マイホーム戦国

石崎楢

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第14話:意外と身近なところに人財がいたりするんです。

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私たちは堺に辿り着くことができた。
町の周囲に土塁と堀を配した環濠都市である。

「この堺は誰にも支配されない町と聞いてはいたが・・・」
景兼はあまりの規模に感嘆する。
「大和にも環濠集落は幾つも在るが、比較にならんぞ。」
宗厳もただただ驚くばかり。

この町にいる優れた鉄砲鍛冶を必ず宇陀に連れて帰らねば!!

私たちは町の中に入った。
目指すは腕利きの鉄砲鍛冶が集う鉄砲町である。

お金なら山田家、赤埴家、高山家の合同資金があるが、お金だけで人を雇おうとは思わない。
やる気のある人材・・・それでいて唯一無二の仕事が出来る人材・・・。
次の世代にしっかりと仕事を引き継げる・・・育成できる人材。
私は人財が欲しいのだ!!

「なんかパパってば張り切っているね。」
「当たり前だ!! これはヘッドハンティングするということ。私の腕の見せ所だろうが。」
呆れ顔の美佳が更なるツッコミを入れてくる。
「誰かヘッドハンティングしたことあるの? されたことは?」

ないです・・・もちろんされたこともありません。
何回か転職サイトに登録もしたが、一度もスカウトがきませんでした。
そのうち諦めましたよ・・・そして私は自分の会社に意地でもすがりついてやるって決めたんです。

私は無言になって空を見上げる。

「・・・ごめん・・・パパ。」
美佳も空を見上げるのだった。

そして私たちは鉄砲町に入った。

「本当に鉄砲だらけだな♪」
重友は立ち並ぶ店の軒先の数々の火縄銃を眺める。

まさしく鉄砲のアメ横だな・・・。
ただ一つ思うのは全部同じに見えるところだ。
ただ重友曰く、「微妙な違いにこだわりが出ている」とのこと。

私たちは色々な店を回った。
良さげな鉄砲を売っている店に入っては鉄砲鍛冶をスカウトするも断られることの繰り返しだった。
三日間、頑張ったが誰一人首を縦に振る鉄砲鍛冶はいなかった。

「ダメぽ・・・」
「殿、仕方ないでしょう。」
涙目の私を六兵衛が慰める。

「堺に居ればきっと安全だもんね・・・。やっぱ危険を冒してまで宇陀まで来てくれる人っていないんじゃない。」
美佳は買った火縄銃を手にして私に狙いを定める。

何をするのですか・・・

「ジョークだってば♪」
笑う美佳。

笑えません・・・

「私の情熱が足りなかったんだ。」
と落ち込む私であったが
「まあいいじゃん。鉄砲30丁買えたんだし。」
重友が笑顔を見せた。

堺に着いて四日目、馬を2頭、荷台も2台購入しそれぞれに鉄砲を積んだ。

そして堺の町を出た。スカウトは諦めて帰路についたのだが、」
「しかし・・・帰るのが大変だな。」
清興がため息交じりにつぶやく。

三好と松永の関係悪化により再び国境を越えるのは困難である。
しかし、困難でも行くしかない。
最悪、三好に取り入ることになろうともこの鉄砲を宇陀に届けねばならない。

私たちは旅の商人の一団に変装した。
変装に抵抗のあった宗厳は用心棒という設定で納得して貰った。

帰りの宿も行きと同じ宿にした。
楓が療養している宿である。

刺客が襲撃する気配もなく無事に宿に着いた。

「襲撃した身で言うのもなんですが・・・ご無事で何よりです。」
楓が出迎えてくれた。
どうやら歩けるぐらいまで回復したらしい。
「不思議なもんだよな、ホント。ありがとう。」
私は笑顔で答えた。
「・・・。」
美佳がその様子をじっと見つめている。
それに気づいた楓が口を開く
「み、美佳様、わたしはそのような・・・」
「いや、楓さんはいいの。パパよ、コイツがどう思っているかよ。」
美佳が鬼の形相で私を睨む。
みんなは苦笑いするしかなかった。

コイツ呼ばわりですか・・・遂に美佳ちゃん反抗期ですか・・・

私は落ち込みつつも楓に堺でのことを話す。

「鉄砲鍛冶ですか・・・わたしにやらせていただけませんか?」
楓の言葉に一同顔を見合わせる。

「わたしは元は紀州は根来の出でございます。父は鉄砲鍛冶をしておりました。」
楓は話を続ける。
「幼少の頃から父の真似事をしておりましたので大体はわかっております。八つの時に鉄砲を組み立てております。」

「根来とな・・・。ならば何故、忍びになった?」
景兼が楓に問いかける。

「わたしが十の時、父は雑賀衆に殺されました。根来の鉄砲技術を雑賀から守るために刺客に・・・」
楓はうつむいた。
「父の敵を討つために忍びの道を選んだと・・・?」
「はい、九鬼にて忍術を修得しました。」
「ほう・・・九鬼か。」
「その後わたしは十五の時に父の敵を討つことができましたが、そのせいで雑賀から狙われ、九鬼からも追放されました。」
「それで松永に雇われて今に至るということか。」
「はい・・・。」
楓の肩が小刻みに震えている。
「わたしはただ・・・父の敵を討つためだけに生きてきました。しかしそれを果たしても何もなかった・・・。わたしの憎しみがまた新たな憎しみを生む。それでも生きていつの日か幸せを掴めればと思って忍びを続けてきました。」
楓は泣きながら私に笑顔を見せる。
「そんなときに山田様・・・あのとき私を抱きしめてくれた・・・父と同じ温かさだったのです。山田様が父に思えたのです。」

「苦労したのじゃな・・・楓。おぬし齢はいくつじゃ?」
宗厳が優しい顔で聞く。
「今で十八にございます。」
「数えで十八ならタメ年じゃん・・・楓ちゃん・・・。」
美佳は涙を流している。
「美佳様、何故お泣きになるのですか?」
楓も泣いている。
「あたしと同じ年なのに・・・。生きるために戦ってきて・・・苦労して・・・。頑張ってきたんだよね・・・。」
「・・・・・・。」
楓は泣きながらうなずく。

「楓、よく頑張ったな。」
私が両手を広げると楓は泣きじゃくりながら飛び込んできた。
大声で泣く楓は普通の年相応の女の子そのものであった。

「・・・。」
六兵衛は涙をこらえるように部屋を出て行った。
「ぐっ・・・!!」
清興は男泣きしている。
「主よ・・・この世をどうお導きしてくだされるのか・・・。」
重友は涙を浮かべてつぶやく。

「改めて思うが、もはや剣で救える世の中ではないかもしれぬな・・・柳生殿?」
景兼はうつむく。
「そうだな、武をもって制すればまた武によって争いを繰り返す・・・。この日ノ本を政で治めることができればのう・・・。」
宗厳は言い終えると大きなため息をついた。

翌朝、私たちは宿を発った。
楓が仲間に加わった。
芝辻楓というのが本名だそうだ。

芝辻といえば鉄砲鍛冶の名家であるが
「多分、親戚です。」
楓本人もよく把握していないらしい。


私たちは足早に大和への帰路についている。
この先の竹内峠で待ち受けるは三好長虎である。
三好三人衆の一人三好長免の子にして三好家内の権力者だ。
現在は敵ではないが、銃を運ぶ商人を簡単に通してはくれないだろう。
どのように立ち回ろうか・・・。

ひとまず面が割れている重友と清興は、山ルートに進むため私たちと別行動をとることになった。
しかし、ただとにかく進むしかない。
いざ帰ろう、大和路へ!!
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