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第40話:柳生の危機(3)
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柳生城の前に山田軍は陣を敷いた。
筒井軍が攻めてくるのを待ち受ける体勢だ。
「柳生の里でこのような戦術を採るのは忍びないが・・・。」
景兼は二百の鉄砲隊を配置。その前には盾隊、盾の裏には連弩隊が隠れている。
「なんじゃ・・・あれは・・・!?」
筒井軍の大将である窪城順貞は巨大な鉄の盾が城の前にズラリと並べられているのに驚く。
「あれでは弓や鉄砲は無意味でしょうな。騎馬で突撃して蹴り倒すか・・・しかし山田軍の戦術を考えれば闇雲に突っ込むのは危険ですぞ。」
言うのは筒井家家臣森好久。
本来は好久の方が大将にふさわしいのだが、宝蔵院胤栄との絡みもあり副将の立場になっていた。
「構わん・・・一度鉄砲を撃てば次まで時間がかかりおる。そこを騎馬であの盾ごと蹴散らせば良い。」
順貞の指揮により、筒井軍の歩兵隊が柳生城へと押し寄せてくる。
何故に様子を見ないのだ・・・
好久は呆れ顔で戦況を見つめる。
「連弩隊撃て!!」
景兼の声と共に盾の陰から連弩隊が姿を現すと次々と矢を放っていく。
「痛ッ!!」「くッ!?」
顔や首に当たれば致命傷だが、連弩は鎧を貫通するまでには至らない。
怯みながらも筒井軍の歩兵部隊は突撃してくる。
「鉄砲隊撃て!!」
山田軍の鉄砲隊の第一射で筒井軍の歩兵たちは次々と倒れていく。
しかし、その後ろから騎馬隊が押し寄せてきた。
「撃て!!」
鉄砲五段撃ちであっという間に筒井の騎馬隊が全滅した。
「なっ・・・なんということだ・・・。」
順貞は取り乱す。
「無策・・・窪城殿ォ!! 怯むな・・・こちらも盾だ!!」
好久の声と共に竹の盾を壁のように並べて筒井軍の歩兵たちが突撃をかけてくる。
「撃て!!」
山田軍の鉄砲隊が攻撃するも竹の盾はうまく組み合わさっており弾を貫通させない。
なかなかの策士が筒井にはおるということか・・・
景兼は感心しつつも鉄砲を防がれたときの策を講じていた。
「火矢を放て!!」
鉄砲隊が下がると弓隊が出てきて次々と火矢を放つ。
「ぎゃあああ!?」「助けてくれい!!」
竹の盾はすぐに火が点くと燃え広がり筒井軍の歩兵たちは火だるまになる。
「今だ!!全軍突撃だ!!」
景兼の声と共に盾隊の後ろから歩兵と騎馬隊が突撃をかける。
先頭に立つのは清興。
更にこの混乱に乗じて右に一馬、左に源之進が展開し三方から一気に筒井軍に攻撃を仕掛けた。
更に上の策を講じていたのか・・・敵わんな・・・
好久は苦笑いを浮かべると槍を手にした。
目の前には清興が刀を抜いて迫ってきている。
島殿・・・
清興の眼にも森好久の姿が映っていた。
好久殿か・・・
一騎打ちとなるが、一撃で好久は落馬して地面に叩きつけられた。
「がはッ!?」
血を吐くと好久は意識を失っていく。
くそ・・・手加減されるとは・・・
「誰かこの者を捕虜にしろ!!」
清興の声で兵たちが気絶した好久を捕縛した。
そのまま筒井軍の陣の中を縦横無尽に駆け巡る清興。
胤栄はどこだ・・・。
しかしその清興の前に二人の僧兵が立ちはだかった。
「我が名は魁雲。」
「我が名は翔雲。」
二人の僧兵は三日月槍を構える。
「簡単に通してくれそうにないな。」
清興は刀を鞘に収めると背負っていた三叉鎗を手にした。
「この男・・・尋常じゃない。」
「ああ・・・不本意だが二人がかりでやるしかない。」
清興の佇まいからその強さを感じ取る魁雲と翔雲。
胤栄と戦いたい・・・
一馬は乱戦の中を駆け抜けていた。
誰が止めようともこの気持ちは抑えられない。
槍を極めようとするならば、やはり頂点を知らねばならない。
やがて、その視線の先に修羅の如く山田軍の兵を薙ぎ倒している一人の男の姿が映った。
「宝蔵院胤栄かァ?」
一馬は大声で叫ぶ。
「・・・。」
胤栄は虚ろな目で一馬を見ると笑みを浮かべた。
「我こそ山田家家臣芳野かず・・・」
名乗りを上げている一馬の目の前に胤栄が現れる。
いつの間に・・・
胤栄の槍の一撃を一馬は防ぐも馬ごと吹っ飛ばされる。
何故、あの巨体でこのように速く・・・クッ
更に次々と槍を繰り出す胤栄。
一馬はそれを全て凌ぎ切ると双槍を振りかざし反撃に出た。
「貴様か・・・順清を殺ったのは・・・」
胤栄は笑みを浮かべながら一馬の攻撃を受け流す。
いとも簡単に私の双槍を・・・
一馬は胤栄の姿に恐怖を感じ始めていた。
恐れなどない・・・私は恐れはしない!!
迷いを断ち切るかのように一馬は変幻自在に双槍を操る。
そしてその一撃が胤栄の左肩を貫いた・・・
やった・・・
しかし胤栄はそのまま笑みを浮かべて強烈な一撃を一馬に浴びせる。
その横殴りの一撃・・・
一馬は落馬し、地面に叩きつけられた。
初めて味わう土の味と遠のいていく意識。
身体のどこからか血が出ている・・・しかも止まらない。
死ぬ・・・のか・・・
一馬の脳裏には美佳の姿。
こんなときに・・・美佳様かよ・・・参ったな・・・惚れてたのか・・・
倒れ伏している一馬にとどめを刺そうと胤栄が近づいてくる。
「貴様は強き者だ・・・これからもっと強くなるであろう・・・それがいらぬ・・・それがいらぬことォ!!」
胤栄の槍が一馬の背中に突き刺さる・・・
その瞬間だった。
「させんぞ!!」
源之進が飛び込んでくる。
二本の剣でとどめの槍を弾くと飛び蹴りを胤栄の顔面に決めた。
「ほう・・・また・・・強き者か・・・」
ニタニタと笑いながら胤栄は口元の血をぬぐった。
飛び込んでみたはいいが・・・ヤバいぞ・・・
源之進は胤栄の姿に戦慄を覚えていた。
しかし、双剣を構えると胤栄を睨みつけた。
一馬がやられた・・・源之進ではまだ荷が重いぞ。
五右衛門は焦っていた。
二人を助けねばならないが、コイツが邪魔だ。
烈海が五右衛門の前に立ちはだかっていた。
「アンタは強すぎるから先には行かせないよ♪」
烈海は素早い動きから次々と剣技を繰り出していく。
的が絞れん・・・真紅が言っていたヤツか・・・
柳生城の一室で負傷して寝込んでいる真紅。
「甲賀の忍びの烈海という男に気をつけて・・・上忍クラスよ。」
確かに恐ろしい腕だ・・・丹波様や長門守様に匹敵する・・・
だが・・・!!
突然、五右衛門は烈海の動きに追いつく。
「おい・・・なんで追いつけるって・・・ぐわァァ!!」
五右衛門の一撃で烈海は右腕を斬り落とされた。
「痛え~!!」
地面を転がりのたうち回る烈海。
「ってなんちゃって♪」
しかしすぐに笑いながら五右衛門に襲い掛かる。
厄介だね・・・こういうヤツは・・・長門守様や轟雷さんは何やってんのよ・・・
五右衛門は烈海の攻撃を躱しながら遠くを見た。
群がる甲賀の忍びたちの前に正保、轟雷たちは手こずっている。
「長門守様・・・こいつらも・・・」
「ああ・・・仕込まれているな。」
甲賀の忍びたちの動きがおかしいことに気付いた正保と轟雷。
次々とやられていく部下たちの姿に焦りの表情を浮かべていた。
胤栄・・・何処にいる?
景兼は乱戦の中で胤栄の姿を探していた。
そこに紫恩が現れた。
「疋田景兼・・・だな。」
紫恩は鉤爪をペロっと舐めて身構える。
「貴様・・・大陸の・・・明の者か?」
景兼は馬から下りると刀を抜いた。
「わかるのか・・・。」
紫恩は少しずつ間合いを詰めてくる。
「・・・。」
景兼は後ずさりして間合いを取ろうとする。
この男・・・まさか・・・胤栄よりも強い・・・
額に滲み出る汗・・・冷や汗か・・・
景兼は呼吸を整える。
恐怖を感じる戦いは師である上泉信綱や義輝との立ち合い以来だった。
この紫恩という男にそれ程の強さを感じている。
「始めに言っておこう。胤栄は助からない・・・手遅れだ。」
紫恩は鉤爪を振るって景兼の懐に飛び込んできた。
「・・・。」
景兼は素早い動きで躱すとそのまま刀を一閃する。
しかし紫恩は鉤爪で受け止める。
ギリギリ・・・と鈍い金属音。
すぐに二人は間合いを取った。
強い・・・この男は強い・・・何故、この男を標的にしないのだ。
紫恩は景兼の剣圧で頬から血を流していた。
「胤栄を助けてみせる・・・あの男はツガル如きに屈する男ではない!!」
景兼の身体から凄まじい闘気がほとばしっている。
空気の流れが変わったことに気づいた紫恩は思わず後ずさりした。
「噂通りだ・・・疋田景兼。上泉殿の言葉通りの恐るべき男よ。」
紫恩の発した言葉に景兼は一瞬動きが止まった。
その隙をついて紫恩は大きく距離を取って逃げていく。
・・・何故・・・あの男からお師匠様の・・・叔父上の名が出たのだ。
景兼は茫然と立ち尽くしていた。
「ハァ・・・ハァ・・・。」
源之進は両膝をついて力なくうなだれた。
両手の二本の剣は既に刃も崩れてボロボロになっている。
ニタリと笑みを浮かべた胤栄が近づいてくる。
胤栄の十文字槍も度重なる激闘の末に折れかかっていた。
「・・・一馬の首は取らせんぞ・・・」
立ち上がった源之進。倒れ伏した一馬を庇っている。
早く手当をせねば・・・一馬が死んでしまう・・・。
「貴様・・・腕はまだ未熟だが・・・心が強い・・・真の強者か。」
胤栄は槍を放り投げると源之進の前に立った。
「ぐわッ!!」
胤栄の拳が源之進の顔面を捉えた。
ほとばしる鮮血・・・しかし倒れない・・・源之進は倒れない。
「せ・・・せっかく出来た・・・と・・・友を死なせるワケにはいかないんでね・・・わかりますよね・・・い・・胤栄殿?」
源之進は虚ろながらも笑みを浮かべていた。
「げ・・・源之進・・・やめろ・・・オマエまでし・・・死ぬ・・・。」
一馬は槍を杖代わりにして立ち上がった。
側頭部からの出血で左目の視界を失いながらも源之進の前に立つ。
「な・・・なんと・・・ウッ・・・ウオオオ・・・」
その様子を見た胤栄は頭を抱えて暴れだす。
「ハァ・・・ハァ・・・強さよ・・・ワシにはもっと強さが・・・」
胤栄は涎を垂らしながら一馬と源之進を睨む。
そして背負っていた三日月槍を手にした。
「私は山田家に仕官するまでずっと一人だった・・・お前たちみたいな同じ齢の友はいなかった・・・やっと出来た友を・・・守る・・・。」
源之進は言葉は詰まりながらも一馬に笑顔を見せた。
「げ・・・源之進・・・し、死ぬときは一緒・・・だぜ♪」
一馬も笑顔で親指を立てる。
そのときだった。
一筋の矢が飛んできて胤栄の右腕に突き刺さる。
「ぬう・・・」
思わず三日月槍を落とす胤栄。
まさか・・・
一馬と源之進は矢の飛んできた方角を見る。
「馬鹿が・・・勝手に死のうとするなって。」
二人の視線の先には義成が弓を構えて立っていた。
「まだ敵から味方になったばかりで死なれたら困るぞ。」
一馬と源之進の前に一人の騎馬武者・・・純忠が胤栄に相対する。
遂に戦いは佳境を迎えた。
山田軍と筒井軍の戦いの行方は・・・
そして宝蔵院胤栄との戦いの結末はどうなるのであろうか・・・
筒井軍が攻めてくるのを待ち受ける体勢だ。
「柳生の里でこのような戦術を採るのは忍びないが・・・。」
景兼は二百の鉄砲隊を配置。その前には盾隊、盾の裏には連弩隊が隠れている。
「なんじゃ・・・あれは・・・!?」
筒井軍の大将である窪城順貞は巨大な鉄の盾が城の前にズラリと並べられているのに驚く。
「あれでは弓や鉄砲は無意味でしょうな。騎馬で突撃して蹴り倒すか・・・しかし山田軍の戦術を考えれば闇雲に突っ込むのは危険ですぞ。」
言うのは筒井家家臣森好久。
本来は好久の方が大将にふさわしいのだが、宝蔵院胤栄との絡みもあり副将の立場になっていた。
「構わん・・・一度鉄砲を撃てば次まで時間がかかりおる。そこを騎馬であの盾ごと蹴散らせば良い。」
順貞の指揮により、筒井軍の歩兵隊が柳生城へと押し寄せてくる。
何故に様子を見ないのだ・・・
好久は呆れ顔で戦況を見つめる。
「連弩隊撃て!!」
景兼の声と共に盾の陰から連弩隊が姿を現すと次々と矢を放っていく。
「痛ッ!!」「くッ!?」
顔や首に当たれば致命傷だが、連弩は鎧を貫通するまでには至らない。
怯みながらも筒井軍の歩兵部隊は突撃してくる。
「鉄砲隊撃て!!」
山田軍の鉄砲隊の第一射で筒井軍の歩兵たちは次々と倒れていく。
しかし、その後ろから騎馬隊が押し寄せてきた。
「撃て!!」
鉄砲五段撃ちであっという間に筒井の騎馬隊が全滅した。
「なっ・・・なんということだ・・・。」
順貞は取り乱す。
「無策・・・窪城殿ォ!! 怯むな・・・こちらも盾だ!!」
好久の声と共に竹の盾を壁のように並べて筒井軍の歩兵たちが突撃をかけてくる。
「撃て!!」
山田軍の鉄砲隊が攻撃するも竹の盾はうまく組み合わさっており弾を貫通させない。
なかなかの策士が筒井にはおるということか・・・
景兼は感心しつつも鉄砲を防がれたときの策を講じていた。
「火矢を放て!!」
鉄砲隊が下がると弓隊が出てきて次々と火矢を放つ。
「ぎゃあああ!?」「助けてくれい!!」
竹の盾はすぐに火が点くと燃え広がり筒井軍の歩兵たちは火だるまになる。
「今だ!!全軍突撃だ!!」
景兼の声と共に盾隊の後ろから歩兵と騎馬隊が突撃をかける。
先頭に立つのは清興。
更にこの混乱に乗じて右に一馬、左に源之進が展開し三方から一気に筒井軍に攻撃を仕掛けた。
更に上の策を講じていたのか・・・敵わんな・・・
好久は苦笑いを浮かべると槍を手にした。
目の前には清興が刀を抜いて迫ってきている。
島殿・・・
清興の眼にも森好久の姿が映っていた。
好久殿か・・・
一騎打ちとなるが、一撃で好久は落馬して地面に叩きつけられた。
「がはッ!?」
血を吐くと好久は意識を失っていく。
くそ・・・手加減されるとは・・・
「誰かこの者を捕虜にしろ!!」
清興の声で兵たちが気絶した好久を捕縛した。
そのまま筒井軍の陣の中を縦横無尽に駆け巡る清興。
胤栄はどこだ・・・。
しかしその清興の前に二人の僧兵が立ちはだかった。
「我が名は魁雲。」
「我が名は翔雲。」
二人の僧兵は三日月槍を構える。
「簡単に通してくれそうにないな。」
清興は刀を鞘に収めると背負っていた三叉鎗を手にした。
「この男・・・尋常じゃない。」
「ああ・・・不本意だが二人がかりでやるしかない。」
清興の佇まいからその強さを感じ取る魁雲と翔雲。
胤栄と戦いたい・・・
一馬は乱戦の中を駆け抜けていた。
誰が止めようともこの気持ちは抑えられない。
槍を極めようとするならば、やはり頂点を知らねばならない。
やがて、その視線の先に修羅の如く山田軍の兵を薙ぎ倒している一人の男の姿が映った。
「宝蔵院胤栄かァ?」
一馬は大声で叫ぶ。
「・・・。」
胤栄は虚ろな目で一馬を見ると笑みを浮かべた。
「我こそ山田家家臣芳野かず・・・」
名乗りを上げている一馬の目の前に胤栄が現れる。
いつの間に・・・
胤栄の槍の一撃を一馬は防ぐも馬ごと吹っ飛ばされる。
何故、あの巨体でこのように速く・・・クッ
更に次々と槍を繰り出す胤栄。
一馬はそれを全て凌ぎ切ると双槍を振りかざし反撃に出た。
「貴様か・・・順清を殺ったのは・・・」
胤栄は笑みを浮かべながら一馬の攻撃を受け流す。
いとも簡単に私の双槍を・・・
一馬は胤栄の姿に恐怖を感じ始めていた。
恐れなどない・・・私は恐れはしない!!
迷いを断ち切るかのように一馬は変幻自在に双槍を操る。
そしてその一撃が胤栄の左肩を貫いた・・・
やった・・・
しかし胤栄はそのまま笑みを浮かべて強烈な一撃を一馬に浴びせる。
その横殴りの一撃・・・
一馬は落馬し、地面に叩きつけられた。
初めて味わう土の味と遠のいていく意識。
身体のどこからか血が出ている・・・しかも止まらない。
死ぬ・・・のか・・・
一馬の脳裏には美佳の姿。
こんなときに・・・美佳様かよ・・・参ったな・・・惚れてたのか・・・
倒れ伏している一馬にとどめを刺そうと胤栄が近づいてくる。
「貴様は強き者だ・・・これからもっと強くなるであろう・・・それがいらぬ・・・それがいらぬことォ!!」
胤栄の槍が一馬の背中に突き刺さる・・・
その瞬間だった。
「させんぞ!!」
源之進が飛び込んでくる。
二本の剣でとどめの槍を弾くと飛び蹴りを胤栄の顔面に決めた。
「ほう・・・また・・・強き者か・・・」
ニタニタと笑いながら胤栄は口元の血をぬぐった。
飛び込んでみたはいいが・・・ヤバいぞ・・・
源之進は胤栄の姿に戦慄を覚えていた。
しかし、双剣を構えると胤栄を睨みつけた。
一馬がやられた・・・源之進ではまだ荷が重いぞ。
五右衛門は焦っていた。
二人を助けねばならないが、コイツが邪魔だ。
烈海が五右衛門の前に立ちはだかっていた。
「アンタは強すぎるから先には行かせないよ♪」
烈海は素早い動きから次々と剣技を繰り出していく。
的が絞れん・・・真紅が言っていたヤツか・・・
柳生城の一室で負傷して寝込んでいる真紅。
「甲賀の忍びの烈海という男に気をつけて・・・上忍クラスよ。」
確かに恐ろしい腕だ・・・丹波様や長門守様に匹敵する・・・
だが・・・!!
突然、五右衛門は烈海の動きに追いつく。
「おい・・・なんで追いつけるって・・・ぐわァァ!!」
五右衛門の一撃で烈海は右腕を斬り落とされた。
「痛え~!!」
地面を転がりのたうち回る烈海。
「ってなんちゃって♪」
しかしすぐに笑いながら五右衛門に襲い掛かる。
厄介だね・・・こういうヤツは・・・長門守様や轟雷さんは何やってんのよ・・・
五右衛門は烈海の攻撃を躱しながら遠くを見た。
群がる甲賀の忍びたちの前に正保、轟雷たちは手こずっている。
「長門守様・・・こいつらも・・・」
「ああ・・・仕込まれているな。」
甲賀の忍びたちの動きがおかしいことに気付いた正保と轟雷。
次々とやられていく部下たちの姿に焦りの表情を浮かべていた。
胤栄・・・何処にいる?
景兼は乱戦の中で胤栄の姿を探していた。
そこに紫恩が現れた。
「疋田景兼・・・だな。」
紫恩は鉤爪をペロっと舐めて身構える。
「貴様・・・大陸の・・・明の者か?」
景兼は馬から下りると刀を抜いた。
「わかるのか・・・。」
紫恩は少しずつ間合いを詰めてくる。
「・・・。」
景兼は後ずさりして間合いを取ろうとする。
この男・・・まさか・・・胤栄よりも強い・・・
額に滲み出る汗・・・冷や汗か・・・
景兼は呼吸を整える。
恐怖を感じる戦いは師である上泉信綱や義輝との立ち合い以来だった。
この紫恩という男にそれ程の強さを感じている。
「始めに言っておこう。胤栄は助からない・・・手遅れだ。」
紫恩は鉤爪を振るって景兼の懐に飛び込んできた。
「・・・。」
景兼は素早い動きで躱すとそのまま刀を一閃する。
しかし紫恩は鉤爪で受け止める。
ギリギリ・・・と鈍い金属音。
すぐに二人は間合いを取った。
強い・・・この男は強い・・・何故、この男を標的にしないのだ。
紫恩は景兼の剣圧で頬から血を流していた。
「胤栄を助けてみせる・・・あの男はツガル如きに屈する男ではない!!」
景兼の身体から凄まじい闘気がほとばしっている。
空気の流れが変わったことに気づいた紫恩は思わず後ずさりした。
「噂通りだ・・・疋田景兼。上泉殿の言葉通りの恐るべき男よ。」
紫恩の発した言葉に景兼は一瞬動きが止まった。
その隙をついて紫恩は大きく距離を取って逃げていく。
・・・何故・・・あの男からお師匠様の・・・叔父上の名が出たのだ。
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「ハァ・・・ハァ・・・。」
源之進は両膝をついて力なくうなだれた。
両手の二本の剣は既に刃も崩れてボロボロになっている。
ニタリと笑みを浮かべた胤栄が近づいてくる。
胤栄の十文字槍も度重なる激闘の末に折れかかっていた。
「・・・一馬の首は取らせんぞ・・・」
立ち上がった源之進。倒れ伏した一馬を庇っている。
早く手当をせねば・・・一馬が死んでしまう・・・。
「貴様・・・腕はまだ未熟だが・・・心が強い・・・真の強者か。」
胤栄は槍を放り投げると源之進の前に立った。
「ぐわッ!!」
胤栄の拳が源之進の顔面を捉えた。
ほとばしる鮮血・・・しかし倒れない・・・源之進は倒れない。
「せ・・・せっかく出来た・・・と・・・友を死なせるワケにはいかないんでね・・・わかりますよね・・・い・・胤栄殿?」
源之進は虚ろながらも笑みを浮かべていた。
「げ・・・源之進・・・やめろ・・・オマエまでし・・・死ぬ・・・。」
一馬は槍を杖代わりにして立ち上がった。
側頭部からの出血で左目の視界を失いながらも源之進の前に立つ。
「な・・・なんと・・・ウッ・・・ウオオオ・・・」
その様子を見た胤栄は頭を抱えて暴れだす。
「ハァ・・・ハァ・・・強さよ・・・ワシにはもっと強さが・・・」
胤栄は涎を垂らしながら一馬と源之進を睨む。
そして背負っていた三日月槍を手にした。
「私は山田家に仕官するまでずっと一人だった・・・お前たちみたいな同じ齢の友はいなかった・・・やっと出来た友を・・・守る・・・。」
源之進は言葉は詰まりながらも一馬に笑顔を見せた。
「げ・・・源之進・・・し、死ぬときは一緒・・・だぜ♪」
一馬も笑顔で親指を立てる。
そのときだった。
一筋の矢が飛んできて胤栄の右腕に突き刺さる。
「ぬう・・・」
思わず三日月槍を落とす胤栄。
まさか・・・
一馬と源之進は矢の飛んできた方角を見る。
「馬鹿が・・・勝手に死のうとするなって。」
二人の視線の先には義成が弓を構えて立っていた。
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