マイホーム戦国

石崎楢

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第15話:やはり我が家が一番なのです。

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私たちは竹内峠手前までやってきた。
三好の軍勢が陣を構えている中をゆっくりと進んでいく。

「三好の軍勢がおよそ二千まで増えておるのう。」
宗厳が周囲を見回しながら言う。
「二千!!」
私は驚く。
山田の軍はおよそ二百人しかいないのだ。
「三好の全軍を合わせれば五万以上と考えねばなりませぬ。」
景兼は私を見る。
「松永はどのぐらいですか?」
「全軍合わせて一万程かと。」

松永でも私のところの50倍の兵力なのか・・・
かなりヤバいんじゃないの。

「赤埴は二百人、高山家は五百人程です。」
六兵衛が苦笑いを浮かべた。

宇陀連合軍を仮に形成しても1,000足らずの兵力ですか・・・
松永が本気で攻めて来たら即死じゃないですか。

「私の考えでは宇陀秋山の懐柔、もしくは攻略が兵力増強に繋がるかと・・・。」
景兼が言うも
「秋山は北畠の敵ですぞ。懐柔なぞ・・・」
六兵衛が言い返す。
「いずれ北畠は織田に滅ぼされる。織田信長・・・恐るべき男だ。」
「なんと!?」
「まず、北畠の前に美濃の斎藤を滅ぼすだろう。その次は伊勢と畿内だろう。」
景兼は天を仰ぐ。

どちらにせよ、このままじゃ我が家や周辺のみなさんが非常に危ないということになる。
どうにかならないものか・・・誰も死なせたくはない。
こっちの誰かを死なせないために敵の命を奪わざるを得ない・・・ということになるんだよな。
これが戦国か・・・。

「この疋田豊五郎景兼を山田殿はお必要とされるか?」
さりげない景兼の問いかけに
「はい、お必要どころか崇めたいです。」
「それならおチカラになろう。」

え・・・待ってください。
今、なんて言いました?

「ブンちゃん仲間になるのね♪チョー嬉しいんだけど!!」
美佳が喜ぶ。
「はい、美佳様。」
景兼は笑顔でうなずく。

「疋田殿・・・信じられぬ。」
六兵衛はあまりの事に茫然となる。
「豊五郎が仕官するだと・・・」
宗厳もさすがに驚きを隠せない。

そんな重要なやり取りをしながら竹内峠を進んでいく。
三好の兵は宴をしたり騒いでいるので、私たちの会話も全く気にしていないというか聞こえていない。

しかし、
「待てい、そこの商人たち止まれい!!」
遂に止められてしまった。

「積み荷を見せてもらおうか。」
三好軍の武将らしき男が近づいてくる。

「鉄砲です。」
即座に私は答えた。

「ほう・・・どういうことじゃ?」
その武将らしき男が私を見る。

「宇陀に運んでおります。」
「秋山か、高山か?」
「違います、山田です。」
私は正直に答えた。
その様子に景兼や宗厳は笑みを浮かべているが、六兵衛はかなり取り乱している。
「美佳様、大丈夫なの?」
楓が心配そうに美佳の顔を覗き込む。
すると美佳は笑顔でうなずいた。
「大丈夫、パパからやる気を感じるわ。」

そう、パパはやる気になったら凄いんだから・・・


「山田とな? 国人か?」
その武将らしき男の問いかけに

「松永に抗う小さな宇陀の国人でございます。」
私はその武将らしき男をじっと見つめ返した。

「おぬし・・・おぬしがその山田じゃな?」
「お答えできませんが。」
「・・・ふっ・・・フハハハハ!!」
その武将らしき男は大声で笑いだす。

「通れ!! 好きにしろ。」

「ありがたい。」
私たちは何と三好の軍の中を通り抜けることを許された。

「麓まで100でよいな? 兵をつけよう。」
なんと兵100人による護衛つきである。

「何故、そこまでしてくださるのですか?」
私が聞くとその武将らしき男は答えた。

「この三好長虎、おぬしの心意義を気に入ったのじゃ!!」
なんと三好長虎その人であった。

「三好長虎殿、私は山田大輔と申します。この御恩は・・・」
「恩などどうでも良いぞ、いずれ相対する時、敵か味方かわからんが楽しみにしておるぞ。」

こうして私たちは竹内峠を無事に越えた。
義輝の敵である三好長虎は予想に反して懐が深い男だった。

本当に人それぞれ・・・なんだよな・・・相性かもな。

麓まで辿り着くと三好からの護衛軍は去っていった。

「山田殿~。」
手を振りながら友重と清興がやってきた。
さあ・・・ここからが正念場だ。
宇陀までバレずに行けるかどうかだ。

「柳生殿、大和に戻りましたぞ。お別れですな。」
景兼が宗厳を見る。
「いや・・・それどころではないようじゃ・・・。」
宗厳の視線の先に軍勢が見えていた。

「山田殿、ご無事で!!」
「赤埴殿!!」
気の良さそうな顔をした武将が馬から降りた。
宇陀の国人の赤埴信安である。

「一大事ですぞ、松永が筒井を攻めて大和から追い出しましたぞ。」
信安の言葉に一同驚く。

「なんと・・・筒井の若殿が・・・。」
宗厳は悲しげな表情になる。

「おかげでこの辺りは手薄ですぞ、皆で宇陀に戻りましょうぞ。」

私たちは皆それぞれ馬に乗ったり、誰かの後ろに乗せてもらい急ぎで出発した。
信安は私たちが出発した日から逆算した岳人から、私たちが今日この辺りまで戻ってくるということを教えてもらったとのことだ。
こうして私たちはなんとか1日もかからずに無事に宇陀まで帰ることができたのだった。

夕暮れ時、我が家である山田城の城下町の前では朋美たちが並んで待っている。

「あなた、お帰り♥」
「ただいま。」

朋美の笑顔に癒される。

「父さん、なんか変わったね。」
「そうか♪」

岳人は相変わらずだ。

「義兄上、ご無事で何より!!」
「留守をありがとう。」

義輝がいるから堺に行けたのだ。

「わんわんわん♪」
「サスケ・・・♡」

サスケをもふもふしたいぞ!!

「殿・・・本当にご無事で良かった。」
「ありがとう、九兵衛。」

九兵衛のおかげで町の若者たちがまとまっているんだよ。

そう・・・みんな無事であった。
城下町の住人たちも近隣の農民たちも誰もが笑顔である。

良かった・・・この笑顔を守らねばな。

私は改めて心に誓うのだった。

「では・・・失礼する、また会うこともあろう!!」
宗厳が柳生へと帰って行った。

「それじゃ僕らも帰るね。美佳様・・・また遊ぼう!!」
「うん、遊ぼ♪」
友重も帰っていく。
「山田殿・・・いずれまた・・・。」
清興も後に続いた。

「それでは旅で出会った私たちの新しい仲間を紹介しよう。」
私は楓と景兼を呼ぶ。

「芝辻楓と申します。忍びですが、鉄砲鍛冶をするつもりです。」
楓が自己紹介をする。

「可愛いぞ♪」「綺麗だぞ♪」
村の若者たちは騒いでいる。

「私は疋田豊五郎景兼と申す。」
続いて景兼の自己紹介だが、

「!?」
その名を聞いて義輝は景兼を見る。

景兼も義輝を見て驚愕の表情となった。

将軍・・・義輝様・・・だと・・・生きておられた!?

「・・・本当に疋田景兼殿なのか・・・。」
九兵衛は震えがきている。
「ああ・・・本物だよ。」
六兵衛が九兵衛の肩にポンっと手を乗せた。

「私は軍師として山田殿を盛り立てる所存、よろしくお願い申す。」
景兼は頭を下げた。

こうして堺への旅は終わった。
鉄砲30丁はそれぞれ10丁ずつ、山田と赤埴と高山で分配した。


帰った翌日から我が家である山田城は慌ただしくなった。
景兼の指揮で城の四方に砦を築くことになった。
更に宇陀以外からも志願兵を募り、兵力の増強を図る。
楓も唐次郎と協力して火縄銃の製造を始めていた。

私は久しぶりに我が家のベットに寝転ぶ。

ああ・・・我が家が一番だよ。ベット最高♪

すると朋美が部屋に入ってきて笑顔で一言・・・

「しよっか♥」
「えっ・・・。」

季節は間もなく冬を迎える。

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