめる。

あらかたじゃなくて全滅よ・・・信じられない・・・
楓はその言葉を聞いてうつむく。

「バカ、パパのバカ~!!」
ひとしきりの美佳による制裁が終わった。
意識を失って私は横たわる。

「ご・・・ごめんなさい・・・」
楓が美佳に謝りながら太ももに刺さったクナイを抜いた。
「きっと・・・死ぬことに怯えた・・・あたしがかわいそうになったんだと・・・思うの・・・。」
楓は美佳の手を握りしめる。
「あなたの父上をたぶらかしてごめんなさい・・・。」
美佳は楓の太ももからの出血が酷いことに気がついた。

「この人の手当をしないと!!」
美佳が近くにあった手ぬぐいで楓の傷口の止血を試みる。

「親子揃ってお人が好過ぎるものじゃ・・・。」
屋根から飛び降りた宗厳が呆れ顔。
「そこが山田家の御方たちの良い所なのですよ。」
六兵衛は笑顔でうなずいた。

田畑で農民たちの手伝いをしたり、祭りをしたり・・・常に民と共に暮らし、笑顔を見せられる。
殿、奥方様、美佳様、岳人様、サスケ殿・・・義輝様・・・
本当に素晴らしい御方たちと巡り合えたものだ。

その傍らで

「若!!」
「なんだ、清興・・・?」
「拙者、この旅を終えましたらお暇をいただきたいと思うのですが。」
「ハッハッハ!!」
清興の言葉に重友は笑いだす。
「元は筒井家から高山に客将として招かれた立場を考えれば清興は自由だろ?」
「かたじけない・・・。」
「父上もわかってくれるよ・・・だってオマエはキリシタンじゃないし。山田殿にお仕えするのならば味方のままだろ。」
重友はVサインをした。

僕も・・・ずっとこの人たちと旅を続けられたらなって思うんだ。
退屈な城の暮らし・・・松永にただ頭を下げるだけの日々・・・
まっぴらゴメンなんだ・・・本当はね。

「あの・・・この事態はいかがしたらよろしいのでしょうか?」
そこに青ざめた顔で宿の主人や仲居たちがやってきた。
「待って・・・これでうまく処理しておいてよ。」
重友は小判を宿の主人に手渡す。
「承知いたしました♪」
宿の主人たちは笑顔で忍びの屍を次々と運び出し始めるのだった。。

翌朝、私たちは出発した。
楓は宿に残してきたが仕方のないこと。
怪我の治療と日々の世話を宿にお願いしておいた。

昨晩、楓が全てを話してくれた。
その中でも重要なのが、三好と松永は既に両軍共に臨戦態勢にあるということ。
大和の国が戦場になるということだった。

「急がねば!!」
一刻を争う事態に私たちは歩みを速めるのだった。




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