マイホーム戦国

石崎楢

文字の大きさ
31 / 238

第24話:美佳と忍びの道中記(3)

しおりを挟む
私たちは宇陀川城目指して帰っていた。
やはり目的を果たせば足取りも軽いものだ。

ふと一馬が足を止めた。
義成は弓を手にする。

「どうしたのですか、二人共?」
私が二人に聞くと
「小川はとんだ食わせ者ですぞ!!」
義成が言う。
「遠くから馬の音が聞こえます。小川軍ではないかと。」
一馬は言うと槍を手にした。

「どういうこと?」
「・・・殿を討ち取ろうとしているのです。」
「なんで?」
「色々考えられますが・・・とりあえず逃げましょう。」
私たち三人は走り出した。

とそこに美佳たちがやってくる。
「パパ!!」
「美佳、何故ここに!!」
「来ちゃった・・・。」
美佳と楓と千之助、それに見たことのない男が二人・・・。
私は驚いたが、それどころではなかった。

「千之助と楓殿もいるじゃないか。」
一馬が声をかける。
「すまぬ。美佳様を止められなかった。」
「ごめんなさい。」
謝る二人だが

「来るぞ!!」
義成が弓を構える。

遂に小川軍が追いついてきた。
「山田大輔・・・吉野のために死んでもらう。」
馬上から小川弘栄が言う。
「・・・。」
私はただ無言で小川軍を見つめる。

すると、美佳たちと共にいた二人の男が小川軍へと歩いていく。
「正成様、この軍はおよそ100かと。」
「五右衛門、やれるか?」
「100ですぞ。」
「私は友の為に戦うつもりだ。」
その二人の男は刀を抜いた。

「私の名は伊賀忍軍の服部半蔵正成だ。」
「同じく石川五右衛門。この名を地獄まで持っていきな♪」

その名乗りを受けて私と一馬、義成は固まる。

服部半蔵と石川五右衛門ってどうなってんの・・・

「美佳、どういうことなんだ?」
「千之助が五右衛門さんを呼んで、景兼様が服部さんを呼んてくれたっていう感じかな・・・。」

よくわからない・・・

「このような凄い方々と共に戦えるとは恐悦至極でございます。」
一馬が正成の隣に立つ。
義成も五右衛門の隣に立つ。

「100対4か・・・ハッハッハ!!」
五右衛門が笑うと
「100対6でございます。」
千之助と楓もクナイを手にして前に出てくる。

「こざかしいわ・・・かかれい!!」
小川弘栄の声と共に小川軍が突撃してくるも

「ぐあッ!!」「ゲハッ!!」
義成の放った矢で騎馬兵が次々と落馬していく。

「ゆくぞ!!」
正成は物凄い跳躍を見せて小川軍のど真ん中に飛び込む。
刀を振りかざし次々と兵たちを斬り倒していく。
「無駄な殺生は好まないんだけどね・・・。」
五右衛門の豪快な剣技の前に小川軍の兵たちは倒れていく。

「・・・。」
正成と五右衛門の戦いぶりに一馬は感嘆していた。
見惚れつつも双槍で次々と小川軍の兵を突き倒していく。

強い・・・戦ってみたいかもしれぬ。

千之助と楓は私と美佳を庇いながら近づく小川軍の兵を倒し続ける。

「これは勝てん・・・バケモノ共め・・・退けい!!」
弘栄が退却の指示を出したその瞬間、

「!?」

小川弘栄は身体を真っ二つにされ落馬した。
「うわぁぁ!?」
それを見て小川の残兵たちは怯えながら逃げていく。

「このような無様な敗将に価値などない。」
現れたのは北畠具教だった。

その纏うオーラに緊張感が高まる。

あのときと同じだわ・・・景兼様と同じ・・・
楓はかつて景兼と戦ったときのことを思い出していた。

「最近、腕がなまってしまってのう。誰かワシと戦え。」
具教は私たちの顔を見回す。

「私が参ろう。」
正成が出てきた。
「それでいい。」
具教は刀を構える。

「私は服部半蔵正成と申す。」
具教は正成の目を見た。

「伊賀か・・・服部は三河の松平家に仕えておるはずじゃが?」
「里帰りの最中、巻き込まれたとでも言っておきますか・・・。」
「それはワシには運が良い、おぬしのような剛の者と戦えるのだからの。」
具教の身体から闘気のようなものが出てきた。

「ワシは北畠具教!! 参るぞ!!」

その名前を聞いて驚愕する一馬たち。
「どうしたのよ?」
美佳が聞く。
「伊勢国司北畠家の先代当主が北畠具教という名です・・・まさか・・・」
義成は答えるも動揺を隠せない。
「いや・・・本物だよ・・・。」
一馬は具教と正成の戦いを見つめながらつぶやく。

なんでこんなことになっているのでしょうか?
私はただ事態の把握に努めようとしていた。


恐ろしいまでの太刀筋・・・これがあの北畠具教なのか・・・
読めるが・・・踏み込めん!?

正成は具教の刀を受け止め、躱すもなかなか反撃ができない。

早くもワシの太刀筋を見切るとはさすが伊賀の上忍でも最強と言われているだけあるのう。三河の松平にはもったいない男じゃ・・・

具教も正成の体さばきに感心していた。

「ああ・・・俺が戦いてえ・・・。」
五右衛門は刀を手に疼いていた。
「正成様、俺に代わってくれませんか?」
「ならぬ・・・この戦いは!!」
五右衛門に一喝すると正成は具教へと踏み込んでいく。

「ハァッ!!」
鎖を懐から取り出し正成の刀に絡めた。

「おお!!」
私たちは驚嘆する。
そのまま正成から刀を奪い取る。

「もらったァ!!」
正成がそのまま具教へと刀を振りかざすも・・・

「!!」
「なんだと・・・」
具教は瞬時、踏み込んで正成の刀の束を握りしめた。
そして拳が正成のみぞおちをえぐる・・・

「ガハァッ!!」
正成は吐血し、ひざまずく。
具教は刀を取り戻すと正成めがけて一閃。

「!?」
しかし、正成はそれを躱すと距離を取る。
とそこに

「次は俺だ!!」
五右衛門が具教に声をかける。
「なっ・・・」
正成は怒りの表情を浮かべるが
「忍術ならば正成様に勝る者などいないでしょう・・・ただ剣ならば別!!」
五右衛門は刀を抜いた。

「その方・・・フッ・・・」
具教は嬉しそうな顔になる。

この男・・・ワシと同じじゃ♪

「俺の名は石川五右衛門、伊賀上忍だ。」
「かかってまいれ!!」

五右衛門と具教の刀と刀がぶつかり合う。
静寂の中をひたすらに金属音だけが鳴り響いている。

「剛剣よのう・・・しかも我流と見受ける。」
具教は言う。
「そうだよ!! しかし北畠殿の剣は俺の剣と真逆のようで同じ!!」
五右衛門は笑みを浮かべながら叫ぶ。

「なんか・・・違う・・・この人たちおかしいよ。」
美佳がつぶやく。
「美佳・・・休んで。」
楓は美佳を近くの石に座らせると戦いを見つめる。

いつまでも続きそうな戦いである。
「義成、こっちへ来て。」
私は義成を呼ぶと耳元であることをささやいた。

「わかりました・・・。」
義成は弓を構える。

五右衛門と具教の刀が鈍い金属音を響かせた。
「刀がもたぬな。」
「それまでに終わらす!!」

その最中、一筋の矢が飛んできて交錯する二人の刀に直撃した。
「!?」
驚く五右衛門と具教の視線の先には矢を放った義成と私がいた。

「もうやめましょう。こちらは早く城に帰らねばならないのです。」
私は二人に言う。

「ほう・・・」
具教は刀をおろした。五右衛門も仕方なしに刀を収めた。

「北畠殿、ごあいさつが遅れました。私は山田大輔と申します。」
私は具教に歩み寄ると名刺を差し出した。

また・・・またこの期に及んで名刺かよ・・・
美佳は頭を抱えている。

「現在、私たち山田家は松永と戦っておりましたが、近頃は筒井の配下とも戦いになっております。非常に困難な状況なのです。」
私は言うと具教の目を見る。

「出る杭は打たれるというからの・・・筒井からすればそなたらは同志というよりも邪魔者に映るのも仕方ないことじゃろう。」
具教は刀を地面に突き刺すとうなずいた。

「小川殿には私たちと同盟を結んでいただいて、共に地盤の強化を図りたいという旨をお伝えしたのですが・・・届きませんでした。」
「芳野や吐山のように攻められると思ったのじゃろう。」
具教は小川弘栄の亡骸に目をやる。

「こうなれば一刻も早く宇陀に帰らねばなりません。」
「そうだな・・・すまなかったの。」
具教は頭を下げた。

お・・・大御所様が頭を下げた・・・だと・・・
物陰から見ていた北畠家家臣の鳥屋尾満栄は腰を抜かしていた。

山田大輔・・・どれほどの男なのじゃ・・・

「それでな、山田殿?」
具教が笑顔で私に聞いてきた。
「おぬしの娘をワシの息子の嫁に欲しいんじゃが?」

な・・・なんて言いました?

私は身体が硬直した。

「無理にとは言わぬが・・・」
「北畠様・・・無理でございます。」
具教の話を遮るように美佳が口を開いた。
そして具教の前に歩み寄ると平伏した。

「わたしには好きな人がいます。この気持ちに嘘はつけません。もし知らない人と結婚するのなら、今ここで死んでも構いません。」
美佳は震えている。

「・・・美佳・・・。」
私も平伏した。

「このような時代です。強くなければ生き残れません。でも娘を守るためならば何でもします。この日の本の全てを敵に回す覚悟さえあります。」
私はそう言うと顔を上げて具教を見た。
不思議と怖くはなかった。娘を・・・家族を守るためならば何も怖くない。

「・・・北畠殿・・・殿には指一本触れることはかないませぬぞ。」
一馬が双槍を構えて私と美佳を庇う。
「わかっていただきたく思います。」
義成も弓を具教に向けて構えた。
「美佳は・・・美佳の想いはわたしの想いです。」
楓も震えながらクナイを手にする。
「・・・。」
千之助も刀を抜いて楓の隣に立った。

「ほう・・・」
具教は私たちを見据える。

この山田大輔という男・・・不思議じゃ。武もないし知もそこそこと見る。
だが、その配下・・・あの槍の若者と戦えばワシも恐らく無事では済むまい。
弓矢の若者は間違いなくワシを射抜くじゃろう・・・恐ろしい腕前じゃ。

「北畠殿、山田殿は我が友が主君なればここで守るのも義・・・。」
正成が刀を抜いた。
「ということは俺の主君に従うのはスジだね♪」
五右衛門も刀を抜く。

「・・・ふっ・・・フハッハッハッハ!!」
具教は大声で笑いだした。
「山田殿・・・先程のワシの申し出は戯言じゃ!!」

「大御所様ァ!!」
満栄が物陰から飛び出してきた。

「満栄、帰るぞ。」
具教は立ち去っていく。
「ははッ!!」
満栄は私たちに頭を下げると具教の後を追いかけていった。

「終わったね・・・」
美佳が私を見る。
「ああ・・・。」
私は立ち上がった。

美佳の好きな人・・・美佳の好きな人とは誰だ?

「美佳様・・・好きな人とは私のことですよね♪」
一馬が美佳に歩み寄る。

「一馬ではないだろう。私でしょう。」
義成が一馬の足を踏みながら美佳の前に立った。

「そうよ・・・二人共好きよ。」
美佳は立ち上がると二人に笑顔を見せる。

「パパも楓も千之助も・・・みんながあたしの好きな人。」

良かった・・・個人特定出来たらどうしようかと思ったぞ。

こうして結果的には吉野行きは失敗となった。
吉野の国人衆も敵となることでかなり困難な状況に陥っていくのだった。
しおりを挟む
感想 14

あなたにおすすめの小説

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

三歩先行くサンタさん ~トレジャーハンターは幼女にごまをする~

杵築しゅん
ファンタジー
 戦争で父を亡くしたサンタナリア2歳は、母や兄と一緒に父の家から追い出され、母の実家であるファイト子爵家に身を寄せる。でも、そこも安住の地ではなかった。  3歳の職業選別で【過去】という奇怪な職業を授かったサンタナリアは、失われた超古代高度文明紀に生きた守護霊である魔法使いの能力を受け継ぐ。  家族には内緒で魔法の練習をし、古代遺跡でトレジャーハンターとして活躍することを夢見る。  そして、新たな家門を興し母と兄を養うと決心し奮闘する。  こっそり古代遺跡に潜っては、ピンチになったトレジャーハンターを助けるサンタさん。  身分差も授かった能力の偏見も投げ飛ばし、今日も元気に三歩先を行く。

愛された側妃と、愛されなかった正妃

編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。 夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。 連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。 正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。 ※カクヨムさんにも掲載中 ※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります ※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。

神は激怒した

まる
ファンタジー
おのれえええぇえぇぇぇ……人間どもめぇ。 めっちゃ面倒な事ばっかりして余計な仕事を増やしてくる人間に神様がキレました。 ふわっとした設定ですのでご了承下さいm(_ _)m 世界の設定やら背景はふわふわですので、ん?と思う部分が出てくるかもしれませんがいい感じに個人で補完していただけると幸いです。

【完結】使えない令嬢として一家から追放されたけど、あまりにも領民からの信頼が厚かったので逆転してざまぁしちゃいます

腕押のれん
ファンタジー
アメリスはマハス公国の八大領主の一つであるロナデシア家の三姉妹の次女として生まれるが、頭脳明晰な長女と愛想の上手い三女と比較されて母親から疎まれており、ついに追放されてしまう。しかしアメリスは取り柄のない自分にもできることをしなければならないという一心で領民たちに対し援助を熱心に行っていたので、領民からは非常に好かれていた。そのため追放された後に他国に置き去りにされてしまうものの、偶然以前助けたマハス公国出身のヨーデルと出会い助けられる。ここから彼女の逆転人生が始まっていくのであった! 私が死ぬまでには完結させます。 追記:最後まで書き終わったので、ここからはペース上げて投稿します。 追記2:ひとまず完結しました!

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

処理中です...