マイホーム戦国

石崎楢

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第32話:光秀、配下になる

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山越えはしんどいものだな・・・

明智光秀は山道を一人歩いていた。
しかし、至るところに小さな砦が見える。

なるほど敵を察知すればすぐに伝達できるわけだな。

やがて山道を下っていくと城が見えてきた。

あれが貝那木山城か・・・


私は貝那木山城の本丸の櫓から景色を眺めていた。

今、急ピッチで城の改修が行われている。
柵や空堀、周辺に砦を建設することで不意の敵襲に備えている。
景兼はここを拠点にして大和の国中央部に進出する考えのようだ。
どうにも私の思惑以上なのだが・・・。
この時代に来てしまった以上、ある程度流れに任せるしかない。

ため息をつきながら佇んでいると大雅がやって来た。
「殿にお目通りを願う者が参られております。」

最近は特に多い。
武芸者やら何やら毎日のように訪れてくるようだ。
大体は景兼のところで門前払いになっているはずなのだが・・・

「疋田様も殿が会うべき人物だとおっしゃられてました。」
「わかりました・・・行きましょう。」

私は大広間に入った。
福住城から帰って来た景兼と一人の男がいた。

「殿。この御方が是非お会いしたいと申されてます。」
景兼が言うと
「私は越前の国朝倉義景が家臣明智十兵衛光秀と申します。」
その男は平伏した。

「明智・・・明智・・・あ・け・ち・・・!?」
私は思わず卒倒しかけた。
歴史に疎い私でも明智光秀は知っている。
織田信長を本能寺の変で葬った男。
日本の歴史を語る上で絶対に忘れてはならない重要人物。

「殿? どうされた?」
景兼が私の様子がおかしいので聞いてくる。
「いや・・・なんでもないよ。マジで!!」
私はとりあえず平静を装った。

ドラマのイメージとは違うじゃないか・・・
とても爽やかで凛々しいじゃないですか・・・
友達になりたいタイプです。

「・・・疋田殿、人払いをお願いしてもよろしいですか?」
光秀は私の目を見た後に景兼に聞く。
「わかりました。」

こうして大広間には私と光秀だけになった。

「山田大輔殿。この乱世をどう思われますか?」
光秀がおもむろに聞いてきた。
「私は特に乱世とは思いません。」

その答えに光秀は驚きの表情を浮かべる。

「武力でのみしか権勢を得られないこの国自体が乱世です。乱世が当たり前になっているのです。」
私はずっと思ってきたことを吐き出した。
「何故、話し合わない? 何故、相手を解ろうとしない? 憎しみの連鎖ばかり・・・こんな小さな大和でも相手を疑う・・・敵視しあうことばかりです。」

更に私は続けた。

「少し我慢してお茶でも飲みながら、じっくりと語り合うことができれば戦わずに済んだであろう戦も多々あるのではないでしょうか?」

私の話を聞き終えた光秀は少し考え込むと口を開いた。

「やはり・・・あなたの眼を見て思いました。一点の曇りもない・・・。」

そして平伏した。

「私を配下に加えていただけませぬか?」

え・・・ちょっと待って?
私には理解ができない・・・どういうことなのだろう。

「明智殿・・・あなたのような方が殿の下に加われば何と心強いことか!!」
景兼が喜びの声を上げながら大広間に入って来た。

いや・・・この明智さんはきっといい人です。正義感溢れる方でしょう。
歴史上では謀反人で悪のイメージが強いけどただの誤解の可能性大です。
でもね・・・
でもね・・・
でもね・・・私の配下になったら本能寺の変はどうなるのですか?
これって完全に歴史が変わってしまってますよね!?

「はい、明智殿・・・私に力を貸してください。」
私はそれでも思わずこう答えてしまった。

「はッ・・・この命の限り・・・。」

こうして明智光秀が私の配下に加わった。

「マジで? 凄いじゃんパパ・・・カリスマあるんじゃん♪」
美佳には褒められた。
「あなたのおかげで歴史上の謀反人を更生することができたのね♪」
朋美も褒めてくれたが・・・

まだ明智さんは謀反していないし・・・
そもそも歴史上の真実って何なのよ・・・

龍王山城にも明智光秀が加わったことを知らせるとすぐに貝那木山城に岳人がやってきた。

「明智さん・・・この国を変えましょう。」
岳人が光秀に言う。
「はい、若君の仰せのままに。」
光秀は平伏すると笑顔を見せた。
そして景兼が軍事に専念し、光秀が内政を担当することとなった。


ひと段落したので私はまた櫓の上から景色を眺めることにした。

これはもう避けることができない・・・逃げられない。

そんなことを思っていると隣に朋美がやってきた。
「あなた・・・」
「朋美・・・どうした?」
「歴史を変えてしまったとか思わないでね・・・。あなたが歴史を創ればいいじゃない?」
「私にその器はないよ・・・。」
「あなた自身がそう思っていても、この時代の人たちはそうは思っていないわ。みんなの思いを信じたらいいじゃない♪」
その言葉が響いて思わず私は朋美を抱きしめる。

すると朋美は微笑みを浮かべながら言った。
「久しぶりに夫婦らしいよね♪」
「ごめんな・・・。」
私の心が久しぶりに満たされていく気がした。


その頃、宇陀秋山城では

「これから山田を討つ。手始めに沢城を落とす。次は井足じゃ。」
秋山直国は兵を集めて檄を飛ばしていた。
宇智の国人衆からも援軍を得て総勢三千の兵力。

「筒井との呼応の準備が整っております。」
言うのは軍師であり秋山四天王の筆頭の関戸萬斎。
「強者揃いの山田家との戦が楽しみでならぬわ。のう、弥三郎、純忠?」
秋山家最強の男であり秋山四天王の黒木鉄心は余裕の笑みを浮かべていた。
「・・・楽しみか・・・そうだな・・・。」
弓の手入れをしながらうなずくのは秋山四天王の諸木野弥三郎。
大和の国において知らぬ者がいない弓の達人である。
「はい・・・あの滝谷六兵衛に受けた屈辱・・・忘れませぬ。」
秋山四天王最年少の平尾純忠はあの戦いを思い出していた。

あの男・・・私を生け捕りにしようと・・・許せぬ。
いつでも私を倒せるということか・・・。


四天王の覇気溢れる姿に秋山直国は満足そうな表情。

山田大輔・・・この秋山は芳野や福住、まして十市とは違うぞ。
十市遠勝を葬ってくれたことは感謝するがな・・・
高山の小僧の次は貴様だ。


その様子を直国の背後に控えながら伺っているのは幻柳斎。

あの御方の思うままよ・・・。大和の混沌の先にあるのは・・・
あの御方の天下よ・・・。


それとほぼ同じ頃、大和の国布施城。

「出陣!!」
布施行盛率いる一千の軍勢が宇陀へと出陣していった。

秋山と手を結んだわけではない。ただ利害が一致しただけじゃ・・・
山田は危険すぎる・・・大きくなる前に潰さねばなるまい。


こうして秋山と筒井が同時に動き出した。
そしてこの秋山との戦いが宇陀の命運を決めることになるのだった。


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