マイホーム戦国

石崎楢

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第27話:龍王山城攻略戦(3)

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「ハァハァハァ・・・」
平尾純忠は軍をまとめて秋山城へと退却していた。
表情は疲労困憊であり、魂が抜けたかのようだった。

あんなに強いヤツがいるとは・・・

純忠は16歳での初陣から積み重ねてきた自信が揺らいでいた。

秋山からの援軍を撃退した六兵衛の軍と高山軍。

何とか撃退したが・・・。

左肩の鎧が砕けて大きな裂傷を負っていた。
六兵衛は激痛に顔を歪めながら肩を押さえている。

「若君、義輝様・・・必ず落としてください。」
つぶやくと六兵衛は意識を失った。


龍王山城では十市軍の必死の抵抗で膠着状態が続いていた。
「ここを通してはならぬ!!」
十市家家臣大木重介は迷いながらも必死の防戦を続けていた。


「殿はこの混乱を機に大和の覇権を得ることをお考えです。」
「な・・・なんだと・・・。」

あの才助なる忍びがワシに言ったこと本当なのか?
ワシの息子、更に殿自身の姫君を松永に人質に出しているのじゃ。

「秋山と手を結んだことがその証でしょうな、正直嘆かわしい。」
才助の言葉が突き刺さる。
「大木殿に十市家を任せられたら安泰でしょうな。」

ワシにはその器量はない・・・ないが・・・。

「田中殿は本気で殿にお仕えして先があるとでも?」
十市家家臣田中源一郎も才助の言葉を思い出していた。

先があるかないかで考えれば・・・

戦況を十市遠勝の隣で眺めている才助はほくそ笑んでいた。

言葉にも毒はある・・・心を蝕む毒がな・・・

「こらえろ!!」
十市遠勝の弟である十市遠長は迷いなく戦っていた。
群がる山田軍の兵を押し戻そうとしていた。
しかし・・・

「ぐわあッ!!」「ギャッ!!」
十市軍の兵が次々と血飛沫を上げて倒れていく。

あれが山田義輝か・・・バケモノか・・・

義輝の薙刀の前に兵たちが倒れていく。
少しずつ遠長へと近づいてくる。

「くッ・・・退け・・・山中で戦う。」
遠長の命で兵たちが引き始めるも、その頭上を轟音と共に砲弾が通過していった。
一撃で櫓を破壊した大砲の威力に遠長は戦慄する。

最早どのように対処すれば良いか・・・わからん。

遠長たちは山頂目指して必死に逃げ始めた。

「もう少しで本丸か・・・。」
「そうですね。」
「敬語はやめろ。」
一馬と元規は少数の兵を連れて龍王山城北城の下まで辿り着いていた。

するとそこに千之助が合流してきた。
「破壊工作ご苦労さまです。」
一馬が言う。
「嫌味か・・・そろそろ忍びのみなさんが暴れだすが大丈夫か?」
「ああ・・・目指すは十市遠勝の首のみ。」

その瞬間、本丸内で爆発音が響く。

「さあ・・・行くか!!」
一馬たちは本丸へと突撃していった。


十市遠勝は必死に逃げていた。

この大和の国において名門である十市家が・・・
突然、名乗りを上げてきた宇陀の国人に負けるというのか・・・

その遠勝の後ろ姿を見つめている才助は毒蝮の金蔵の姿になった。
「惨めだな・・・かつてのワシらのようだ。」
その隣に鳥兜の源次がやってきた。
金蔵は源次の頭を見てつぶやく。
「本当にいつ見ても雛鳥みたいな頭しとるの。」
「・・・殺すぞ?」
「十市の殿サマとオマエの頭は同じぐらい不甲斐ない。」
「頭の毛が不甲斐ないって酷くねが?」
「そんな毛ならいっそ全部剃れよ・・・ギャッ!?」
源次の拳で金蔵は吹っ飛んでいった。

遠勝は逃げて続けていたが、ふと立ち止まった。

バ・・・馬鹿な・・・

眼下で実弟の遠長が大木重介、田中源一郎の軍と共に撤退している。

「ワシを・・・置き去りにするのか・・・。」
遠勝は力が抜けたかのようにひざまずいた。


「大木、田中!! 何故じゃ・・・何故に退くのじゃ!!」
遠長は遠ざかっていく龍王山城を見つめ叫ぶ。

「十市家の血を絶やしてはなりませぬ!!ここで遠長様に生き延びてもらわねばならないのですぞ!!」
大木重介は強く言い放った。

覚えておれ・・・山田め・・・

遠長は涙を流しながら復讐を誓うのだった。


「クッ・・・これまでか・・・」
山中で十市遠勝は諦めたかのように座り込んだ。

誰にも討たれはせぬ・・・

腹を切ろうと脇差に手をかけた瞬間、

「ちょい待った・・・」
その手を掴まれ身体をひっくり返される。

「ウチの殿さまはアンタの首など欲してないの♪」
石川五右衛門だった。

「あの人は宇陀の・・・いや・・・自分の周りの平和を・・・家族の平和を望んでいるだけ・・・小さい人間だよな。そう思うだろ・・・十市遠勝?」

呆気にとられている遠勝を尻目に五右衛門は続けた。

「でもな・・・その小ささが心地良い。大義名分や出世欲、傲慢・・・そんなモノのために戦っている連中より余程潔いと思うんだよね。」

「・・・。」

「本当はこんな戦も望んではいない。あの宇陀川城の平和のために楔を打っているに過ぎない。これだけはわかって欲しいね。」
五右衛門は遠勝から取り上げた脇差を投げ棄てた。

「・・・見逃すというのか・・・?」
遠勝は立ち上がる。

「こっちの気が変わらぬうちに♪」
「すまぬ・・・生き恥をさらさせてもらうぞ。」
立ち去っていく遠勝に手を振る五右衛門。

さて・・・陥落したかな・・・

龍王山城の残存兵は降伏した。
義輝は本丸に入ると遠く遥か先を見据えていた。

松永弾正・・・

松永の居城である信貴山城を見つめていることに気づいた岳人。
「義輝さん。」
「何だ、岳人?」
義輝は作り笑いを見せる。
「みんながいるから・・・一人でやろうと思わないでよ。」
「ああ・・・」
「死んでいるはずだった義輝さんが生きている・・・歴史は変わっている。」
「わかっているって。」
義輝は岳人の頭をポンポンと叩く。
岳人は満面の笑みを浮かべた。

こうして山田軍は龍王山城を攻め落としたのだった。


風雲急を告げる・・・十市の龍王山城を宇陀川城の山田が攻め落とした。

この報は大和の国だけでなく近隣の諸国にまで伝わった。
十市家は消息不明の遠勝に代わり十市遠長が家督を引き継いだ。
各地に分散していた兵力を十市城に集結させた。
しかし、それは山田ではなく筒井や秋山、そして松永への宣戦布告でもあった。


おのれ・・・十市め・・・

秋山直国は憤っていた。
協定を破棄されたことにより、真っ向から山田家と戦わねばならない。

こちらとて山田如きに遅れは取らんが・・・
山田の次は十市だ。


龍王山城攻略成功の報は宇陀川城にも伝わった。
景兼は安堵の表情を浮かべていた。

しかし私は美佳と井足城にいた。

「六兵衛・・・。」
「殿、大丈夫です。私は一騎打ちも戦も勝っているのです。」
心配する私に布団の中の六兵衛は笑顔を見せていた。多分、やせ我慢だ。

「それにしても六ちゃんが怪我するなんて・・・」
美佳の言葉に
「大した怪我ではございませぬ。」
六兵衛は返すも

「負けたんだね・・・そんなときもあるから・・・」
「いや、負けてねえし。生け捕りしようとして油断しただけなの!!」

「・・・きれいな顔してるだろ・・・ウソみたいだろ・・・●んでいるんだぜ、それで・・・」
「あの・・・生きています。双子でもありません。しかも私は兄なんですが・・・」

六兵衛のノリの良さは相変わらずで私は安心した。
井足城の櫓に上がり景色を眺める。

次は秋山か・・・

私は次の戦いの予感を感じて切なくなるのだった。
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