マイホーム戦国

石崎楢

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第34話:激戦!!沢城の戦い(2)

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沢城を背に陣を敷いた高山軍。
しかし秋山軍は少し距離をおいて進軍を停止した。

「迂闊に近寄れば策でやられまするぞ。」
関戸萬斎が秋山直国に進言したからである。

先程の戦で我らは三百の兵は失っておるじゃろう。
あの疋田景兼や切れ者と評判の山田の小倅が後ろにおると考えるべきじゃ。
萬斎は慎重になっていた。

「萬斎様、岩清水主税が討ち死にしたとのことです。」
そこに兵から報告が入った。

「愚かな・・・功ばかり焦りおるからこうなるのだ。」
黒木鉄心は呆れ顔。

いや・・・岩清水程の男が簡単に討ち取られたと考えねばならない。
平尾純忠はじっと高山軍を見据えていた。

滝谷六兵衛のみにかまけている余裕はないな・・・


「予想通りに攻めてこないですな。」
神谷久高は満面の笑みで重友に言う。
「罠があると思わせるという罠・・・その次には本当の罠があるんだよね。」
重友は小川家からの援軍の将である鷲家計盛を見た。
「手筈は整っております。」
鷲家計盛が口を開く。

「父の愚かな行為を無しにすることはできないが、ここで信用を得られなければならない。」
主君である若き小川家当主の小川弘久の言葉。
山田家は支配者ではなく協力者として仲間として我ら吉野の国人衆を見ている。
その心意義にも報いねば!!

「明朝に実行に移ります。」
「頼むよ♪」
重友は計盛の肩にポンと手をのせると秋山軍を見据えた。

さあ・・・近づいてこいよ、秋山直国。


その頃、焔の陣内と幻柳斎たちとの戦いは佳境に差し掛かっていた。
「おいおい・・・多すぎるって。」
陣内は傷だらけになっていた。
何人かの忍びは倒しているものの幻柳斎配下の忍びの数が多い。

「仕方ない・・・やるか。」
陣内は印を結ぶ。
「忍法・・・火竜の陣・・・。」
すると辺り一面が火の海に包まれる。

「こやつ・・・戦いながら火薬をバラ撒いておったか・・・。」
幻柳斎は苦笑いを浮かべた。

「ひとまずは退散しますかね♪」
炎の中で陣内は姿を消した。

まだまだやるべきことがあるからな・・・
ただ、俺一人になっちまったけれどな。

うまく幻柳斎たちを捲くとその足で先を急いだ。


「さあ・・・挑発でもお願いしますか・・・六兵衛さん。」
重友がつぶやく。
高山軍の陣から六兵衛が大刀を手に姿を現した。

「秋山の者ども!! 我が名は滝谷六兵衛勝政なり!!」
その名乗りに秋山軍の陣ではどよめきが起こる。
「少しは我が名は知っておろう・・・さあかかって来い!!」
六兵衛は挑発の手招きを見せた。

「よし・・・ワシが出るぞ!!」
秋山軍からは黒木鉄心が出てきた。
二本の鉄の棒を手に堂々たる姿を見せる。

「元赤埴の者ならワシのことは知っておろう。黒木鉄心じゃ。」
鉄の棒を振り回しながら鉄心は六兵衛を威嚇する。

「知ってはおりますが、私の興味はむしろ平尾純忠にあります。」
六兵衛の声を聞いて純忠はニヤリとした。

「ぬかせィ!! 若造がァ!!」
憤怒の表情で六兵衛に襲い掛かる鉄心。
「あまりカッとされると不覚を取りますぞ♪」
更に六兵衛は挑発的な言葉を並べながら大刀で迎え撃つ。

鉄心の鉄棒は重いながらも速く矢継ぎ早に六兵衛を追い込んでいく。

「おおッ・・・さすが黒木様だ!!」「頼みますぞ!!」
秋山の兵たちは歓声を上げている。

その最中、諸木野弥三郎は弓を構えて六兵衛に狙いを定めていた。
「諸木野様・・・おやめください。」
純忠が弓に手をかける。
「このままでは黒木殿が・・・。」
弥三郎は純忠を睨む。
「武士道に反します・・・黒木様はそれを望みまないでしょう。」
純忠は首を横に振った。

そろそろだ・・・
六兵衛は鉄棒を躱しきると反撃を開始した。
大刀の一撃一撃が鉄心を徐々に受けに回らせていく。

「貴様・・・強いな♪」
鉄心は受けるのに精一杯の様子だが笑顔を見せていた。
「そろそろ黒木殿も本気できてくだされ。」
六兵衛は言うと強烈な一撃を鉄心に浴びせる。

馬ごと吹っ飛ばされた鉄心だが辛うじて鉄棒で防ぎ致命傷は免れていた。

「フハッハッハッハ・・・面白い・・・面白いぞ!!」
肩口から血を流しながらも高笑いする鉄心。
その身体から尋常じゃない覇気のようなものが出ている。

「やっと本気になられたか・・・黒木殿。」
「なんと?」
弥三郎の言葉に驚く純忠。
「かつて芳野家の家臣の丹生谷という男と黒木殿が戦ったときだった。」
「宇陀七人衆の丹生谷金兵衛ですか?」
「ああ・・・そのときも追い詰められてからの反撃。まるで獣のように襲い掛かり丹生谷の首を取ったのだ。」
弥三郎は言うと弓を背にしまい槍を手にした。
「だが・・・あの滝谷六兵衛は違う。あれは・・・」

狂ったように六兵衛に襲い掛かる鉄心。
二人の戦いは激しさを増していく。
お互いに手傷を負っていくも徐々に形勢が一方に傾いていった。

「ぐはァッ!?」
吐血しながら落馬する鉄心。
遂に六兵衛の大刀が鉄心の腹を斬り裂いたのだ。

「御免!!」
六兵衛がとどめを刺そうとしたときだった。
「我は諸木野弥三郎・・・滝谷六兵衛覚悟!!」
弥三郎が槍を構えて六兵衛に襲い掛かる。
疲労困憊の六兵衛はその槍を捌くので精一杯になっていた。
「六兵衛代われ!!」
「島殿!!頼む。」
清興が六兵衛をかばって弥三郎の前に立つ。
「邪魔だ・・・なッ!?」
「うおッ!?」「まさか・・!?」
清興は弥三郎の突いてきた槍を素手で掴みへし折った。
秋山軍の兵たちもその様子に恐れおののく。

「俺が島清興だ・・・誰でもいい・・・何人だろうと何十人だろうと・・・例え何百人だろうとかかってこい!!例え、首だけになってもおまえらを地獄に送ってやる!!」
清興は三叉槍を天高く掲げて秋山軍に向けて啖呵を切った。

「私では手に負えん・・・退け!!」
弥三郎は馬首を返して逃げていく。
その兵たちは瀕死の鉄心を連れて撤退していった。

なんなんだ・・・あの男は・・・
純忠は清興の雄姿に思わず見入ってしまっていた。

「助かりました・・・島殿。」
六兵衛が苦笑いを浮かべる。
「・・・ったく六兵衛。早く助けを呼べばいいじゃねえかよ。」
清興は遠くに陣を構える秋山軍を見据えながら言った。

「清興は飛び道具だね・・・秋山軍の士気が下がったよ。」
重友はつぶやく。

そこに兵が駆け込んできた。
「貝那木山城から援軍が到着しました。」

重友と久高は顔を見合わせると笑顔になる。
「援軍は誰?」
「明智光秀様と申される方と芳野一馬様、高井義成様です。」
兵の返答に重友は首をかしげる。

明智光秀? 誰なんだ・・・・

そして高山軍の本陣に光秀、一馬、義成がやってきた。
「高山重友殿、お初にお目にかかります。私は明智十兵衛光秀と申します。」
光秀は重友に平伏する。
「明智殿・・・かしこまらないでください。僕はまだ子供です。」

毅然とした人だ・・・また山田大輔さんに素晴らしい部下が・・・
重友は光秀の佇まいに感服していた。

「一馬、義成・・・久しいな。」
六兵衛が二人に声をかける。
「聞きましたよ、勝政様。あの黒木鉄心を打ち破ったと。」
一馬は興奮している。
しかし、義成はただ秋山軍を見つめていた。

諸木野弥三郎・・・

その様子に気づいた清興が義成に声をかけた。
「義成・・・どうした?」
「いえ・・・少し考え事をしていまして。」
「そうか・・・その割にはオマエから殺気を感じるのだが・・・」

勘が鋭い人たちばかりだ・・・

義成は仕方ないとばかりに口を開いた。
「みなさん。無礼を承知で聞いて欲しいのですが・・・。」

皆が一斉に義成の方を向く。

「秋山四天王の一人である諸木野弥三郎は私に討たせてもらいたいのです。」
「どうした・・・義成?」
六兵衛が驚いて聞き返す。
「諸木野弥三郎は父の敵です。」


やがて両軍睨み合いの膠着状態から夜になった。
夜襲に備えた状態で緊張感高まる両軍の陣営。

やがて初戦の夜は更けていく・・・更なる激闘の予感を感じさせながら。
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